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第二章 ナミュール城主編
第5話 旧ベオルグ公国領討伐戦③
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モンリュソン城を後にしたマクナイト率いる一軍は、次なる目標であるヴィッテル城に到着した。しかし、敵兵が出てくる気配はない。そこでマクナイトは、降伏すれば命を助けると書いた手紙を矢に結ぶつけ、城内へ放つことにした。
城内に矢を放ってから、約一時間。城門が開き、ヴィッテル城のリーダーらしき男とその側近が出てくる。
「本当に命を助けていただけるのでしょうか」
「ああ、それに衣食住も保証しよう」
無事に助かることを知った数人の男たちは地面に座り深々と頭を下げるのであった。こうして旧ベオルグ公国領3個目の城は、無血開城する形となった。なぜ無血開城に至ったかと言うと、3つの理由がある。
一つ目は、マクナイト率いる10万の大軍に太刀打ちできる兵力がないことである。二つ目は、ブロワ城が一夜という速さで陥落したことである。最後の三つ目は、ベルクートが敵陣に加わったということである。特にベルクートの存在は大きく、ベオルグ公国内での知名度は抜群であった。
あのベルクートを相手にするのか!?無理だろっ!というような意見が相次ぎ、城内の士気はみるみる低下していたというわけだ。
ヴィッテル城を傘下に収めたマクナイトたちはモンバール城へ向かうも、そこも同様に早々の降伏を決めた。これにより旧ベオルグ公国領の過半数がサミュエル連邦の領地となり、残る城は3個となった。マクナイト率いる一軍は、旧ベオルグ公国首都パトリシアに攻め込もうとしていた。
「殿、あまりにもあっけないですね」
「全くだな。けどまあ、無駄が省けるのは素直に嬉しいな」
「いよいよパトリシアですね」
「ああ、そうだな」
「殿、周囲の様子が・・・」
ニーズホッグは周囲を見つめる。その視線の先には、大量の死体が打ち捨てられていたのである。死体は腐敗が進み、カラスやハエが群がっていた。そのあまりにも異様な光景、臭いに嘔吐する兵たちが続出した。
「これはひどいな」
モンバール城を出てから、パトリシアへ近づけば近づくほど、辺りの死体の量が増えていた。この独特の腐敗臭は、否が応でもやる気を削いでいく。この死体はパトリシアで起きたクーデターの激しさを物語っていた。
これまでの城と比べ、一際大きなパトリシア城が見えてきた。死体目当てにカラスが多く飛んでいる光景は、まさに地獄の入り口を想像させる不気味なものであった。
「さっさと落として次へ行きたいですね」
「まったくだ」
一軍はさらに進み、パトリシア城に到着した。城外に布陣したマクナイトだったが、城壁に人の気配がないことを不審に思っていた。城壁に兵を伏せて、近づいたら襲ってくるのだろうか。あらゆる可能性を考えるも、やはり不自然な光景だった。城壁はおろか、城から人の気配がしないのである。無造作に開け放たれた城門は不信感を増大するには十分な光景であった。
試しに数人を斥候として城内へ送り込むと衝撃の報告がもたらされた。城内にいた人が全て死んでいたという報告である。マクナイトは報告の真偽を確かめるため、ダフネとニーズホッグを引き連れて城内に入る。
「こりゃひどい」
「なぜこんなにも多くの命が・・・」
「間違いねぇ。これは毒だ」
マクナイトは死体を観察して、毒殺と判断した。
「マクナイト様、それは一体どういう」
「見ろ、泡を吹いているだろ。それも一人じゃなくて何人も」
マクナイトの指摘にダフネはハッとした表情になる。確かにこの辺りの死体は同様の特徴を持っていた。毒殺という見立てはもっともである。他にも斬殺された者、矢で殺された者と様々であった。この城に生存者はいないと見て間違いない。そう判断したマクナイトたちは早々に陣へ戻り、死体の埋葬を軍に命じた。
埋葬が済ませたマクナイトは、次の攻略目標オンフルール城へと向かった。
オンフルール城に着いたマクナイトは、例によって降伏勧告付きの矢を城内に放つ。城門は堅く閉ざされており、城壁にいる兵たちも士気が高い。攻略するとなると多少の犠牲は覚悟しなければならない。しばらくすると、敵から矢が送り返されてきた。その内容は、パトリシアで虐殺した奴の言うことは信用ならないというものである。
「ふ、ふはははは」
返書を読んだマクナイトは思わず吹き出す。あまりにも見当違いの内容だったからだ。
「うわ・・・なんで殿が殺したことになってるんですか」
ニーズホッグは苦々しい表情をしている。
「何者かが仕組んだ罠でしょうか?」
ダフネの一言にジェレミーが反応する。
「・・・間者だ」
「間者!?ジェレミー、それはどういう・・・」
ニーズホッグは大袈裟に声を上げる。
「マクナイト殿、それがしもジェレミー殿と同じ考えにございます。何者かが殿を陥れようとしているのでは」
ここにきてブロワ城を皆殺しにしたことが仇となったのかもしれない。見せしめのためにブロワ城で皆殺しにしたが、その効果は一長一短である。威容を示すことができれば敵の心を折り、降伏を早めることになる。それに対して、皆殺しが殺人鬼のように伝わると敵は頑なに反抗し始める。つまり、現状は最悪のシナリオに陥ったと言うことである。マクナイトは不可解な状況に焦る気持ちを必死に抑え、次の一手を模索する。
「この際、誰の仕業かは考えても仕方ねえ。この状況を打破することが先決だ。さて、敵さんは最後まで抵抗するつもりのようだが・・・どう攻める」
マクナイトの問いかけに真っ先に反応したのはベルクートである。
「マクナイト殿、どうかそれがしに一軍をお預けください。それがしは新参の身。オンフルール城を落として手土産にしたいと存ずる」
「わかった。3万の兵を預ける。好きに攻めるといい」
「はっ、必ずや落としてご覧にいれましょう」
ベルクート率いる3万の兵が城攻めを開始した。策も何もなく、純粋な力と力のぶつかり合いである。敵は城壁から石やら熱湯やらを落とし、弓矢を射かけてくる。それに対してベルクートは、兵士たちに梯子を持たせて城壁の攻略を試みる。梯子をかけては、はがされるの繰り返しである。この日はこれといった成果も上がらず、いたずらに兵を失っただけであった。
「マクナイト殿、申し訳ございませぬ。明日こそは必ず」
「なあに、いいってことよ。城攻めなんて何日もかかるのが当たり前だ。攻め急いで犠牲を増やす必要はねえ」
本陣に戻ってきたベルクートは頭を下げ、不首尾を謝罪する。マクナイトは一向に気にしていなかった。
「殿、また忍び込みましょうか?」
「だめだ。その手は何度も使えない」
ニーズホッグの奇襲はもうすでにブロワ城で実行済みである。警戒されていると見て間違いないだろう。そんなことを考えていると新しい策が閃いた。
「ベルクート、悪いが城攻めは中止だ」
「はっ、それは構いませぬが・・・何かお考えがおありで?」
かしこまるベルクートは恭しく顔を上げる。
「もちろんだ」
「お聞かせください」
マクナイトは得意げに考えた策を話す。
「これから毎日夜に攻めることにする」
「なるほど、精神を攻めると言うことですな」
ベルクートはその意図をすぐに理解し、マクナイトはニヤリとする。
「それがしにお任せあれ。確実に遂行いたそう」
ベルクートは準備のために出ていく。本陣を出る手前で、何かを思い出したかのようにベルクートが立ち止まる。
「火と氷の魔導師をできるだけ多くお借りしたいのだが、よろしいか?」
ベルクートは効果的な奇襲をおこなうために工夫を凝らしているようだ。
「もちろんだ。全員連れていくといい」
マクナイトの許可を得て、早速魔導師を部隊に組み込む。火と氷を扱える魔導師は合計で500人程度だった。ベルクートは、それを5部隊に分けることにした。
両軍がすっかり寝静まった深夜。ベルクートは3千の兵と共に矢の届くか届かないかのギリギリまで歩を進める。
「歩兵隊、腹の底から声を出すのだ」
「「「うおおおおおおおおお」」」
膠着していた戦場に大きな声が響く。
「敵襲か!?」
「夜襲だ、起きろ!」
城壁にいる敵兵の動きが慌ただしくなる。その様子を見届けたベルクートは次の一手を講じる。
「第一隊、打ち込め!」
ベルクートの指示を受けた魔導師たちが杖をかざし、魔法の準備をする。まもなくオンフルール城目掛けて火と氷の矢が降り注ぐことになった。わずか100人が放った魔法のため、敵兵の被害はあまりない。しかし、深夜に降り注ぐ魔法は心理的圧迫に十分な効果を発揮していた。
「よし、数発魔法を撃ったら第一隊と歩兵隊は休んでよい」
魔法を撃ち終えた第一隊と歩兵隊は陣に戻って就寝する。それと変わるように第二隊がやってくる。
「第二隊、撃てい!」
第二隊が魔法の矢を放つ。敵の攻撃が止んだと安心していた敵は再び混乱に陥る。
「またか!」
「おい、火が付いた奴がいるぞ」
「消火しろ!」
そして、数発撃ち終わると第二隊は退却し、変わるように第三隊がやってくる。これを第五隊まで約一時間おきに繰り返した。延べ5時間に渡る夜襲は、城兵たちの睡眠時間を奪うには十分であった。
日中の攻撃はベルクートに代わりダフネが指揮を執っている。落とす気はさらさらないので、形だけの攻撃だ。夜になると、再びベルクート率いる一隊の雄叫びに始まり、チマチマとした魔法攻撃を延々と受け続ける。こんな日々が4日間続いた城兵のメンタルは限界まで張りつめていた。また、敵が魔法攻撃しかしてこないと慣れてきたタイミングでもある。連日の睡眠不足と極限状態の持続により、城兵たちはベルクートの夜襲に対して目立った反応を示さなくなった。
「よし、そろそろ行くとしよう」
第二隊の魔法攻撃に反応しなくなったことを察知したベルクートは第五隊までの攻撃を継続しつつマクナイトに伝令を送る。今日を決行日と踏んでいたマクナイトは、寝ずにベルクートの知らせを待っていた。
「大将閣下、ベルクート様が敵は落ちたとのことです」
「ご苦労!ジェレミー、ニーズホッグ、聞いての通りだ」
「ジェレミーと俺はここを守る。ニーズホッグは兵を率いてベルクートと合流してくれ。夜明けと共に開始する」
マクナイトの指示により、本陣から多くの兵が動き出す。総勢1万の兵がニーズホッグに率いられ、ベルクートのいる戦場まで進む。
「ようベルクート、連日お疲れさん」
「ニーズホッグ殿か。ご助力感謝いたす」
「殿は夜明けに攻め始めろだとさ」
「承知した。それがしとニーズホッグ殿とで左右分かれて攻めましょうぞ」
「はいよ」
夜明け特有の清々しい空気が漂い、鳥たちが鳴き始める。空が薄っすらと白くなったところで、ベルクートとニーズホッグの号令が戦場に響いた。
「いざ参る!」
「攻めるぞ!」
「「「うおおおおおおおおお」」」
城の左右からサミュエル軍が攻めかかる。
「敵が来たぞ!」
「起きろっ、今度は本気だ」
「おい寝るな、起きろっ!」
城内は突然の城攻めで混乱に陥っていた。疲労もピークに達しており、満足に戦える者は少なかった。城壁に梯子がかかり、兵士たちが登ってくる。数ある梯子のうちの一つでは、ベルクートが先頭に立って進んでいた。敵の突き出す槍を避け、剣で斬り倒す。ベルクートの登る梯子の守備兵は見る見る手薄になっていった。そもそも満足に戦えない兵士がハンデ付きとはいえベルクートに勝てるわけもないのだが・・・。
「それがしの名はベルクート!恐れを知らぬ者はかかってこい」
城壁に一番乗りしたベルクートは名乗りをあげる。ベルクートに守備を突破された。この衝撃は城兵の士気をどん底まで落とすのにそう時間がかからなかった。多くの兵が抵抗を諦め、武器を置く。ベルクートも同胞を殺す気はないため、捕虜として縄で縛る。
こうして数日に及ぶオンフルール城の攻防戦は幕を閉じた。マクナイトは、降伏した兵たちをあえて逃がした。もっともニーズホッグの姿も降伏兵と共に消えていたが・・・。
残すは最後のポルニック城のみである。マクナイト率いる一軍は意気揚々と最後の戦いへ赴くのであった。
城内に矢を放ってから、約一時間。城門が開き、ヴィッテル城のリーダーらしき男とその側近が出てくる。
「本当に命を助けていただけるのでしょうか」
「ああ、それに衣食住も保証しよう」
無事に助かることを知った数人の男たちは地面に座り深々と頭を下げるのであった。こうして旧ベオルグ公国領3個目の城は、無血開城する形となった。なぜ無血開城に至ったかと言うと、3つの理由がある。
一つ目は、マクナイト率いる10万の大軍に太刀打ちできる兵力がないことである。二つ目は、ブロワ城が一夜という速さで陥落したことである。最後の三つ目は、ベルクートが敵陣に加わったということである。特にベルクートの存在は大きく、ベオルグ公国内での知名度は抜群であった。
あのベルクートを相手にするのか!?無理だろっ!というような意見が相次ぎ、城内の士気はみるみる低下していたというわけだ。
ヴィッテル城を傘下に収めたマクナイトたちはモンバール城へ向かうも、そこも同様に早々の降伏を決めた。これにより旧ベオルグ公国領の過半数がサミュエル連邦の領地となり、残る城は3個となった。マクナイト率いる一軍は、旧ベオルグ公国首都パトリシアに攻め込もうとしていた。
「殿、あまりにもあっけないですね」
「全くだな。けどまあ、無駄が省けるのは素直に嬉しいな」
「いよいよパトリシアですね」
「ああ、そうだな」
「殿、周囲の様子が・・・」
ニーズホッグは周囲を見つめる。その視線の先には、大量の死体が打ち捨てられていたのである。死体は腐敗が進み、カラスやハエが群がっていた。そのあまりにも異様な光景、臭いに嘔吐する兵たちが続出した。
「これはひどいな」
モンバール城を出てから、パトリシアへ近づけば近づくほど、辺りの死体の量が増えていた。この独特の腐敗臭は、否が応でもやる気を削いでいく。この死体はパトリシアで起きたクーデターの激しさを物語っていた。
これまでの城と比べ、一際大きなパトリシア城が見えてきた。死体目当てにカラスが多く飛んでいる光景は、まさに地獄の入り口を想像させる不気味なものであった。
「さっさと落として次へ行きたいですね」
「まったくだ」
一軍はさらに進み、パトリシア城に到着した。城外に布陣したマクナイトだったが、城壁に人の気配がないことを不審に思っていた。城壁に兵を伏せて、近づいたら襲ってくるのだろうか。あらゆる可能性を考えるも、やはり不自然な光景だった。城壁はおろか、城から人の気配がしないのである。無造作に開け放たれた城門は不信感を増大するには十分な光景であった。
試しに数人を斥候として城内へ送り込むと衝撃の報告がもたらされた。城内にいた人が全て死んでいたという報告である。マクナイトは報告の真偽を確かめるため、ダフネとニーズホッグを引き連れて城内に入る。
「こりゃひどい」
「なぜこんなにも多くの命が・・・」
「間違いねぇ。これは毒だ」
マクナイトは死体を観察して、毒殺と判断した。
「マクナイト様、それは一体どういう」
「見ろ、泡を吹いているだろ。それも一人じゃなくて何人も」
マクナイトの指摘にダフネはハッとした表情になる。確かにこの辺りの死体は同様の特徴を持っていた。毒殺という見立てはもっともである。他にも斬殺された者、矢で殺された者と様々であった。この城に生存者はいないと見て間違いない。そう判断したマクナイトたちは早々に陣へ戻り、死体の埋葬を軍に命じた。
埋葬が済ませたマクナイトは、次の攻略目標オンフルール城へと向かった。
オンフルール城に着いたマクナイトは、例によって降伏勧告付きの矢を城内に放つ。城門は堅く閉ざされており、城壁にいる兵たちも士気が高い。攻略するとなると多少の犠牲は覚悟しなければならない。しばらくすると、敵から矢が送り返されてきた。その内容は、パトリシアで虐殺した奴の言うことは信用ならないというものである。
「ふ、ふはははは」
返書を読んだマクナイトは思わず吹き出す。あまりにも見当違いの内容だったからだ。
「うわ・・・なんで殿が殺したことになってるんですか」
ニーズホッグは苦々しい表情をしている。
「何者かが仕組んだ罠でしょうか?」
ダフネの一言にジェレミーが反応する。
「・・・間者だ」
「間者!?ジェレミー、それはどういう・・・」
ニーズホッグは大袈裟に声を上げる。
「マクナイト殿、それがしもジェレミー殿と同じ考えにございます。何者かが殿を陥れようとしているのでは」
ここにきてブロワ城を皆殺しにしたことが仇となったのかもしれない。見せしめのためにブロワ城で皆殺しにしたが、その効果は一長一短である。威容を示すことができれば敵の心を折り、降伏を早めることになる。それに対して、皆殺しが殺人鬼のように伝わると敵は頑なに反抗し始める。つまり、現状は最悪のシナリオに陥ったと言うことである。マクナイトは不可解な状況に焦る気持ちを必死に抑え、次の一手を模索する。
「この際、誰の仕業かは考えても仕方ねえ。この状況を打破することが先決だ。さて、敵さんは最後まで抵抗するつもりのようだが・・・どう攻める」
マクナイトの問いかけに真っ先に反応したのはベルクートである。
「マクナイト殿、どうかそれがしに一軍をお預けください。それがしは新参の身。オンフルール城を落として手土産にしたいと存ずる」
「わかった。3万の兵を預ける。好きに攻めるといい」
「はっ、必ずや落としてご覧にいれましょう」
ベルクート率いる3万の兵が城攻めを開始した。策も何もなく、純粋な力と力のぶつかり合いである。敵は城壁から石やら熱湯やらを落とし、弓矢を射かけてくる。それに対してベルクートは、兵士たちに梯子を持たせて城壁の攻略を試みる。梯子をかけては、はがされるの繰り返しである。この日はこれといった成果も上がらず、いたずらに兵を失っただけであった。
「マクナイト殿、申し訳ございませぬ。明日こそは必ず」
「なあに、いいってことよ。城攻めなんて何日もかかるのが当たり前だ。攻め急いで犠牲を増やす必要はねえ」
本陣に戻ってきたベルクートは頭を下げ、不首尾を謝罪する。マクナイトは一向に気にしていなかった。
「殿、また忍び込みましょうか?」
「だめだ。その手は何度も使えない」
ニーズホッグの奇襲はもうすでにブロワ城で実行済みである。警戒されていると見て間違いないだろう。そんなことを考えていると新しい策が閃いた。
「ベルクート、悪いが城攻めは中止だ」
「はっ、それは構いませぬが・・・何かお考えがおありで?」
かしこまるベルクートは恭しく顔を上げる。
「もちろんだ」
「お聞かせください」
マクナイトは得意げに考えた策を話す。
「これから毎日夜に攻めることにする」
「なるほど、精神を攻めると言うことですな」
ベルクートはその意図をすぐに理解し、マクナイトはニヤリとする。
「それがしにお任せあれ。確実に遂行いたそう」
ベルクートは準備のために出ていく。本陣を出る手前で、何かを思い出したかのようにベルクートが立ち止まる。
「火と氷の魔導師をできるだけ多くお借りしたいのだが、よろしいか?」
ベルクートは効果的な奇襲をおこなうために工夫を凝らしているようだ。
「もちろんだ。全員連れていくといい」
マクナイトの許可を得て、早速魔導師を部隊に組み込む。火と氷を扱える魔導師は合計で500人程度だった。ベルクートは、それを5部隊に分けることにした。
両軍がすっかり寝静まった深夜。ベルクートは3千の兵と共に矢の届くか届かないかのギリギリまで歩を進める。
「歩兵隊、腹の底から声を出すのだ」
「「「うおおおおおおおおお」」」
膠着していた戦場に大きな声が響く。
「敵襲か!?」
「夜襲だ、起きろ!」
城壁にいる敵兵の動きが慌ただしくなる。その様子を見届けたベルクートは次の一手を講じる。
「第一隊、打ち込め!」
ベルクートの指示を受けた魔導師たちが杖をかざし、魔法の準備をする。まもなくオンフルール城目掛けて火と氷の矢が降り注ぐことになった。わずか100人が放った魔法のため、敵兵の被害はあまりない。しかし、深夜に降り注ぐ魔法は心理的圧迫に十分な効果を発揮していた。
「よし、数発魔法を撃ったら第一隊と歩兵隊は休んでよい」
魔法を撃ち終えた第一隊と歩兵隊は陣に戻って就寝する。それと変わるように第二隊がやってくる。
「第二隊、撃てい!」
第二隊が魔法の矢を放つ。敵の攻撃が止んだと安心していた敵は再び混乱に陥る。
「またか!」
「おい、火が付いた奴がいるぞ」
「消火しろ!」
そして、数発撃ち終わると第二隊は退却し、変わるように第三隊がやってくる。これを第五隊まで約一時間おきに繰り返した。延べ5時間に渡る夜襲は、城兵たちの睡眠時間を奪うには十分であった。
日中の攻撃はベルクートに代わりダフネが指揮を執っている。落とす気はさらさらないので、形だけの攻撃だ。夜になると、再びベルクート率いる一隊の雄叫びに始まり、チマチマとした魔法攻撃を延々と受け続ける。こんな日々が4日間続いた城兵のメンタルは限界まで張りつめていた。また、敵が魔法攻撃しかしてこないと慣れてきたタイミングでもある。連日の睡眠不足と極限状態の持続により、城兵たちはベルクートの夜襲に対して目立った反応を示さなくなった。
「よし、そろそろ行くとしよう」
第二隊の魔法攻撃に反応しなくなったことを察知したベルクートは第五隊までの攻撃を継続しつつマクナイトに伝令を送る。今日を決行日と踏んでいたマクナイトは、寝ずにベルクートの知らせを待っていた。
「大将閣下、ベルクート様が敵は落ちたとのことです」
「ご苦労!ジェレミー、ニーズホッグ、聞いての通りだ」
「ジェレミーと俺はここを守る。ニーズホッグは兵を率いてベルクートと合流してくれ。夜明けと共に開始する」
マクナイトの指示により、本陣から多くの兵が動き出す。総勢1万の兵がニーズホッグに率いられ、ベルクートのいる戦場まで進む。
「ようベルクート、連日お疲れさん」
「ニーズホッグ殿か。ご助力感謝いたす」
「殿は夜明けに攻め始めろだとさ」
「承知した。それがしとニーズホッグ殿とで左右分かれて攻めましょうぞ」
「はいよ」
夜明け特有の清々しい空気が漂い、鳥たちが鳴き始める。空が薄っすらと白くなったところで、ベルクートとニーズホッグの号令が戦場に響いた。
「いざ参る!」
「攻めるぞ!」
「「「うおおおおおおおおお」」」
城の左右からサミュエル軍が攻めかかる。
「敵が来たぞ!」
「起きろっ、今度は本気だ」
「おい寝るな、起きろっ!」
城内は突然の城攻めで混乱に陥っていた。疲労もピークに達しており、満足に戦える者は少なかった。城壁に梯子がかかり、兵士たちが登ってくる。数ある梯子のうちの一つでは、ベルクートが先頭に立って進んでいた。敵の突き出す槍を避け、剣で斬り倒す。ベルクートの登る梯子の守備兵は見る見る手薄になっていった。そもそも満足に戦えない兵士がハンデ付きとはいえベルクートに勝てるわけもないのだが・・・。
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城壁に一番乗りしたベルクートは名乗りをあげる。ベルクートに守備を突破された。この衝撃は城兵の士気をどん底まで落とすのにそう時間がかからなかった。多くの兵が抵抗を諦め、武器を置く。ベルクートも同胞を殺す気はないため、捕虜として縄で縛る。
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