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第三章

3の47 奇跡の理由 1

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予想だにしなかった、突然の奇跡。

嬉し過ぎて、幸せ過ぎて、逆に二人は怖気づいてしまうのだ。


本当はこれは夢なのではないか?

人間に戻らなくてもいいと本気で思っていた。

だが、戻れてもちろん嬉しい。

だって‥‥
愛し合える。

お互い本当の姿で愛し合える‥‥

だからこれは、自分達に都合のいい夢を見ているだけなのでは?


そんな不安がよぎるのだ。



「だけど、あの‥‥
どうして人間に戻れたのでしょうか?
さっきの謎の声は『真実の愛』が証明されたと言っていた様ですが‥‥
確かに3年前、レイ様がゴブリンになる前にお会いしてはいます。
ですが少しお話しただけで、そんな、キ、キキキキスなど‥‥」

「うん‥‥
そうなんだよな。
私達はあの時口付けなど‥‥ハッ!」



レイの中で失っていた記憶の‥‥

が蘇る!



3年前、第二王子と共に周辺国を船で訪問する旅に出た。

第一王子レイと第二王子フラットは異母兄弟で同い年。

だが、レイは主宮殿で、フラットは離宮で育てられた。

フラットの母である側妃は激しく第一王子を妬み憎んだ。

側妃の意向で交流もほとんど無かった王子達‥‥

側妃亡き今、関係改善を図る為国王が命じての船旅だった。

だが、深い話をするに至らないまま、いつの間にか航路が大幅に狂い、遠い島国の近くで嵐に遭い、船が沈没してしまった。

絶望的な状況の中、信じられない事に、小さな島国の住人と思しき人達が救助に当たってくれていた。

だが、自分はかなり流され、皆から遠い場所で、波に飲まれては体力を奪われていった。

自分に向かって来てくれようとする人が何人かいたが、大波に阻まれ、諦め、他の、確実に救えそうな人達の方へ行ってしまうのが見える。

彼等の顔に浮かぶ申し訳なさそうな顔に笑顔を作り、頷く。


(いいのだ‥‥命懸けの救助感謝する。
私は流され過ぎてしまった。
仕方の無いことだ)


遠くに第二王子フラットが救助される姿を見てホッとする。

フラットを救助してくれているのは、驚いた事に少女の様だ。



(何て美しい‥‥
伝説の人魚姫か?)



そんな風に思いながらとうとう完全に波に飲まれ、海中で激しく揉まれた後、静かな海底へと沈んでいく。



(苦しい‥‥
これで私の人生は終わるのか‥‥
まだ何も成し得ていないままに‥‥
‥‥まだ誰とも愛を交わさないままに)



朦朧としていく意識の中でぼんやりと目に映る光景‥‥

その光景の意味に気付いた時、ハッと衝撃が走り心が震える。



(嘘‥‥だろう!?)
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