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自宅に荷物を取りに戻り、再びカトレア伯爵邸を目指すクレオメ。
その馬車の中で、彼女は蒼白な顔で呆然と座っている。
ポーチュラカに言われた言葉が頭の中をグルグル回り、彼女を追い詰めている。
『宣戦布告なんて大袈裟な事言っちゃったわね。
だって、別に痛くも痒くもないでしょう?
あなたは、セロシア様じゃない、他の人を愛してるんだから』
『なぁに? その顔。
まさか、気付かれていないとでも?
あんなに熱くシラン様を見つめてたら、誰だって気付くわよ!
アウレア様だって気付いてるわよ?』
『愛する夫を盗もうと屋敷に入り込んで来た若い女をお気の毒なアウレア様はどんな気持ちで見ているのかしら』
『気付いてないのはセロシア様だけ‥‥
裏切られているとも知らずにお可哀想‥‥
モチロン私が教えてあげるつもり』
『だから、』
『もう二度とここへは戻らない事ね!
アウレア様は怒ってるし、シラン様は呆れてる。
セロシア様だって‥‥あなたの裏切りを知れば、許さないでしょうね!
そして私を選ぶでしょう。
解かった?
もうここに、あなたを迎える人は居ないのよ!』
アウレア様が急に冷たくなったのはそのせいなのね‥‥
‥‥自業自得だわ。
私は、ただシラン様の側に居られればいいと‥‥誘惑なんてまず不可能だし、するつもりも絶対無いから、やましい事なんて無いと自分に言い訳していた。
でも、妻であるアウレア様からしたら、そんな言い訳通るはず無い。
あまりにも幼くて、恋を知らなくて、アウレア様の心を慮る事が出来なかった。
毒を盛られ、体が苦しいアウレア様。
ただでさえ辛いアウレア様に対して私は何て事をしてしまったんだろう。
「もうすぐ着きますよ」
御者の声にドクンと心臓が痛む。
帰りたい、本当は帰ってしまいたい。
彼女が言う通り、きっともうカトレア伯爵邸に居場所など無い。
セロシア様は‥‥今頃もう知ってしまっただろうか?
私のシラン様への気持ち‥‥
私達は会ってまだ一週間ほどの偽装カップル。
だから、実際にはほんの少し言葉を交わしただけの仲。
ポーチュラカさんが言う様に『裏切られた』という風には感じないはず。
だけど‥‥この胸のモヤモヤ‥‥痛み‥‥
彼には‥‥彼にだけは知られたくなかった‥‥
何て勝手な‥‥自分でも意味不明の感情‥‥
だけど、どうしてもイヤなのだ。
彼の ”隣 ”を他の女性に‥‥ポーチュラカさんに奪われるのは、絶対、イヤ!
そんな事思う資格無いのに、いつもならスッと引くところなのに。
ずっと、人との争いを避けて生きて来た。
誰かと争うくらいなら、『私は別に』と引いて来た。
そのせいで『クール』だと言われて来たけど‥‥
本当は臆病だっただけ。
勝つ自信が無かっただけ。
勝つ覚悟が無かっただけ。
傷つくのが恐かっただけ。
傷つけるのが恐かっただけ。
‥‥弱かっただけ。
「お疲れ様です。
到着しました」
「ありがとう」
シラン様への想い、セロシア様への想い‥‥
自分の中で何も整理できていない。
それでも、引かない。
今回は、今回だけは引くわけにいかない!
顔を上げて、ギュッと結び続けていた手を解く。
‥‥手が強ばっている‥‥
その手の強ばりが、自分の全てを表している様で、途端に弱気になってしまう。
戻って来るなんて、図々しかったかしら‥‥
「‥‥わッ!?」
御者が馬車の扉を開けると、メイドさんが二人いて、ビックリする。
「お待ちしていました!
私達、クレオメ様につかせて頂きます!
私は人生の酸いも甘いも知り尽くしたベテランお局メイドです!」
「私は力仕事担当、クレオメ様と同い年、ピチピチの若手メイドです!」
「「よろしくお願い致します!」」
「もう一人、上と下の板挟み、仕事か家庭か分かれ道、だけど仕事は抜かりなし、の優秀中堅メイドがおりますが、彼女はお部屋で待機させて頂いております。
既にお部屋は整っておりますので、快適にお過ごし頂けると思います!」
「お荷物これだけですか?
お運びしますね!」
「さぁ、ご案内致します。
こちらへどうぞ!」
な‥‥何て事。
急に気後れしてこのまま馬車で自宅へ向かってもらおうかなんて考えていたのに、あっという間にカトレア伯爵邸の深い所まで来てしまっているわ。
お部屋?って、もしかして‥‥
「あの、私が使わせて頂くお部屋って、その、セロシア様と、えぇと‥‥」
「あぁ、客室となります。
若夫婦の部屋は前回の事がありますから、今大規模な改装工事中なんです。
セロシア様のお部屋は真向かいになっておりますよ。
ちなみにポーチュラカ様のお部屋は下の階ですから、よっぽどの事がない限り顔を合わせる心配は無いと思いますわ」
さ‥‥さすがベテランお局メイド。
痒い所に手が届く説明、ありがとうございます。
「‥‥あれ?
どうしたのかしら?
部屋の中で待機しているはずなのに?
先輩、何かあったんですか?」
廊下を歩いている途中でピチピチ若手メイドが声を上げる。
ある一室のドアの前で戸惑っている様子のメイド‥‥多分優秀中堅メイドさん(美人!)が私の顔を見てさらに困惑の色を濃くして弱々しく報告する。
「あ、あの、クレオメ様の部屋なのに、セロシア様とポーチュラカ様が急に入って来て‥‥」
カチッ
私の中で何かのスイッチが入る。
「‥ッ、クレオメ様、すぐに執事が対処しますので、しばらく応接室で‥‥
あッ!?
クレオメ様ッ!?」
スイッチの入った私にベテランお局メイドの声は届かない。
私の為に用意された部屋で、二人で何をしているというの!?
重なり合っているの!?
わざわざ私の部屋で!?
それを目の当たりにしたとして、私はどうするつもりなの?
何の答えも持たないまま、私は思いきりドアを開けた。
その馬車の中で、彼女は蒼白な顔で呆然と座っている。
ポーチュラカに言われた言葉が頭の中をグルグル回り、彼女を追い詰めている。
『宣戦布告なんて大袈裟な事言っちゃったわね。
だって、別に痛くも痒くもないでしょう?
あなたは、セロシア様じゃない、他の人を愛してるんだから』
『なぁに? その顔。
まさか、気付かれていないとでも?
あんなに熱くシラン様を見つめてたら、誰だって気付くわよ!
アウレア様だって気付いてるわよ?』
『愛する夫を盗もうと屋敷に入り込んで来た若い女をお気の毒なアウレア様はどんな気持ちで見ているのかしら』
『気付いてないのはセロシア様だけ‥‥
裏切られているとも知らずにお可哀想‥‥
モチロン私が教えてあげるつもり』
『だから、』
『もう二度とここへは戻らない事ね!
アウレア様は怒ってるし、シラン様は呆れてる。
セロシア様だって‥‥あなたの裏切りを知れば、許さないでしょうね!
そして私を選ぶでしょう。
解かった?
もうここに、あなたを迎える人は居ないのよ!』
アウレア様が急に冷たくなったのはそのせいなのね‥‥
‥‥自業自得だわ。
私は、ただシラン様の側に居られればいいと‥‥誘惑なんてまず不可能だし、するつもりも絶対無いから、やましい事なんて無いと自分に言い訳していた。
でも、妻であるアウレア様からしたら、そんな言い訳通るはず無い。
あまりにも幼くて、恋を知らなくて、アウレア様の心を慮る事が出来なかった。
毒を盛られ、体が苦しいアウレア様。
ただでさえ辛いアウレア様に対して私は何て事をしてしまったんだろう。
「もうすぐ着きますよ」
御者の声にドクンと心臓が痛む。
帰りたい、本当は帰ってしまいたい。
彼女が言う通り、きっともうカトレア伯爵邸に居場所など無い。
セロシア様は‥‥今頃もう知ってしまっただろうか?
私のシラン様への気持ち‥‥
私達は会ってまだ一週間ほどの偽装カップル。
だから、実際にはほんの少し言葉を交わしただけの仲。
ポーチュラカさんが言う様に『裏切られた』という風には感じないはず。
だけど‥‥この胸のモヤモヤ‥‥痛み‥‥
彼には‥‥彼にだけは知られたくなかった‥‥
何て勝手な‥‥自分でも意味不明の感情‥‥
だけど、どうしてもイヤなのだ。
彼の ”隣 ”を他の女性に‥‥ポーチュラカさんに奪われるのは、絶対、イヤ!
そんな事思う資格無いのに、いつもならスッと引くところなのに。
ずっと、人との争いを避けて生きて来た。
誰かと争うくらいなら、『私は別に』と引いて来た。
そのせいで『クール』だと言われて来たけど‥‥
本当は臆病だっただけ。
勝つ自信が無かっただけ。
勝つ覚悟が無かっただけ。
傷つくのが恐かっただけ。
傷つけるのが恐かっただけ。
‥‥弱かっただけ。
「お疲れ様です。
到着しました」
「ありがとう」
シラン様への想い、セロシア様への想い‥‥
自分の中で何も整理できていない。
それでも、引かない。
今回は、今回だけは引くわけにいかない!
顔を上げて、ギュッと結び続けていた手を解く。
‥‥手が強ばっている‥‥
その手の強ばりが、自分の全てを表している様で、途端に弱気になってしまう。
戻って来るなんて、図々しかったかしら‥‥
「‥‥わッ!?」
御者が馬車の扉を開けると、メイドさんが二人いて、ビックリする。
「お待ちしていました!
私達、クレオメ様につかせて頂きます!
私は人生の酸いも甘いも知り尽くしたベテランお局メイドです!」
「私は力仕事担当、クレオメ様と同い年、ピチピチの若手メイドです!」
「「よろしくお願い致します!」」
「もう一人、上と下の板挟み、仕事か家庭か分かれ道、だけど仕事は抜かりなし、の優秀中堅メイドがおりますが、彼女はお部屋で待機させて頂いております。
既にお部屋は整っておりますので、快適にお過ごし頂けると思います!」
「お荷物これだけですか?
お運びしますね!」
「さぁ、ご案内致します。
こちらへどうぞ!」
な‥‥何て事。
急に気後れしてこのまま馬車で自宅へ向かってもらおうかなんて考えていたのに、あっという間にカトレア伯爵邸の深い所まで来てしまっているわ。
お部屋?って、もしかして‥‥
「あの、私が使わせて頂くお部屋って、その、セロシア様と、えぇと‥‥」
「あぁ、客室となります。
若夫婦の部屋は前回の事がありますから、今大規模な改装工事中なんです。
セロシア様のお部屋は真向かいになっておりますよ。
ちなみにポーチュラカ様のお部屋は下の階ですから、よっぽどの事がない限り顔を合わせる心配は無いと思いますわ」
さ‥‥さすがベテランお局メイド。
痒い所に手が届く説明、ありがとうございます。
「‥‥あれ?
どうしたのかしら?
部屋の中で待機しているはずなのに?
先輩、何かあったんですか?」
廊下を歩いている途中でピチピチ若手メイドが声を上げる。
ある一室のドアの前で戸惑っている様子のメイド‥‥多分優秀中堅メイドさん(美人!)が私の顔を見てさらに困惑の色を濃くして弱々しく報告する。
「あ、あの、クレオメ様の部屋なのに、セロシア様とポーチュラカ様が急に入って来て‥‥」
カチッ
私の中で何かのスイッチが入る。
「‥ッ、クレオメ様、すぐに執事が対処しますので、しばらく応接室で‥‥
あッ!?
クレオメ様ッ!?」
スイッチの入った私にベテランお局メイドの声は届かない。
私の為に用意された部屋で、二人で何をしているというの!?
重なり合っているの!?
わざわざ私の部屋で!?
それを目の当たりにしたとして、私はどうするつもりなの?
何の答えも持たないまま、私は思いきりドアを開けた。
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