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王
錆びた扉からはじまる
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「とにかく、国王のセウラザを探そう」
ラトスは円卓のほうに顔を向けて、フィノアとメリーに言った。
「そうですね。これ以上は、地図を見ていても何か分かる気がしません」
フィノアがうなずくと、メリーも同意するようにうなずいた。
三人は巨大な円卓を後にして、セウラザがいるところまで歩いていった。彼は、いくつかある扉の内のひとつを選んでいたようだった。扉に近寄ってみると、扉の取っ手だけ錆びついていなかった。他の扉も取っ手が錆びていないのかと問うと、ここだけだと、セウラザは答えた。
「錆びた取っ手は、開かないようだ」
「拒まれているかのようだな」
「実際、そうなのだろう」
セウラザはそう言うと、扉の取っ手に手をかけた。
錆びた蝶番が軋む。無理に開けば折れるのではないかと、ラトスは思った。セウラザが、慎重に扉を開いていく。ラトスの後ろから、フィノアとメリーの緊張が伝わってきた。
扉の先は、議会場よりややせまい広間だった。
広間には、多数の人影が見えた。ラトスはあわてて身構えたが、多数の影は人間ではないことに気付いて、大きく息を吐きだした。
「人形か」
つぶやくラトスの背後から、メリーが顔をだす。
多数の人形が、広間にならべられていた。それぞれ立派な衣服をまとっていて、高い身分の人間だと分かる。
「高官たちでしょうか」
「そうみたいですね」
ラトスの背後で、メリーとフィノアが言った。
高官の人形は、なにかを話しあっているかのように向かいあっていた。手をかざしたり、考えたりするような動きで静止している。いくつかの人形を比べて見てみると、いずれも違う顔に作られていた。
奥に向かって歩いていくと、一段高いところに大臣の人形が置かれていた。
大臣の人形は、気難しい表情をしてうつむいていた。
「これは、王女捜索依頼を出していた大臣だな」
うつむいた人形のそばまで来て、ラトスが小さく言った。
ラトスの言葉を聞いて、フィノアとメリーが大臣の人形に近寄った。すると人形は、がたりと左右にゆれた。三人は驚いて、一歩後ろに下がる。ラトスは下がりながら、腰の短剣に手をかけた。
再度、大臣の人形がゆれる。
ラトスは、ゆっくりと腰の短剣を引きぬいた。剣先を人形に向ける。
「……で、殿下?」
くたびれた声が聞こえた。
メリーが、声にならない声をしぼりだす。大臣の人形から、声が消えたからだ。見ると、人形の目がわずかに動いていて、フィノアに向けられていた。
「で、殿下? ……ま、まさか、ゆ、夢人ではない、殿下、ですかな」
大臣の人形が、がくがくと口を動かした。
夢の世界でなければ、トラウマになりそうな光景だった。少なくとも、お化けなどの類が苦手なメリーは、ラトスの背後に隠れてしまうほどだった。
「大臣?」
フィノアは訝し気な表情で、人形に応えた。最初は少し驚いていたが、なにか感じるものがあったらしい。フィノアは大臣の人形に駆け寄ると、人形の手を取った。まるで人間に対する接し方のようだと、ラトスは少女に驚きを隠せなかった。王女たるもの、こうあるべきと教えられてきたのだろうか。
「自我があるようだ」
セウラザが言った。彼は、ラトスの後ろで他の人形を見ていた。大臣が言葉を話すと同時に、こちらへ寄ってきたらしい。
「自我? じゃあ、こいつ……大臣は夢の住人なのか」
「そのようだ。他の人形も、元は夢の住人のようだな」
「……そうか」
ラトスは大臣に背を向けて、広間にならんでいる人形を見る。作り物にしては、精巧な人形だとは思っていた。だが元々夢の住人だと思うと、奇妙な気持ちになった。
「大臣。これは、どうなっているのですか」
大臣の人形の手をにぎりながら、フィノアが声をかけた。
人形は、目と口以外、ほとんど動かすことができないようだった。フィノアが手を取っても、身体はなんの反応もしない。かろうじて、身体が前後左右に小さくゆれる程度だった。
「……殿下。もう、ここは、お、終わりです。お逃げくだ、さい」
「分かっているわ。でも、大臣。どうしてこうなったのです?」
「言えません。……で、殿下。ど、どうか、お、お、お気を、悪く、しませんよう」
「言えないの? 私が尋ねているのに」
「……い、言えないので、す。殿下」
そう言うと大臣の人形は苦しそうな表情になった。人形の表情を見て、フィノアは問い詰めるのをやめた。追い詰めてしまったと思ったのか、困った顔をしてうなだれる。
「フィノア」
セウラザが、少女の隣に立った。
「夢の住人は、夢の世界の主人に対して、絶対的に服従している。自我があっても、それは変わらないのだ」
「では、お父様が、大臣に口止めしていると言うのですか?」
「分からない。だが、君の質問に対する答えは、今の国王にとって不利益になることなのだろう」
そう言ってセウラザは、少女のほそい肩に手を乗せた。
フィノアは納得がいかないといった表情をしていたが、それ以上なにも言わなかった。
「大臣。ここのセウラザはどこにいるんだ?」
黙ってしまったフィノアの代わりに、ラトスがたずねた。
大臣の人形は、目だけ動かしてラトスの顔をじっと見た。苦しそうな表情はなくなっていた。だが人形と話をしている感覚は消えず、奇妙な違和感が彼の胸を押さえた。
「き、君は、……誰かな?」
大臣の人形が返事する。眉根をかすかに寄せて、不思議そうな表情をした。
国王の夢の世界の住人であるため、この大臣の人形は、ラトスのことを知らないのだろう。王女捜索依頼を受けるときに会った大臣とは、まったく別のものに見えた。
「俺は……王女の連れだ。訳あって、一緒にいる」
「連れ、と。へ、平民が、か」
「悪いな。文句は王女に言ってくれ。それで、セウラザはどこにいるんだ」
「……セウラザは、お、奥に」
「分かった」
大臣の人形に向かって、ラトスはうなずく。人形は、また苦しそうな表情をしていた。ラトスの質問に対しても、答えにくいことがあるのだと察せられた。
ラトスは大臣の人形から目をそむけ、ひるがえった。夢の世界同様に、夢の住人も終わりを迎えようとしている。人形は、セウラザが奥に、とだけ言った。居るとは言わなかった。終わりを迎えている世界に、セウラザが正しい状態で居るとは、ラトスにも思えなかった。
「他の扉を見よう。王女さん、いいな?」
「……そうですね」
フィノアは、大臣の手をにぎったままだった。
現の世界では、仲の良い関係だったのかもしれない。大臣は、私財を投じて王女捜索依頼をだすほどなのだ。第二の親子というものがあるが、ラトスから見ればそのように見えなくもなかった。
「で、殿下。お、お気をつけて……」
「分かっているわ。心配しないで。……どうか、ゆっくり休んでください」
「感謝します……」
フィノアの言葉を受けると、大臣の人形は動かなくなった。目も口も動いていない。少女は、人形の手をはなした。支えを失った人形の手はだらりと垂れ、最初見た時と同じように、うつむいた姿となった。ただ、表情だけは安らかなものに変わっていた。
「行きましょう」
フィノアは、大臣の人形に背を向ける。気丈に振舞おうとしているのは、明らかだった。メリーが、少女の背にそっと手を回す。気丈な振りをしていても、眉間には深い皴ができていた。本物の大臣ではないが、死んだように見えるのは良い気分でなかっただろう。
ラトスはなにか声をかけようかと思ったが、言葉が見つからなかった。
こういう時、自身の社交性のなさがうらめしい。
「クロニスさん、気にしないでください。それに、急がなくては」
「そうだな……」
フィノアの言葉に、ラトスはうなずいた。少女の言うとおり、今は時間がないのだ。感傷的になっている暇はない。らしくないと、ラトスは自身を叱咤した。
「この広間には、他に扉が無いな。戻って、開く扉を探そう」
広間を見回して、セウラザが言った。釣られてラトスも見回した。彼の言うとおり、入ってきた扉以外に、出入り口になりそうなものは見当たらない。転送石らしき柱もなかった。
仕方なく、四人は議会場にもどった。
広間を後にする直前、フィノアが振り返る。奥にある大臣の人形を見て、少女は小さく頭を下げた。ならうように、メリーも頭を下げる。議会場に入って扉を閉めると、錆びついた音とともに、ガチャリと鍵のかかった音がした。
「もう、開かないな」
ラトスは扉の取っ手に手をかける。
取っ手は、扉と同様に錆びついていた。鍵がかからなくても開かないのではないかと思うほど、ひどい錆びだった。
「他の扉を調べよう。もしかすると、一つ一つ開くのかもしれない」
セウラザが言う。急いでいる時こそ面倒になるものだなと、ラトスは短く息を吐いた。弱っているからか、拒まれているからか。簡単には奥を見せないという意思が、夢の世界に働いているようだった。
こういう面倒な夢の世界が他にもあるのかとセウラザに問うと、時々あると彼はうなずいた。経験があるからこそ、先ほどから的確に動いていたのだ。
「ここに、錆びていない取っ手があります」
遠くからメリーの声が聞こえた。
声が聞こえたほうに目を向ける。メリーとフィノアは、ラトスたちがいる場所とは対角の位置まで歩いて行っていた。
「開くのか?」
「取っ手は、動きますね。ひどい音がしますけど」
「……ひどい音?」
錆びた音のことを言っているのだろうか。ラトスとセウラザは、彼女たちがいるところまで歩いていく。扉に近付くと、フィノアがいらだったような表情でラトスをにらんできた。どうやら、ゆっくり歩いてきたことが気に入らなかったらしい。次は走るよとラトスが言うと、当然ですとフィノアは顔をそむけた。
ラトスたちが合流すると、メリーは扉を指差してみせた。彼女の言うとおり、扉からは風鳴のような音が聞こえていた。聞き覚えがあるものだと、ラトスは目をほそめた。
「開けよう」
「……大丈夫ですか?」
「どのみち、他の扉は開かない。ここを見るしかないだろう」
「それは、そうですが……」
メリーが唾を飲みこむ。ただの風鳴だとは思っていないのだ。ラトスの夢の世界にあった巨大な穴からも、風鳴のような音は聞こえてきていた。しかし、この扉の先から聞こえてくる音は、もう少しはっきりとしていた。明らかに、人の声らしきものも聞こえてくるのだ。
ラトスは円卓のほうに顔を向けて、フィノアとメリーに言った。
「そうですね。これ以上は、地図を見ていても何か分かる気がしません」
フィノアがうなずくと、メリーも同意するようにうなずいた。
三人は巨大な円卓を後にして、セウラザがいるところまで歩いていった。彼は、いくつかある扉の内のひとつを選んでいたようだった。扉に近寄ってみると、扉の取っ手だけ錆びついていなかった。他の扉も取っ手が錆びていないのかと問うと、ここだけだと、セウラザは答えた。
「錆びた取っ手は、開かないようだ」
「拒まれているかのようだな」
「実際、そうなのだろう」
セウラザはそう言うと、扉の取っ手に手をかけた。
錆びた蝶番が軋む。無理に開けば折れるのではないかと、ラトスは思った。セウラザが、慎重に扉を開いていく。ラトスの後ろから、フィノアとメリーの緊張が伝わってきた。
扉の先は、議会場よりややせまい広間だった。
広間には、多数の人影が見えた。ラトスはあわてて身構えたが、多数の影は人間ではないことに気付いて、大きく息を吐きだした。
「人形か」
つぶやくラトスの背後から、メリーが顔をだす。
多数の人形が、広間にならべられていた。それぞれ立派な衣服をまとっていて、高い身分の人間だと分かる。
「高官たちでしょうか」
「そうみたいですね」
ラトスの背後で、メリーとフィノアが言った。
高官の人形は、なにかを話しあっているかのように向かいあっていた。手をかざしたり、考えたりするような動きで静止している。いくつかの人形を比べて見てみると、いずれも違う顔に作られていた。
奥に向かって歩いていくと、一段高いところに大臣の人形が置かれていた。
大臣の人形は、気難しい表情をしてうつむいていた。
「これは、王女捜索依頼を出していた大臣だな」
うつむいた人形のそばまで来て、ラトスが小さく言った。
ラトスの言葉を聞いて、フィノアとメリーが大臣の人形に近寄った。すると人形は、がたりと左右にゆれた。三人は驚いて、一歩後ろに下がる。ラトスは下がりながら、腰の短剣に手をかけた。
再度、大臣の人形がゆれる。
ラトスは、ゆっくりと腰の短剣を引きぬいた。剣先を人形に向ける。
「……で、殿下?」
くたびれた声が聞こえた。
メリーが、声にならない声をしぼりだす。大臣の人形から、声が消えたからだ。見ると、人形の目がわずかに動いていて、フィノアに向けられていた。
「で、殿下? ……ま、まさか、ゆ、夢人ではない、殿下、ですかな」
大臣の人形が、がくがくと口を動かした。
夢の世界でなければ、トラウマになりそうな光景だった。少なくとも、お化けなどの類が苦手なメリーは、ラトスの背後に隠れてしまうほどだった。
「大臣?」
フィノアは訝し気な表情で、人形に応えた。最初は少し驚いていたが、なにか感じるものがあったらしい。フィノアは大臣の人形に駆け寄ると、人形の手を取った。まるで人間に対する接し方のようだと、ラトスは少女に驚きを隠せなかった。王女たるもの、こうあるべきと教えられてきたのだろうか。
「自我があるようだ」
セウラザが言った。彼は、ラトスの後ろで他の人形を見ていた。大臣が言葉を話すと同時に、こちらへ寄ってきたらしい。
「自我? じゃあ、こいつ……大臣は夢の住人なのか」
「そのようだ。他の人形も、元は夢の住人のようだな」
「……そうか」
ラトスは大臣に背を向けて、広間にならんでいる人形を見る。作り物にしては、精巧な人形だとは思っていた。だが元々夢の住人だと思うと、奇妙な気持ちになった。
「大臣。これは、どうなっているのですか」
大臣の人形の手をにぎりながら、フィノアが声をかけた。
人形は、目と口以外、ほとんど動かすことができないようだった。フィノアが手を取っても、身体はなんの反応もしない。かろうじて、身体が前後左右に小さくゆれる程度だった。
「……殿下。もう、ここは、お、終わりです。お逃げくだ、さい」
「分かっているわ。でも、大臣。どうしてこうなったのです?」
「言えません。……で、殿下。ど、どうか、お、お、お気を、悪く、しませんよう」
「言えないの? 私が尋ねているのに」
「……い、言えないので、す。殿下」
そう言うと大臣の人形は苦しそうな表情になった。人形の表情を見て、フィノアは問い詰めるのをやめた。追い詰めてしまったと思ったのか、困った顔をしてうなだれる。
「フィノア」
セウラザが、少女の隣に立った。
「夢の住人は、夢の世界の主人に対して、絶対的に服従している。自我があっても、それは変わらないのだ」
「では、お父様が、大臣に口止めしていると言うのですか?」
「分からない。だが、君の質問に対する答えは、今の国王にとって不利益になることなのだろう」
そう言ってセウラザは、少女のほそい肩に手を乗せた。
フィノアは納得がいかないといった表情をしていたが、それ以上なにも言わなかった。
「大臣。ここのセウラザはどこにいるんだ?」
黙ってしまったフィノアの代わりに、ラトスがたずねた。
大臣の人形は、目だけ動かしてラトスの顔をじっと見た。苦しそうな表情はなくなっていた。だが人形と話をしている感覚は消えず、奇妙な違和感が彼の胸を押さえた。
「き、君は、……誰かな?」
大臣の人形が返事する。眉根をかすかに寄せて、不思議そうな表情をした。
国王の夢の世界の住人であるため、この大臣の人形は、ラトスのことを知らないのだろう。王女捜索依頼を受けるときに会った大臣とは、まったく別のものに見えた。
「俺は……王女の連れだ。訳あって、一緒にいる」
「連れ、と。へ、平民が、か」
「悪いな。文句は王女に言ってくれ。それで、セウラザはどこにいるんだ」
「……セウラザは、お、奥に」
「分かった」
大臣の人形に向かって、ラトスはうなずく。人形は、また苦しそうな表情をしていた。ラトスの質問に対しても、答えにくいことがあるのだと察せられた。
ラトスは大臣の人形から目をそむけ、ひるがえった。夢の世界同様に、夢の住人も終わりを迎えようとしている。人形は、セウラザが奥に、とだけ言った。居るとは言わなかった。終わりを迎えている世界に、セウラザが正しい状態で居るとは、ラトスにも思えなかった。
「他の扉を見よう。王女さん、いいな?」
「……そうですね」
フィノアは、大臣の手をにぎったままだった。
現の世界では、仲の良い関係だったのかもしれない。大臣は、私財を投じて王女捜索依頼をだすほどなのだ。第二の親子というものがあるが、ラトスから見ればそのように見えなくもなかった。
「で、殿下。お、お気をつけて……」
「分かっているわ。心配しないで。……どうか、ゆっくり休んでください」
「感謝します……」
フィノアの言葉を受けると、大臣の人形は動かなくなった。目も口も動いていない。少女は、人形の手をはなした。支えを失った人形の手はだらりと垂れ、最初見た時と同じように、うつむいた姿となった。ただ、表情だけは安らかなものに変わっていた。
「行きましょう」
フィノアは、大臣の人形に背を向ける。気丈に振舞おうとしているのは、明らかだった。メリーが、少女の背にそっと手を回す。気丈な振りをしていても、眉間には深い皴ができていた。本物の大臣ではないが、死んだように見えるのは良い気分でなかっただろう。
ラトスはなにか声をかけようかと思ったが、言葉が見つからなかった。
こういう時、自身の社交性のなさがうらめしい。
「クロニスさん、気にしないでください。それに、急がなくては」
「そうだな……」
フィノアの言葉に、ラトスはうなずいた。少女の言うとおり、今は時間がないのだ。感傷的になっている暇はない。らしくないと、ラトスは自身を叱咤した。
「この広間には、他に扉が無いな。戻って、開く扉を探そう」
広間を見回して、セウラザが言った。釣られてラトスも見回した。彼の言うとおり、入ってきた扉以外に、出入り口になりそうなものは見当たらない。転送石らしき柱もなかった。
仕方なく、四人は議会場にもどった。
広間を後にする直前、フィノアが振り返る。奥にある大臣の人形を見て、少女は小さく頭を下げた。ならうように、メリーも頭を下げる。議会場に入って扉を閉めると、錆びついた音とともに、ガチャリと鍵のかかった音がした。
「もう、開かないな」
ラトスは扉の取っ手に手をかける。
取っ手は、扉と同様に錆びついていた。鍵がかからなくても開かないのではないかと思うほど、ひどい錆びだった。
「他の扉を調べよう。もしかすると、一つ一つ開くのかもしれない」
セウラザが言う。急いでいる時こそ面倒になるものだなと、ラトスは短く息を吐いた。弱っているからか、拒まれているからか。簡単には奥を見せないという意思が、夢の世界に働いているようだった。
こういう面倒な夢の世界が他にもあるのかとセウラザに問うと、時々あると彼はうなずいた。経験があるからこそ、先ほどから的確に動いていたのだ。
「ここに、錆びていない取っ手があります」
遠くからメリーの声が聞こえた。
声が聞こえたほうに目を向ける。メリーとフィノアは、ラトスたちがいる場所とは対角の位置まで歩いて行っていた。
「開くのか?」
「取っ手は、動きますね。ひどい音がしますけど」
「……ひどい音?」
錆びた音のことを言っているのだろうか。ラトスとセウラザは、彼女たちがいるところまで歩いていく。扉に近付くと、フィノアがいらだったような表情でラトスをにらんできた。どうやら、ゆっくり歩いてきたことが気に入らなかったらしい。次は走るよとラトスが言うと、当然ですとフィノアは顔をそむけた。
ラトスたちが合流すると、メリーは扉を指差してみせた。彼女の言うとおり、扉からは風鳴のような音が聞こえていた。聞き覚えがあるものだと、ラトスは目をほそめた。
「開けよう」
「……大丈夫ですか?」
「どのみち、他の扉は開かない。ここを見るしかないだろう」
「それは、そうですが……」
メリーが唾を飲みこむ。ただの風鳴だとは思っていないのだ。ラトスの夢の世界にあった巨大な穴からも、風鳴のような音は聞こえてきていた。しかし、この扉の先から聞こえてくる音は、もう少しはっきりとしていた。明らかに、人の声らしきものも聞こえてくるのだ。
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