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2 四花繚乱
38 たった8才で
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たった8才でわたくしは全てを失うのだと悟った。
3ヶ月ほど前から身の回りが騒がしくなり遂に一人で――たった10名の供の者と国を出る事に。
見送るお母様の瞳が涙で潤んでいる。
『カード帝国はわたくしの親友が皇后を務めている大帝国。
国が落ち着くまでそこで待っていて頂戴ね。
問題が片付いたら直ぐに迎えを寄越しますからね』
その震える声を聞きながらきっとこれが今生の別れになると悟った。
だからわたくしはカード帝国の月光城の『月光の間』で月を見上げる。
涙を飲み込むために。
弱さを零さぬために。
月は静かに光を放つ。
まだ報せは届いていないけど感覚で分かる。
わたくしに近い血縁――両親の命が絶たれたと。
わたくしと繋がっていた見えない糸――『血』の、『失った』という感覚――
月が滲み膨張する。
わたくしは大丈夫よ。
運命を嘆く為に逃がされたのではないと分かっているわ。
失ったものを追う事は許されていないと。
月がユラユラ揺れている。
わたくしは平気よ。
落ち着いているわ。
その証拠に…そうね…
心配そうな瞳で意地悪を言って来る銀色の少年に戯言を――
あの月をお菓子の様だとお道化てみせようか――
たった8才でこの心は永遠に奪われてしまった。
母上の親友の娘だというジョーカー王国の王女。
遥か北の凍える大地からやって来た王女は太陽の様な髪と瞳を持つ美しい少女。
今まで出会ったどのお后候補の少女とも違う凛とした佇まいの王女は――
かまってちゃん全開で話しかけて来る他の少女達とは違い静かにそっぽを向く。
困り果ててつい憎まれ口をきいては後で後悔する日々。
振り向かせたい――
いつも穏やかに笑っているのにどこか哀し気な君を振り向かせて笑わせたい――何でもいいから笑わせたいのに――
意地悪を言うしかその視線を得る方法を知らなくて、笑わせるなんてムリ過ぎて。
他の女の子なら笑顔にするのも頬を染めさせるのだって簡単なのに。
君にはどうしたらいいのか分からない。
今も君はその美しい金の瞳に僕を映さずずっと月を見上げている。
月を羨む自分の情けなさ。
『あのお月様、美味しそうだわ。
まん丸でまるでクッキーみたいだもの』
おかしな事を。
『あの月がクッキーに見えるだなんて、君はどれだけ食いしん坊なんだい?――』
だってホラ、
今夜の月は半月だよ?
「どうして半月がまん丸に見えたか――
涙を湛えた瞳で見たからだと気付くまで俺は30年の時を要してしまった…」
窓から空を見上げる彼女。
開け放たれたドアで足を止めた彼。
彼は彼女の背に震える声で語りかけ――少し改まった声で言葉を続ける。
「よく来てくれた。
君がここにいる――夢の様だ」
時刻は昼の1時。
月光城の『月光の間』で空を見上げる金の瞳に映るのは月ではなく青空だが。
背後から語りかけて来る声はすっかり声変わりした低いバスだが。
低く柔らかなバスは続ける。
「ん、狐に抓まれた様でもある…
何故君が先に『月光の間』に着いている?
いつ私を追い抜いた??」
「――この地へ来て全てを思い出したのです。
『月光の間』への近道も‥」
「近道!?」
「あら、ふふ、やはり御存知無いのですね。
後で教えて差し上げますわ。
ふふ、お久しぶりです、ルーナエ皇太子殿下‥いえ、カード皇帝陛下」
太陽の様に輝く金色の髪と瞳を持つ彼女――ソルがドアの方へ振り返る。
が、その時すでに彼――皇帝の姿はドアには無く、彼女の足元に跪きその手を取る。
3ヶ月ほど前から身の回りが騒がしくなり遂に一人で――たった10名の供の者と国を出る事に。
見送るお母様の瞳が涙で潤んでいる。
『カード帝国はわたくしの親友が皇后を務めている大帝国。
国が落ち着くまでそこで待っていて頂戴ね。
問題が片付いたら直ぐに迎えを寄越しますからね』
その震える声を聞きながらきっとこれが今生の別れになると悟った。
だからわたくしはカード帝国の月光城の『月光の間』で月を見上げる。
涙を飲み込むために。
弱さを零さぬために。
月は静かに光を放つ。
まだ報せは届いていないけど感覚で分かる。
わたくしに近い血縁――両親の命が絶たれたと。
わたくしと繋がっていた見えない糸――『血』の、『失った』という感覚――
月が滲み膨張する。
わたくしは大丈夫よ。
運命を嘆く為に逃がされたのではないと分かっているわ。
失ったものを追う事は許されていないと。
月がユラユラ揺れている。
わたくしは平気よ。
落ち着いているわ。
その証拠に…そうね…
心配そうな瞳で意地悪を言って来る銀色の少年に戯言を――
あの月をお菓子の様だとお道化てみせようか――
たった8才でこの心は永遠に奪われてしまった。
母上の親友の娘だというジョーカー王国の王女。
遥か北の凍える大地からやって来た王女は太陽の様な髪と瞳を持つ美しい少女。
今まで出会ったどのお后候補の少女とも違う凛とした佇まいの王女は――
かまってちゃん全開で話しかけて来る他の少女達とは違い静かにそっぽを向く。
困り果ててつい憎まれ口をきいては後で後悔する日々。
振り向かせたい――
いつも穏やかに笑っているのにどこか哀し気な君を振り向かせて笑わせたい――何でもいいから笑わせたいのに――
意地悪を言うしかその視線を得る方法を知らなくて、笑わせるなんてムリ過ぎて。
他の女の子なら笑顔にするのも頬を染めさせるのだって簡単なのに。
君にはどうしたらいいのか分からない。
今も君はその美しい金の瞳に僕を映さずずっと月を見上げている。
月を羨む自分の情けなさ。
『あのお月様、美味しそうだわ。
まん丸でまるでクッキーみたいだもの』
おかしな事を。
『あの月がクッキーに見えるだなんて、君はどれだけ食いしん坊なんだい?――』
だってホラ、
今夜の月は半月だよ?
「どうして半月がまん丸に見えたか――
涙を湛えた瞳で見たからだと気付くまで俺は30年の時を要してしまった…」
窓から空を見上げる彼女。
開け放たれたドアで足を止めた彼。
彼は彼女の背に震える声で語りかけ――少し改まった声で言葉を続ける。
「よく来てくれた。
君がここにいる――夢の様だ」
時刻は昼の1時。
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背後から語りかけて来る声はすっかり声変わりした低いバスだが。
低く柔らかなバスは続ける。
「ん、狐に抓まれた様でもある…
何故君が先に『月光の間』に着いている?
いつ私を追い抜いた??」
「――この地へ来て全てを思い出したのです。
『月光の間』への近道も‥」
「近道!?」
「あら、ふふ、やはり御存知無いのですね。
後で教えて差し上げますわ。
ふふ、お久しぶりです、ルーナエ皇太子殿下‥いえ、カード皇帝陛下」
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