13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

雑草

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第3章 加速する執着

崩れた期待

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 王子の寝室を後にしたカトリーナは、
 何事もなかったかのように静かに廊下を進んでいた。

 その足取りは規則正しく、
 その表情は、何の感情も浮かべていなかった。

 ——まるで、何も見なかったかのように。

 けれど、彼女の胸中は、静かな失望で満たされていた。

 (……期待した私が馬鹿だったわね)

 王子ルイ・アレクサンドル・ド・ベルナール。
 彼は、異国の王族としての教養も備えており、政治の才覚の伸びしろもある。
 だからこそ、彼の未来に価値を見出していた。

 ——それなのに。

 (こんな愚かな失態を犯すのなら、もう何も言うことはないわ)

 王族の放蕩は珍しくない。
 しかし、よりにもよって、
 この重要な会談の前日に、それをやる愚かさ。

 カトリーナは一度だけ時計を確認し、
 これからの予定を整理しようとする。

 だが、その思考はすぐに遮られた。

 「……」

 足を止めた瞬間、
 目の前の柱から男が現れる。

 ヴィクトル・フォン・アイゼンシュタイン。

 彼は、カトリーナをじっと見つめながら、
 冷笑を浮かべていた。

 「……お前がそんな顔をするとはな」

 「どういう意味?」

 カトリーナが問い返すと、
 ヴィクトルは静かに肩をすくめる。

 「呆れた顔、ってことだよ」

 「……」

 カトリーナは視線を逸らす。

 それを見て、ヴィクトルの笑みが深まる。

 「カトリーナ。お前、王子が他の女と寝てたことに”ショック”を受けたか?」

 カトリーナは、無表情のまま彼を見た。

 「別に。誰と寝ようが私には関係ないわ」

 「……へぇ?」

 興味深げに眉を上げるヴィクトル。
 だが、次の言葉を聞いて、彼は心の底から楽しそうに笑った。

 「ただ、仕事に支障をきたすのは最悪ね」

 カトリーナは心底呆れたようにため息をつく。

 「女と寝るのは勝手だけど、そのせいで会談に遅れるような王族なんて、信用できないわ」

 「……」

 ヴィクトルは数秒間、彼女を見つめたあと、
 ふっと肩を震わせて笑い出した。

 「……やっぱり、お前は面白いな」

 「何が?」

 「“裏切られた”とか”傷ついた”じゃなくて、“仕事に支障を出すな”ってところが、お前らしい」

 ヴィクトルは、ニヤリと笑いながら、
 カトリーナの髪を軽く指で梳いた。

 「……じゃあ、王子が寝た相手が俺だったらどうする?」

 「……馬鹿じゃないの?」

 即答され、ヴィクトルはまた笑う。

 ——王子が犯した最大の過ちは、カトリーナを”感情で揺らす”ことすらできなかったことだ。

 彼が他の女と寝たことで、彼女は傷ついたわけではない。
 彼女は、王子の”期待以下の行動”に呆れ、彼を見限り始めたのだ。

 (……王子、お前はもう終わりだ)

 カトリーナが「他の女と寝られてショックを受ける」ような女なら、
 ルイにもまだ勝ち目はあったかもしれない。

 しかし、彼女はそうじゃない。

 「……まぁ、お前が王子を見限るなら、俺はそれで大助かりだな」

 ヴィクトルは満足げに微笑みながら、
 カトリーナの隣に並ぶように歩き始める。

 「さて、お前の言う”仕事”とやらを、ちゃんとやろうぜ」

 「……ええ。あなたまで適当なことを言い出したら、本当に終わりよ」

 「ははっ、俺は仕事はちゃんとやる男だからな」

 ヴィクトルは軽く肩をすくめながら、
 会談に向けて歩を進めた。

 ——カトリーナはもう、王子には期待しない。
 ヴィクトルは、それを確認できただけで十分だった。
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