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第一章

1の64 怪しい態度

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必死の形相の聖女を胡乱に眺め、フラットは口を開く。



「絶対いるはずの無いゴブリンを目にして見間違いかと思っていたが‥‥
どこからか警備をかいくぐって侵入したのか?
必要なら騎士を動員して捜索し捕えるが‥‥」

「いいえッ!
捕えるなんて冗談じゃないわッ!
その必要はありませんッ!」

「‥‥‥‥」

「‥‥神殿で‥‥
神殿で保護しているゴブリンですの。
侵入したのではなく、出て行かない様に神殿所属の騎士に命じてます。
外に出てしまえば迫害される危険がございますでしょう?
宮殿敷地内では自由にさせておりますが、あまり長い間姿を見ないと不安になりまして、実は花が目的ではなくゴブリンを捜して庭園へ入り込んでしまったのですわ。
とても繊細なゴブリンですのでね。
ですので、殿下ももし見掛けても声などお掛けにならない様お願いいたします」



(いつもは周りの神官に話させて自分は押し黙っている聖女がベラベラと‥‥
『何かある』と言っている様なものだな)



「兄上が行方不明だという事は知っているのだろうな」

「‥‥レイ殿下は非公式の調査の為に御旅行中と聞いておりますわ」

「ゴブリンではなく兄上を捜すべきだと思うが?」

「ですから、」

「私が見たゴブリンはシーブルーの瞳をしていた」

「‥‥ッ」

「兄上だけの色だ。
青い目自体は珍しくない。
だが、光を受ける必要もなく内側から輝く深い青は美しく神聖なグラデーションを生じさせる。
そんな美しい瞳は他には‥‥
(‥‥ある。
シレーヌ姫のローズレッド‥‥あの魅惑の迷宮もそうだ‥‥)
‥‥そんな美しい青は他には無い。
あのゴブリンは、
まさか‥‥
‥‥ッ!?」



ヒタとフラットを見据えた聖女の金色の瞳。

燃える様にユラユラと仄暗い赤がチラつき。

やがて金色の瞳は完全に赤に色を変えて‥‥



「あなたはシーブルーの瞳のゴブリンを見ていない」
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