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第三章

3の59 この空、あの海

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だが、両陛下はシレーヌの小さな葛藤など消し去ってくれるぐらいキラキラした満面の笑顔を向けてくれる。



「こちらこそよろしく頼む!
息子レイを人間に戻してくれてありがとう!
本当に何と感謝を伝えればいいか‥‥」

「ええ、言葉に尽くせないわ!
ありがとう!ありがとう!ありがとうとしか言えないのが歯がゆいわ!
そしてよろしくね!
私達の娘になってくれてありがとう!」



そう言って王妃は手を広げシレーヌを抱き締める。


ワァァァァッ!


人々が歓声を上げ、大きな拍手で祝福する。


国王は少し離れた場所に控えめに立つフラットに声を掛ける。



「立太子式は中止だ。
お前は罪を償わなければならん」

「はい。
シレー‥‥義姉上には大変な迷惑と苦しみを‥‥
どんな罰でも受ける所存です」

「うむ。
それは後で決めるとして‥‥」



そう言って国王はフラットをガシッと抱き締める。



「え‥‥父上!?」

「馬鹿者‥‥ッ!
親の目の前で死にかけおって‥‥
馬鹿者がッ‥‥!
よかった‥‥本当に‥
よか‥‥馬鹿者‥‥ッ
だが、‥‥‥グスッ、
だが、命を賭してシレーヌを守ろうとした事は、男として立派だったぞ!」

「父上‥‥!」

「ン‥‥まぁ、私もお前も失恋男で間違いない。
シレーヌはとんでもなく美しいな」

「父上、私が彼女に惹かれたのは、外見では‥‥はッ」



丁度その時、シレーヌがフラットを見て、穏やかに微笑む。

親愛のこもった、家族へ向ける微笑みだ。

フラットも、自分でも意外なほど自然に微笑みを返す。

それだけで満たされる事に驚きながら。

自分のものに出来なくても、愛する人が幸せそうに笑っているだけで満たされるなんて、知らなかったな‥‥と、フラットは思う。


(いや、私が変わったのか。
多分この想いが ”愛 ”なんだろう)


そう思った時、フラットの周りで聖なる光の粒子が一斉にキラキラと輝く。


フラットは空を見上げる。

スッキリと晴れた美しい空はあの小さな島国の海の色と似ている。

深く澄んだ青に。


兄上の瞳の色シーブルーに。
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