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風が呼び
誘われてからはじまる
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「メリーさん、そろそろ行こう」
メリーとペルゥがいるほうに向かって、ラトスが言う。
その声にメリーは、右手をあげて返事した。ラトスに走り寄り、先ほどまで彼女の周りを飛んでいる獣にふり返る。
ペルゥは大げさに前足を広げて、残念そうなそぶりをしていた。
「ペルゥ。ありがとう、助かった」
ラトスは、フワフワと浮かびながら前足を左右に振っているペルゥに声をかけた。
ラトスの隣で、メリーが手をふり返している。仕方なく、ラトスも小さくペルに手をあげてみせた。
別れを惜しまず、ラトスは白い転送塔のほうに向きなおった。なだらかな丘を、登りはじめる。しばらく手をふっていたメリーが、少し遅れて追いかけてきた。
「ラトスさんって、お礼が言えるんですね」
「どういうことだ?」
「いえ。なんでも!」
メリーは小さく笑う。
ラトスの顔を一度のぞき込んでから、丘の上の白い塔を見上げた。
あそこに行けば、また見知らぬ、不思議な場所に行くのだろう。常識が通じない世界を旅するのは、恐ろしいものだ。しかし、それと同じくらい高揚しているものが、ラトスの中にあるようだった。
視界に色が戻ったからだろうか?
色が戻っている理由は分からないが、それは、ラトスの心をわずかに晴らしていた。
「ラトスさん。これ、見てください」
「なんだ?」
「ペルゥに貰ったんです」
メリーは、自分の手をラトスの顔の高さまで上げて、嬉しそうな顔で言った。その手首には、こまやかな装飾がほどこされた銀色の腕輪がはめられていた。
「腕輪?」
「そうです! 魔法の腕輪らしいですよ」
「魔法の?」
『そうだよー!』
二人が話していると、突然、腕輪から声が聞こえてきた。ラトスはのぞき込んでいた腕輪から、顔を少し引いた。その声はペルゥの声だった。
『付いてはいけないけど、何かあったらこれで会話が出来るんだよ!』
ペルゥの声がつづく。
本当は猫のような獣が付いてきているのではないか。そう思って、ラトスはメリーの後ろに首を伸ばしてみた。しかし、どこにも隠れているようには見えない。
「なるほど……?」
「面白いですよね!」
『面白いでしょー!』
「いや。面白くないし、うるさい」
『ええー! そんなー!』
悲しそうなペルゥの声が聞こえてきた。前足をパタパタと動かして、残念そうにしている姿が目に浮かぶ。
かわいそうなこと言わないでくださいと、メリーが頬をふくらませてきた。悪いなと、ラトスは両手を上げてみせた。その手を見てメリーは小さく笑うと、ラトスから少しはなれた。おどるように動き、回りだす。自分の手首にはまった腕輪を嬉しそうにながめて、また小さく笑った。
ペルゥとの会話をそこそこに切り上げ、二人は歩きだした。
なだらかな丘を、登っていく。
丘の頂上にある白い塔が、少しずつ近付いてきて、大きく見えはじめる。塔までは当然のように道がなく、ゆるやかな坂道だった。地面には、隙間なく草が生いしげっていて、何度かすべりそうになる。
頂上に近付くにつれて、白いタイルのようなものが、まばらに地面に敷かれはじめた。タイルは白い塔を中心にして、周囲に這い、広がっているようだった。草と白いタイルが混ざり合った不思議な地面を踏みしめながら、二人は登っていった。
「すごいですね」
「ああ」
頂上まで登りきると、二人は、頭上に浮かびあがっている巨大な岩山を見た。その存在は強烈で、畏怖を感じるものだった。どのような力で浮かび上がっているのかなど、考えても意味はないだろう。しかし、あまりにも現実的ではないその光景に、二人はただ、目と口を大きく開くしかなかった。
真下から見上げてみても、巨大な岩山がゆっくりと上下しているのが分かった。時々、風がうなり声をあげて乱れる。白いタイルの隙間をぬうように生えでた草をかきむしり、その上に立つ二人に、力強く打ち付けた。
巨大な岩山の真下にある白い塔に、ラトスは目を向けた。
塔の周辺は白いタイルが敷き詰められていて、草は一本も生えていなかった。丘の下から見たときは少し小さく見えていたが、近付いてみると、白い塔は思いの外大きく、高かった。
塔には、縦に細長い小さな入口があった。それは、人が一人やっと通れるほどの隙間だった。二人は細長い入り口の前に立つと、首を伸ばして塔の中を見た。
中には、あの石室の中や草原の洞窟にあったものと同じ、白い柱が立っていた。それを見て、二人は互いに目を合わせる。少し間を置いて、もう一度白い柱を見た。
「これが、ペルゥが言っていた転送石か」
「たぶん、そうですね」
メリーがうなずくと、ラトスが先に細長い入口に身体を入れた。
衣服をすらせながら、隙間をとおりぬける。中は、少し広い円形の空間になっていた。中心には、白い柱が立っている。
少し遅れて、ラトスの後ろから、メリーも隙間をとおりぬけてきた。腰に佩いている剣が塔の入り口に何度もカチカチと当たって、その音が塔の中の空間に鋭くこだました。
「行ってみよう」
隙間をとおりぬけてきたメリーに、ラトスはうなずきながら言う。
彼女も表情を引き締めて、小さくうなずいた。
白い転送石に手をかざすと、手のひらにかすかな振動が伝わってきた。他の白い柱と同じもののようで、ラトスはメリーにも手をふれるようにうながした。彼女は、おそるおそるといった感じで手を伸ばす。柱に指先を付けると、少しだけ手と肩をふるわせた。
「これ。大丈夫ですよね」
「大丈夫だ。たぶん。お友達のペルゥを信じよう」
「そうですね……って、今、ちょっと馬鹿にしましたよね?」
「いいや。さあ、行こう」
そう言うと、ラトスは白い転送塔に手のひらを付けた。
風のようなささやき声が手のひらから伝わってきて、全身を這うようにおおっていく。
頭の中に、ぼんやりと見たことがあるような、ないような光景が浮かんできた。それは、街のようだった。転送先は、ここなのだな。不思議な光景に、ラトスは心の中でうなずくのだった。
メリーとペルゥがいるほうに向かって、ラトスが言う。
その声にメリーは、右手をあげて返事した。ラトスに走り寄り、先ほどまで彼女の周りを飛んでいる獣にふり返る。
ペルゥは大げさに前足を広げて、残念そうなそぶりをしていた。
「ペルゥ。ありがとう、助かった」
ラトスは、フワフワと浮かびながら前足を左右に振っているペルゥに声をかけた。
ラトスの隣で、メリーが手をふり返している。仕方なく、ラトスも小さくペルに手をあげてみせた。
別れを惜しまず、ラトスは白い転送塔のほうに向きなおった。なだらかな丘を、登りはじめる。しばらく手をふっていたメリーが、少し遅れて追いかけてきた。
「ラトスさんって、お礼が言えるんですね」
「どういうことだ?」
「いえ。なんでも!」
メリーは小さく笑う。
ラトスの顔を一度のぞき込んでから、丘の上の白い塔を見上げた。
あそこに行けば、また見知らぬ、不思議な場所に行くのだろう。常識が通じない世界を旅するのは、恐ろしいものだ。しかし、それと同じくらい高揚しているものが、ラトスの中にあるようだった。
視界に色が戻ったからだろうか?
色が戻っている理由は分からないが、それは、ラトスの心をわずかに晴らしていた。
「ラトスさん。これ、見てください」
「なんだ?」
「ペルゥに貰ったんです」
メリーは、自分の手をラトスの顔の高さまで上げて、嬉しそうな顔で言った。その手首には、こまやかな装飾がほどこされた銀色の腕輪がはめられていた。
「腕輪?」
「そうです! 魔法の腕輪らしいですよ」
「魔法の?」
『そうだよー!』
二人が話していると、突然、腕輪から声が聞こえてきた。ラトスはのぞき込んでいた腕輪から、顔を少し引いた。その声はペルゥの声だった。
『付いてはいけないけど、何かあったらこれで会話が出来るんだよ!』
ペルゥの声がつづく。
本当は猫のような獣が付いてきているのではないか。そう思って、ラトスはメリーの後ろに首を伸ばしてみた。しかし、どこにも隠れているようには見えない。
「なるほど……?」
「面白いですよね!」
『面白いでしょー!』
「いや。面白くないし、うるさい」
『ええー! そんなー!』
悲しそうなペルゥの声が聞こえてきた。前足をパタパタと動かして、残念そうにしている姿が目に浮かぶ。
かわいそうなこと言わないでくださいと、メリーが頬をふくらませてきた。悪いなと、ラトスは両手を上げてみせた。その手を見てメリーは小さく笑うと、ラトスから少しはなれた。おどるように動き、回りだす。自分の手首にはまった腕輪を嬉しそうにながめて、また小さく笑った。
ペルゥとの会話をそこそこに切り上げ、二人は歩きだした。
なだらかな丘を、登っていく。
丘の頂上にある白い塔が、少しずつ近付いてきて、大きく見えはじめる。塔までは当然のように道がなく、ゆるやかな坂道だった。地面には、隙間なく草が生いしげっていて、何度かすべりそうになる。
頂上に近付くにつれて、白いタイルのようなものが、まばらに地面に敷かれはじめた。タイルは白い塔を中心にして、周囲に這い、広がっているようだった。草と白いタイルが混ざり合った不思議な地面を踏みしめながら、二人は登っていった。
「すごいですね」
「ああ」
頂上まで登りきると、二人は、頭上に浮かびあがっている巨大な岩山を見た。その存在は強烈で、畏怖を感じるものだった。どのような力で浮かび上がっているのかなど、考えても意味はないだろう。しかし、あまりにも現実的ではないその光景に、二人はただ、目と口を大きく開くしかなかった。
真下から見上げてみても、巨大な岩山がゆっくりと上下しているのが分かった。時々、風がうなり声をあげて乱れる。白いタイルの隙間をぬうように生えでた草をかきむしり、その上に立つ二人に、力強く打ち付けた。
巨大な岩山の真下にある白い塔に、ラトスは目を向けた。
塔の周辺は白いタイルが敷き詰められていて、草は一本も生えていなかった。丘の下から見たときは少し小さく見えていたが、近付いてみると、白い塔は思いの外大きく、高かった。
塔には、縦に細長い小さな入口があった。それは、人が一人やっと通れるほどの隙間だった。二人は細長い入り口の前に立つと、首を伸ばして塔の中を見た。
中には、あの石室の中や草原の洞窟にあったものと同じ、白い柱が立っていた。それを見て、二人は互いに目を合わせる。少し間を置いて、もう一度白い柱を見た。
「これが、ペルゥが言っていた転送石か」
「たぶん、そうですね」
メリーがうなずくと、ラトスが先に細長い入口に身体を入れた。
衣服をすらせながら、隙間をとおりぬける。中は、少し広い円形の空間になっていた。中心には、白い柱が立っている。
少し遅れて、ラトスの後ろから、メリーも隙間をとおりぬけてきた。腰に佩いている剣が塔の入り口に何度もカチカチと当たって、その音が塔の中の空間に鋭くこだました。
「行ってみよう」
隙間をとおりぬけてきたメリーに、ラトスはうなずきながら言う。
彼女も表情を引き締めて、小さくうなずいた。
白い転送石に手をかざすと、手のひらにかすかな振動が伝わってきた。他の白い柱と同じもののようで、ラトスはメリーにも手をふれるようにうながした。彼女は、おそるおそるといった感じで手を伸ばす。柱に指先を付けると、少しだけ手と肩をふるわせた。
「これ。大丈夫ですよね」
「大丈夫だ。たぶん。お友達のペルゥを信じよう」
「そうですね……って、今、ちょっと馬鹿にしましたよね?」
「いいや。さあ、行こう」
そう言うと、ラトスは白い転送塔に手のひらを付けた。
風のようなささやき声が手のひらから伝わってきて、全身を這うようにおおっていく。
頭の中に、ぼんやりと見たことがあるような、ないような光景が浮かんできた。それは、街のようだった。転送先は、ここなのだな。不思議な光景に、ラトスは心の中でうなずくのだった。
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