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6 そういえ話
115 狂いますよ?
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「‥ッ、手の施しようが…無いッ…
レケンス、一体誰にやられた!?
帝国一…つまり世界一の剣豪であるお前の利き腕の肘から先を潰したのは何処のどいつだッ!?」
近衛騎士団診療所でレケンスの腕の怪我を診た医術師が唸る様に言った。
「誰にもやられてません。
私が馬から落ちたのです」
「馬から落ちただけでそんななるか!
大体、お前が馬から落ちるものか!
馬がお前を落とさない!」
「レケンス…君は我が近衛騎士団の宝だ。
私の後を任せられるのは――つまり次期近衛騎士団長は君しかいないと思っている!
そんな君を害されて我々は黙っているわけにはいかない!
一体誰にやられたのか正直に話して欲しい」
診察を受けるレケンスの右側に立つ騎士団総長と左側に立つ近衛騎士団長がレケンスを挟みわぁわぁ言う。
――うるさい――
近衛騎士団寮の自室で自分で自分の拳と腕を害し寝ていた(痛みで気絶していた?)ところを翌朝近衛騎士団の仲間に発見され今に至るのだが。
痛みで朦朧としているのに周りが煩すぎる。
「私は本当に‥
〈カッ〉
‥ハッ!」
「わたくしが治療します」
「「「えッ!?」」」
「なッ、お美しい!‥あ、いや、ジョーカー王女殿下、何故ここへ!?」
「あぁ…何と麗しい‥っと、い、いつの間に‥どうやってここへ!?」
「こ‥こちらが噂のジョーカー王女殿下…美し過ぎる…女神…尊い…」
澄んだ声と共に突然診療所の入り口に現れたソルが室内に入って来るのを驚愕の表情で見つめながら、騎士団総長、近衛騎士団長、医術師が声を震わせる。
「アス‥ソル様…治療は無理だと帝国一の医術師に言われたばかりですから!」
首を横に振りながら必死に断るレケンス。
本当なら騎士としてソルの前に跪きたいのだが、椅子に座っているのさえ辛く足に力を入れても1ミリも動けない。
それでも必死に固辞するレケンスの姿に、騎士団総長達もハッとして――
「いけません!このような男ばかりの場所にジョーカー王女殿下がいらっしゃってはッ!‥こ、皇帝陛下がお許しになられません!」
「わたくしがわたくしの大切な家族を治療するのに陛下の許可は要りません」
「あぁ、家族で‥ハッ!いえいえ!違いますよね!『家族の様な』という事で、血縁関係ではないですよね!‥いえ、たとえ血縁関係にある御方でも、皇帝陛下は過度な接触をお許しには‥ハッッ!?」
ソルはデカ‥大きな体でぎゃぁぎゃぁ騒ぐ騎士団総長をヒタと見据えて。
「下がりなさい。
一刻を争うこの時にこれ以上の邪魔をするなら――」
(な、なら――?)
「許さなくてよ」
ドサリッ
騎士団総長が真っ赤な顔で胸を押さえプルプルしながら床に倒れた!
「はぁ、はぁ、あぁ…ソル女王様…この豚めをピンヒールで踏みつけて下さいッ」
どうやらソルが何かしたわけではなく、何やら新たな扉を開いて感極まって倒れた様である。
近衛騎士団長も真っ赤な顔で鼻血を吹いているし、医術師は表情こそ変わっていないが口の両端からヨダレが溢れ出ている。
騎士団員達は全員精神面のカウンセリングを受けた方がいい様である…
様子はどうあれ全員黙ったのでソルはレケンスに向き直る。
「ソル様‥えッ!?」
レケンスは診察椅子に座り、前に置かれたテーブルに無惨な状態の左手を乗せている。
ソルはテーブルの前に立ち、グチャグチャになっている拳の部分を両手で包むように触れる。
「いけません!ソル様のお手が汚れます!‥あッ…」
金色の光に包まれてレケンスは言葉を失う。
…あったかい…
そうだ…いつもこうして温めてくれた…
「落馬するなんて…」
「…すみません…」
「まともに馬に乗れない騎士など、わたくしの護衛には出来ないことよ」
「――ッッ!
あ、いえ!‥あの‥
ッ落馬は、嘘で――」
どうしてもソルの護衛騎士になりたいレケンスは白状する。
「分かっているわ。
レケンスが馬上で寝ていたって馬がレケンスを落とさないわ。
レケンスは動物に好かれるもの…
…宮殿の東の森に翼竜の家族が棲んでいるの、知ってる?」
「…はい…陛下が飼われていると聞いていま‥」
(……ッッ!)
「ええ…30年前からだそうよ。最初は銀色と金色の珍しい翼竜を飼いだして…」
≪…痛いでしょう?…可哀想に…直ぐに気付いてあげられなくてごめんなさい…≫
(…アステリスカス様ッ…)
手が触れている為、レケンスにはソルの心の声が聞こえているのだ。
ソルは世間話をする様に翼竜の話を続けながらその心中は震えていて――
≪こんなに酷く壁に打ち付けるなんて…一体何があなたを苦しめているの?…わたくしは無力だわ…レケンスは何も相談してくれないもの…どうしたらいいの…≫
(…泣いて…いる…アステリスカス様の心が…ッ………俺は…ッ)
騎士団総長、近衛騎士団長、医術師は驚愕する。
レケンスの双眸から涙が流れているのだ。
付き合いだして半年だがレケンスが感情を露わにした事は一度もない。
そんなレケンスの両眼から静かに涙が溢れ続けている。
(何だ…やっぱり痛かったんだな…)
(ふむふむ、家族の様なジョーカー王女殿下を前にして気が緩んだと見える…)
(痛いのにやせ我慢してたんだなぁ…あれだけの怪我、泣き叫んで当たり前、別に恥ずかしくないのに…)
見当はずれの男達。
それ以上に見当はずれの女が両手でレケンスの涙に濡れた頬を包む。
「‥ッッ!?」
「これからは痛い時、困った時はいつでもわたくしに言うのよ?
わたくしの気付かないところでレケンスが痛みに苦しんでいるなんて嫌よ?
もうわたくしに後悔させないと約束して頂戴」
≪お願いよ…レケンスが強い事は知っている…でも少しはわたくしを頼って…≫
「‥あ‥あの‥ッ‥」
真っ赤に上気したレケンスの頬を包んだままソルは真剣な金の眼差しを外さない。
(――ッ、そういう、理性を破壊する行為をするなら、俺は――ッ!)
レケンスはソルの手を逃れてスッと立ち上がる。
(――狂いますよ?)
だがレケンスが動くよりも早くソルが動く。
「良かった!元気になったわね!」
「――ッッ!」
ふわりと抱きしめられてボーゼンとするレケンス。
有無を言わさず抱きしめようと思っていたのに先に抱きしめられてしまって我に返り、抱きしめ返すことも出来ずに両手の拳をグッと握る。
――ん?
拳をグッと握る?
「レ、レケンス!?お前、腕も拳も治っているぞッ!」
「本当だ!凄い!‥う、嘘だろ!?」
「あの金色の光は――魔法!?」
騒ぐ騎士団総長たち。
レケンスも信じられない思いで完全復活した拳を結んだり開いたりしている。
「アス‥ソル様、これは…」
「レケンスは無自覚だろうけど魔力持ちなのよ。それに血液以外欠けた組織も無かったから完全に治せたわ」
開いた手のひらを見つめながらレケンスは冷静さを取り戻す。
「―――騎士を‥」
(…危ないところだった…この人の傍に居続けるのが俺の一生の望み。――気持ちを悟られてしまったらこの人は俺から離れてしまう…)
レケンスはソルの前に跪き。
ソルを見上げ爽やかに笑う。
「ありがとうございます…諦めていた騎士を続けられます!
どうか私をアステ‥ソル様の護衛騎士にしてください!
私の命をソル様に捧げさせてください!!」
(レケンス…いつも通りに戻ったわ…)
「‥それは先ず近衛騎士を辞めないとね?
その話とは別にアザレアを訪ねたいからその時護衛としてついて来てくれる?
近衛騎士団長、レケンスを借りていいかしら?」
「‥ははい!レケンスからは少し前に長期休暇の届けが出ていますから、休暇中であれば問題ありませんッ」
「近衛騎士団長、退職願も受け取ってください」
「‥はぁ!?それは駄目だ!どさくさに紛れて受理させようとするな!ったく‥
こら、上司をギロリと睨むな!――ちょ、どこへ行く?」
「風呂に。主であるソル様の前でこんな血と汗でドロドロではいられません」
「だからッ!お前はまだ近衛騎士団員だし、辞めさせる積もり無いからぁ!」
くすっ‥
ソルが笑うので、
ドドドサリッ
騎士団総長、近衛騎士団長、医術師が胸を押さえプルプルしながら恍惚の表情で床に倒れた――
レケンス、一体誰にやられた!?
帝国一…つまり世界一の剣豪であるお前の利き腕の肘から先を潰したのは何処のどいつだッ!?」
近衛騎士団診療所でレケンスの腕の怪我を診た医術師が唸る様に言った。
「誰にもやられてません。
私が馬から落ちたのです」
「馬から落ちただけでそんななるか!
大体、お前が馬から落ちるものか!
馬がお前を落とさない!」
「レケンス…君は我が近衛騎士団の宝だ。
私の後を任せられるのは――つまり次期近衛騎士団長は君しかいないと思っている!
そんな君を害されて我々は黙っているわけにはいかない!
一体誰にやられたのか正直に話して欲しい」
診察を受けるレケンスの右側に立つ騎士団総長と左側に立つ近衛騎士団長がレケンスを挟みわぁわぁ言う。
――うるさい――
近衛騎士団寮の自室で自分で自分の拳と腕を害し寝ていた(痛みで気絶していた?)ところを翌朝近衛騎士団の仲間に発見され今に至るのだが。
痛みで朦朧としているのに周りが煩すぎる。
「私は本当に‥
〈カッ〉
‥ハッ!」
「わたくしが治療します」
「「「えッ!?」」」
「なッ、お美しい!‥あ、いや、ジョーカー王女殿下、何故ここへ!?」
「あぁ…何と麗しい‥っと、い、いつの間に‥どうやってここへ!?」
「こ‥こちらが噂のジョーカー王女殿下…美し過ぎる…女神…尊い…」
澄んだ声と共に突然診療所の入り口に現れたソルが室内に入って来るのを驚愕の表情で見つめながら、騎士団総長、近衛騎士団長、医術師が声を震わせる。
「アス‥ソル様…治療は無理だと帝国一の医術師に言われたばかりですから!」
首を横に振りながら必死に断るレケンス。
本当なら騎士としてソルの前に跪きたいのだが、椅子に座っているのさえ辛く足に力を入れても1ミリも動けない。
それでも必死に固辞するレケンスの姿に、騎士団総長達もハッとして――
「いけません!このような男ばかりの場所にジョーカー王女殿下がいらっしゃってはッ!‥こ、皇帝陛下がお許しになられません!」
「わたくしがわたくしの大切な家族を治療するのに陛下の許可は要りません」
「あぁ、家族で‥ハッ!いえいえ!違いますよね!『家族の様な』という事で、血縁関係ではないですよね!‥いえ、たとえ血縁関係にある御方でも、皇帝陛下は過度な接触をお許しには‥ハッッ!?」
ソルはデカ‥大きな体でぎゃぁぎゃぁ騒ぐ騎士団総長をヒタと見据えて。
「下がりなさい。
一刻を争うこの時にこれ以上の邪魔をするなら――」
(な、なら――?)
「許さなくてよ」
ドサリッ
騎士団総長が真っ赤な顔で胸を押さえプルプルしながら床に倒れた!
「はぁ、はぁ、あぁ…ソル女王様…この豚めをピンヒールで踏みつけて下さいッ」
どうやらソルが何かしたわけではなく、何やら新たな扉を開いて感極まって倒れた様である。
近衛騎士団長も真っ赤な顔で鼻血を吹いているし、医術師は表情こそ変わっていないが口の両端からヨダレが溢れ出ている。
騎士団員達は全員精神面のカウンセリングを受けた方がいい様である…
様子はどうあれ全員黙ったのでソルはレケンスに向き直る。
「ソル様‥えッ!?」
レケンスは診察椅子に座り、前に置かれたテーブルに無惨な状態の左手を乗せている。
ソルはテーブルの前に立ち、グチャグチャになっている拳の部分を両手で包むように触れる。
「いけません!ソル様のお手が汚れます!‥あッ…」
金色の光に包まれてレケンスは言葉を失う。
…あったかい…
そうだ…いつもこうして温めてくれた…
「落馬するなんて…」
「…すみません…」
「まともに馬に乗れない騎士など、わたくしの護衛には出来ないことよ」
「――ッッ!
あ、いえ!‥あの‥
ッ落馬は、嘘で――」
どうしてもソルの護衛騎士になりたいレケンスは白状する。
「分かっているわ。
レケンスが馬上で寝ていたって馬がレケンスを落とさないわ。
レケンスは動物に好かれるもの…
…宮殿の東の森に翼竜の家族が棲んでいるの、知ってる?」
「…はい…陛下が飼われていると聞いていま‥」
(……ッッ!)
「ええ…30年前からだそうよ。最初は銀色と金色の珍しい翼竜を飼いだして…」
≪…痛いでしょう?…可哀想に…直ぐに気付いてあげられなくてごめんなさい…≫
(…アステリスカス様ッ…)
手が触れている為、レケンスにはソルの心の声が聞こえているのだ。
ソルは世間話をする様に翼竜の話を続けながらその心中は震えていて――
≪こんなに酷く壁に打ち付けるなんて…一体何があなたを苦しめているの?…わたくしは無力だわ…レケンスは何も相談してくれないもの…どうしたらいいの…≫
(…泣いて…いる…アステリスカス様の心が…ッ………俺は…ッ)
騎士団総長、近衛騎士団長、医術師は驚愕する。
レケンスの双眸から涙が流れているのだ。
付き合いだして半年だがレケンスが感情を露わにした事は一度もない。
そんなレケンスの両眼から静かに涙が溢れ続けている。
(何だ…やっぱり痛かったんだな…)
(ふむふむ、家族の様なジョーカー王女殿下を前にして気が緩んだと見える…)
(痛いのにやせ我慢してたんだなぁ…あれだけの怪我、泣き叫んで当たり前、別に恥ずかしくないのに…)
見当はずれの男達。
それ以上に見当はずれの女が両手でレケンスの涙に濡れた頬を包む。
「‥ッッ!?」
「これからは痛い時、困った時はいつでもわたくしに言うのよ?
わたくしの気付かないところでレケンスが痛みに苦しんでいるなんて嫌よ?
もうわたくしに後悔させないと約束して頂戴」
≪お願いよ…レケンスが強い事は知っている…でも少しはわたくしを頼って…≫
「‥あ‥あの‥ッ‥」
真っ赤に上気したレケンスの頬を包んだままソルは真剣な金の眼差しを外さない。
(――ッ、そういう、理性を破壊する行為をするなら、俺は――ッ!)
レケンスはソルの手を逃れてスッと立ち上がる。
(――狂いますよ?)
だがレケンスが動くよりも早くソルが動く。
「良かった!元気になったわね!」
「――ッッ!」
ふわりと抱きしめられてボーゼンとするレケンス。
有無を言わさず抱きしめようと思っていたのに先に抱きしめられてしまって我に返り、抱きしめ返すことも出来ずに両手の拳をグッと握る。
――ん?
拳をグッと握る?
「レ、レケンス!?お前、腕も拳も治っているぞッ!」
「本当だ!凄い!‥う、嘘だろ!?」
「あの金色の光は――魔法!?」
騒ぐ騎士団総長たち。
レケンスも信じられない思いで完全復活した拳を結んだり開いたりしている。
「アス‥ソル様、これは…」
「レケンスは無自覚だろうけど魔力持ちなのよ。それに血液以外欠けた組織も無かったから完全に治せたわ」
開いた手のひらを見つめながらレケンスは冷静さを取り戻す。
「―――騎士を‥」
(…危ないところだった…この人の傍に居続けるのが俺の一生の望み。――気持ちを悟られてしまったらこの人は俺から離れてしまう…)
レケンスはソルの前に跪き。
ソルを見上げ爽やかに笑う。
「ありがとうございます…諦めていた騎士を続けられます!
どうか私をアステ‥ソル様の護衛騎士にしてください!
私の命をソル様に捧げさせてください!!」
(レケンス…いつも通りに戻ったわ…)
「‥それは先ず近衛騎士を辞めないとね?
その話とは別にアザレアを訪ねたいからその時護衛としてついて来てくれる?
近衛騎士団長、レケンスを借りていいかしら?」
「‥ははい!レケンスからは少し前に長期休暇の届けが出ていますから、休暇中であれば問題ありませんッ」
「近衛騎士団長、退職願も受け取ってください」
「‥はぁ!?それは駄目だ!どさくさに紛れて受理させようとするな!ったく‥
こら、上司をギロリと睨むな!――ちょ、どこへ行く?」
「風呂に。主であるソル様の前でこんな血と汗でドロドロではいられません」
「だからッ!お前はまだ近衛騎士団員だし、辞めさせる積もり無いからぁ!」
くすっ‥
ソルが笑うので、
ドドドサリッ
騎士団総長、近衛騎士団長、医術師が胸を押さえプルプルしながら恍惚の表情で床に倒れた――
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