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第二章
2の07 第二王子フラット、正気になる
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「庭の手入れを頼まれた」
ゴブリンが静かに答える。
ゴブリンが答えた事に驚いてしまったフラット。
何となく、意思疎通が出来ると思っていなかった‥‥
庭の手入れって‥‥
と眉間に眉を寄せる。
庭師か?
王宮が庭師にゴブリンを雇うか?
「ここは限られた者しか来る事を許されない場所だ!
ここへは二度と来るな!
早く立ち去れ!
行け!‥‥ハッ!?」
(シーブルーの瞳!?
内側から煌めく美し過ぎる青。
さっき、私を『フラット』と呼んだ‥‥
私をそう呼ぶのはこの世で二人だけ‥‥
国王陛下と第一王子殿‥‥
シーブルーの瞳のゴブリン?
以前‥‥見た!?
いや、私は、あなたは
シーブルーの瞳‥ゴブリン‥見ていない‥‥
あぁ‥‥頭が‥‥)
「‥‥殿下?
顔色が優れません‥」
「‥‥ッ!!
ああ‥‥私はッ‥‥」
こんな状況なのにも拘らず、心配そうに見上げるローズレッドの瞳を見た途端、フラットは正気に戻る。
私は、大切なシレーヌ姫に何をしているのか!?
そうだ‥‥今日も会うのを拒絶され、その理由は分かっているから手紙を書いた。
だが、城を出て、船着き場に向かう途中で堪らず踵を返した。
一目顔を見るだけ‥‥
そう思いシレーヌ姫の部屋へ向かいながら、部屋に近付くにつれ平常心を失くしていった‥‥
‥‥3年前に行方不明になった兄上。
数か月前、国王陛下に告げられた。
国として、王太子を立てない訳にはいかないと。
兄上に代わって私が王太子となる様にと。
必死に兄上を捜し続けている父上にとって苦渋の決断であっただろう。
私は『とりあえず』という事ならと引き受けた。
兄上が見つかれば、すぐに立場を兄上に戻す事を条件に。
何故か私は兄上が亡くなってなどいないと確信している。
何か事情があるが、いつか必ず戻って来て下さるはずだと。
立太子式は、3ヶ月後のシレーヌ姫の誕生日にと指定し、了承された。
その時、私はシレーヌ姫との婚約を発表するつもりでいる。
この事は、国王陛下にも当のシレーヌ姫にもギリギリまで黙っているつもりだ。
兄上の行方不明で手いっぱいの国王陛下はいまだにシレーヌ姫の存在を把握していない。
国王陛下には邪魔する時間を与えない為に。
シレーヌ姫には逃げるスキを与えない為に。
だから!
3ヶ月後の婚約発表の為に慎重でいなければならないのに!
私は一体何をやっているのだ!?
これ以上シレーヌ姫に嫌われてしまったら、婚約も何もないではないか!
フラットは心配そうに駆け付けていた侍女の側にシレーヌを下ろす。
「シレーヌ姫、恐がらせて済まなかった。
私は‥‥だが‥‥いや、済まなかった。
‥‥彼女を休ませてやってくれ」
シレーヌと侍女にそれだけ言って、第二王子は城門へ向かう。
ゴブリンは既に小舟に乗って湖に漕ぎ出している。
それを見ながら、フラットも乗って来た船に急ぎ乗り込み、指示を出す。
「あのゴブリンに追いつけ!」
ゴブリンが静かに答える。
ゴブリンが答えた事に驚いてしまったフラット。
何となく、意思疎通が出来ると思っていなかった‥‥
庭の手入れって‥‥
と眉間に眉を寄せる。
庭師か?
王宮が庭師にゴブリンを雇うか?
「ここは限られた者しか来る事を許されない場所だ!
ここへは二度と来るな!
早く立ち去れ!
行け!‥‥ハッ!?」
(シーブルーの瞳!?
内側から煌めく美し過ぎる青。
さっき、私を『フラット』と呼んだ‥‥
私をそう呼ぶのはこの世で二人だけ‥‥
国王陛下と第一王子殿‥‥
シーブルーの瞳のゴブリン?
以前‥‥見た!?
いや、私は、あなたは
シーブルーの瞳‥ゴブリン‥見ていない‥‥
あぁ‥‥頭が‥‥)
「‥‥殿下?
顔色が優れません‥」
「‥‥ッ!!
ああ‥‥私はッ‥‥」
こんな状況なのにも拘らず、心配そうに見上げるローズレッドの瞳を見た途端、フラットは正気に戻る。
私は、大切なシレーヌ姫に何をしているのか!?
そうだ‥‥今日も会うのを拒絶され、その理由は分かっているから手紙を書いた。
だが、城を出て、船着き場に向かう途中で堪らず踵を返した。
一目顔を見るだけ‥‥
そう思いシレーヌ姫の部屋へ向かいながら、部屋に近付くにつれ平常心を失くしていった‥‥
‥‥3年前に行方不明になった兄上。
数か月前、国王陛下に告げられた。
国として、王太子を立てない訳にはいかないと。
兄上に代わって私が王太子となる様にと。
必死に兄上を捜し続けている父上にとって苦渋の決断であっただろう。
私は『とりあえず』という事ならと引き受けた。
兄上が見つかれば、すぐに立場を兄上に戻す事を条件に。
何故か私は兄上が亡くなってなどいないと確信している。
何か事情があるが、いつか必ず戻って来て下さるはずだと。
立太子式は、3ヶ月後のシレーヌ姫の誕生日にと指定し、了承された。
その時、私はシレーヌ姫との婚約を発表するつもりでいる。
この事は、国王陛下にも当のシレーヌ姫にもギリギリまで黙っているつもりだ。
兄上の行方不明で手いっぱいの国王陛下はいまだにシレーヌ姫の存在を把握していない。
国王陛下には邪魔する時間を与えない為に。
シレーヌ姫には逃げるスキを与えない為に。
だから!
3ヶ月後の婚約発表の為に慎重でいなければならないのに!
私は一体何をやっているのだ!?
これ以上シレーヌ姫に嫌われてしまったら、婚約も何もないではないか!
フラットは心配そうに駆け付けていた侍女の側にシレーヌを下ろす。
「シレーヌ姫、恐がらせて済まなかった。
私は‥‥だが‥‥いや、済まなかった。
‥‥彼女を休ませてやってくれ」
シレーヌと侍女にそれだけ言って、第二王子は城門へ向かう。
ゴブリンは既に小舟に乗って湖に漕ぎ出している。
それを見ながら、フラットも乗って来た船に急ぎ乗り込み、指示を出す。
「あのゴブリンに追いつけ!」
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