傀儡といしの蜃気楼 ~消えた王女を捜す旅から始まる、夢の世界のものがたり~

遠野月

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プロローグ

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「パル・ファクト」

 深夜の森の底に、少女の声が鳴った。

「やっぱり騙されたんですよ」

 別の女性の声が、膝を突いて地面に顔を寄せている少女の背をたたいた。
 少女は真っ白な髪な地面にたらし、両手のひらを地面に付けながら、じっとしていた。不思議に思った黒い髪の女性が、何度か少女の名を呼びかけた。それでも少女は、ぴくりとも動かなかった。

「フィノア?」
「待って、メリー」

 フィノアと呼ばれた白い髪の少女は、地面を見たままメリーと呼んだ黒髪の女性を制した。どうしたのだろうと、メリーはフィノアの頭近くに腰を下ろす。

「騙されても、間違っても、いなかったわ」

 ゆっくりと頭をあげたフィノアは、口の端を持ちあげて笑った。
 見ると、少女の頭の下の地面が光りだしていた。青白い光がゆらめき、徐々に広がっている。光は淡いものだったが、夜の森には十分の光量だった。広がる光はフィノアを照らし、飲みこんでいくようにも見えた。

「大丈夫……ですか、これ」

 メリーは眉根を寄せて、唾を飲みこんだ。
 地面の青白い光は、フィノアの身体よりも少し大きく広がると、ふわりと浮きあがりはじめた。神秘的と言える光景ではあったが、メリーの目には異常と感じられた。これはきっと駄目だ。直感が、彼女を強く突き動かした。

「フィノア、そこから出て!」

 メリーは叫びながら、フィノアのほそい手をつかんだ。見ると、少女のほそい手も淡くかがやきだしているようだった。彼女の手の中で、ほそ腕がかすかにふるえている。

「……フィノア!!」

 悲鳴のような声をあげて、メリーはフィノアを光の外へ出そうとした。すると、視界がぐにゃりとゆがんだ。力がぬけて、メリーはその場に崩れ落ちる。つかんでいたほそ腕も、いつの間にかはなしていた。

 メリーの目の前で、光が何度かまたたいた。
 またたきは、彼女たちのすぐそばにあった小さな沼を照らした。沼の水面は月明かりも照らして、ゆらりゆらりとゆれていた。水底には、星や月の光とは別の、淡い光がゆらめいていた。呼応するように、沼のほとりの土も、薄っすらと光りだした。それらはまるで、夜空の星月のようだった。

「メリー!」

 青白い光につつまれたフィノアが、声をあげた。必死に手を振って、光を払いのけようとしている。しかし光を除くことはできず、青白い光は強さを増すだけだった。理解が追い付かない現象にようやく恐怖を覚えたフィノアは、あわてふためきながら、言葉にならない声を途切れ途切れに周囲にまき散らした。

 少女のその様子を、メリーはしばらく呆然と見ていた。あまりに非現実的で、思考が停止したのだ。しかし少女がいよいよ泣きそうな声をあげはじめると、ようやく我に返った。

「待って!」

 メリーは、フィノアに駆けよりながら叫んだ。そのころには、フィノアの身体は半分以上光につつまれていた。青白い光は強さを増し、少女を飲みこんでいく。

 メリーは叫びながら、光につつまれていくフィノアに手を伸ばした。
 光の中からもほそい腕を伸ばし返されたが、その腕も飲みこまれていく。

「メリー……!」

 光につつまれたフィノアは、ふり絞るように声をあげた。
 そしてついに二人の手は交わらず、光と共に、少女の身体は消えた。

「……どうして!?」

 メリーは伸ばしたままの両腕をふるわせて、その場でうずくまった。
 辺りは、淡い光をはなつ小さな沼の広場と、漆黒の森だけになった。フィノアの気配は、どこにもない。まるで最初から居なかったかのようだった。

 風が木々を波打たせ、水面がゆれる。
 やがて静まり返った夜の森に、小さなうめき声がひとつ、かすかに鳴った。

 メリーは、焦りと恐怖におそわれつつも辺りを見わたした。
 そして何度も少女の名前を呼んだ。
 その声は夜に吸いこまれ、虚しく消えていく。

 誰かいないか。

 この暗闇から、すくいあげてくれる者はいるだろうか。
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