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第二章

2の10 意外な名前

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「魔女を頼みたい」

「‥‥えッ!?」



ソファにグデーンとなっている第二王子フラット殿下。

酔っぱらってベロベロかと思いきや意外にもしっかりとした口調で意外な事を言われ、モーレイは誘惑モードを強制解除されてしまう。

さらに絡めていた腕を外され、距離を取り、キチンと座り直すフラット。



「『妖しの沼の魔女』‥‥3年前、兄上をゴブリンに変えたという魔女だ。
君の知り合いだそうだな。
その魔女の力を借りたい」

「えぇ?
私の知り合いって、誰がそんな事‥‥
(まさかマーリンが‥‥そうよね、マーリンしかいないわ)
コホン、お兄様の事なら、もう十分でしょう?
ゴブリン以上に醜い生き物などいませんもの。
十分に地獄ではなくて?
これ以上何をなさる御積もり?」

「兄上の事はいい。
兄上の事は聖女が人間に戻すそうだ。
何故すぐに戻さないのかは分からないが‥‥
兄上の御意向らしい。
兄上の事だ、
何か深い訳があるのだろう。
だが、聖女が自信を持って戻せるというのだから、兄上の事は心配無い。
あの魔法を別の人間に掛けて欲しいんだ」



あら‥‥

と、モーレイは意外に思う。


(フラット様は第一王子を憎んでいらっしゃらないのね?
むしろ尊敬や気遣いを感じるわ。
私はてっきり、比較され悔しい思いをして来た恨みを第一王子に抱いているものかと‥‥
マレットやマーリンに劣等感を抱くのと同時に恨みにも思って来た私とは違うのだわ‥‥
嫌だわ、
私、恥ずかしいわ)


自分の卑屈さに気付かされたモーレイ。

羞恥に頬を赤らめながら質問する。



「では‥‥誰かをゴブリンに変えたいと?
一体誰を?」


(今、殿下がそこまで憎い、邪魔な人間なんていたかしら‥‥??)



頭の中で、


(王弟?ううん、弟たち?まさか陛下じゃないわよね?
ハッ‥‥まさか私‥‥いやいや、だったら私に言わないわよね?)


などと想像を巡らせるモーレイ。


第二王子が口にした名前にモーレイは思わず立ち上がってドビックリしてしまう。

それもそのはず。

第二王子はこう言ったのだ。



「人間をゴブリンに変える魔法を掛けて欲しいのは‥‥
シレーヌ姫だ。
魔女の力で、シレーヌ姫をゴブリンに変えて欲しいのだ!」
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