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だが、そこからはなかなかイベリスの思惑通りには行かなかったようだ。
カトレア伯爵家の使用人達のガードが思った以上に固く、なかなか靡いて来ない。
週1、2度のアネモネとの性交は面倒で退屈で不快で苦痛で最悪でしかない。
日に日に不機嫌になって行くイベリスにアネモネはオロオロするばかり。
大好きなイベリスの天使の様な笑顔を見たいアネモネは、いつの間にかイベリスの顔色ばかり窺い、イベリスの喜ぶよう行動しようと神経をすり減らす奴隷の様になっていた。
そして三か月ほど前。
イベリスは24才、アネモネは23才になっていた。
カトレア伯爵家に滞在する様になってから9カ月が過ぎており、本当なら既に結婚をしているはずだったが、伯爵夫人の体調が思わしくなく、先延ばしになっている状態である。
そんなある日、イベリスが一人で買い物に出たまま予定の時刻を過ぎても帰らない日があった。
心配して真っ青になるアネモネを伯爵夫人が宥めている時に上機嫌のイベリスが友人を伴って帰って来た。
『街で買い物中に、旧友にバッタリ出会って、昔話に夢中になってしまい遅くなってしまった。
彼はしばらくこの街に用事があるらしい。
この屋敷に滞在させてあげたいのだが‥‥』
そう言って誰にも見えない様にアネモネを肘で小突く。
アネモネは弾かれた様に伯爵夫人に訴える。
「わ、私からも是非、お願いしますッ!
イベリス様のお友達は私のお友達ですものッ!」
こうしてカトレア伯爵家に滞在を許されたイベリスの友人ラバンジュラはイベリスより一つ年下の23才。
美しい陰影のある青紫の髪は柔らかく波を描き、同色の泉の様に澄んだ瞳は神聖な雰囲気を湛え、形のいい唇は自然に結ばれ、質問には丁寧に答えるが、余計な話はしない物静かな美青年。
高身長にガッシリとした体格で、神秘的な佇まいはさぞかし女性にモテるだろう。
いや、女性だけでなく‥‥
ラバンジュラの為に用意された上等な客室で彼が寝る事はなかった。
彼は滞在初日からイベリスとアネモネの夫婦の部屋で夜を過ごした。
代わりにアネモネが客室で寝て、朝早くにメイドに見つからない様に夫婦の寝室に戻り、入れ代わりでラバンジュラは客室に戻り朝を迎える。
アネモネはなぜこんな事をしなければならないのか分からない。
『積もる話があるから二人きりで話したい。
でも変に誤解されたくないから、頼むよ』
イベリスに珍しく低姿勢で頼まれ、『変に誤解』って何の事だろうと思ったが、イベリスにいい顔をしたくて、気は進まないのに引き受けてしまった。
だが、あれからもう一カ月になる。
一カ月間も毎夜昔話を続けて、まだ話し足りないのかしら?
イベリスに気付かれない様にこっそり練習したり刺激したりして、やっと体が感じる様になってきていたのに、週に1、2度あった二人の大切な恋人の時間が無くなってしまって、イベリスは寂しくないのかしら?
そう、もう一カ月、アネモネはイベリスに抱かれていない‥‥
このフレゥール王国では、同性愛は罪とされており、口にするのも憚られている。
大切に、ガチガチに守られて育ったアネモネの耳にその話題が入る事は無く、同性愛の存在すら知らない。
だからイベリスが実は同性愛者である事も、アネモネを追い出した後、二人がイベリスとアネモネのベッドで何をしているのかも想像できなかった。
部屋の掃除などをしてくれるメイド達に
『ご無理をしているのではないですか?』だの
『お医者様を呼ばなくて大丈夫ですか?』だの
『どこかお怪我されているのではないですか?』だの‥‥
心配そうに聞かれても、なぜ心配されるのか分からない。
イベリスは友人が来てからずっと上機嫌だが、彼の天使の様な笑顔はアネモネではなくラバンジュラにだけ向けられる。
得体の知れない不安を抱えたまま心身をすり減らしていたある夜明け、アネモネは何の知識も無いままその現場を見てしまった。
カトレア伯爵家の使用人達のガードが思った以上に固く、なかなか靡いて来ない。
週1、2度のアネモネとの性交は面倒で退屈で不快で苦痛で最悪でしかない。
日に日に不機嫌になって行くイベリスにアネモネはオロオロするばかり。
大好きなイベリスの天使の様な笑顔を見たいアネモネは、いつの間にかイベリスの顔色ばかり窺い、イベリスの喜ぶよう行動しようと神経をすり減らす奴隷の様になっていた。
そして三か月ほど前。
イベリスは24才、アネモネは23才になっていた。
カトレア伯爵家に滞在する様になってから9カ月が過ぎており、本当なら既に結婚をしているはずだったが、伯爵夫人の体調が思わしくなく、先延ばしになっている状態である。
そんなある日、イベリスが一人で買い物に出たまま予定の時刻を過ぎても帰らない日があった。
心配して真っ青になるアネモネを伯爵夫人が宥めている時に上機嫌のイベリスが友人を伴って帰って来た。
『街で買い物中に、旧友にバッタリ出会って、昔話に夢中になってしまい遅くなってしまった。
彼はしばらくこの街に用事があるらしい。
この屋敷に滞在させてあげたいのだが‥‥』
そう言って誰にも見えない様にアネモネを肘で小突く。
アネモネは弾かれた様に伯爵夫人に訴える。
「わ、私からも是非、お願いしますッ!
イベリス様のお友達は私のお友達ですものッ!」
こうしてカトレア伯爵家に滞在を許されたイベリスの友人ラバンジュラはイベリスより一つ年下の23才。
美しい陰影のある青紫の髪は柔らかく波を描き、同色の泉の様に澄んだ瞳は神聖な雰囲気を湛え、形のいい唇は自然に結ばれ、質問には丁寧に答えるが、余計な話はしない物静かな美青年。
高身長にガッシリとした体格で、神秘的な佇まいはさぞかし女性にモテるだろう。
いや、女性だけでなく‥‥
ラバンジュラの為に用意された上等な客室で彼が寝る事はなかった。
彼は滞在初日からイベリスとアネモネの夫婦の部屋で夜を過ごした。
代わりにアネモネが客室で寝て、朝早くにメイドに見つからない様に夫婦の寝室に戻り、入れ代わりでラバンジュラは客室に戻り朝を迎える。
アネモネはなぜこんな事をしなければならないのか分からない。
『積もる話があるから二人きりで話したい。
でも変に誤解されたくないから、頼むよ』
イベリスに珍しく低姿勢で頼まれ、『変に誤解』って何の事だろうと思ったが、イベリスにいい顔をしたくて、気は進まないのに引き受けてしまった。
だが、あれからもう一カ月になる。
一カ月間も毎夜昔話を続けて、まだ話し足りないのかしら?
イベリスに気付かれない様にこっそり練習したり刺激したりして、やっと体が感じる様になってきていたのに、週に1、2度あった二人の大切な恋人の時間が無くなってしまって、イベリスは寂しくないのかしら?
そう、もう一カ月、アネモネはイベリスに抱かれていない‥‥
このフレゥール王国では、同性愛は罪とされており、口にするのも憚られている。
大切に、ガチガチに守られて育ったアネモネの耳にその話題が入る事は無く、同性愛の存在すら知らない。
だからイベリスが実は同性愛者である事も、アネモネを追い出した後、二人がイベリスとアネモネのベッドで何をしているのかも想像できなかった。
部屋の掃除などをしてくれるメイド達に
『ご無理をしているのではないですか?』だの
『お医者様を呼ばなくて大丈夫ですか?』だの
『どこかお怪我されているのではないですか?』だの‥‥
心配そうに聞かれても、なぜ心配されるのか分からない。
イベリスは友人が来てからずっと上機嫌だが、彼の天使の様な笑顔はアネモネではなくラバンジュラにだけ向けられる。
得体の知れない不安を抱えたまま心身をすり減らしていたある夜明け、アネモネは何の知識も無いままその現場を見てしまった。
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