『わたくしを誰だとお思い?』~若く美しい姫君達には目もくれず38才偽修道女を選んだ引きこもり皇帝は渾身の求婚を無かったことにされる~

ハートリオ

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2 四花繚乱

35 ハート公女ペルシクム 5

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「アセビ、何をして…
ハッ!?‥これはハート公妃殿下にハート公女殿下!」


『南の城』から庭園に入って行くアセビの怪しげな様子を見て嫌な予感を覚え駆け付けたダイヤ公女ダリア。

思いがけずハート公妃とハート公女の姿を見て驚き足を止める。


「御機嫌よう、ダイヤ公女殿下。
せっかくだけど、あなたの侍女の御親切は遠慮させて頂くわね」

「‥えッ‥??
‥ハッ!?」


ハート公妃の柔らかな声に非難の色は無かったが、彼女が示したペルシクムの手にある見覚えのあるキャンディーを見てダリアは青褪める。

以前、アセビが『毒入りキャンディー』の開発に成功したと嬉しそうに見せて来たあのキャンディーに似ている――!?

ハート公妃はペルシクムの手からキャンディーの瓶を手に取ると、


「‥あら、ハート公国製の瓶ね‥手の込んでいること…
もしハート公女に異変が起きてもダイヤ公国は疑われない――」

「「――ッッ!」」


(気付かれた!)と慄くアセビと(気付かなかった…)と肩を落とすペルシクム。


「――訳にはいかないのよ」


とハート公妃はアセビに視線を向ける。

俯いたままビクリと肩を震わせるアセビにハート公妃は柔らかな声のままで、


「庭園の中に入ってしまうと背の高いブロック塀や植物に囲まれて『人目を避けている』と錯覚してしまうだろうけど、庭園は完全に監視されているのよ」

「‥えぇっ!?」


アセビが色を失った顔を上げる。


「本宮殿からね。
各城からは入り口までで庭園内までは見えないだろうけど、本宮殿にある高い塔からは完全に監視されているはずよ。
それに庭園内の各所に宮廷騎士も配置されている。
だからこそ庭園は解放されているの。
あなたがハート公女に何かを渡したのは塔から見られているし、会話は宮廷騎士に聞かれているでしょうね。
そのすぐ後にハート公女に体調不良でも起これば――責任を問われるのはあなたの大切な主――ダイヤ公女殿下なのよ」

「――なッ!?
こ、これは私が独断でやった事!
ダリア様は御存知無い事でッ‥」

「関係無いわ。
関わっていようがいまいが使用人の不始末の責任を取るのはその主よ」

「――はい。
仰る通りですわ。
わたくしが如何なる処分もお受けいたします」


全てを悟ったダリアはその場に膝をつく。

咎を認めた罪人の姿勢だ。


「ダリア様ッ!
そんなッ!!」


ヒッと叫び悲痛な声を上げるアセビ。


「お黙りなさい!
それが貴族社会のルールよ!
わたくしはルールを破ることはしないわ!」

「そんなぁッ‥私はダリア様の為にッ!
あぁぁ、あぁぁぁ~」


アセビはその場に泣き崩れる。


「立って頂戴、ダイヤ公女殿下」

「いえ、このまま騎士に連行されるのを待ちます。
――そうさせて下さい。
ハート公妃殿下、ハート公女殿下、本当に申し訳ございません…!
お気持ちが鎮まる事は無いかもしれませんが、わたくしが相応の罰を受けます」

「この事、公にするつもりは無いわ」

「‥!!‥ですがッ」

「勿論、無かった事にするつもりもありません。
わたくしはあなたを信用して、この始末をあなたに預けます。
帝国のもと、4公国は良好な関係を続けています。
その関係に水を差す事も、互いにしこりを残す事も無い様に。
頼めるかしら?
ダイヤ公女殿下」

「――ッ!
は‥‥い‥」

「立って頂戴」


差し出されたハート公妃の手を取り立ち上がるダリア。

その耳元にハート公妃は囁く。


「辛い事を…
許して頂戴」

「‥ッッ‥」


ダリアの艶やかな紅の髪が揺れ、金色の瞳から一粒光るものが落ちる。
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