傀儡といしの蜃気楼 ~消えた王女を捜す旅から始まる、夢の世界のものがたり~

遠野月

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風が呼び

下手な説明からはじまる

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「なんだい?」
「あの丘の上にある、白い塔なんだが」
「ああー。転送塔のことかい?」
「転送塔……?」

 ラトスは小さく首をかしげて、白い塔のほうに向きなおった。
 ペルゥは、ラトスの後ろからフワフワと飛んできて、彼と同じ方向をみた。小さな前足で、塔を指しながら、あれでしょ? と言う。

「そうだ」
「うん。あれは、転送塔といって、中に転送石っていう、うーんと、ながーい石があるんだよ」
「石?」
「そうだよ。君たちも、ここに来るときに使ったでしょ?」
「白い、柱みたいなもののことか」
「そう。それ!」

 ペルゥは、満足そうな顔をしてうなずいた。そして、ゆっくりとラトスとメリーの間にもどり、大きく前足を動かしてみせた。どうやら、転送石の説明がしたいらしい。
 ペルゥの動きは、ラトスからすれば、わずらわしいものだった。だが、メリーは、そうではないらしい。目を輝かせて、その獣の仕草をじっと見ていた。もしかしたら、ペットのような感覚で見ているのかもしれないと、ラトスは思った。

「転送石は、ふたつでひとつなんだ」
「ほう?」
「ふたつでひとつなんだ」
「……つまり?」

 説明をするが、下手なのだろうか。
 ペルゥはそのあと、長い時間をかけて、転送塔の説明をした。

 メリーは、ペルゥの話に付いていけないらしい。途中から頭をかかえて、ラトスの顔を何度も見てきた。お手上げなので任せたと言いたいようだ。メリーは申し訳なさそうな顔をして、ラトスに何度も小さく頭を下げてきた。

 仕方なく、ラトスは、ペルゥの説明を延々と聞いた。
 つまり転送石とは、元々ひとつであったものを、ふたつに分けたものらしい。
 ふたつに分かれても、密接な関係を保ったまま、強く惹かれあいつづけているのだという。その惹かれあう力を利用しているというのだ。ふたつの石がどんなにはなれていても、片割れの場所へ移動することができるようにしているらしい。

「なるほど」
「分かってもらえた?」
「いや。まあ、本当のことを言えば理解不能だが、そういうものなのだと……思うことにはしたよ」
「それは良かったー!」

 ペルゥは、また満足そうに笑顔を見せた。
 メリーは、まだ頭をかかえていた。察して、ペルゥは彼女の前に飛んでいく。ラトスはペルゥを追いかけて、彼女の隣に腰を下ろした。突然近くに寄ってきたラトスに、メリーは驚いた。しかし、ラトスは気にせず、指先で絵をかきながら説明しはじめた。

「つまり、隧道(トンネル)だ」
「隧道、ですか?」
「そうだ。隧道はひとつだが、出口はふたつある」

 入口から入ると、道を通って、反対側の出口に出られる。
 逆から行っても、同じことだ。転送石は、その道を歩くための時間と労力を短縮してくれるということだろうと、ラトスは説明した。

 その説明に、メリーは口を大きく開いて何度もうなずいた。
 彼女の隣で、ペルゥも目と口を大きく開いて、何度もうなずいていた。

「分かりやすいね!」

 ペルゥは、喜びながら言う。小さな前足をぱたぱたとふったあと、ラトスのほうに力強く伸ばしてみせた。ラトスはその小さな前足を、指先で軽くはじいてやった。ペルゥは、後ろにころりと回って倒れる。起き上がろうとするときに舌をぺろりと出すと、恥ずかしそうに笑った。

「あの丘の上の転送塔はね。その上の、あの大きなのと繋がってるんだよ」

 恥ずかしそうな顔をしたまま、ペルゥは少し上のほうに前足を向けた。その先は、空に浮き上がっている巨大な岩山だった。

「あれに!?」
「そうだよ!」

 メリーが驚いて、浮き上がっている岩山を見た。確かにあそこまで行くには、転送石などというものを使わなければ、飛んでいく以外に方法が無さそうだった。

「とりあえず、まず最初は、あそこに行くほうがいいかな」
「あの上か」
「そう。あの上ね」
「あそこには、何があるんだ?」
「んー。それはねー。行ってからのお楽しみかな!」

 ペルゥは、楽しそうに笑うと、跳ねるように飛びあがった。
 宙でくるくると縦に回り、ふわりとメリーの肩の上に降りる。そして、少し残念そうな顔を作ってから、メリーの顔を覗きのぞき込んだ。

「でも、ここから先は、ボク、行けないんだ」

 目をほそくして、ペルゥは言った。
 メリーの肩の上で、がくりと肩を落とすような仕草をする。

 それからまた、ラトスの前に、ゆっくりと飛んでいった。あまりに飛び回るので、忙しないなとラトスは眉をひそめた。しかしペルゥは、ラトスのにがい表情に気を留めない。彼の胸の前で、笑顔を作りながらフワフワと浮いた。

「この先にいる≪セウラザ≫という人と、会ってくるといいよ」
「セウラザ?」
「そう。必ず、君たちの力になってくれるはずだよ」

 前足をパタパタと動かしながら言うと、また、いきおいよく飛びあがった。
 今度は、メリーの肩の上に飛び乗る。動き回らないと、この獣は死ぬのだろうか。ラトスは、傷のある頬を引きつらせた。

「ごめんね。本当はボクも付いていきたいんだけど」
「ペルゥは、転送石っていうのが使えないの?」
「ううん。使えるよ。ただ、この先だけは立ち入り禁止みたいなものなんだ。ボクたちはね」

 前足を大きく横に広げて、くるくると回りながら、ペルゥはがっかりした様子を見せた。

「だけど、すぐに会えるよ!」
「そうなの?」
「もちろん! メリーとボクは、友達だからね!」
「友達ですね!」

 メリーは、ペルゥの小さな前足を指先でつつく。突いた足がパタパタと動く。それを見て、メリーは、嬉しそうに笑って飛び跳ねはじめた。彼女に合わせて、ペルゥも上下に飛び回る。

 ラトスは一人と一匹がじゃれ合う様子を、少しはなれてしばらく見ていた。あの中には、入って行けそうにないと思ったのだ。

 彼女たちのじゃれあいは、なかなか区切りがつきそうになかった。
 仕方なく、ラトスは、なだらかな丘に目を向けた。丘の上の白い転送塔が、光に照らされている。その上空には、巨大な岩山がかすかに上下にゆれて、浮かびあがっていた。説明を受けた後だと、白い転送塔が、岩山を支えているようにも見える。

 この先にペルゥは行けないと言っていた。
 自分たちを監視したいなら、出来るかぎり目のとどく範囲にいたいはずだ。それでも行けないということは、この先が一種の特別な場所だということだろう。

 そんな場所にいる「セウラザ」とは、何者で、何の力になるというのだろうか?
 メリーと遊んでいる「ペルゥ」も、何者で、なぜ監視し、なぜ早くここから帰らせようとするのだろうか?

 自分たちが知っている世界と、ここは違うと、ペルゥは言った。
 それは、いったいどういう意味で、どんな危険があるのだろうか。

 考えてもきりがないことをラトスはしばらく考え、思考がループしそうなところで、やめた。結局は行ってみたほうが早いのだし、どの道行くと決めているのだ。

 出来るだけ、安全に進むように努めてきた。もちろん、これからも、そう努めるつもりだ。それでも、理解がおよばないことが多い。その場の機転で切り抜けなければならない多くの危険がありそうなのは、今更のことだった。
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