『わたくしを誰だとお思い?』~若く美しい姫君達には目もくれず38才偽修道女を選んだ引きこもり皇帝は渾身の求婚を無かったことにされる~

ハートリオ

文字の大きさ
112 / 117
6 そういえ話

111 お義父様におねだり 3

しおりを挟む
テネブラエ公とボヌスが振り返った先、開かれた両開きドアの所に立っているのはやはりソル――赤ん坊を産んだばかりの皇后である。

しかも?!

ほわ~~っと光るおくるみを抱いている…

おくるみ…え、赤ちゃん!?


男2人はパニックに!


「な、な、なに、なにして‥」
「そ、そ、それ、それはまさか‥」


まともに言葉が出ない2人にソルはにこやかに告げる。


「驚かせてしまった様でごめんなさい。
無事、生まれましたのでご報告に…
それと、もう名前が決まっていたら教えてほしくて…
この子を早く名前で呼んであげたいの」

「「ホゥ…」」


男2人は思わず溜息を漏らす。

赤ちゃんを抱いたソルの柔らかな微笑みは尊く、美しく…

何と表現すれば…そう、聖母!

この世界には無かった『聖母』という言葉が爆誕する。


「おめでとう!
大丈夫なんだな?
君も、皇子も」


そうだ、ソル姫なのだから多少普通と違っても大丈夫なのだろう…

テネブラエ公はそう納得して笑顔になる。


「ええ、魔力のせいか、わたくしはあっという間に完全回復出来ました。
この子は小さく生まれましたが、わたくしの魔力を纏って生まれましたので、何の心配もありませんわ…ただ、暫くはずっと眠っていると思いますが」

「どうぞ、父上もこの子の顔を見てあげてください♪…ボヌスも♪」

「ア、ルーメン居たのか、気付かなかった」

「しっ!‥クラールス様、思った事を全て口に出してはいけません‥」


ずっとソルの隣に居た皇帝にまるで気付かなかったテネブラエ公にボヌスが小声で注意する…とは言え実はボヌスも気付いていなかったのだが…


「ハハハ、仕方のない事です♪
この美しく尊い母子しか目に入らないのは当然の事ですから♪」


皇帝は超超超ゴキゲン♪である。

30年間の完全禁欲生活を経て結婚した妻とあっという間に生まれて来てくれた息子。

愛しくて愛しくてどうしようもないオーラは眩しいほど。

皇帝とソルの想いが通じ合ってからのカード宮殿、カード帝国は明るくウキウキとした華やかな空気に包まれていたが、今日は更に喜びに溢れている。


「それで父上♪皇子の名前の方は‥」

「あぁ、書いておいた♪ボヌス‥」

「ははっ!こちらでございます」


すっかり皇帝のゴキゲン♪口調がうつっている主に微笑みながら恭しく色紙を差し出すボヌス。


「おお、ありがとうございます、父上♪」
「ありがとうございます、お義父様!‥はッ‥」


皇帝が受け取った色紙を覗き込んだソルが息を呑む。

その瞳はたちまち涙で潤む。


「‥!?どうした?ソル…いい名前だ…と、思う…が?‥あ、いや、体調か?」
「ソル姫、その名前に何か問題があるのなら使ってくれなくともよいのだ…」


口々にソルを心配する皇帝とテネブラエ公。

ソルはユルユルと静かに首を横に振り、震える声で答える。

「いいえ、大変嬉しく思っております。
不思議な縁…と言うのでしょうか…
だってわたくし、誰にも言ってなかったはず…イグニスも知らなかったお母様とお兄様とわたくし3人だけの秘密の名前…お兄様のセカンドネーム…」


ハッと空気が揺れる。


「ソル…お兄様って――」
「も、もしや…」


動揺する父子に答える代わりにソルは腕に抱く小さな息子にやさしく語りかける。


「ヴェントゥス…あなたはヴェントゥスよ…
お祖父様に最高の名前を付けて頂いたわね…
わたくしとお父様のお兄様――あなたにとっては伯父様と同じ名前よ…
伯父様は強くて優しくてそれは素晴らしい人…同じ名前を戴くのはとても嬉しいわね」


小さなヴェントゥスは母の柔らかな声を聞きながらスヤスヤと眠っている。

テネブラエ公が震える声を絞り出す。


「ソ、ソル姫…彼は…私の息子はヴェントゥスというのか…!?」

「はい…お母様が付けたそうです。
この名前は生涯この子を守り導いてくれる事でしょう…
素晴らしい名前をありがとうございます、お義父様」


テネブラエ公は滂沱の涙を流す。


「‥そうか‥あの子はヴェントゥス‥アクワ姫が‥そうか‥」


後悔してもしきれない…操られていたとはいえ邪険にしてしまった息子。

自分そっくりだった茶色い瞳が悲し気に陰った…あの姿が忘れられない…


「お義父様、この小さなヴェントゥスを愛してあげてください。
この子を通してお兄様はお義父様の愛を受け取りますわ。
お母様もどんなに喜ぶことでしょう」

「ああ!もちろんだ!
愛しい思いが溢れて止まらない…!
ルーメン!この子は私が育てる!」

「なッ‥却下です!
俺の大切な子です!
父上は祖父として見守ってください!」

「クスクス…お義父様、まずは腕を治してください。
この子が赤ちゃんのうちに抱いてあげてくださいな」

「!!‥そうだな、なるほど!
全力で腕を治すぞ!」

「‥クラールス様、そんな無茶な‥」


そんな風に従者ボヌスに呆れた声を出させたテネブラエ公だが、一週間後、見事に再生させた両腕で小さなヴェントゥスを抱いて蕩ける様な顔をしている。

そんな姿を見ながら皇帝が関心する。


「本当にソルが言った通りだったな…『病は気から』的な事か?」

「ええ。お義父様はご自分を罰したい気持ちが強くて不便な状況を変えたくなかった――無意識にでしょうが、それが回復を遅らせていたのだと思います」

「だからと言って一週間で…驚いたな…
あ、父上、ヴェントゥスをどこへ連れて行こうとしているんです!?
駄目ですよ!返して…父上!!」


こっそり孫を拉致しようとするテネブラエ公――を焦った顔で追いかける皇帝。

ずっと疎遠だった皇帝と父も大切な時間を取り戻しているのだ。

小さなヴェントゥスを巡ってキャッキャとはしゃぐ様な父子の攻防を柔らかな金の瞳がやさしくみつめる――



月日が流れて――

小さかったヴェントゥスは12才。

おじいちゃん子に育ったヴェントゥスは今日も『モフモフの森の城』で祖父・テネブラエ公とお茶を楽しんでいる。

信じられない程幸せな時間に感謝しつつテネブラエ公は複雑な気持ちで孫を見る。

孫は整った美しい面立ちにスラリと秀でた体躯…だが茶髪茶目――テネブラエ公とまるで同じ色なのだ。

下の弟妹は金髪に銀眼とか銀髪に金眼などキラキラしい色なのに――


「‥お祖父様、私の顔が何か変ですか?
何故そのような悲し気な顔を?」

「‥あ!‥いや、違うのだ!‥その、ヴェントゥス、もし自分の色で悩む事があったら‥」

「私は自分の色に誇りを持っていますよ!」

「……へ?」


曇りの無い笑顔で言い切る孫にアホ面を返してしまう祖父。


「何故…いや、何故ってこと無いが、そ、その…」

「母上が‥」

「‥あ、ソル姫?」


ヴェントゥスは頬を上気させて大切な秘密を打ち明ける様に少し声を潜めて。


「母上が私の色を大好きだと…『あたたかな、優しい色』だと褒めてくれるのです。
私は母上が大好きだと言ってくれる自分の色が誇らしいのです!」


そう言ってソルに似た太陽の様な笑顔で笑った孫をテネブラエ公は抱きしめた。

茶色を貶められ傷ついた幼い頃の自分も一緒に。

『そうか』『よかった』『嬉しい』と繰り返して――


(私もソル姫の子供に生まれたかったな…)

などと思ってしまう自分に苦笑しフゥと息をつき。

今度は晴れやかな笑顔を浮かべる。


テネブラエ公はやっと『茶色の負い目』から解放されたのだ――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。 本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。 しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。 試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。 ◇   ◇   ◇ 「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」 「お断りいたします」 恋愛なんてもう懲り懲り……! そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!? 果たして、クリスタの恋の行方は……!?

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

虐げられた私が姉の策略で結婚させられたら、スパダリ夫に溺愛され人生大逆転しました。

専業プウタ
恋愛
ミリア・カルマンは帝国唯一の公爵家の次女。高貴な皇族の血を引く紫色の瞳を持って生まれたワガママな姉の陰謀で、帝国一裕福でイケメンのレナード・アーデン侯爵と婚約することになる。父親であるカルマン公爵の指示のもと後継者としてアカデミーで必死に勉強してきて首席で卒業した。アカデミー時代からの恋人、サイラスもいる。公爵になる夢も恋人も諦められない。私の人生は私が決めるんだから、イケメンの婚約者になど屈しない。地位も名誉も美しさも備えた婚約者の弱みを握り、婚約を破棄する。そして、大好きな恋人と結婚してみせる。そう決意して婚約者と接しても、この婚約者一筋縄ではいかない。初対面のはずなのに、まるで自分を知っていたかのような振る舞い。ミリアは恋人を裏切りたくない、姉の思い通りになりたくないと思いつつも彼に惹かれてく気持ちが抑えられなくなっていく。

処理中です...