『わたくしを誰だとお思い?』~若く美しい姫君達には目もくれず38才偽修道女を選んだ引きこもり皇帝は渾身の求婚を無かったことにされる~

ハートリオ

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6 そういえ話

114 この痛みが無ければ

いつからアステリスカス様を女性として意識したかと言えば最初――9才からだ。

9才と言っても私は栄養失調の為発育が悪く5才ぐらいにしか見えなかっただろうが…

あの時、アステリスカス様は男性の格好をしていて美しい顔の殆どはフードに隠れていた。

が、一目で分かった。

金色の光を纏った女神だと。

私は9才で初めての――そして一生の恋に落ちたのだ。


姉と私はアステリスカス様がいらっしゃるブリッジ修道院内にある孤児院に身を寄せる事にした。

アステリスカス様は姉と私を気に掛け、忙しい仕事の合間に少しでも時間を作って会いに来てくれた。

そんな時は震える程嬉しかったが、どう表現していいのか分からず全身で喜びを表現する姉とは対照的に私は無表情でいた。

そんな可愛げの無い私にもアステリスカス様は愛情を惜しみなく注いでくれた。

ある時不思議な事に気付いた。

アステリスカス様と体の一部が触れている時、アステリスカス様の心の声が聞こえるのだ。

初夏のある日、私はアステリスカス様に髪を切ってもらっていた。

≪ふふふ、綺麗な髪…つやつやサラサラね…こんなに綺麗なのだからアザレアの様に伸ばせばいいのにレケンスは短くしたがるのよね…≫

そんなアステリスカス様の心の声に耳まで赤くなっていた。

でも、いくらアステリスカス様の望みでも髪は伸ばせない。

少しでも男らしくなりたいから…

そこへ年配の修道女が呼びに来た。

『アス様、以前ハーブ園で助手をしていたアラケル様が結婚の報告に来ましたよ!
是非とも奥様をアス様に紹介したいと…』

『まぁ…アラケルは結婚したのね!良かったわ…何て目出度いことでしょう…』
≪…でも…会いたくない…一度でも愛を告白して来た人とは何故か二度と会いたくないと思ってしまうのよ…アラケルはせっかく結婚の報告に奥様まで連れて来てくれたというのにわたくしは何て薄情なのかしら…≫

(‥!!)

この時、アステリスカス様に思慕を悟られてはならないと決意した。

絶対に、

一生、だ。



☆☆☆




今でも悪夢を見る。

目玉男爵の地下施設。

あの時、地下室に突入して来たアステリスカス様は凄く強かったけど敵の刃も多数その体に受けていた。

敵の刃がアステリスカス様の体を貫くのを目に映しながら何も出来なかった。

同時に3人の刃を受けた時よろめいて、一瞬フードがめくれて苦痛に歪んだ表情が露わになった――

『やめろぉぉッ!!』

いつもそこで叫んで目が覚める。

全身冷たい汗をかいて、心臓がバクバクと内側から胸を打ちつける。

『――クソッ!!』

騎士になる!

アステリスカス様の騎士に。

二度とあの人を害させない!

一生あの人の傍であの人の騎士として在る!

それがこの先の自分の一生の望み――目標。

そう決めた。

傍で命を捧げる。

それ以上なんて望まない。


それでも――

アステリスカス様に縁談が持ち掛けられる度に心中に嵐が吹き荒れる。

ベールの中に女神過ぎる魅力を隠してしまっても男達を惹きつけてやまないアステリスカス様。

――早く年を取ってしまえばいいのに。

早く、早く…!

一刻も早く縁談の対象外になって欲しい…

私の焦燥をよそにアステリスカス様は一向に年を取っているように見えない。

初めて会った時のまま…いや、魅力はさらに増す一方――

それでも年齢を聞けば縁談を諦める男が増えて来て――(本当に…本当にベールを被っていてくれて良かった…本当の姿を知られてしまったら、男達は絶対諦めないだろう)

そして漸く縁談自体がなくなって来たと思っていたのに――

まさかの世界のトップ――カード皇帝陛下がアステリスカス様と会う事になった。

阻止できればしたかったが…

アステリスカス様が望んでいる事だから邪魔できなかった。

アステリスカス様は恋に無関心だからと油断もしていた。

だからまさか会ってすぐに事態が進んでしまうなんて。



『――え?』

『用事なら明日まで待て。もう夜も遅いしジョーカー王女殿下は陛下の私室だ…人払いされていて、まぁ、そういう事だ』

ッ急すぎる!

昨日会ったばかりで――急すぎるッ!!

今日の昼間、私が騎士団総長と揉めていた間に一悶着あったらしい。

何でも陛下がご乱心で秘密の神殿が消失したとか――


「――ッ‥」
ドコッ!!


砕けてしまえとばかりに拳で壁を突いた。

その通り、拳の骨は粉々になった様だ。

骨折は腕までも続いている。

腕の皮膚を破って白い骨が突き出ている。

徐々に…そして急激に痛みがやって来る。

「―――ッ、―ッッ」

流れる血――

激しく暴力的になっていく痛み――

拳はもうグチャグチャでどうなっているのか分からない

利き腕の肘から先をダメにしてしまった

騎士職はもう務まらないだろう

何て馬鹿な事をと人は嗤うだろう

だが

これは必須だ

何故なら

私は

――俺は


この痛みが無ければこの夜を越えられそうにない――
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