Man under the moon

ハートリオ

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13.(過去回2.)告白

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19年前のとある日 ―――

その日はシティの計画降雪の中間日で、ユニと出掛けた公園は既に一面の銀世界。
強めに降り続く雪に、他に人影は無く、世界に二人だけの様な錯覚に陥る。

本当の雪を知っているユニは大いに感嘆し、呆れ、はしゃいでいた。


「スゴイね! この人工雪! 見事に再現出来てる・・・何という壮大な無駄遣い!? ハハ、子供には分からない理由があるんだろうけどね?」


俺はというと、見渡す限りの銀世界にも、頬に突き刺さる様な冷たい風にも何も感じない。 俺はその時、それどころではなかった。


ユニへの恋愛感情に気付き、戸惑っていた所へ、数日前の事件。
俺は焦っていた。


数日前、学校の定例行事の月一コンサートがあった。 学校のコンサートホールに楽団や劇団などを呼び、鑑賞するのだ。

いつもの荘厳なクラシックや、聖歌隊による清らかなコンサートとは違い、今回はシティで大人気の歌姫の一座によるコンサートが開かれた。

一人の生徒の誕生日に、その生徒の親が全面的に資金を提供し、その生徒が夢中になっている歌姫のコンサートをプレゼントしたのだ。

一座によるダンスやコント、イリュージョン等、いつもとは違う娯楽性タップリの舞台に生徒達は大いに盛り上がり、いよいよ歌姫が登場し、大人気のヒット曲を次々に披露すると、生徒達は大興奮で、すっかり魅了された。

歌姫は可愛らしい幼い顔立ちに、はち切れんばかりのセクシーボディ。 抜群の歌唱力と情緒たっぷりの表現力。 魅力的な仕草・・誘うようなウインクをされれば、普段学校で女性を目にする事の無いお年頃の男子校生徒達はメロメロ状態に。 

だがメロメロ状態に陥ったのは生徒達だけではなかった。 当の歌姫も、歌いながら一人の生徒にクギ付けになり、恋に落ちてしまった。

予定では、コンサートの最後に歌姫がスポンサーの息子に花束を渡し「ハッピーバースデー」と祝福するという演出だったのだが、恋に落ちた歌姫はもはや一人の生徒しか目に入らず、その生徒に花束を渡してしまった。

予定外に花束を渡されてしまった生徒の名はユニ。
間違えて(?)ユニに花束を渡した歌姫の名はナノ。


プロのエンターテイナーに熱い眼差しで“あなたに夢中よ”と訴えかけられ、ユニは耳まで真っ赤になってしまった。

クラスが違う為、離れた席からそれを只ボーゼンと見るしか出来なかった俺。

そしてコンサートの直後から、歌姫からユニへの猛アタックが始まった。 この数日で学生寮のユニの部屋はあっという間に花やプレゼントで埋まってしまった。


「俺まだ恋愛とかいいっていうか・・ピンと来ない・・」―― なんてユニは言ってるけど、相手は海千山千・・・なのに見た目は子供みたいな顔に悩殺ボディの持ち主。 経験豊富な歌姫が純粋無垢な高1男子を落とすなんて、簡単な事だろう。


・・・そんなの、嫌だ・・!

ユニを誰にもとられたくない・・・!


くッ、こんな気持ちになってしまうなんて・・・

最初、ユニへの恋愛感情に気付いた時は、すぐに諦めようと思った。 俺は子供の頃治療出来ない大きな病気が見つかって、長く生きられないだろうと言われた。 今は調子がいいから普通なふりして生きているけど、いつ死んでもおかしくない事に変わりはない。 恋愛するのは、相手に対して無責任だと思ってる。 だから、気持ちを伝える事もせずに諦めようと・・・けど・・・

心が言う事をきいてくれない。 諦めなきゃいけないと分かっているのに、心が・・


恋の障害はそれだけではない。

ユニは地方出身だから、同性愛に強い抵抗感がある。
地方では異性愛が当たり前で、同性愛は罪だとみなされているから。
特にユニは修道院の中の孤児院で育ったし、素直だから地方の“ 常識 ”を骨の髄まで叩き込んでいるだろう。 物心つかない頃から刷り込まれた“常識”を変えるのは至難の業だ。

シティでは同性愛が基本だ。 多くの人が異性愛も経験するが、同性愛がベースで、異性愛はイベント的な位置づけ、というか・・・

異性愛は、“思春期”とか“青春期”とか呼ばれる比較的若い時期に、生物の逃れられない呪いとして子孫繁栄欲が発動する10年位の期間にのみ成立する“誰もが一度はかかる風邪”的な認識だ。 子孫を得た後は、憑き物が落ちた様に激しく燃え上がった異性との恋は去り、落ち着きを取り戻した心と体は、真のパートナー(ほとんどが同性)を求める。

俺の両親も、俺の他に3人息子を儲けた後は、それぞれ同性の元々の恋人と復縁した。 勿論父も母も円満で、今では一時の恋愛関係はいい想い出になり、お互い親友の様な、本当の姉弟の様な存在になっている。


このシティの“常識”を、地方出身のユニが分かってくれれば・・そこでやっとスタートラインに立てる。 気が遠くなるほど困難な恋。 諦めるべき恋。


それなのに俺は人工雪が降りしきる中ではしゃぐユニに告げてしまう。


「ユニ・・・俺は、君が好きだ。」


一瞬、間があった様に思う。
俺の前を歩いていたユニは振り返り俺を見る。

探る風でもなく、困る風でもなく、ただ真っ直ぐに俺の眼を見る。


俺はどんな表情をしていたんだろう。 多分死にそうな顔をしていたんだろう。

ユニはふっと穏やかに微笑み、


「・・・戻ろうか。 さすがに寒くなってきた・・」


そう言いながら俺の方へ歩いて来る。

いや、戻る為に来た道を引き返してるだけか・・・
微動だに出来ない俺の横を通り過ぎる時、


「・・俺もモルが好きだよ。 親友だからね。」と・・・


俺の眼はそんなに後悔でいっぱいだったんだろうか。 


ユニは俺の告白をなかった事にしてくれようとしている。
ただの、親友同士の会話にすり替えようとしてくれている。


俺を、逃がそうとしてくれている・・・


―― それなのに、俺は・・・


「そーゆーんじゃなくて・・・」

言いながら、今俺の横を通り過ぎたばかりのユニを振り返る。


手を伸ばす  引き寄せる


ユニがビクリと揺れる


背中を抱きしめる


「こーゆー、好き」







「・・ハッ・・」 ユニの息が乱れる


俺は、逃がさない
ユニ、君を逃がさない


抱き締める手を強める


逃がさない  離さない


「・・・これから先、いつ何が起こって、どうなるのか分からないけど、自分にどれだけの時間があるのか分からないけど、俺は最後までユニといたい。

どんな未来でも、ユニと行きたい。

ユニと一緒に生きたい。


・・・愛してる・・・」
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