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第一章

1の65 聖女の魅了

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「あなた‥「あなたは
「シーブ「シーブルー
「ゴブリ「ゴブリンを
見ていない」‥ない」



フラットの耳ではなく、脳内でグワングワンと響くように聖女の声がする。

思わず両手で頭を押さえるフラット。

足元がふらつき、立っているのがやっとの状態のフラットに畳み掛ける様に聖女は繰り返す。



「あなたはシーブルーの瞳のゴブリンを見ていない。
今後見ても、見た事にならない。
それは幻で、実体ではない。
あなたが見たのは、ただの幻。
あなたはシーブルーの瞳のゴブリンを見ていない」

「はぁ!?‥‥クッ‥
(何だ!? ボ~ッとする?
何も‥‥考えられなく‥)
あ‥‥くッ‥私は‥‥
シーブルー‥瞳‥‥
ウッ‥‥ゴブリンを
見‥見ていない‥‥」

「(‥‥フゥ‥‥
‥‥本当、何なの?
魅了が掛かり辛い)
――今後見掛けても話しかけない。
無視する。
宮殿敷地内にゴブリンが居ても問題にしない」

「宮殿に‥‥
ゴブリン‥‥
問題ない‥‥」

「(やっと掛かった)
‥では、私はこれで」

「‥‥‥‥」










「‥‥下‥‥殿下?
フラット殿下!?」

「‥‥ハッ!
ああ、何だ?
どうかしたか?」

「どうって‥‥
お姿が見えないのでお捜ししておりましたらここで殿下がぼんやりしておいでで。
どうかされたのかと。
今、去って行ったのは聖女様ですよね?
何か問題でも?」

「‥‥?
いや、何も問題無い。
公務が滞っているな。
急いで戻ろう」

「え? あ、はぁ‥‥」

「何も問題無いのだ‥‥」



何故かは分からないが何も問題無い。

そう思い込み踵を返すフラット。


様子がおかしいとは思いながらもそれ以上は追及出来ない側近。


厚い雲が星々を隠し、ブルーフィンの宮殿はいつも以上に暗い闇夜に沈んでいる。
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