束の間のアル《廃王子様は性欲ゼロなのに熱・愛・中!?》

ハートリオ

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第四章

06 船上夜会へ 6

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「リゲルとレグルスの気配がどこにも無い。
巨大船にも、陸地にも。
どうやって私に二人を引き渡すというのだ?」



挨拶も無しに放たれた言葉―――平民から王族への詰問だった。

アルは王族に対する敬意など微塵も感じていない。

目の前の大男は自分の欲望の為に関係の無い子供を拉致した犯罪者だ。



「ア、アル殿、説明させてくれ!
私はアル殿との約束を違えたりしない!
二人はちゃんと近くに居る。
ただ、別の空間にいるのだ‥‥」


「近くの別の空間?
意味が分からない。
近くに別の空間への入り口があるとでも?」


「いや、そうだ。
さすがだ、アル殿。
海上に別の空間への入り口、というか、別の空間を一部切り取った空間を作った。
わ、私が魔術で作ったのだ、アル殿‥‥」



褒めてもらいたそうに、フォマルハウトは続ける。



「別の空間というのは、魔界だ。
――と言っても、切り取ってあるから、魔物が入って来る事は無い。
密室のようなものだ。
子供達はそこにいる。
‥‥起きていると魔法で暴れるから、気絶させている。
だっ、だが傷なんて一切付けていない!
もし何らかの怪我をしていても、自傷だ!
本人たちに聞いてくれれば分かる!
アル殿、私はあなたを裏切らない!
‥‥あなたは‥‥裏切るけど‥‥」


「? 何の事?」



アルが訊くというより独り言のように呟くと、フォマルハウトはアルの後ろに立つ美し過ぎる甥達を忌々し気に交互に見る。



‥‥二人の事??



アルは本気で分からない。


自分はデネブ様、シリウス様と愛し合っている。

それは当然の事で、揺るぎない事で‥‥

まさかその事を『裏切り』と解釈する者がいようとは‥‥

大体、王弟とはドルチェで客と相談員としてほんの少し言葉を交わしただけ‥‥


あり得なさ過ぎて理解不能なのだ。



「‥‥いずれ‥‥、
そちらの者達よりも、私の方が‥‥
私の愛の方がずっと深いのだという事を分かって頂く‥‥」



フォマルハウトが憎しみのこもった眼で甥達を睨みながら言う。



「私は彼等の愛しか要らない。
彼等の愛だけを欲し、彼等だけを愛する。
他の愛とは永遠に無関係だ」



アルがキッパリ言い放つ。

フォマルハウトは苦しそうに顔を歪め、そろそろと立ち上がる。

震える手をアルに向かって差し出し、震える声で懇願する。



「‥‥どうか、パーティー会場までエスコートさせて頂きたい‥‥」


「断る」


「‥アル殿ッ!!」


「寄るな」


「どうか、私の愛を、その深さを知って欲しい‥‥
わ、私は前世からあなたをッ‥‥」



前世‥‥‥


初対面時の不快感はやはり前世の絡みだったか‥‥

だが私はこの男を一切思い出せない。

余程思い出したくない相手だった、という事だろうな‥‥

そう思い、さらに不快を深くするが、無表情は保つアル。



「私が要求するのはエスコートではなくレグルスとリゲルを無事返す事だけだ。
少なくとも心にも体にも傷一つ負っていない二人を取り戻すまでは、私の怒りが鎮まると思うなよ」



ピシャリと言い放つとアルはドアへ向かって歩き出し、プロキオン卿が後に続く。

悲壮に顔を歪め立ち尽くすフォマルハウトの前にエリダヌス卿が立ち‥‥



スッ



フォマルハウトへ手の平を上にして手を差し出す。



(ッ?!?
なッ、何だ!?
これは‥‥まさかエスコートの手か!?
彼が私を?
あり得ない‥‥何かの罠か!?
‥‥クッ、一体、何を考えている!?
目的は何なんだッ!?)



ワケが分からず、その手、顔、また手へと視線を上下させるフォマルハウト。

初めて会う甥っ子の、理解を超えた行動に狼狽え、背中をゾクリと悪寒が走る。

先程までみなを恐れさせていた両眼は畏怖に染まり、探る様に目の前の無言のまま手を差し出している赤毛の廃王子を見つめるが――



”絶対無表情 ”



――とでも言うべきエリダヌス卿の無表情からは何一つ読み取る事は叶わない‥‥
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