【完結】死にたくないので、完璧な令嬢を全う致しますわ。

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 サリエルの護衛騎士を先頭にして森をしばらく走り、整えられた道が途切れた少し開けた場所で馬を停めた。近衛騎士達が先に馬を降り始め、サリエルとマリエットを守る様な位置につく。
 先にヒラリと降りたサリエルに手伝ってもらいながら、マリエットも馬から降りた。

 マリエットは、慣れない馬乗りでお尻と腰が少し痛く擦る。近衛達が、それぞれ馬の世話の為に動き始めた。鷹は躾されているらしく大人しく馬のサドルにとまっている。

「マリエット、大丈夫かい?」

「ええ、馬乗りは慣れていないので少しお尻が痛いですけれど、移動には支障ありませんわ」

「……少し休憩したら、狩り場へ移動するよ。山鳥は、この山に植えられた木の実の場所を数日置きに回っているんだ。今日回る場所に居ない場合は、山鳥の狩猟は持ち越しになるよ。だから無駄に歩く事になるけど……」

「かしこまりました、大丈夫ですわ。頑張って着いていきますね」

 小さな握り拳を作り、自分の護衛から受け取ったリュックを背負うマリエット。

「……っそ、そうか。マリエットはこういうのは、大丈夫なんだね……」

 サリエルは以前、狩猟大会で伯爵家の子息が、婚約者を狩りに連れて行った時の事を語っていたのを思いだした。「女は直ぐに根を上げて、荷物が重い、尻や足が痛いと喚き、狩りは野蛮だと言って騒ぐから、狩猟目的の動物も逃げて、とても面倒だった」と伯爵子息が語っていたのを思い出した。
 伯爵子息の婚約者のご令嬢は、護衛を連れて早々に帰ったらしい。
 その令嬢に比べて、意外とマリエットは逞しいのだなと、サリエルはマリエットに対して思い直す。初めての遠乗りと山鳥狩りにウキウキしている。そんなマリエットも可愛かった。

 護衛騎士達の準備も整い、サリエルは事前に騎士達とも話し合っていた作戦をマリエットに聞かせた。

「少数の狩猟班に別れて行動するよ。僕の護衛1名とマリエットの護衛は1名のみ僕とマリエットに着ける。合計4人の少数での移動になるよ。マリエットの他の護衛2人には悪いけれど、僕の騎士の狩猟班へと組み込むか、ここで馬の世話番をして待つか……」

「馬番でお願いしますわ」

 平民の孤児出身のマリエットの護衛は、高位貴族が多い近衛騎士へと組み込んでも良い事はない。マリエットの護衛だから今は見逃されている。いない場所ではどうなるか不安が大きかった。

「わかった、馬番の班に組み込むよ。馬番の者は実力で近衛になった元平民の騎士だから安心しておくれ」

 マリエットの心配を予想し、そう伝えてくれたサリエル。マリエットは、気づかいに嬉しくなり、笑顔でお礼を言った。

「ありがとうございます、サリエル殿下。それでしたら安心ですわね」

「…うん……。そ、それでは、残りで班を組ませるよ。準備してくれ」

「「「はっ!」」」

 マリエットの嬉しそうな笑顔にサリエルも釣られて嬉しいが、ウキウキを出さずに平静を装い狩猟時の説明を開始した。

「…ええと、山鳥の群れがいる木の実を、班で各所回って手分けして山鳥の場所を割り出すんだ。見付からなかった班は、再度この場所に戻って待機。見つけたら、山鳥には聞こえない特殊な笛を吹いて、お互いに知らせるんだ。あとは手はず通り、包囲網を築いて、ハグレの山鳥をサイレント銃で順番に仕留めるんだ」

 実はマリエットとサリエルの護衛が、サリエルとマリエットの仲の良い関係にほっこりしていたが、2人は気づいていない。

「サリエル殿下の護衛騎士が減ってしまっても、大丈夫ですの?」

「ああ……うん。ここは王家が管理する狩猟場だから、滅多な事は起きないよ。危険な魔獣も間引かれているから、夜にならない限り、本当に危険は少ないんだ。だから安心しておくれ。もし何かあっても、マリエットは僕が絶対に守るから」

「あ…、ありがとうございます」

 サリエルのマリエットを守る発言に、マリエットの心臓はドクドクと高鳴った。

(……落ち着いてマリエット。無駄に顔だけは良いから、キザな台詞が似合うのよ。勘違いしてはダメよ)

 心の中でをして、マリエットは心臓の高鳴りを

「それでは、わたくしの護衛はロイ。お願いできる?」

「はい! ベンとリックは馬の世話として、ここで待機ですね」

「よろしくお願いね」

「任せて下さいっす」
「……(こくこく)」

 班決めが終わり、騎士達は3人で1班として山鳥に向かう班を4つ組んだ。
 王太子サリエルの班を1班として、騎士達の班が2~5班が出来た。

 地図を広げたサリエル。マリエットは、森全体のみの手書きの地図に、赤い丸が30こ在るものを覗き込む。

「この赤い丸が山鳥の好む木の実が植えてある場所だよマリエット。山鳥は、1つの木の実の場所に、最低2日は留まる生態をしているんだ。僕たちの班はここの入口側に近い3ヶ所を順番に回る。2班はその右隣の3ヶ所。3班は上の3ヶ所、4班が左側の3ヶ所、5班が右上の2ヶ所だ」

「何故、5班だけ2ヶ所なんですの?」

「5班が回る予定の木の実は、地図上では密集している様に書かれているけれど、入口側の西南に寄っているのはこの2本だけなんだ。それに、行くまでの距離も、5班が一番遠いからね。回らない残り15ヶ所の木の実は、川向こうの北東寄りなんだよ」

「理解いたしましたわ。サリエル殿下が入口側に近い木の実の場所なのは、安全面を考慮されていますの? 殿下は、魔獣の討伐も参加されているのでは?」

 マリエットは、サリエルは王家管轄であるこの場所の魔獣の駆除も請け負っているのでは? と推測している。小説には細かい背後関係の描写は無かったが、サリエルが小説のヒロインを助けに森の中で行動する時のタイミングの良さ等を考えても、そうではないかと思った。

「良くわかったね。その通りだよ。この入口側に近い3ヶ所の木の実周辺の地理なら、完璧に僕の頭に入っている。だからマリエットは安心して僕に着いて来ておくれ」

「はい! 遅れないように頑張りますわね」

 マリエットは狩猟の開始から、森の地図を把握した。木の実の場所、周辺の目印に、太陽の向き、頭の中で地図を完成させ、何があっても、魔獣が出現した場合のシミュレートを繰り返した。こっそり自分の護衛ロイへと声をかけて、何度もシュミレートした。

「ロイ、ここでサリエル殿下を狙う刺客が現れた場合、わたくしが盾になれる位置はここで良いわよね」

「……お嬢様…。……そうですね。毒矢などを警戒しても、煙撒きの風向きなど考慮されても、その位置が一番殿下を守れる位置ではあります」

 複雑な表情のロイは、マリエットの性格を良く理解している。マリエットは王族、サリエルファーストであり、婚約者であっても不測の事態ではサリエルを命懸けで守る様な精神の強い女性だと言う事も。
 ロイは、そんなマリエットを守る護衛だと言う事も良く理解している。マリエットの側に王族、サリエルがいた場合、マリエットよりも王家の人間を優先して守る様に教育を受けて来たからだ。

「ロイ、わかっているわよね?」

「……はい」

 ロイの複雑な心境を察していても、マリエットは、それでも譲らない。
 転生する前から、マリエットは王族の婚約者であると言うことに誇りを持っている。
 そういう環境で培われたを押し殺す生き方はしたくなかった。
 そういう生き方を誰にも否定されたくはない。何故なら、そういう生き方で生きてきたからこそ、自分の人生(前世含めて)の努力を否定したくはないからだ。

(破滅を回避するために、王太子妃の仕事を放棄する書物も読んだわ。そうしてハッピーエンドになるのも一つの選択よね。でも、わたくしは、こんな生き方しか知らない。前世の最後は不服だったけれども、前世でも未来の王妃としてわたくしは育てられたのよ。わたくしの知識も経験も努力も、全部無駄にはしたくないの。今世では、もっと完璧に王家に、サリエル殿下にふさわしい王太子妃に、国母ならなくちゃ…!)

 マリエットは、気を引き締めて警戒を怠らずに進んだ。


 






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