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「な、なぜっ……知って……」
青い顔で狼狽えるマリエットに、サリエルは悲しげに表情を伏せた。
「……やっぱり。マリエットも可笑しな世界設定に振り回されていたんだね……」
「え……??」
「当てずっぽうで悪役令嬢って言葉を使ったけれど、王子の婚約者ポジの、あるある設定だったわけか……」
「ええ……??」
口元に手を当てて呟くサリエルの言葉に、マリエットは首を傾ける。
「当てずっぽうで言ってみただけだよマリエット。それと、ここはマリエットの思う世界に限りなく近い別の世界だから、僕がマリエットを嫌いになったり、断罪したりはしないから、安心して」
サリエルの言葉を脳内で反芻し少しずつ理解していく。
「わ、わたくしは、本当に、小説の様には、ならないんですの? 本当に?」
「本当に。マリエットは、ここがどういう世界だと思っていたのか、詳しく教えてくれるかい? その、小説の世界……だっけ?」
サリエルはベッドの縁に座り、マリエットもサリエルへと近付いた。
「ええ、はい。ここは、男爵令嬢ユルミナさんが主人公の小説の世界……だと、わたくしは思っておりました。わたくしはーー」
マリエットは自分が知っている小説の世界に転生したのだと思って過ごしていた事も、小説の様に、悪女にならない様に立ち回っていた事もサリエルに話した。
「マリエットが悪女ね……。あの男爵令嬢や僕が知っているマリエットは、今のマリエットとあまり大差無い気がするけれどね。小説のマリエットは、回避行動を起こす前のザリザンやダニエルが知るマリエットの方が近いのかな……?」
「……どういう意味なのでしょうか?」
サリエルは転生者たちの話をマリエットに話した。ハリアベーヌも、ザリザンも、ダニエルも、ジャンルは違えど同じ転生者である事と、協力関係である事を。
「男爵令嬢ユルミナは乙女ゲームで、マリエットは完璧なライバル令嬢で、僕も攻略対象らしい。僕と仲良くなれば、マリエットは男爵令嬢と僕の仲を取り持つ味方にもなってくれるんだって。
僕の場合は、ここはシュミレーションゲームの世界で、マリエットは優秀な英雄ユニットだったんだ。ステータスが優秀だからこそ、命の危険が多いイベントに巻き込まれる。ステータス半減や、最悪死亡する場合もあるんだけれど……。それを回避させたくて、僕は頑張って来たんだ。
あ、ザリザンはRPGの勇者で闇の帝王の陰謀を阻止する為に、僕に近付いたりと、いろいろ動いていたんだって。マリエットが闇の帝王に体を乗っ取られる所を、早い段階で接触できたお陰で回避できた……らしいよ。
モスキート公爵家の嫡男ダニエルは、領地経営系の漫画の世界だと思っていたらしくて、政治的ライバルであるヴィストン公爵家との対立を避ける為に、表舞台に出ない様に立ち回っていたんだって。
ハリアベーヌは死に戻りした脇役の聖女で、サッシュベリー公爵家にある深淵の魔王復活を阻止するために、僕やマリエット、ザリザンと速い段階で接触したかったらしくて、釣り合うように努力してたんだって」
サリエルの話す荒唐無稽とも取れる話に、マリエットは混乱しつつも、1つ、1つの話を頭の中で整理し、総合的に共通されたであろうマリエットの考察を口にした。
「それぞれの転生者達の回避行動などの動きによって、それぞれの物語通りの動きに全員が動いている……そう、なっているのですね……」
「良く気が付いたね。さすがマリエットだ」
例えば、マリエットの小説とザリザンの知るRPGの様に、マリエットが悪女にならない様に頑張っていたお陰で、優秀なマリエットは、サリエルやユルミナの知るゲーム通りのマリエットの動きを果たしていた。
例えば、ダニエルが表舞台に出ていないお陰で、マリエットやユルミナの知る小説や乙女ゲームのダニエルの動きになっていた。
マリエットの知る視点からの考察だったが、サリエルも同じ考えだったらしく、頷いていた。
「僕のゲームの通りなら、ザリザンとハリアベーヌの頑張り次第だけれど、僕のシュミレーションゲームはそろそろエンディングを迎えるんだ。マリエットはどう?」
「わたくしも、卒業式が小説の終章です」
「あと10日。ほとんどの転生者に共通している章の区切りやエンディングでもあるんだね。可笑しな世界設定に振り回されるのも、あと10日だ。マリエット、僕は君を心から愛しているんだ。可笑しな世界設定に縛られずに、君と本当の恋人に、夫婦になりたいってずっと願っていて、ずっと君を想っていたんだ」
「……っ……サリエル様……」
マリエットの頬を撫でるサリエルの手に、自身の手を重ねるマリエット。
お互いに顔が近付き、唇が触れ合った。
「この僕の想いは、設定によって作られたんじゃない。この世界に来る前からーー僕は、ゲームの中にいたマリエットを、君を愛していたんだから」
「……っ……わたくしも、サリエル様を愛しております。貴方を支えて来たのも、義務なんかじゃないですわ。わたくしが心から貴方の隣に居たいと思って、わたくしは努力を惜しみませんでした。それと……ゲームのマリエットなんて、今のわたくしとは別人ですわ」
「……あ、ごめんマリエット。そういう意味じゃなくって……今のマリエットの方がもっと、素敵だよ。本当に、ゲームとか関係なく、大好きで……そのっ……」
マリエットの想い描いていた、小説のサリエルとも違う、狼狽える目の前のサリエルに、マリエットはクスッと笑った。
(これがサリエル様の素なのですね)
思えば、最初からマリエットはサリエルが好きだったのかもしれない。
顔はド・ストライクに超絶好みだったし、性格も最初は小説通りに淡白に感じていたが、それはマリエットに対してではなく、誰に対しても同じだった気がした。
むしろマリエットには、常に気を使いずっと優しかった様に思う。
転生前から愛していたと言われてしまえば、マリエットはもう嬉しくて仕方がなかった。むしろ、ゲームの中のマリエットに嫉妬心を抱いたくらいだった。
「わたくしも、小説のサリエル様ではなく、今の貴方だから、お慕いし続けられたのですわ」
「ーーっ……マリエット!」
がばりと押し倒されるマリエット。
「ど、どうしよう好きすぎる! ……僕は、実は結構がさつで、マリエットに甘えてばっかりで……幻滅しないかな?」
「ええ、しませんわ」
マリエットは、サリエルの頭を撫でた。
「独占欲も強いと思うし、性格も実は腹黒いってハリアベーヌに言われてる……」
「大丈夫ですわ。わたくしは前世では悪女として首を落とされましたし、腹黒い事は経験済みですわ」
「えっ……首を!? なにそれ?! ちょっと詳しく聞かせてくれる!?」
マリエットとサリエルは、お互いの話を和やかに語らった。これからの未来へと、幸せが続く事を願って。
お互いに秘密にしていた事を話せた事で、年相応の表情になり、本来の自分たちのまま、サリエルとマリエットは本当の恋人同士となったのだった。
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