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~数時間前~
「本当に知らなかったと? 王族を貶める計画を、サッシュベリー公爵子息モーリッツと共に、企んでいたのでは?」
「本当に、何も知らないんですってば!」
衛兵により拘束されたユルミナは、尋問官により事情聴取が執り行われていた。あの場にいた他の者にも、同じく別室で取り調べが行われている。
一応貴族の令嬢と言うことで、部屋の中は一般的な応接室と同じ造りのようになっていた。しかし窓には格子がつき、扉は外からしか鍵が掛けられない仕様だ。
コンコンとノックがされて、すぐに扉が開かれる。現れたのはサリエル王子だった。
「サリエルくん!」
助けに来てくれたのだと、嬉しそうに笑顔で迎えるユルミナだったが、サリエルはユルミナに視線を一度も向けてはいない。
「こら! 王子殿下と呼びなさい」
「今は良い。事情聴取は僕が替わろう。君は隣室へ。妙な真似をしたら、ここで叩き斬る許可も陛下に頂いた」
サリエルの腰にある剣と言葉に息を飲んだ尋問官は、小さく返事をすると立ち去った。
「はい」
尋問官とサリエルが交代した。隣室には、この部屋の中の様子が丸見えになるように壁に細工がされている。聞かれたくない会話はサリエルの任意で聞かせなくもできる。
音が漏れでない仕掛けをして、完全な密談状態になり、サリエルはユルミナを正面から見た。
「……あ、あの、サリエルくん。私を助けに来てくれたんだよね?」
「いいや。この状況でよくも面白くもない冗談が言えるもんだね」
「えっ……」
サリエルは足を組んで頬杖をつく。
「頭お花畑系ヒロインは楽しめた? 自分が世界の中心で、ヒロインだから何をしても許されると、本当に思っていたの?」
「ーーっっ!? ……あ、あなたっ……!!」
「さしずめ、お前は何かのゲームや小説のヒロインにでもなっていたんだろ? 逆ハーレムでも作ろうとした? アホらしい事、この上ないね。僕も巻き込もうとしたんだろうけど。あいにくと、僕はマリエット一筋なんだ」
サリエルの何かを見透す視線に、ユルミナは恐怖を覚えた。両手は膝の上で握られ、体は小刻みに震えている。
「ああーー、それか、マリエットを悪女にでも仕上げたかった?」
フッと鼻で嗤うサリエルに、ユルミナは青い顔で首をふる。
「そっ……そんな事っ……で、出来ないわ……」
「ふぅん。じゃあ何が目的だった?」
「……こ、ここは乙女ゲームの世界でしょう? それで、私がヒロインでっーー」
ユルミナは自分の知る限りの乙女ゲームの世界を語った。
「ーーなるほどね」
「あなたも転生者なら、乙女ゲームの王子として転生したんでしょ? 私、ヒロインと関わら無いように、避けてたんでしょ?」
勝手に傷ついた表情でユルミナは語るがーー、
「いいや? 僕はここはシュミレーションゲームの世界だと思って、人生を送っているよ。有能な能力値のユニットを集めて、周辺国と友好を築き、クリア目前だったんだけど。君たちみたいなイレギュラーユニットが出てきて、ここはゲームの世界に似た別の異世界だと理解した」
「……シュミレーションゲーム……」
「ちなみにマリエットは、僕の最愛の妻で知謀の英雄ユニットだ。彼女は様々なイベントで命を狙われるユニット。僕の最推しで守るべき愛する女性なんだよ。彼女を救えるかどうかで、エンディングが変わるからね。マリエットを救えるのも、彼女と愛し合えるのも、僕だけなんだよ」
頬けるサリエルの視線にはユルミナではなく、マリエットへの異常な愛情が見えた。
ユルミナはブルリとサリエルへの異常な愛情に悪寒を覚えた。そんなユルミナを小馬鹿にした視線でサリエルは嗤う。
「僕は、お前には興味ないから。安心してくれ」
「…こちらこそ、あんたみたいな男はお断りよ。まさか転生者で……しかも別ジャンルのゲーム? どういう事よっ……!」
「ちなみにザリザンはRPGの勇者で、ダニエルも僕と同じジャンルで領地経営系のシュミレーションを題材にした漫画の世界だと思って人生を送っているよ」
「えっ……。な、なにそれ……どういう事……? そんなに沢山の、転生者がいるの??」
「何人いるか何て僕は興味ないね。この世界は、僕の知っているゲームの世界でも、現実だからね。死んだらユニットは戻って来ない。ゲームの様に、蘇生手段なんて無いんだ。全員が何かしらの世界の登場人物だと思い込んで生活してても可笑しくはないだろうね。でも確実に言えるなら、この世界に主人公なんて存在しないって事だ」
「…… ……ま、まさか……マリエットも?」
「マリィは日本人じゃないみたいだけれど、転生者ではあるだろうね。ゲームでは、あそこまで内政チートではなかったし、精霊力っていう不思議パワーも持って無かった。まさか武力まで高いとはね。釣り合う為に、僕も剣術をマスターするのに苦労したよ」
「……こんな話をして、貴方は私に何をさせたいの?」
「……ずいぶん物分かりが良い」
ニヤリと嗤うサリエルは、ユルミナに何をさせたいかの話ではなく、今後のユルミナの行動方針を示す。
「君の運命を語ろう。このままだと、王族へと泥を塗った状態なのは理解できているだろう? あと10日で学園を卒業出来ても、ヴィストン公爵家や王家に多額の慰謝料を君にはーー、男爵家には支払う義務が発生しているからね。それを肩代わりしてくれる他家に援助を求めるしかないわけだ」
サリエルの言葉に、唇を噛むユルミナ。
「先ずは1つ目の選択肢、君は65歳の伯爵の後妻になる未来だ。伯爵は特殊な趣味の持ち主でね。若い娘の後妻を多額で募集されている。ここまで醜聞まみれの君だ。まともな婚活は今後出来ないのは理解してほしい。伯爵に嫁ぐしか、男爵家に未来は無い」
サリエルの話に青い顔で首をふるユルミナ。
「……っ…いやよ!」
「では次の選択だ。鉱山娼婦への道だよ。先の慰謝料は支払う義務はあるからね。10年間、鉱山で鉱夫の相手を頑張れば慰謝料を払い終わるんじゃない?」
次の話も、首をふるユルミナ。涙が頬を伝った。
「……っ娼婦って……い、いやよ! グスッ……そんな……酷いわ…っ……グスッ……」
「……我が儘だね。なら次の選択として、君に僕が用意できるのは、男爵家のお家お取り潰しで財産没収のうえで、君だけ修道女院へと向かう選択が残っているみたいだよ。男爵家の全財産で、ギリギリ慰謝料をチャラに出来る。君のご両親は……、ーー運が良ければ、実家の分家や本家に帰る事になるだろうけどね。高齢の両親だ。きっと肩身の狭い思いをさせてしまうね」
「……っ…グスッ……でもっ……私だけで、決められないわ…グスッ……」
震えるユルミナは、最後の修道女院への選択の方がマシだと思っていた。しかし自分の一存で決められない事も理解している。
ヒロインではない自分に気が付くと、男爵家に迷惑を掛けまくっていたのだと、今さら気が付き、両親への申しわけ無さで、涙が溢れた。
「君は修道女院への道を選択したいんだね」
「……っ……」
小さく頷くユルミナに、サリエルは笑って立ち上がった。
「分かった。君の選択を、僕が支持しよう」
「えっ……ほ、本当に?」
「ああ! 同じ日本からの転生者のよしみだしね」
「あ、ありがとう…ございます、サリエル王子」
ユルミナはホッとして、立ち上がって腰を折って頭を下げた。
そんなユルミナを、サリエルは冷めた視線で見て扉へと向かった。
「……貴族の儀礼は、そのまま続けると良い。君の努力次第で、未来は少しずつ良い方向へと変わるかも知れないからね」
「うん……あっ、ええと、はい!」
ホッとした笑顔で頷くユルミナを背に、サリエルは扉を閉めた。ユルミナの事を軽く尋問官へと伝え、ユルミナは卒業式までは、王宮預かりとなった。何せ、ユルミナの選択の結果、両親の逆恨みが、ユルミナに危害を及ぼす可能性もあるからだ。
サリエルはヴィストン公爵家へと移ったマリエットの元へ向かうため、王宮の入口へと向かう。途中の廊下で待っていたのは、従姉妹のハリアベーヌだった。
「どうだった? 彼女の選択は?」
問いかけるハリアベーヌに、サリエルはユルミナの表情を思い出し、言葉を吐き捨てた。
「結局あの女も、自分の身が一番かわいくて大事って事だね。両親がどうなるか何て表面上の心配しかしていない。両親に分家や本家がいない場合、路頭に迷う事になるのにね」
「身を挺して貴方を守ったマリエットと大違いね」
サリエルはユルミナの頭上に浮かぶウインドウを思いだして嗤う。武力も知恵も政治も魅力も幸運すらも、最高100のうち20も満たない。ゴミユニットだったと。
「うん。僕には、マリエットさえ居れば良い」
「貴方のマリエットへの執着も、相当ね」
ちなみに、ユニット以外の人のステータスは、サリエルには見えない。外交パーティ等で他国の使者はユニットでは無いので、ステータスは見えなかった。だからサリエルは名前や国名を忘れてマリエットにフォローされていたのだ。
「当たり前さ。僕はマリエットを愛しているんだから。ハリアベーヌ、僕には、あのユニットは、必要ないよ。卒業後は修道女院へと向かわせる」
運以外の、努力で上げられる筈のパラメータが一切上がっていないユルミナ。
マリエットは、運以外がオール99~100を示す。体調によって増減するのは、ここがリアルな世界だからだとサリエルは考えていた。
「運以外がオール100でも、避けられないイベントはどうしてもあるのよね……?」
ハリアベーヌの言葉に、頷くサリエル。
ハリアベーヌも、この世界が小説の世界で、自身がすぐ死ぬ脇役だと思い込んでいた。
時間が巻き戻り、自身の死を回避するため、サリエルとマリエットを味方につけたいし、勇者ザリザンと結ばれる為に、サリエルと手を組んでいたりするのだった。
みんなそれぞれ、自分の思う世界に振り回されて動いている。
「強制イベントも、運のパラメータも、どうしようもない。あのアイテムが手に入るのは、イベントの後だからね。だけど、あのイベントで、マリエットは不幸にも全パラメータが半分になってしまう。そして修道女院に向かう事になり……死んでしまう筈だった」
ほくそ笑むサリエルに、ハリアベーヌもホッと息つく。
「マリエットに起こる筈だったイベントが、男爵令嬢の選択によって、消滅したーーこの場合は、男爵令嬢に移ったのね。喜ばしい限りだわ」
ユルミナがマリエットの代わりの選択をした。マリエットに起こる筈だったイベントが、何故かユルミナへと移った。
現実は何が起こるか分からない。
サリエルはユルミナへと、強制イベントを選択肢に加えていただけに過ぎない。
そして、ユルミナの承諾を得て、ユルミナに選択させた。
この世界に来て、サリエルだけが見えているコンソールウインドウにて、実行が押されたにすぎない。
「もう後戻りは出来ない。くだらない世界のルールにも飽きてきたし、そろそろ僕とマリエットは退場を迎えさせて貰うよ」
「私のザリザン婚もちゃんと手助けなさいよ」
「分かっているよ。君たちが居ないと、あのアイテムが入手出来ないからね。卒業式までに用意してくれると助かる」
「ザリザンを紹介してくれたのが速かったから、明後日には用意してあげるわ」
サリエルが望むアイテムは、幸運のパラメータが50プラスになるネックレスだ。
「ザリザンが来たら、サッシュベリー公爵家へと君と共に向かう様に伝えるから。頑張って世界を救ってくれよ聖女ハリアベーヌ」
「もちろんよ」
和やかに笑い合っていた2人は、王宮の入口で別れた。
一方は、自分と愛する者の幸せのため。
一方は、自身の運命を変えるため。
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