【完結】死にたくないので、完璧な令嬢を全う致しますわ。

キーノ

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 週末のサリエルと約束していた遠乗りの日、マリエットは朝早くからサンドイッチのお弁当を手作りで用意し、背負いリュックに詰め込んだ。サンドイッチの具は、もちろんサリエルの好物ばかりだ。

(小説の男爵令嬢……つまりは小説の主人公なのだけど、わたくしの記憶には姿も名前も、ポッカリ消えているのよね。これはもう作為的、神の悪戯、いいえ、嫌がらせに近いわよね。しかも、小説の中ではいろいろと事件が発生していた筈なのに、それらの事件の詳細も全く思い出せない……。ん、もう! 良いアドバンテージだと思ったのに! 使えない記憶ね!)

 ぶつぶつと独り言も交えつつも、マリエットの手は、遠乗りの必需品や、もしもの時の備えなんかも、リュックに詰め込まれていく。

「お嬢様、お洋服の準備が整いました」

「ありがとうコレット。朝食後に着替えるわ。それと、髪は邪魔にならない様に後で纏めてちょうだい」

「かしこまりました」

 朝食後、馬乗り用の服に着替えたマリエット。鏡に映るマリエットは、前世で言う所の探検家の衣裳だった。黒地のタートルネックに、ポケットの多いベージュのジャケット。ズボンもボダつきのあるポケットの多いベージュのパンツ。靴は茶色の紐付きの革のブーツだった。

「お嬢様、お似合いです! 髪はおさげにしましょう!」

 コレットに素早く三つ編みおさげにされ、用意されたジャケットとお揃いの帽子を被った。完全に探検家スタイルが完成した。

「お嬢様、サリエル殿下のお迎えまで、リビングで待ちましょう。お茶をご用意致しますわ」

「ええ…」

 リビングに移動した後も、マリエットはそわそわと忘れ物は無いか持ち物チェックを念入りに行っていた。

「他に忘れ物は無いかしら……。あなた達の準備は大丈夫かしら?」

 ふと、専属の護衛3人に声をかけたマリエット。壁際に並んでいた、元孤児だった彼らは、12年で立派な護衛へと成長を遂げていた。彼らは騎士学校へも通わせてもらい、師事して貰っていた雇いの騎士3人を、一騎打ちで見事打ち倒すまでの実力を身に付けていた。

「我々は大丈夫です」

 目配せをし、マリエット専属護衛の中でも年長(20歳)のロイが代表して口を開いた。

「あなた達は、学校の授業で経験があったわよね。わたくし初めてだから、不安で仕方ないの」

「我々は狩る側ですので、弓矢一式で十分です。ですが本当に我々も参加しても良かったのですか?」

「王太子殿下と山鳥狩りに参加できるなんて、光栄すぎて緊張するっす」

「……俺も…」

 それぞれロイの後に言葉を発したのは、緊張気味のベンと口数が少ない寡黙なリックだ。

「サリエル殿下が、良いって言ったのよ! 大丈夫よ」

 護衛達との会話で、緊張が解れたマリエット。

 コンコンとリビングの扉からノックが聞こえ、コレットが開くとヒューバートが一礼してマリエットへと言葉を告げた。

「失礼します、お嬢様。サリエル殿下がお迎えに来られましたよ」

 ヒューバートの言葉に、マリエットはスクっと立ち上がった。荷物を持ってくれたコレットと共に玄関へと急いだ。後ろからは、護衛3人も、もちろん付いて来ている。

 ヴィストン公爵家の玄関ホールに、迎えに来ていたサリエルは、廊下から現れたマリエットの、普段とは違う姿に驚いた。

「……マリエット…」

「殿下、お待たせ致しました。ええと、…変でしょうか?」

 もじもじするマリエットに、サリエルは何度も下から上までマリエットを確認し、動揺した。

「かわ…、っ…ま、待ってないよ。ぁー、その、と、とても、似合っているよ」

「……! あ、ありがとうございます」

 サリエルは、マリエットの少し幼く見えるおさげなパンツ姿に、可愛いと思ったが、モゴモゴさせて声に出すのを堪えた。

「…ええと、行こうか」

 エスコートの為に差し出された手に、マリエットは手を重ねた。

 公爵家の玄関前には、サリエルの護衛騎士達が15人待っていた。鷹を肩に乗せているのは、狩猟で使うからだろうとマリエットは推察した。
 マリエットの荷物を、マリエットの護衛達の馬に繋ぐ。

 サリエルは、愛馬の白馬に跨がり、マリエットに手を差しのべた。

 マリエットは、馬に乗るのは初めてではない。スカートやドレスなら横乗りだが、スピードを出せないのを知っている。
 この服装で良かったと安心し、マリエットは、サリエルの手を握り、力強く引かれ、ひらりとサリエルの前に跨がった。
 さすが剣術をやっているだけあって、サリエルは力強く安心感がある。

「お嬢様、お気をつけて。サリエル殿下、お嬢様をよろしくお願い申し上げます」

「ああ。任せておくれ。マリエットには傷一つつけないと誓うよ」

「ありがとうございます」

「ヒューバート、留守をよろしくお願いね。いってきますわ」

「はい、いってらっしゃいませ!」

「「「いってらっしゃいませ!」」」

 使用人に見送られ、マリエットとサリエルを乗せた白馬は護衛騎士に囲まれて遠乗りに出発した。

 予定よりも早く、王都近郊の王家が所有する山鳥の狩り場へと到着した。この森は王家の私有地であり、定期的に強力な魔獣は退治されている安全な山だ。
 食用や狩るための動物が好む草や木の実を植えて、狩りのために管理されている森だった。



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