キスが出来る距離に居て

02

ちなみに『カトレア伯爵家の呪い』とは――


『カトレア伯爵家は子宝に恵まれない。
これは一代や二代の話ではない。
何代も前からずっと続いている。
カトレア伯爵家を継いだ者は、子孫を残せない』


――というもの。


だが、カトレア伯爵家は決して気味悪がって避けられる様な事は無い。



伯爵家は王家をもしのぐ財力があるのだ。

代が変わる度『もうカトレア伯爵家は終わりだろう』と噂されてきた。

だが、若く美しく健康である以外は何の取柄もなかったはずの新伯爵は領地をソツなく経営し、商売を繁盛させ、新商売を立ち上げ、成功させる。


子宝に恵まれなくなる代償に、そういった能力を授かるのではないかなどと言う者もいる。

もちろんそんな意見は少数で、何かノウハウの書かれた秘伝書の様なものを託されるのだろうという意見が大半だが。



実に裕福ではあるが血族のいないカトレア伯爵家。

どうやって次代に繋いでいくのか。






カトレア伯爵夫妻は常に『若いお友達』を側に置く。

どれぐらい側かと言うと、『キスが出来る距離』。

そんな風に伯爵夫人が茶化して言う程、常に側に侍らせる。

邸内に部屋を与え、使用人をつけ、家族同様に大切に扱う。



伯爵夫人が、今度は茶化すことなく、真剣な表情で言う。

「まさに家族として居てもらうのよ。
私達に何かあった時、伯爵家を継いでもらう為にね」



これは、次男や次女など爵位を継げない子女や、没落寸前の貴族子女にとって、喉から手が出るほど旨味タップリの話で。




では、どんな人物が伯爵夫妻の『若いお友達』になれるのか―――