キスが出来る距離に居て

ハートリオ

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春と夏の中間、フルール王国には穏やかで爽やかな季節が訪れる。

そんな恵まれた季節のある日の午後。

カトレア伯爵家の広大な庭園では華やかにお茶会が催されている。


参加しているのは若い貴族カップルばかり。

招待状は平民にも送られているのだが、平民は『カトレア伯爵家の呪い』を恐れて参加する者がいない。



それでもお茶会は盛況で、庭園のあちこちで色とりどりのドレスの花が咲き乱れる。



「まァ~~、○○男爵令嬢、お久しぶりですこと。
清楚で品があって、素敵なお召し物ですことね。
学園で、共に学んだ日々を懐かしく思い出しますわ」


直訳すると、
『まァ、○○男爵令嬢、来たの?
あんたの存在、すっかり忘れてたわ。
相変わらず、貧乏くさいシミったれた格好ね』




「あらァ、△△子爵令嬢ッ
本当に、王立学園卒業以来ですわねッ
お褒め頂き、ありがとうございます。
私は地味ですから、シンプルなものを選ぶしかないのですわ。
△△子爵令嬢こそ、華やかで艶やかなドレス、とてもお似合いですわッ
今日のお茶会で一番の艶やかさですわッ」


直訳すると、
『あら、△△子爵令嬢、こっちだってあんたの事なんて脳から消し去っていたわ。
ブレないクソ嫌味を、どうも。
何と言うか、他に自慢するものが無いのだろうけど、胸の部分が大胆に開いたケバケバしい、センスの一かけらも無いドレスが目に痛いわ。
今日の悪目立ちクイーンは間違いなくあなたね』




‥‥こんな残念な会話があちこちで交わされている。

表面上は輝くような笑顔を崩すことなく。



何故なら、参加者達は邸宅のどこかから自分達を見ているであろうカトレア伯爵夫妻の目に留まろう、気に入られようと見えない闘いを繰り広げているのだ。
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