2 / 92
エイス
エイスからはじまる
しおりを挟む
≪エイス≫
はるか上空に、鳥が一羽、円をえがくように飛んでいる。
あの鳥から見れば、眼下は見わたすかぎりの大森林で、そのただ中にポカリと穴が開いているように見えるだろう。
その穴は、大森林を切りひらいて築かれた地。エイスの国。
古くから受け継がれる街を、長きにわたって整備し、利用しつづけている大都市である。
エイスの城下街は、強固で高い城壁に囲われている。近隣には、これほどまでに強固な城壁で囲われた国はなく、めずらしい。碁盤の目状に区画されている城下街の中心には、巨大な城が建っている。はるか昔に築かれ、受け継がれてきた、壮麗なるエイスガラフ城だ。
街も城も、古代遺跡を復活させたかのような雰囲気をたたえている。近隣諸国では、神話の時代から受け継がれている国だと云われている。「天上の国」などと称賛する者もいるほどだ。
エイスの城下街は、城を中心に、東西南北へまっすぐに石畳の大通りが延びている。道幅は、馬車三十台がゆうに並走できるほどである。この国は、城下街の住人のみならず、外国からも多くの人がおとずれていた。東西南北いずれの大通りも、多くの人がひしめき、行き交っている。まだ道がせまい。そう言わんばかりに、活気があふれていた。
城下街の中心部は、中央区画とよばれている。古くより、多数の護衛に囲まれた貴族や、高官をはじめ、政商や大金持ちが住む区画である。その区画をつらぬいている大通りに行き交う人々はみな、いろどり豊かな衣服をまとっていた。
男たちは、いかめしくも優雅に談笑しながら歩いている。
女子供らは、表情にくもりなく、黄色い歌声を街にひびかせていた。
そのただ中を、咲きほこった花をかきむしるように、褪せた色が一つ横切った。
それは、いかめしいが優雅ではない、痩身の男だった。
黄色い歌声が消えていく。男はにがい顔をして、辺りをにらみつけた。
男の顔には、鼻の頭から耳の下まで延びた深い傷があった。それはすれ違う者たちみながふり返るほど、異様な雰囲気をまとっていた。
男は辺りをにらみ付けながら、ざんばらの長い黒髪をかきあげた。ひしめく人々を押しのけるように、歩きつづける。黒と灰色がまざったような衣服に身をつつむその姿は、浮浪者と変わらない。だが人の波をかき分けて歩いていくその姿には、力強さがあった。大通りを行き交う花のような人々は、突き進んでくる男の身体を避けたり、避けそこなってぶつかったりして二つに割れた。だが男がとおりすぎて行くと、少しの間をおいて、二つに割れた群衆は何もなかったかのように割れ目を閉ざしていった。
傷の男は、奇異なものを見るかのような人の視線に、傷のある頬を引きつらせた。顔をそむけ、歩く速度をあげていく。
歩く先に、背の高い建物の隙間があった。傷の男は、逃げるようにその隙間に駆け込んだ。隙間は、思った以上にせまい。人が一人やっと通れるほどの、道とは言えない細道だった。衣服を壁にすらせながら進む。やっとのことで、人通りの少ない裏通りにたどりついた。
衣服にすりついた埃を、はたき落とす。
傷の男はその場で立ち止まり、小さく息をこぼした。人気のない裏通りを見回し、ゆっくりと息をととのえる。
暗い。
背の高い建物がならぶ裏道なので、陽の光が差し込みづらいのは当然ではある。だが、昼時少し前だ。まだ十分に明るい時間ではあった。それでも傷の男は、暗いと感じた。
男は、目元を押さえながら頭を小さく横にふった。そしてそのまま、しばらく動かなかったが、やがてゆっくり歩きだし、裏通りを右に左に進みはじめた。
その途中、裏通りの一角が、妙ににぎやかなことに気が付いた。
十数人ほどの人の群れがあって、何かを見物しているようだ。
傷の男は、群衆の脇をとおりすぎながら、少し首を伸ばしてみた。どうやら占い師に人が集まっているようだった。
大きな街だと、「よく当たる」占い師という奴が、一人はいるものだ。だいたいの場合、この手の者は、目鼻の利く情報屋であったり、酒場の女のように、人に好みにあわせて会話ができる弁士のような人間である。だが大衆は、的確な助言に「占い」という言葉をそえるだけで驚き、喜ぶのだ。
傷の男は、呆れた顔で群衆を見て、とおりすぎようとした。すると占い師が、少し頭をあげた。傷の男の方へ、顔を向けてくる。客だと思ったのだろうか。占い師はフードを深くかぶって目元を隠していたが、口元がかすかに笑っているように見えた。
気味が悪い。
傷の男は目をほそめて、群衆からはなれた。
占い師は、まだこちらを見ているようだったが、傷の男は足を速めて、その場を後にした。
はるか上空に、鳥が一羽、円をえがくように飛んでいる。
あの鳥から見れば、眼下は見わたすかぎりの大森林で、そのただ中にポカリと穴が開いているように見えるだろう。
その穴は、大森林を切りひらいて築かれた地。エイスの国。
古くから受け継がれる街を、長きにわたって整備し、利用しつづけている大都市である。
エイスの城下街は、強固で高い城壁に囲われている。近隣には、これほどまでに強固な城壁で囲われた国はなく、めずらしい。碁盤の目状に区画されている城下街の中心には、巨大な城が建っている。はるか昔に築かれ、受け継がれてきた、壮麗なるエイスガラフ城だ。
街も城も、古代遺跡を復活させたかのような雰囲気をたたえている。近隣諸国では、神話の時代から受け継がれている国だと云われている。「天上の国」などと称賛する者もいるほどだ。
エイスの城下街は、城を中心に、東西南北へまっすぐに石畳の大通りが延びている。道幅は、馬車三十台がゆうに並走できるほどである。この国は、城下街の住人のみならず、外国からも多くの人がおとずれていた。東西南北いずれの大通りも、多くの人がひしめき、行き交っている。まだ道がせまい。そう言わんばかりに、活気があふれていた。
城下街の中心部は、中央区画とよばれている。古くより、多数の護衛に囲まれた貴族や、高官をはじめ、政商や大金持ちが住む区画である。その区画をつらぬいている大通りに行き交う人々はみな、いろどり豊かな衣服をまとっていた。
男たちは、いかめしくも優雅に談笑しながら歩いている。
女子供らは、表情にくもりなく、黄色い歌声を街にひびかせていた。
そのただ中を、咲きほこった花をかきむしるように、褪せた色が一つ横切った。
それは、いかめしいが優雅ではない、痩身の男だった。
黄色い歌声が消えていく。男はにがい顔をして、辺りをにらみつけた。
男の顔には、鼻の頭から耳の下まで延びた深い傷があった。それはすれ違う者たちみながふり返るほど、異様な雰囲気をまとっていた。
男は辺りをにらみ付けながら、ざんばらの長い黒髪をかきあげた。ひしめく人々を押しのけるように、歩きつづける。黒と灰色がまざったような衣服に身をつつむその姿は、浮浪者と変わらない。だが人の波をかき分けて歩いていくその姿には、力強さがあった。大通りを行き交う花のような人々は、突き進んでくる男の身体を避けたり、避けそこなってぶつかったりして二つに割れた。だが男がとおりすぎて行くと、少しの間をおいて、二つに割れた群衆は何もなかったかのように割れ目を閉ざしていった。
傷の男は、奇異なものを見るかのような人の視線に、傷のある頬を引きつらせた。顔をそむけ、歩く速度をあげていく。
歩く先に、背の高い建物の隙間があった。傷の男は、逃げるようにその隙間に駆け込んだ。隙間は、思った以上にせまい。人が一人やっと通れるほどの、道とは言えない細道だった。衣服を壁にすらせながら進む。やっとのことで、人通りの少ない裏通りにたどりついた。
衣服にすりついた埃を、はたき落とす。
傷の男はその場で立ち止まり、小さく息をこぼした。人気のない裏通りを見回し、ゆっくりと息をととのえる。
暗い。
背の高い建物がならぶ裏道なので、陽の光が差し込みづらいのは当然ではある。だが、昼時少し前だ。まだ十分に明るい時間ではあった。それでも傷の男は、暗いと感じた。
男は、目元を押さえながら頭を小さく横にふった。そしてそのまま、しばらく動かなかったが、やがてゆっくり歩きだし、裏通りを右に左に進みはじめた。
その途中、裏通りの一角が、妙ににぎやかなことに気が付いた。
十数人ほどの人の群れがあって、何かを見物しているようだ。
傷の男は、群衆の脇をとおりすぎながら、少し首を伸ばしてみた。どうやら占い師に人が集まっているようだった。
大きな街だと、「よく当たる」占い師という奴が、一人はいるものだ。だいたいの場合、この手の者は、目鼻の利く情報屋であったり、酒場の女のように、人に好みにあわせて会話ができる弁士のような人間である。だが大衆は、的確な助言に「占い」という言葉をそえるだけで驚き、喜ぶのだ。
傷の男は、呆れた顔で群衆を見て、とおりすぎようとした。すると占い師が、少し頭をあげた。傷の男の方へ、顔を向けてくる。客だと思ったのだろうか。占い師はフードを深くかぶって目元を隠していたが、口元がかすかに笑っているように見えた。
気味が悪い。
傷の男は目をほそめて、群衆からはなれた。
占い師は、まだこちらを見ているようだったが、傷の男は足を速めて、その場を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる