『わたくしを誰だとお思い?』~若く美しい姫君達には目もくれず38才偽修道女を選んだ引きこもり皇帝は渾身の求婚を無かったことにされる~

ハートリオ

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3 晩餐会

61 ハート公王の事情聴取 1

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(蕩けますわ~~!)

(((はい~!)))


皇帝に突然キスされ恥じらうソルに全員が蕩けている。

室外(多分続きの調理室)からガシャーンと音がしたのは料理を運び入れるべく待機していた料理人の誰かが料理を落としてしまったのだろう――

分かる分かる、と扇を落としてしまった公女が頷く。

分かる分かる、と危うくヨダレを垂らしそうになった公女も頷く。

4公女達は何れも夢見心地。


その後晩餐会が始まり、『『取り敢えずは』ですか?』と尋ねる女神に『『取り敢えずは』だ』と答える銀龍陛下。

その頬もほんのりと染まり、瞳はキラキラと輝きを増して。

何よりも嬉しそうなのが何とも言えず尊くて――眩しくて――…


(『晩餐会』はメンクサで苦手でしたけど、こんな素敵な晩餐会は初めて…)

(お二人の初々しさと神々しさが晩餐会を何とも言えずキラキラな空間にして下さっていますわ…尊い…)


頬を染めて二人を見つめる公女達だが、父公王達の発言には驚き呆れてしまう。


『全然そうは見えないが彼女は私達と世代が近いのだろうな』
『誰かが修道院に隠したりしなければ学園でご一緒することもあったかもしれぬ』
『出会える機会もあったはずだ』
『きっと噂になっただろうから私なら絶対調査の上アプローチしていたはずだ』
『本来なら我々にもチャンスがあったはずなのに』
『全く、あれ程の美女を隠すとは愚かで浅慮で狭量な御仁もいたものだ』


等々、3公王たちはハート公王に遠慮のない恨み節。

『私は自分の失恋で手一杯だ』と意に介さないハート公王はポッカリ空いた胸の空洞をご馳走で埋めようと決めたらしくバクバクと料理たちを口に運んでいる。


(あんなにお似合いなお二人を前にしてもジョーカー王女殿下を諦められないって、公王陛下達ってある意味凄いわ~~)

(時折斬る様な皇帝陛下の視線を受けながらもモヤモヤし続けるって…)

(我が父ながら呆れると言うか…欲望が強い?欲望に素直?欲望に抗えない?)

(殿方とはそういうものなのかしら?
――いえ、人によるのでしょうね…女性でも凄い御方はいらっしゃるもの…でも男性の方が多いでしょうねぇ…)


公女達は未知なる生物『殿方』の謎が深まるばかり。

そんな娘たちを呆れさせている4公王たちも皇帝に話し掛けられれば蛇に睨まれた蛙のごとく色を失い、ジョーカー王女に話し掛けられれば恋に落ちたばかりの少年の様にキラキラしながら言葉を返し、公女達も頬を染め瞳をキラキラさせて会話に参加し、晩餐会は概ね『盛り上がった』と言っていいだろう。


晩餐会終了後。

皇帝はハート公王に30年前の話を訊く。

『事情聴取』である。


「偶然?
貴公は偶然その場に出くわしたというのか?」


皇帝の私室の一つで。

豪華な長椅子にドッカリと腰を下ろした皇帝がハート公王に確認する。

対面に座るハート公王は皇帝の圧に耐えながら説明する。


「はい…私は当時16才…学園の長期休暇を利用して気ままな旅をしておりました。
場所は帝国領とハート公国領とダイヤ公国領が接する帝国道です。
旅人しか通らない様な人気ひとけのない道でしかも夜中――にもかかわらず複数人の争う気配に何事かと様子を窺うと犯罪者集団と思われる者達と身なりの良い者達が剣で闘っていました」

「誘拐団12名とわたくしの護衛としてジョーカー王国から付いて来た騎士3名と…わたくしの専属執事ですね」


皇帝の隣に座るソルは苦し気に眉を寄せてフゥと一度大きく息を吐き出し、言葉を続ける。


「カード宮殿から拉致されたわたくしに気付いて追って来てくれた忠義の者達――ですが多勢に無勢――わたくしの目の前で命を奪われてしまいました…」

「私が駆けつけた時は亡くなった者達に取りすがるジョーカー王女殿下を誘拐団のボスと思われる男が引き離そうとしていた時で…私は必死にそのボスに剣を振り下ろしました」

けなければわたくしも斬られておりましたわ…ほほ‥」

「なにぃッ!貴様ッ」

「え…えぇぇッ!?
はッ…言われてみれば…初めての事で必死過ぎて…
『あッ一緒に斬っちゃった!』と思ったけど大丈夫だったからホッと胸を撫で下ろして…」

「やはり最初の予定通りお前を斬‥」

「皇帝陛下、ハート公王陛下のお陰で助かったのは間違いないので」

「やはり最初の予定通りお前を斬‥」

「ルーナエ陛下、ハート公王陛下のお陰で助かったのは間違いないので」

「うん、ソル姫。
避けてくれて良かった…それでその後は?
説明せよ、ハート公王」

「ヒッ‥ははっ!
私は気まま旅と言っても20名ほどの護衛騎士を連れておりましたので誘拐団はすぐに制圧出来ました――と言うか、ジョーカー王女殿下の騎士達が相当頑張ったのです…我々が駆けつけた時、誘拐団はほぼ壊滅状態でしたから。
立っていられる者はボス含めて3~4名で、しかも既に深手を負っていました」

「ええ…彼等は命を懸けて闘ってくれました…わたくしが共に闘えていれば…悔しい事にわたくしは毒のせいでフラフラ状態で‥」

「なッ‥攫われただけでなく君も毒を!?
…いや、攫う為に毒を…か…―では、あの日の午後のお茶会で毒を盛られた!?」

「間違いないと思いますわ…実はわたくし、その1週間ほど前にも毒を盛られていました――ですから、その後は警戒を強めていたのです」

「‥なッ…んと‥」

「ですから、皇后陛下とルーナエ陛下はわたくしの巻き添えとなったと思われます…まさかお二方とのお茶会に毒が混入されるはずは無いとわたくしを油断させる為に――そしてわたくしはその思惑通り警戒心を解いてしまい、毒を飲んでしまったのです――ジョーカー王国は曾祖父の代から政情不安が続いており、更に金髪金眼である為狙われる事が多かったわたくしは身を守る為の様々な対策をされておりました――その一つとして毒に体を慣らされていた為にお二方より軽い症状だったのかと」

「‥そっ‥君は、そんなにも厳しい状況下に‥」

「厳しく辛いのはルーナエ陛下も…とにかく今はハート公王陛下のお話を聞きましょう――ハート公王陛下、お聞きの通り、わたくしは毒物でぼんやりとしておりましたので、あの後の事がはっきりしていない部分もあるのです…お聞かせ下さい」

「そうだったのですか…私はてっきり恐怖で茫然とされていたのだと…あの後ですね…誘拐団を制圧した後、私は馬車にジョーカー王女殿下を乗せて一緒に宿に泊ま‥アッ、勿論別々の部屋です!」

「何故だ」

「えッ!?‥それは、会ったばかりだし色々とショックを受けている少女といきなり同室で泊まるのは…それはそうしたい気持ちもあり葛藤しましたが私は紳士‥」

「そこじゃない」

「―――は…?」

「何故すぐに最寄りの騎士団に連れて行かなかった?――『遅い時間だったから』なんて言い訳は通らぬぞ――騎士団は交代制で一日中対応出来るようになっている――犯罪被害者たちは騎士団でキチンと医術師の診察やカウンセラーのケアを受ける事が出来る様になっているのに、貴公はその夜もその後も騎士団に届ける事をしなかった――『犯罪を見聞きした者は騎士団に届け出る』という決まり事を無視した理由を聞いている」


地を這う様な低い声が鼓膜を震わせ、銀の双剣(視線)がピタリと自分に固定されている――ハート公王は生まれて初めて恐怖で泣きそうになっている自分を感じている――…
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