束の間のアル《廃王子様は性欲ゼロなのに熱・愛・中!?》

ハートリオ

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第五章

08 どこ?だれ?なぜ!?

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「ん!?
何だ、アレは‥‥」



翼竜に乗った第二王子が海上の魔界への入り口に近付いたところで、その光景に出くわします。


魔界から人間界へ飛び出してくる魔物を、王弟のボートに乗っている美少年二人が攻撃している様です。



「オイ、君達、何をしているんだ!?」


小型ボートには翼竜は降りられないので、ボート上にホバリング状態で第二王子が問い掛けます。



「ちょ、今取り込み中!」

リゲルが煩そうに叫びます。



「クソッ、まだ完全に魔力が戻ってないから‥‥
アッ、逃げるなッ!」

魔物を取り逃がしてしまったレグルスが叫びます。

第二王子は手で作った魔弾でその魔物を黒煙化します。



「アル様を狙った魔物達だな?
魔界から逃げ出してくるのを君達が処理しているのか?」

「そういう事。
本当は中で闘いたいけど、僕たちは魔力を奪われてまだ魔力回復の途中だから、結界に魔力不足で弾かれて魔界へ入れないんだよね‥‥ムカツク」

「だからここで、逃げて来る魔物をやっつけてるワケ。
あなたは?」

「私は第二王子にして翼竜の副リーダー!
アル様をお救いする為馳せ参じた!
私は行くが、魔物の取り逃がしが無いようにこの翼竜をここに置いて行く!
ではな!」



第二王子はそれだけ言うと、翼竜の背中からポンと魔界へと飛び込みます。



「何今の‥‥
おっと、また来た!」

「逃がすな!
そっち‥‥あ‥」


ヴォァッ!


魔界から逃げ出して来た魔物を口から発射した魔弾で一瞬にして黒煙化した翼竜。



「「す、すごい!」」



リゲルとレグルスが声を揃えた時、第二王子が魔界から飛び出して来ました!



「たッ、大変だッ!
アル様も兄上達も魔界の何処にもいないのだッ!」

「「‥‥はァ!?」」

「君達はずっとここに居たのだろう!?
彼等がここから出て来たりはしなかったか!?」

「出て来てない!
出て来たのは逃げ惑う魔物だけだよな、リゲル!」

「うん‥‥
翼竜が大群で来てからはとにかくこの入り口は大混乱だったけど‥‥
中の様子も翼竜の体と黒煙のせいで全然見えなかったけど‥‥
アル様が出て来れば絶対気付いたはず!
うん、アル様はここから出て来てはいないよ!」

「だが、中にも居ない‥‥
翼竜は怒りで手がつけられない状態だ。
ああ、アル様、兄上、一体どこに‥‥」







「‥‥ハッ!
ここは!?」



自分を助けに来たであろうベガとアルタイルの姿を目にした直後、足元の地面が消滅した様な感覚を覚えたアル。

どうやら別の場所‥‥別の空間に飛ばされたようだと気付きます。

真っ白で何も無い空間の中、10メートルほど先に魔物が一人、腕組みし、憎々しげにこちらを睨んでいます。

アルは自然といまだに立ち上がる事が出来ない廃王子達を隠す様に彼等の前に立ちます。

この空間にいるのはアルと廃王子達、そしてその魔物だけの様です。



《ここは精霊界
――の一部を切り取った空間だ。
魔界は今、翼竜が騒がしいからな。
ここならゆっくりお前達を切り刻める‥‥》

「私達を切り刻む?
なぜ?」

《あれだけの事をしておいて、記憶が無いのか!?
お前達は我が主、魔王様を滅したのだ!》

「私達は人間だ。
魔物に比べ短命で既に生まれ変わっている。
普通人間には前世の記憶は無い。
私は多少あるが彼等には無い。
前世の事を言われても言い掛かりにしか聞こえない」

《フッフフ‥‥相変わらずだな、虹の王子よ。
‥‥どうだ?
俺のものになれば、お前だけは助けてやるぞ?
お前の後ろにいる役立たずなど捨てて、俺のものになれ》

「彼等は役立たずではない。
存在するだけで私を満たす私の愛しい人だ。
それに今世の私は『ただのアル』。
平民であり王子ではない。
強魔力の魔物が興味を持つ対象ではない」



強魔力の魔物‥‥

言葉通り、強力な魔力を持つ、魔物の中でも高位置にいる魔物の事です。

今、三人の目の前にいる魔物は白髪でトパーズ色の目、整った顔立ちをしていて、茶髪に緑眼の普通の魔物とは明らかに違う事がよく分かります。

魔力量は‥‥もし廃王子達が完全に魔力回復出来ても、足元にも及ばない程とてつもない魔力持ちです。



《フフン、『前世の記憶』とやらをよく覚えているじゃないか!
そう、強魔力の魔物は人間の高位貴族を好む。
美しい者が多いからな。
だが、いかに平民に生まれ変わったとて、虹の王子は虹の王子だ。
魔力と言っていいほどの魅力は何一つ変わっていない。
フッフフ‥‥前に君に手を出そうとした時は弟にボコボコにされたが‥‥
馬鹿な男だ!
まだまだ長い寿命があったのに無理矢理ひ弱な人間なんぞに生まれ変わって!
挙句の果てにそのザマか!?
何とか言えよ!
かつて俺様の弟だった男よ!》



魔物はそう言った直後、片手を上げます。

その手から禍々しい黒い稲妻が出現し、廃王子達に向けて放たれます。



ズドーーーン!!



「「‥‥ッッ!!」」

「ハッ‥デネブ様ッシリウス様ッ!?」



突然の魔力攻撃になす術が無かったアル。

少しでも盾になろうと二人の前に立ったのに‥‥



「‥‥ッ、
酷、酷い‥‥」



立ち上がる事は出来ないまでも、少しずつ回復出来ていた二人が、またも魔力を奪われ、傷だらけになって倒れ込んでいます。

意識があるのか無いのかすら分かりません。

その体からシュウシュウと立ち昇っている煙からは体の焼ける匂いがしています。



―――死にかかっています。
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