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03 不愉快なモーブ猊下と震える令息達
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バトル会場となるのは『控室D』
邪魔が入る心配の無い、予備の控室だ。
室内も広いし、そこここに座り心地の良さそうな椅子もあるし、宮廷侍女達がテキパキとちょっとしたドリンクやフードを運び入れてくれている。
王宮側が協力的なのは、ショコラ公爵令嬢に早めに正式なパートナーを見つけてもらいたい、という思惑があるのかもしれない。
美女が婚約者も無くフラフラしていれば、彼女を巡ってシャレにならない争いや犯罪が起きないとも限らないいや起きるいや起きたまぁ未遂だったが。
「え~~、で、ではッ
適当に座って頂きましょうかッ
プラリネはここに。
モ、モーブ猊下、い、妹のエスコートをあ、有難うござまッたッ」
彼女の兄が何故か裏返った声で場を取り仕切り始める。
噛んだような気がしたが最近の若者言葉かもしれない。
あぁ、短い間だったが彼女をエスコート出来て幸せだった。
髪やドレスを褒めれば、瞳をキラキラさせて嬉しそうに微笑み、
「有難うございます。
モーブ猊下も素敵です」
などと可愛い返事を返す彼女。
くッ、攫いたい。
私の腕に回した手を離す直前、キュッと強く握って来たのは気のせいか?
「エスコート、
有難うございます。
すごく嬉し‥‥
光栄でした」
「こちらこそ」
ああ、今後他の男に彼女をエスコートする栄誉を与えたくない。
頬を染め、熱のこもった潤んだ瞳で見上げて来る『エスコート特典』を他の男も受けるのかと思うと温度が下がる‥‥
「で、ででででわッ!
私が先ず、先陣を切らせて頂いてもよッちぃでしょおきゃッ!
モ、モーブ猊下ァッ」
うるさい。
私の名を絶叫するな。
裏返った声で噛むのが最近の流行りか?
第一、何故私だけにお伺いを立てるのだ?
年寄りだからか?
年長者に忖度している積もりかもしれないが、やり過ぎれば差別だぞ?
ふ‥‥ん
ポエム全般に深い造詣のある、ワッフル侯爵令息か‥‥
一番最初は評価が厳しくなりがちなのに、敢えて挑むか。
私の『根拠のない自信』とは違う、経験に裏付けられた確かな自信が有るのだな。
その上で、最初にカマシて、他を圧倒し、優位に立とうという腹積もりか。
――いいだろう。
「勿論、どうぞ。
お手並み拝見させて頂こう」
「ハッ!ハイィッ!
お、おい!
準備をッ!」
準備だと?
ム?
ゾロゾロと小楽団が入室して来る?
「ワッフル侯爵令息、彼等は?」
「わぁッ!あッ、え、
私の楽団っすですッ!
わ、私はいつも彼等の演奏をバックにポエムを披露しりゅが常で、ハァ、ハァ、」
随分と手回しが良い。
いや、良過ぎる。
ワッフル侯爵令息はこのバトルがある事を知っていた?
でなければ楽団を準備出来ないだろう。
茶会やこじんまりとした夜会ならまだしも、王家主催の夜会で一令息がポエムを披露する事は無い。
あぁ、なるほど。
ワッフル侯爵令息と彼女の兄は友人関係か。
アイコンタクトの雰囲気からすると親友かな。
つまりこれは出来レース。
ワッフル侯爵令息が勝つ為のお膳立てだからこそのポエム対決。
ッ、不愉快だな!
「ッ!」ガターーン!
「ヒッ」バタッ
「ゥッ」ドサリッ
!?
何だ、どうした!?
私の周りに座っていた令息達が一斉に椅子から転げ落ちた。
私が不快さに足を組み髪をかき上げていた間に何かあったのか?
椅子はショコラ公爵令嬢に対する様に1~2メートルほど間隔を開けてランダムに置かれており、私は令嬢から一番遠い椅子に座ったから、私の背後は窓しかない。
つまり私の前方、視界内で何かが起こったはずなのに‥‥
不覚だな、何が起こったのか全然気付かなかった。
椅子から転げ落ちた令息達は青褪め震え続けている。
ドア付近に固まっていた護衛騎士集団に目をやると、それぞれの護衛騎士が弾かれた様に自分の主の元へ駆けつけ、令息達はサポートされながら退室していく。
彼等とは別に、色を失い、真っ白な顔でコソコソと退室していく令息達もいる。
本当に、何が起こったんだ?
ただ単に己のポエム力を見つめ直した結果、自ら戦場を去って行くのだろうか?
‥‥若いな。
戦いを放棄し敵前逃亡するなど、一生の後悔にしかならないぞ?
たとえ勝ち目が無くても、嘲笑されるだけだと分かっていても、死力を尽くしてこそ人生だ。
出来レースでもな。
‥‥ところで、いつバトルを始めるのだ?
邪魔が入る心配の無い、予備の控室だ。
室内も広いし、そこここに座り心地の良さそうな椅子もあるし、宮廷侍女達がテキパキとちょっとしたドリンクやフードを運び入れてくれている。
王宮側が協力的なのは、ショコラ公爵令嬢に早めに正式なパートナーを見つけてもらいたい、という思惑があるのかもしれない。
美女が婚約者も無くフラフラしていれば、彼女を巡ってシャレにならない争いや犯罪が起きないとも限らないいや起きるいや起きたまぁ未遂だったが。
「え~~、で、ではッ
適当に座って頂きましょうかッ
プラリネはここに。
モ、モーブ猊下、い、妹のエスコートをあ、有難うござまッたッ」
彼女の兄が何故か裏返った声で場を取り仕切り始める。
噛んだような気がしたが最近の若者言葉かもしれない。
あぁ、短い間だったが彼女をエスコート出来て幸せだった。
髪やドレスを褒めれば、瞳をキラキラさせて嬉しそうに微笑み、
「有難うございます。
モーブ猊下も素敵です」
などと可愛い返事を返す彼女。
くッ、攫いたい。
私の腕に回した手を離す直前、キュッと強く握って来たのは気のせいか?
「エスコート、
有難うございます。
すごく嬉し‥‥
光栄でした」
「こちらこそ」
ああ、今後他の男に彼女をエスコートする栄誉を与えたくない。
頬を染め、熱のこもった潤んだ瞳で見上げて来る『エスコート特典』を他の男も受けるのかと思うと温度が下がる‥‥
「で、ででででわッ!
私が先ず、先陣を切らせて頂いてもよッちぃでしょおきゃッ!
モ、モーブ猊下ァッ」
うるさい。
私の名を絶叫するな。
裏返った声で噛むのが最近の流行りか?
第一、何故私だけにお伺いを立てるのだ?
年寄りだからか?
年長者に忖度している積もりかもしれないが、やり過ぎれば差別だぞ?
ふ‥‥ん
ポエム全般に深い造詣のある、ワッフル侯爵令息か‥‥
一番最初は評価が厳しくなりがちなのに、敢えて挑むか。
私の『根拠のない自信』とは違う、経験に裏付けられた確かな自信が有るのだな。
その上で、最初にカマシて、他を圧倒し、優位に立とうという腹積もりか。
――いいだろう。
「勿論、どうぞ。
お手並み拝見させて頂こう」
「ハッ!ハイィッ!
お、おい!
準備をッ!」
準備だと?
ム?
ゾロゾロと小楽団が入室して来る?
「ワッフル侯爵令息、彼等は?」
「わぁッ!あッ、え、
私の楽団っすですッ!
わ、私はいつも彼等の演奏をバックにポエムを披露しりゅが常で、ハァ、ハァ、」
随分と手回しが良い。
いや、良過ぎる。
ワッフル侯爵令息はこのバトルがある事を知っていた?
でなければ楽団を準備出来ないだろう。
茶会やこじんまりとした夜会ならまだしも、王家主催の夜会で一令息がポエムを披露する事は無い。
あぁ、なるほど。
ワッフル侯爵令息と彼女の兄は友人関係か。
アイコンタクトの雰囲気からすると親友かな。
つまりこれは出来レース。
ワッフル侯爵令息が勝つ為のお膳立てだからこそのポエム対決。
ッ、不愉快だな!
「ッ!」ガターーン!
「ヒッ」バタッ
「ゥッ」ドサリッ
!?
何だ、どうした!?
私の周りに座っていた令息達が一斉に椅子から転げ落ちた。
私が不快さに足を組み髪をかき上げていた間に何かあったのか?
椅子はショコラ公爵令嬢に対する様に1~2メートルほど間隔を開けてランダムに置かれており、私は令嬢から一番遠い椅子に座ったから、私の背後は窓しかない。
つまり私の前方、視界内で何かが起こったはずなのに‥‥
不覚だな、何が起こったのか全然気付かなかった。
椅子から転げ落ちた令息達は青褪め震え続けている。
ドア付近に固まっていた護衛騎士集団に目をやると、それぞれの護衛騎士が弾かれた様に自分の主の元へ駆けつけ、令息達はサポートされながら退室していく。
彼等とは別に、色を失い、真っ白な顔でコソコソと退室していく令息達もいる。
本当に、何が起こったんだ?
ただ単に己のポエム力を見つめ直した結果、自ら戦場を去って行くのだろうか?
‥‥若いな。
戦いを放棄し敵前逃亡するなど、一生の後悔にしかならないぞ?
たとえ勝ち目が無くても、嘲笑されるだけだと分かっていても、死力を尽くしてこそ人生だ。
出来レースでもな。
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