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第二章

2の02 三年後 2

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ジッ‥‥


シレーヌは鏡の中の自分を睨む。

初めてこの離宮に連れて来られた時も、鏡に映った情けない自分を睨んだ。

あの時、鏡を睨みながら心に決めた。

強くなろうと。

あの時の決意を思い出して気合を入れ直す為に、鏡を見るのだ。




(ほら、また眉が下がってる!
涙目になってるぞ!
ダメダメ!
負けてたまるか!
弱気は損気!)



『何で自分がこんな目に‥‥』

なんて考えは反芻しない。

お母様が仰っていたもの。


『色んな立場、容姿、能力の人がいるのは、魂の成長の為。
それぞれ自分の魂に足りないものを学ぶために、その状態で生まれて来る。
だから他人を羨むのは無意味なのよ』



私が今この状態なのは、これを打破する為、なんですよね?

お母様‥‥



それでもどうしようもなく涙が零れてしまう事もある。

その時はもう諦めて、涙が止まるのを待つ。

お母様が仰っていたもの。


『涙は、嵐と一緒。
人間だって自然の一部だから。
自然には叶わないでしょう?
だから、嵐が過ぎるのを待つしかないの。
嵐が過ぎれば、きっと青い空を見られるわ』



強くなりたいのに、そうあろうと決めているのに、なかなか強くなんてなれない。

涙が止まった後には、そんな自分を受け入れていくしかない気持ちになっている。

弱い自分を受け入れて、仕切り直して。

ここで諦めなければ、泣く前の私より少しは強くなれているはず!

そう思っちゃっていいでしょう?

お母様‥‥



背後で低く抑えられた様な剣呑な声がする。

侍女だ。

私に対する不満を隠す気などサラサラ無いらしい。



「あの、シレーヌ様、
第二王子殿下がお越しです」

「お会いしないわ。
帰って頂いて」

「‥‥ッ、
き、今日で三日もお断りする事になりますわ!
大変に不敬な事なのですよ!?
どんな罰が与えられるか‥‥」

「約3年よ‥‥私は約3年もの間引き籠り状態を強制されました。
一国の王女が虐待環境に置かれ、とうとう気が触れた‥‥それだけの事です。
罰なら国外追放を所望します。
殿下にそのように伝えなさい!」



歯ぎしりしながら下がる侍女。

第二王子は本当によく御モテになる。

入ったばかりの侍女も第二王子に夢中の様だ。

第二王子はアイスグリーンの短髪にミントグリーンの瞳。

整った顔立ち。

スラリとしていながらしっかりと筋肉がついた鍛え上げられたボディ。

爽やか系美丈夫であり、やがては大国ブルーフィン王国を継ぐ立場。

(本当は第一王子がいたけど、行方不明らしい。
なので、正式発表はまだだけど、王太子は第二王子で決定らしい)

若い女性の憧れの的となっても不思議はないのだろうけど‥‥


私には相変わらず気持ち悪いだけ。

私は15才で、成人前。

第二王子は立派に大人なんだから、お相手も大人の女性から選んで欲しい。


いるでしょう?

殿下の周りに殿下に恋している美しく成熟した殿下と同世代の大人の女性達が!

そりゃあもうウジャウジャと!

なのにいまだに私に執着するとか‥‥

約3年前は憚って言わなかったけど、もうハッキリと言わざるを得ない。



殿下、あなたは変態ですッ!
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