13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

雑草

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第1章 青春期

交渉と涙

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 歓楽街の暗闇の中、カトリーナ・エーレンベルクは冷たい目で敵を見下ろしていた。

組織の拠点は官軍によって潰され、彼らの計画は完全に瓦解した。
もはや、交渉の余地はない。

——こちらが完全に優位だ。

それを理解した組織の指導者たちは、カトリーナが差し出した条件を飲むしかなかった。

「ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼンを返しなさい」

静かに告げると、男たちは沈黙した。

そして、その数十分後——

「……ようやく来たか」

扉の向こうから現れたヴィクトルは、まるで普段と変わらない態度だった。

だが——

唇の端が切れ、頬に薄い傷が残り、衣服の隙間から覗く腕にはいくつかの痣。

暴行を受けた痕跡が、確かにそこにあった。
取り敢えず馬車に乗ってエーレンベルク家に向かう。
移動中は無言が広がってた。

書斎に足を運ぶ。

カトリーナの拳が、ぎゅっと握られる。

「……ヴィクトル……」

ヴィクトルは何でもないように肩をすくめた。

「大したことはない」

「大したことなくないわよ!!!」

思わず、怒鳴るように言った。

ヴィクトルが驚いたように目を見開く。

「暴力を振るわれてまで、私の情報なんて守らなくていいのに……!!」

カトリーナは、拳を握りしめたまま、震えた声で言った。

「別に、いくらでも切り抜けられたわ……! なのに、あんたは……!!」

ヴィクトルは、微かに口元を歪める。

「それは、お前がバカな交渉をした時の話だろう」

「バカって何よ!」

「お前が俺を見捨てる交渉をするとは思えなかった」

「……っ!!」

——そう、それが悔しかった。

ヴィクトルは、カトリーナが必ず自分を助けると確信していた。
だからこそ、耐え抜いた。

彼がそう信じていたことが、どうしようもなく悔しかった。

「……本当にバカじゃないの?」

カトリーナは、小さく呟いた。

「バカで結構だ」

「……っ」

カトリーナは、震える指で彼の手を掴む。

「……ありがたいから……」

「ん?」

「何かお礼にして欲しいこと、ある?」

涙が、少しだけ零れる。

「……」

ヴィクトルは、耐えるように唇を噛んだ。

カトリーナが、涙を零しながら捲し立てる様子が、あまりにも可愛かった。

「……お前、本当に……」

笑いを堪えきれず、肩が震える。

「何よ」

「いや……可愛すぎる。」

「……っ!!!」

バシン!

「痛っ」

「ほんっとにムカつく!!!」

カトリーナが怒りのままにヴィクトルの腕を叩く。

だが、次の瞬間——

ぎゅっ——

背中に手が回され、抱きしめられた。

「……?」

ヴィクトルが驚く間もなく、カトリーナは胸板に顔を押し付けて、うえええんと声を上げて泣いた。

「……っ……最悪……もう何なのよ……」

「……お前が泣くのは、想定外なんだが」

「や、もう、何なの……!!!」

カトリーナの声が震え、ヴィクトルの服をぎゅっと握る。

「あんた、合理的な男でしょ……っ……こういうの、もっと……冷静にやりなさいよ……!!」

「合理的にやった結果がこれだ」

「こんな合理性いらない!!」

「じゃあ、どうすればいい?」

「……わかんない……」

カトリーナは、泣きながら拳を握る。

「あんたのせいで……なんか……っ……私……おかしい……!」

ヴィクトルは、微かに目を細める。

そして——

静かに、カトリーナの背中に腕を回した。

「……俺も、お前のせいで、おかしくなってる」

カトリーナは、少しだけ顔を上げる。

「……バカ」

「お前もな」

涙に濡れた瞳が、ヴィクトルの金の瞳を映す。

この距離は、近すぎる。

けれど、今だけは、離れたくなかった。
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