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影
迷いからはじまる
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「その腕輪の、ペルゥとは、まだ会話が出来るのか?」
疲れた表情のメリーを見かねて、ラトスは、彼女の腕を指差しながら聞いてみた。
メリーはキョトンとした表情で、しばらくラトスの顔を見つめる。やがて、ああと口を開いて両手のひらをパチンとあわせた。
「えっと、そういえば……どうでしょう?」
メリーは手首にはまっている銀色の腕輪をなでながら、顔の高さまで持ちあげてみせた。こまやかな装飾がほどこされているその腕輪は、よどんだ薄暗い空の下でも、ちらちらと輝きをはなっている。
「ペルゥ。聞こえます?」
メリーは、銀色の腕輪に声をかけた。
少し間を置いて、言葉になっていない眠そうな声が、小さく腕輪から聞こえてきた。
『メリー? 聞こえてるよー。どうしたの?』
「あ、良かった。会話できるみたいです」
「それはいい。おい、ペルゥ。俺の声も聞こえるな?」
『もちろん! 聞こえるよー』
「俺たちがいるこの場所は、そこの草原の上なのか?」
ラトスは少し強めの口調で、メリーの腕輪に話しかけた。
メリーはラトスの隣で、静かにペルゥの返答を待っている。もしかしたら、ペルゥとしゃべりたくなったのかもしれない。先ほどまでの疲れた表情は、少しやわらいでいるように見えた。
『うん。そうそう。そうだよー』
間のぬけた声で、ペルゥが返事をした。
声を聞くだけなら大丈夫なものだなと、ラトスは思った。すぐ近くでぴょんぴょんと飛んだり跳ねたりされないだけで、うっとうしさはほとんど感じない。
しかし、やはりペルゥが言っていたとおり、草原の上に浮いていた岩山の中に転送されたのだということは、はっきりした。
「そうか。やはり、そうなのだな」
『なんだか、残念そうだね? まあ、ちょっと予想は付くけど』
「……まあ、それは置いておこう。ところで、セウラザとかいうやつのことだが」
『うんうん。まだ会っていないの? 見つからないー?』
「ああ。まだだな。ずいぶん広いから、見つけられるかどうか」
『あははー! そうかー。うんうん。それはね、えっと、まあ。たぶんすぐ見つかるよー!』
銀の腕輪の向こうで、ペルゥが笑いながら言う。その言葉にメリーは首をかしげて、どうして? と問いかけた。
『うーん。それはね。ちょっと説明が難しいけど』
「お前は、説明が下手だからな」
『そうそう! ホントにそれ! でも、まあ。ちゃんと会えるようになっているから心配しなくていいよ』
「なっている?」
『そう! 詳しく聞きたい?』
「いや。いらない。お前が言うならそうなのだろう」
『さすが! ボクはちょっと傷付いたけど、話が早いねー!』
全く傷付いてもいない声色で、ペルゥが返事をする。
面倒になったラトスは、もういいと、メリーに向かって両手をあげてみせた。それを見て、メリーは苦笑いをした。
少ししゃべってきたらどうだと、ラトスはメリーに言った。しゃべりたそうに、うずうずとしていたからだ。ラトスの言葉に、メリーは顔を明るくさせた。彼女は大きく頭を下げると、数歩はなれていく。そして、銀の腕輪をはめた腕をふりながら、ペルゥと楽しそうにおしゃべりをはじめた。
セウラザと「会えるようになっている」とは、どういうことだろうか。
この場所も不思議な世界の延長なら、何か特別な力で惹きあうようになっていると考えるべきだろうか。それならば、今は気になるところへと足を向けつづけるしかない。
ラトスは巨大な穴を横目に、今までとおってきた大通りと、それ以外の場所をゆっくりと見回した。
今までとおってきたところは、多少妙なところではある。だが、見知ったエイスの中央区画と、大差はない。心惹かれることも特にはなかった。
巨大な穴の向こう岸は、どうか。
ラトスは、目をほそめて見回してみた。そこにはやはり、街が広がっているようだった。しかし、エイスの城下街とは少し毛色が違うようにも見えた。はなれているのではっきりとは見えないが、少なくとも東西南北に伸びているはずのエイスの大通りは、巨大な穴の向こう岸には伸びていないようだった。
毛色の違うその街は、ところどころ暗くなっていた。高い城壁の影が、広くおおっているわけではない。不自然な暗さが、まばらに存在していた。夕暮れのように薄暗いところもあれば、深夜のように真っ暗なところもあった。
ラトスが、巨大な穴の向こうの街を観察していると、遠くから、メリーの声が聞こえてきた。
お喋りに区切りが付いたのだろうか。目を向けると、メリーがこちらに向かって手をふっていた。
「終わったのか?」
「はい! ありがとうございます、ラトスさん!」
メリーは、深々とお辞儀をする。
気にするなとラトスが言うと、メリーは顔だけをあげて、とても嬉しそうに笑った。
出会った時からそうだったが、メリーはずいぶんと激しく一喜一憂する。ここがエイスの国ではないと分かってひどく落ち込んでも、試しにペルゥと話す機会を作ってみたら何事もなかったように元気になるのだ。扱いやすいと言えばそれまでだが、すぐに立ち直ってくれるのは、実にありがたい。
「穴の向こうにも、街があるんだ」
ラトスは、巨大な穴の向こう岸を指差しながら言った。まずはそこまで行ってみようと言い加えると、メリーはラトスが指差した先をじっと見てうなずいた。
「向こう岸は、少し変わってますね」
「そうだな。この辺りよりも変わっているかもしれないな」
「これ以上ですか? うーん?」
「とりあえず行ってみよう。ペルゥもそのうちに会えると言っていたからな。気になったところへ行ってみようじゃないか」
「そうですね! ペルゥに従いましょう!」
メリーは深くうなずくと、手首にはめてある銀色の腕輪をながめて、もう一度小さくうなずいた。
疲れた表情のメリーを見かねて、ラトスは、彼女の腕を指差しながら聞いてみた。
メリーはキョトンとした表情で、しばらくラトスの顔を見つめる。やがて、ああと口を開いて両手のひらをパチンとあわせた。
「えっと、そういえば……どうでしょう?」
メリーは手首にはまっている銀色の腕輪をなでながら、顔の高さまで持ちあげてみせた。こまやかな装飾がほどこされているその腕輪は、よどんだ薄暗い空の下でも、ちらちらと輝きをはなっている。
「ペルゥ。聞こえます?」
メリーは、銀色の腕輪に声をかけた。
少し間を置いて、言葉になっていない眠そうな声が、小さく腕輪から聞こえてきた。
『メリー? 聞こえてるよー。どうしたの?』
「あ、良かった。会話できるみたいです」
「それはいい。おい、ペルゥ。俺の声も聞こえるな?」
『もちろん! 聞こえるよー』
「俺たちがいるこの場所は、そこの草原の上なのか?」
ラトスは少し強めの口調で、メリーの腕輪に話しかけた。
メリーはラトスの隣で、静かにペルゥの返答を待っている。もしかしたら、ペルゥとしゃべりたくなったのかもしれない。先ほどまでの疲れた表情は、少しやわらいでいるように見えた。
『うん。そうそう。そうだよー』
間のぬけた声で、ペルゥが返事をした。
声を聞くだけなら大丈夫なものだなと、ラトスは思った。すぐ近くでぴょんぴょんと飛んだり跳ねたりされないだけで、うっとうしさはほとんど感じない。
しかし、やはりペルゥが言っていたとおり、草原の上に浮いていた岩山の中に転送されたのだということは、はっきりした。
「そうか。やはり、そうなのだな」
『なんだか、残念そうだね? まあ、ちょっと予想は付くけど』
「……まあ、それは置いておこう。ところで、セウラザとかいうやつのことだが」
『うんうん。まだ会っていないの? 見つからないー?』
「ああ。まだだな。ずいぶん広いから、見つけられるかどうか」
『あははー! そうかー。うんうん。それはね、えっと、まあ。たぶんすぐ見つかるよー!』
銀の腕輪の向こうで、ペルゥが笑いながら言う。その言葉にメリーは首をかしげて、どうして? と問いかけた。
『うーん。それはね。ちょっと説明が難しいけど』
「お前は、説明が下手だからな」
『そうそう! ホントにそれ! でも、まあ。ちゃんと会えるようになっているから心配しなくていいよ』
「なっている?」
『そう! 詳しく聞きたい?』
「いや。いらない。お前が言うならそうなのだろう」
『さすが! ボクはちょっと傷付いたけど、話が早いねー!』
全く傷付いてもいない声色で、ペルゥが返事をする。
面倒になったラトスは、もういいと、メリーに向かって両手をあげてみせた。それを見て、メリーは苦笑いをした。
少ししゃべってきたらどうだと、ラトスはメリーに言った。しゃべりたそうに、うずうずとしていたからだ。ラトスの言葉に、メリーは顔を明るくさせた。彼女は大きく頭を下げると、数歩はなれていく。そして、銀の腕輪をはめた腕をふりながら、ペルゥと楽しそうにおしゃべりをはじめた。
セウラザと「会えるようになっている」とは、どういうことだろうか。
この場所も不思議な世界の延長なら、何か特別な力で惹きあうようになっていると考えるべきだろうか。それならば、今は気になるところへと足を向けつづけるしかない。
ラトスは巨大な穴を横目に、今までとおってきた大通りと、それ以外の場所をゆっくりと見回した。
今までとおってきたところは、多少妙なところではある。だが、見知ったエイスの中央区画と、大差はない。心惹かれることも特にはなかった。
巨大な穴の向こう岸は、どうか。
ラトスは、目をほそめて見回してみた。そこにはやはり、街が広がっているようだった。しかし、エイスの城下街とは少し毛色が違うようにも見えた。はなれているのではっきりとは見えないが、少なくとも東西南北に伸びているはずのエイスの大通りは、巨大な穴の向こう岸には伸びていないようだった。
毛色の違うその街は、ところどころ暗くなっていた。高い城壁の影が、広くおおっているわけではない。不自然な暗さが、まばらに存在していた。夕暮れのように薄暗いところもあれば、深夜のように真っ暗なところもあった。
ラトスが、巨大な穴の向こうの街を観察していると、遠くから、メリーの声が聞こえてきた。
お喋りに区切りが付いたのだろうか。目を向けると、メリーがこちらに向かって手をふっていた。
「終わったのか?」
「はい! ありがとうございます、ラトスさん!」
メリーは、深々とお辞儀をする。
気にするなとラトスが言うと、メリーは顔だけをあげて、とても嬉しそうに笑った。
出会った時からそうだったが、メリーはずいぶんと激しく一喜一憂する。ここがエイスの国ではないと分かってひどく落ち込んでも、試しにペルゥと話す機会を作ってみたら何事もなかったように元気になるのだ。扱いやすいと言えばそれまでだが、すぐに立ち直ってくれるのは、実にありがたい。
「穴の向こうにも、街があるんだ」
ラトスは、巨大な穴の向こう岸を指差しながら言った。まずはそこまで行ってみようと言い加えると、メリーはラトスが指差した先をじっと見てうなずいた。
「向こう岸は、少し変わってますね」
「そうだな。この辺りよりも変わっているかもしれないな」
「これ以上ですか? うーん?」
「とりあえず行ってみよう。ペルゥもそのうちに会えると言っていたからな。気になったところへ行ってみようじゃないか」
「そうですね! ペルゥに従いましょう!」
メリーは深くうなずくと、手首にはめてある銀色の腕輪をながめて、もう一度小さくうなずいた。
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