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3 晩餐会
59 誤解
女神――王女ソルの微笑みが、何とも言えず重かった室内の空気を一瞬で浄化する。
爽やかで華やかな、まるで祝福の花びらが舞っているような煌めく空間を微笑み一つで作り出したソルは、ハート公王を真っ白にする事を告げる。
「ごめんなさい、ハート公王陛下。
『聖女の印』は狂言ですの」
「え?‥いや‥‥
狂言‥えッ!?
きょきょ狂言ん!?」
「お許しください。
30年前、8才のわたくしはハート公王陛下が恐かったのです」
「ッッ!?
――あ、それは??
何故‥ハッ!?」
ビュッ!
「‥ヒィッ!?」
あっという間も無く剣を抜きハート公王の鼻先に突き付けた皇帝。
剣はまだその身に達していないが、皇帝の銀眼に見据えられ、心臓を貫かれでもしたかの様な衝撃を感じるハート公王。
「『何故』だと!?
8才の少女が誘拐犯を『恐い』と思うのは当然であろう!」
怒りを纏った地を這う様な低い声に、ハート公王は生きた心地がしない。
だが――違う!
違うと伝えたいが、一言でも声を発すれば鼻先で止められている剣に首を刎ねられそうで――かと言って黙っていても同様な気がして――
絶望するハート公王の耳に救いの声が響く。
「‥まぁ、剣を収めて下さい、皇帝陛下。
――そうですか…誤解なさっていたのですね。
わたくしを誘拐したのはハート公王陛下ではありません。
ハート公王陛下は、誘拐犯から救って下さったのです」
「‥なッ!?‥では誘拐犯は一体誰‥」
皇帝は疑問を口にしながらソルに視線を移し――
ソルの美しい金の瞳が悲し気に翳るのを見て、ハッとする。
人は、目の前にある真実に何故か気付かない事がある。
それは、気付きたくないからなのか理由は分からないが――
皇帝も同様で。
30年前、カード宮殿に滞在していたソルを誘拐した犯人について、容易に真実に辿り着く材料は出揃っていたのに、何故か今の今まで真実から離れ誤解していた。
(この話は後で)
僅かに目を細めたソルの意に皇帝も目で頷き、剣を収める。
剣よりも恐ろしい銀の視線から解放されたハート公王は力が抜けてその場に膝をつく。
こんな時、娘に駆け寄って欲しいものだが――
娘ペルシクムは怒っている様である。
斜め後ろからでも頬をぷっくり膨らませているのがよくわかる。
幼児か!
――とハート公王が思っていると、クルリとペルシクムが振り向く。
突然大人っぽく大変身したはずの娘だが、赤い頬を膨らませて責める様に睨みつけて来る顔は、幼い頃母親の愛情を得られず膨れていた頃と同じだ。
幼児だ‥‥
母親の愛情を得られなかった娘はその満たされない空虚感を恋愛に転嫁する事無く義母となるはずだったジョーカー王女に執着している。
人や物に執着する事の無かった娘が珍しい事だ。
ハート公国からカード宮殿までの10日ほどの旅の間中、ジョーカー王女は娘に優しく寄り添ってくれた。
多分、あの旅で娘に変化が起きていたのだろう。
だが、娘よ…
父の方がずっと辛いのだぞ!?
30年前、一目惚れした金色の少女…『聖女の印』が消えるまで30年待ち、やっと一緒になれると思ったところで皇帝陛下に攫われてしまった。
しかも…30年前姿を見たきりでその後はブリッジ修道院に面会に行ってもいつもベールを被っていたから、どんな風に容姿が変化しているか分からなかった。
…覚悟していたのだ。
38才になろうという女性なのだから、それなりに老け込んでいるだろうと。
それでも愛を貫こうと決めていた――のに!
ジョーカー王女の異次元の美しさは一体どうした事だ!?
あああ――くそッ!
娘よ、信仰を捨ててでも彼女を手に入れておけば良かったと後悔の嵐に苛まれている父の苦しみを少しは――
「お父様の役立たず」
む、娘よ~~~!
爽やかで華やかな、まるで祝福の花びらが舞っているような煌めく空間を微笑み一つで作り出したソルは、ハート公王を真っ白にする事を告げる。
「ごめんなさい、ハート公王陛下。
『聖女の印』は狂言ですの」
「え?‥いや‥‥
狂言‥えッ!?
きょきょ狂言ん!?」
「お許しください。
30年前、8才のわたくしはハート公王陛下が恐かったのです」
「ッッ!?
――あ、それは??
何故‥ハッ!?」
ビュッ!
「‥ヒィッ!?」
あっという間も無く剣を抜きハート公王の鼻先に突き付けた皇帝。
剣はまだその身に達していないが、皇帝の銀眼に見据えられ、心臓を貫かれでもしたかの様な衝撃を感じるハート公王。
「『何故』だと!?
8才の少女が誘拐犯を『恐い』と思うのは当然であろう!」
怒りを纏った地を這う様な低い声に、ハート公王は生きた心地がしない。
だが――違う!
違うと伝えたいが、一言でも声を発すれば鼻先で止められている剣に首を刎ねられそうで――かと言って黙っていても同様な気がして――
絶望するハート公王の耳に救いの声が響く。
「‥まぁ、剣を収めて下さい、皇帝陛下。
――そうですか…誤解なさっていたのですね。
わたくしを誘拐したのはハート公王陛下ではありません。
ハート公王陛下は、誘拐犯から救って下さったのです」
「‥なッ!?‥では誘拐犯は一体誰‥」
皇帝は疑問を口にしながらソルに視線を移し――
ソルの美しい金の瞳が悲し気に翳るのを見て、ハッとする。
人は、目の前にある真実に何故か気付かない事がある。
それは、気付きたくないからなのか理由は分からないが――
皇帝も同様で。
30年前、カード宮殿に滞在していたソルを誘拐した犯人について、容易に真実に辿り着く材料は出揃っていたのに、何故か今の今まで真実から離れ誤解していた。
(この話は後で)
僅かに目を細めたソルの意に皇帝も目で頷き、剣を収める。
剣よりも恐ろしい銀の視線から解放されたハート公王は力が抜けてその場に膝をつく。
こんな時、娘に駆け寄って欲しいものだが――
娘ペルシクムは怒っている様である。
斜め後ろからでも頬をぷっくり膨らませているのがよくわかる。
幼児か!
――とハート公王が思っていると、クルリとペルシクムが振り向く。
突然大人っぽく大変身したはずの娘だが、赤い頬を膨らませて責める様に睨みつけて来る顔は、幼い頃母親の愛情を得られず膨れていた頃と同じだ。
幼児だ‥‥
母親の愛情を得られなかった娘はその満たされない空虚感を恋愛に転嫁する事無く義母となるはずだったジョーカー王女に執着している。
人や物に執着する事の無かった娘が珍しい事だ。
ハート公国からカード宮殿までの10日ほどの旅の間中、ジョーカー王女は娘に優しく寄り添ってくれた。
多分、あの旅で娘に変化が起きていたのだろう。
だが、娘よ…
父の方がずっと辛いのだぞ!?
30年前、一目惚れした金色の少女…『聖女の印』が消えるまで30年待ち、やっと一緒になれると思ったところで皇帝陛下に攫われてしまった。
しかも…30年前姿を見たきりでその後はブリッジ修道院に面会に行ってもいつもベールを被っていたから、どんな風に容姿が変化しているか分からなかった。
…覚悟していたのだ。
38才になろうという女性なのだから、それなりに老け込んでいるだろうと。
それでも愛を貫こうと決めていた――のに!
ジョーカー王女の異次元の美しさは一体どうした事だ!?
あああ――くそッ!
娘よ、信仰を捨ててでも彼女を手に入れておけば良かったと後悔の嵐に苛まれている父の苦しみを少しは――
「お父様の役立たず」
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