13年ぶりに再会したら、元幼馴染に抱かれ、異国の王子に狙われています

雑草

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第4章 恋と権力の果てに

来賓館への帰還

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 カトリーナは、公爵邸を後にし、来賓館へと馬車を走らせた。  

 ——今さら、どんな顔をすればいいのか。

 ヴィクトルの腕の中で迎えた朝。  
 互いに気持ちを確かめ合い、ようやく"恋人"という関係を認めた。  

 だが、ルイの元に戻らなければならないのもまた、現実だった。  

 来賓館の門が開かれ、カトリーナは静かに館の中へと足を踏み入れた。  

 「……カトリーナ様」  

 控えていた従者が、少し緊張した様子で迎える。  

 「殿下が、お待ちです」   

 カトリーナは、小さく息を吐き、何も言わずにルイの部屋へと向かった。  
 

 来賓館の奥、ルイが滞在する特別室。  

 扉の前で一瞬だけ立ち止まる。  
 深く息を吸い、表情を整えて、そっと扉を叩いた。  

 「——カトリーナです」  

 「入れ」  

 重々しい声が響き、カトリーナは静かに扉を開いた。  

 ルイは、部屋の中央で待っていた。  
 白いシャツの襟元を少し緩め、ワイングラスを片手に窓際に立っている。  

 ——その瞳が、じっとこちらを見据えていた。 

 「……ご用件は?」  

 カトリーナは、何事もないかのように言葉を紡ぐ。  
 だが、ルイはグラスを机に置き、ゆっくりと歩み寄ってきた。  

 「どこへ行っていた?」  

 (やはり、聞かれる。) 

 カトリーナは、瞬き一つせずに答えた。  

 「少々、個人的な用事がありました」  

 「個人的な用事、ね……」  

 王子の声は、どこか冷たい。  

 「まさか、公爵家に行っていたのでは?」  

 「……」  

 沈黙は、肯定と同じ意味を持つ。  

 ルイは、小さく笑った。  

 「……やはり、そうか」  

 冷えた声とともに、彼はさらに近づいてくる。  
 距離が詰まる。  

 そして——  

 王子は、リリスの顎を指で持ち上げた。  

 「君は、僕のものではなかったのか?」  

 「……違います」  

 即答だった。  
 ルイの瞳が、僅かに揺れる。  

 「……僕に抱かれたくせに?」  

 「——だからこそ、違うのです」  

 カトリーナの瞳は、揺るがなかった。  

 王子の支配の下で身を委ねることと、心を捧げることは別の話。

 「私は、あなたの補佐官であり、翻訳官です。  
 それ以上でも、それ以下でもありません」  

 「……」  

 ルイの指が離れる。  
 カトリーナは、静かに頭を下げた。  

 「遅くなりましたが、外交の準備は整えております。  
 どうか、今後の公務に集中してください」  

 それだけを言い残し、  
 カトリーナは王子に背を向けた。  

 部屋を出る前、一瞬だけ振り返る。  

 ルイは、カトリーナの背中を見つめていた。  

 その瞳の奥にある感情が何かは、もはや知りたくもなかった。  

 ——この関係に、もう未練はない。

 カトリーナは、迷いなく来賓館の廊下を進んだ。



 ルイの部屋を出た瞬間、カトリーナは静かに息を吐いた。  

 (これで、完全に区切りをつけた……。) 

 そう思いながらも、胸の奥に小さな違和感が残る。  
 だが、それを振り払うように、彼女は足早に自室へと向かった。  

 来賓館の廊下を進みながら、窓から外の景色を眺める。  
 薄暗くなった空の下、王都の灯りが揺れていた。  

 「……ヴィクトルに、会いたい」  

 ヴィクトルは小さく呟き、軽く目を閉じる。  

 彼の温もりが、ほんの数時間前のものだったことが信じられない。  
 それほどに、王子の視線は重く、冷たかった。  



 一方——  

 ルイは、カトリーナが去った後も、じっとその扉を見つめていた。

 ワインを一口飲みながら、考える。  

 (……違う、だと?)  

 彼の手の中にあったはずの女が、  
 平然とそれを振り払った。  

 (そんなもの、認められるわけがないだろう。)  

 彼女は確かに、自分に抱かれた。  
 けれど、それは彼の勝利ではなかった。  

 それどころか——  

 ヴィクトル・フォン・ヴァイスハウゼンのもとへ戻るつもりでいる。  

 (僕を、捨てる気か) 

 ワイングラスをテーブルに叩きつける。  
 深紅の液体が白いクロスに広がるのを見ながら、  
 ルイは低く呟いた。  

 「……僕のものだと言ってやったのに」  

 カトリーナがヴィクトルを選ぶことなど、許さない。

 その思いが、徐々に形を変えていく。  

 (……なら、もう一度手籠めにするまで。)  

 ルイの指が、軽く震えていた。  
 それは、怒りか、執着か——。  

 彼は、カトリーナを取り戻す方法を考え始める。  


 一方、カトリーナは自室へ戻り、  
 着替えながら深く息をついた。  

 白いシャツの袖をまくりながら、  
 ヴィクトルの言葉を思い出す。  

 「君は、僕の女だろ?」  

 あの言葉を、やっと信じることができた。

 ――ルイの執着に、もう揺らぐことはない。  
 彼が何を言おうと、何をしてこようと、  
 カトリーナの心はもう決まっている。  

 (私は、ゼノンのもとへ帰る)  

 その決意を胸に、  
 カトリーナは静かに、夜を迎えた。  

 だが——  

 王子が、このまま引き下がるとは思えなかった。  

 次に彼が動くとき、それは——カトリーナを手に入れるための"策略"かもしれない。
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