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6 そういえ話
116 ミルクティーを淹れようか
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レケンスはミルクティーから視線を上げ、姉を見る。
そして爽やかな笑顔を浮かべて静かに答える。
「姉上、やはり勘違いをしていますね。
ソル様は私の主。
主の幸せは従の幸せです。ソル様と陛下の仲睦まじい姿を傍で見られるなんてこの上もない喜びです」
「‥レケンス、あんたねぇ‥」
〈カッ〉
「お待たせ!」
「アス様!」
「いらっしゃい?」
「‥!」
二人の前に転移して来たソルが、アザレアに向かって手を広げる。
アザレアは小さな子供の様に喜色満面でソルに駆け寄り抱きつく。
「アス様ッ…」
「体調はどう?」
「?はい…ここのところあまり良くなかったのですが、アス様に会えたから絶好調になりました!」
「そう…悪阻ね…」
「…え?…」
悪阻?
それは妊婦に起こる事だから、自分には関係ないとアザレアは不思議に思う。
「妊娠しているわ」
「えぇ!?私が!?まさか!だって私は…」
不妊症――
のはずだ。
3度の結婚。
いずれも期間は短かったとはいえ、随分と愛し合った。
だが、3人の夫の誰の子も身籠る事は無かった。
避妊もせずあんなに愛し合って妊娠しなかったのだから――子を授かれない体なのだろうと自分も周りも思っていた。
「さ、ソファに座りましょうね。…それで、もしかして父親はあの御方?
修道院にお菓子を届ける様に頼んでもらった牡丹色の髪の…」
アザレアを支えソファに座らせながら聞きにくそうにソルが聞く。
そんなソルの心配そうな様子に気付かない程にアザレアは驚いている。
「私に…子供が!?‥本当に!?‥わ、私…母親になれるの!?
‥あ、父親…はい、私、男断ちというワケではないのですがここ半年ほどは恋人を作っていませんでしたから…あの旅人風の人で間違いありません…で、でも!」
不意にアザレアは焦った顔をして。
「あの人に知らせないで欲しいのですが…子供は私だけで育てたいと思います!
あの人は…その…愛を知らない人の様でしたから…愛の無い親に育てられる子供の悲惨さを私は知っています…子供は私だけの子…私一人で育てます…!」
震えながら訴えるアザレアをソルはふわりと抱きしめる。
「…残念なことに、伝えたくてもあの人はもう亡くなってしまったそうなの。
わたくしは彼に陛下への手紙を届けてもらったのに…
お礼すら言えなかったわ…」
「…!…亡くなった…
元気だったのに…
事故…ですか?」
「わたくしも詳しくは知らないの。
陛下の大切な部下だったそうよ」
「そうだったのですか…でも、それなら私一人で育てていいのですね。父親のいない分、私がたくさん愛します。
…彼には一瞬恋をしましたが、今はもう顔も覚えていません。
子供に父親の話をしてやれないのが可哀想ですが、大丈夫です。
私が一人で立派に育て‥」
「一人で育てることないわ。
わたくしもレケンスもいるでしょう?」
「‥は、はい…ですが…カード宮殿とブリッジ・シティは遠いですから…」
不意にアザレアは心細くなる。
働きながら一人で子供を育てる――そんな事、自分に出来るだろうか?
生活が逼迫しても、自分は子供にやさしく出来るだろうか――?
「――アザレア、わたくしの侍女になる気は無い?」
耳元でやさしく響く女神の声。
「…え…わ、私が、アス様の…侍女!‥わ、私なんかが…」
「アザレアがいいのよ!」
「姉上…ソル様の侍女には4公国の姫君達が名乗りを上げ、保留されている状態です。そんな中、ソル様直々にお声掛け頂くなど大変名誉な事です――コホン、遠慮なんかしていると他の人に譲る事になりますよ?ソル様の侍女になりたい人は大勢いるのです」
「やる!アス様、私やります!やらせてくださいッ!」
「あらあら、さすがレケンスね。説得してくれてありがとう。
アザレア、決心してくれて嬉しいわ。
勿論、子供を産んで、落ち着いてからでいいのよ。
ふふ、レケンスもアザレアに近くにいて欲しいのね。
アザレア、レケンスは大変な仕事をしていて、わたくしには言い辛い悩みもあるだろうから、レケンスの悩み相談もお願いするわね」
「ソル様、私は別に」
「レケンス、『叔父様』になるのね。
嬉しいわね!」
「―――!はい!
男の子だったら剣術を教え込み、女の子だったらどろどろに甘やかします!」
「はぁ?レケンスったら…とんだ叔父バカになりそうね?」
(…あら…)
弟の顔に作られた『爽やか笑顔』ではなく、素の笑顔が浮かんでいるのを見て、アザレアは心が温かくなる。
もちろんソルもレケンスの素の笑顔に気付いていて、ホッとしている。
(やっぱり、レケンスの心を慰められるのはアザレアね…
大変な幼少時代を助け合って乗り越えた姉弟ですもの。
強い絆で結ばれているのだわ。
アザレアの傍にはレケンスが、レケンスの傍にはアザレアがいてくれれば心強いわ)
姉弟を見つめるのは柔らかな光を湛えた金色の瞳。
女神の幸せそうな微笑に気付いた姉弟は頬を染める。
嬉しくて仕方ない。
「あら…すっかり遅くなってしまったわね…」
時計に気付いたソルはスッと立ち上がり、姉弟に悪戯っぽく提案する。
「ねぇ、久しぶりにわたくしと悪い事をしませんこと?」
「「!!」」
「「真夜中のお茶会!」」
キラキラした瞳で子供の様に声を揃えた姉弟。
「可愛いわたくしの君たちの為に――」
ソルはウインクして続ける。
――ミルクティーを淹れようか――
そして爽やかな笑顔を浮かべて静かに答える。
「姉上、やはり勘違いをしていますね。
ソル様は私の主。
主の幸せは従の幸せです。ソル様と陛下の仲睦まじい姿を傍で見られるなんてこの上もない喜びです」
「‥レケンス、あんたねぇ‥」
〈カッ〉
「お待たせ!」
「アス様!」
「いらっしゃい?」
「‥!」
二人の前に転移して来たソルが、アザレアに向かって手を広げる。
アザレアは小さな子供の様に喜色満面でソルに駆け寄り抱きつく。
「アス様ッ…」
「体調はどう?」
「?はい…ここのところあまり良くなかったのですが、アス様に会えたから絶好調になりました!」
「そう…悪阻ね…」
「…え?…」
悪阻?
それは妊婦に起こる事だから、自分には関係ないとアザレアは不思議に思う。
「妊娠しているわ」
「えぇ!?私が!?まさか!だって私は…」
不妊症――
のはずだ。
3度の結婚。
いずれも期間は短かったとはいえ、随分と愛し合った。
だが、3人の夫の誰の子も身籠る事は無かった。
避妊もせずあんなに愛し合って妊娠しなかったのだから――子を授かれない体なのだろうと自分も周りも思っていた。
「さ、ソファに座りましょうね。…それで、もしかして父親はあの御方?
修道院にお菓子を届ける様に頼んでもらった牡丹色の髪の…」
アザレアを支えソファに座らせながら聞きにくそうにソルが聞く。
そんなソルの心配そうな様子に気付かない程にアザレアは驚いている。
「私に…子供が!?‥本当に!?‥わ、私…母親になれるの!?
‥あ、父親…はい、私、男断ちというワケではないのですがここ半年ほどは恋人を作っていませんでしたから…あの旅人風の人で間違いありません…で、でも!」
不意にアザレアは焦った顔をして。
「あの人に知らせないで欲しいのですが…子供は私だけで育てたいと思います!
あの人は…その…愛を知らない人の様でしたから…愛の無い親に育てられる子供の悲惨さを私は知っています…子供は私だけの子…私一人で育てます…!」
震えながら訴えるアザレアをソルはふわりと抱きしめる。
「…残念なことに、伝えたくてもあの人はもう亡くなってしまったそうなの。
わたくしは彼に陛下への手紙を届けてもらったのに…
お礼すら言えなかったわ…」
「…!…亡くなった…
元気だったのに…
事故…ですか?」
「わたくしも詳しくは知らないの。
陛下の大切な部下だったそうよ」
「そうだったのですか…でも、それなら私一人で育てていいのですね。父親のいない分、私がたくさん愛します。
…彼には一瞬恋をしましたが、今はもう顔も覚えていません。
子供に父親の話をしてやれないのが可哀想ですが、大丈夫です。
私が一人で立派に育て‥」
「一人で育てることないわ。
わたくしもレケンスもいるでしょう?」
「‥は、はい…ですが…カード宮殿とブリッジ・シティは遠いですから…」
不意にアザレアは心細くなる。
働きながら一人で子供を育てる――そんな事、自分に出来るだろうか?
生活が逼迫しても、自分は子供にやさしく出来るだろうか――?
「――アザレア、わたくしの侍女になる気は無い?」
耳元でやさしく響く女神の声。
「…え…わ、私が、アス様の…侍女!‥わ、私なんかが…」
「アザレアがいいのよ!」
「姉上…ソル様の侍女には4公国の姫君達が名乗りを上げ、保留されている状態です。そんな中、ソル様直々にお声掛け頂くなど大変名誉な事です――コホン、遠慮なんかしていると他の人に譲る事になりますよ?ソル様の侍女になりたい人は大勢いるのです」
「やる!アス様、私やります!やらせてくださいッ!」
「あらあら、さすがレケンスね。説得してくれてありがとう。
アザレア、決心してくれて嬉しいわ。
勿論、子供を産んで、落ち着いてからでいいのよ。
ふふ、レケンスもアザレアに近くにいて欲しいのね。
アザレア、レケンスは大変な仕事をしていて、わたくしには言い辛い悩みもあるだろうから、レケンスの悩み相談もお願いするわね」
「ソル様、私は別に」
「レケンス、『叔父様』になるのね。
嬉しいわね!」
「―――!はい!
男の子だったら剣術を教え込み、女の子だったらどろどろに甘やかします!」
「はぁ?レケンスったら…とんだ叔父バカになりそうね?」
(…あら…)
弟の顔に作られた『爽やか笑顔』ではなく、素の笑顔が浮かんでいるのを見て、アザレアは心が温かくなる。
もちろんソルもレケンスの素の笑顔に気付いていて、ホッとしている。
(やっぱり、レケンスの心を慰められるのはアザレアね…
大変な幼少時代を助け合って乗り越えた姉弟ですもの。
強い絆で結ばれているのだわ。
アザレアの傍にはレケンスが、レケンスの傍にはアザレアがいてくれれば心強いわ)
姉弟を見つめるのは柔らかな光を湛えた金色の瞳。
女神の幸せそうな微笑に気付いた姉弟は頬を染める。
嬉しくて仕方ない。
「あら…すっかり遅くなってしまったわね…」
時計に気付いたソルはスッと立ち上がり、姉弟に悪戯っぽく提案する。
「ねぇ、久しぶりにわたくしと悪い事をしませんこと?」
「「!!」」
「「真夜中のお茶会!」」
キラキラした瞳で子供の様に声を揃えた姉弟。
「可愛いわたくしの君たちの為に――」
ソルはウインクして続ける。
――ミルクティーを淹れようか――
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