妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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04 失礼な男その2

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未知の令嬢を前に内心激しく動揺しているものの無表情に僅かに警戒の色を浮かべただけで――しかしやはり内側で激しく葛藤する黒髪メガネイケメン。

とんでもなく美しい容姿の為常日頃注目を集めてしまう彼をバッサリ無視した会話が立ち尽くす彼の前で繰り広げられている。

黒髪メガネにとってこれは人生初の出来事である。

「ロサ様、怪我っていうのはすぐには分からない時もあるんです!
後で痛いなぁって見てみたら痣になっていた、なんてよくある事です!」
「そうです!‥あぁ、我等が馬留めを探すのに手間取ったせいで大切なロサ様の素肌に痣なんかついてしまったら…」

丸ポチャ令嬢ロサに双子の従者クースとトースが心配そうに声を上げ続ける。

「―-あれ?ロサ様、何を持っているんですか?」

ロサが捧げ持ち続けている麻袋に気付いたクースが首を傾げる。

「ぶつかった拍子にこちらが落とされたのだが…受け取らないのは何故だ?」

と、ロサはクースに答えながら黒髪メガネに視線だけ戻して質問する。

いまだ固まったままロサ達を凝視していた黒髪メガネの代わりに、カフェ・キャプルスから勢いよく飛び出して来た茶髪メガネの男―-黒髪メガネほどではないがモテオーラを放つ眩しいイケメンが答えを示した。

「殿‥オーナー!
どうされました!?
またオーナー目当ての令嬢に絡まれているんですね!?
…君!そこの丸ポチャ‥いや丸メガネのご令嬢!
オーナーから離れろ!
何を渡そうとしているんだ!?
プレゼントの類は一切お断りだ!
ほら、早く離れ‥」

ヒュッ!
シュッ!

「ウァッ‥えッ!?」

茶髪メガネは何が起きたのか分からずスペアミント色の目を白黒させる。

「え‥なに‥ぐぇッ」
「ロサ様に触れるな!殺すぞ!」

茶髪メガネの上方…頭の後ろ辺りで声がする?

え…声の主は背中に乗っているのか!?

喉が痛い、苦しい――ひ、紐状のもので絞められて…

明らかに何とかしなければならない非常事態であるが何故か身動きが出来ない茶髪メガネは目の前で落ち着き払っている令嬢をガン見するしかない。

「トース、絞めてやるな。
触れているのは私の方だ。あの勢いで転んでは怪我をしただろうからな」
「ロサ様、いきなりロサ様を突き飛ばそうとした無礼な男を何故お助けに?
礼儀知らずの無礼者など無様に転んで不名誉な傷塗れになればいいのですよ!」
「クース、足に絡めたロープを外してやれ。トースもうっかり絞め折ってしまう前に首からロープを外してやれ…二人とも早く!」
「「…は」」

不満げな返事が上方と下方から聞こえた後、シュルシュルと音がして。

茶髪メガネはその時点で初めて自分の背に乗った小柄な人間により首にロープが巻き付けられ(絞められ)、もう一人の同じ顔をした者に足をロープでグルグル巻きに拘束されている…いた事に気付いた。

(な…何だこの者達は…警戒していなかったとはいえ、この俺を一瞬で拘束した…
そしてこの令嬢は…!?)

茶髪メガネは未知のものを見る目で目の前の令嬢を改めて見る。

まだ成人(17才)前であろう少女だ。

丸ポチャボディに丸メガネの奥には小さな茶色い瞳。

髪も茶色で平民に多い色だが尊大な話し方と妙な威圧感に平民感は無い。

それより何より、この令嬢。
一見のほほんとしたご令嬢。

(何なんだこの状況――嘘だろ?)

小柄とは言え他人に背中に乗られ首と足を同時に拘束されて前のめりになった自分の胸の上方真ん中を手の平で支え、転ぶのを防いでくれた――のか?

殿‥オーナー同様に高身長で筋肉質な自分は随分と重いはずだ。

ふくよかではあるが自分から見れば小さな小さなご令嬢が短い腕の先の小さな丸っこい手で支えるのは無理――だが実際に支えてくれている…え…

「‥あ、の、」
「足を踏ん張れ。手を放すぞ」

いまだ前傾姿勢の体を支えられ中の茶髪メガネはそう言われてやっと我に返り、ロープで拘束された時に強制的に閉じられたままの足を肩幅に開き、体を起こして。

「‥ッ!?」

不意にその場にへたり込む。

「?…どうした?」

丸ポチャ令嬢に不思議そうに聞かれ、茶髪メガネは首を捻る。

「…あ、いや、体から力が抜けてしまった?…様だ」
「この二人の殺気に当てられたのだろう。
鍛えている様だが実戦経験が乏しいと見た。
平和で良い事だが貴人を守るには些か心許ない…精進するといい」

茶髪メガネは言われた事を理解した途端カッと赤面し俯いて『うぅ』と唸る。

丸ポチャ令嬢…ロサはそんな茶髪メガネの前に現在行き場のない麻袋を置く。

「そこの男性はお前の主だろう?
彼が落とした物だが受け取らぬ。
なのでお前に託す。
頼んだぞ」
「え?…あ、これコーヒー豆…何だ、オーナーへのプレゼントじゃなかったのか…
君、勘違いしてすまない…だが、オーナーを守ろうとオーナーの前に出たが、君を…まさか女性を突き飛ばそうとは思っていなかったんだが…」

長く器用そうな手で麻袋を手にした茶髪メガネは眉尻を下げる。

まだ立ち上がれないのか石畳に胡坐をかいた茶髪メガネの色気を放つ笑顔にロサは無表情で『甘い』と返す。

「んンッ?…甘い?」
「主を守る立場なら怪しいと判断した人物の性別がどうであれヌルい対応は許されない。女装した男性かもしれないし女性でも優秀な刺客は多い。私の従者達の様に殺意を持って対処すべきだ。…それとも魔法に長けているグラキエス王国民には魔法による対処法でもあるのか?」

『自分に蕩かせない令嬢はいない』

そう思い込んでいた…

事実、今迄はそうだった茶髪メガネだが。

キラースマイルには見事な無反応を返され。

その上『護衛の心得』を説かれ。

最後には他意の無い真っ直ぐな瞳で魔法に関する質問をされてしまった…

「…ッ、いや、
グラキエス王国は魔法研究が盛んなだけで魔力が秀でているわけではない。
やはり魔力量で圧倒しているのはフランマ帝国の皇族だろう…
俺には刺客と闘えるほどの魔力は無いよ…ハハ…」

そう力なく答える低魔力がコンプレックスの茶髪メガネはどこか痛々しくもある。

そう感じているのはクースとトースでロサの意識は既に茶髪メガネには無い。

ロサの意識は黒髪メガネに…変装している理由は何だろうと考えている。

何か特別な事情でもあるのだろうか?

何だか様子が変なのは何故?

それが気になるロサはチラと黒髪メガネに視線を向けると――

「‥ッ!?」

ずっとロサを見つめていた黒髪メガネとバチッと目が合ってしまう。
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