妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ

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05 誤解

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内心動揺したロサは一瞬迷う様に目を泳がせたがスッと目を伏せ。

『それでは失礼する』と言って離れていく。

「「!?」」

黒髪メガネと茶髪メガネは呆然とする。

名乗る事無く去るという事は今後会う可能性は無いだろうと。

会いたいと思っていないと。

意思表示したというより、当たり前に自然にそうする姿に女性に付きまとわれて辟易し続けて来たイケメン2人はどこか奇跡を見るような心地である。

だが、おや?

令嬢は『カフェ・キャプルス』の入り口に向かっている!?

「‥待っ‥君、店に入る積りか!?」

固まったままだんまり状態だった黒髪メガネが意外にも大きな声を上げる。

これには茶髪メガネも驚いたようでギョッとした顔で黒髪メガネを見上げる。

いつの間にか5人を取り囲んでいた見物人達からも『まぁ』だの『おぉ』だの驚きの声が上がっている。

見物人の殆どが黒髪イケメンオーナーと茶髪イケメン給仕長狙いの女性達。

憧れのイケメンコンビを一目でも見れれば幸いと『カフェ・キャプルス』に通いつめている彼女たちにとっていつもは直ぐに隠れてしまう二人をこんなに長時間眺められるなんて至福の極みなのだが――

顔面偏差値が異常に高い中で一人だけ不細工‥いや、女としての魅力に薄い顔立ちに太っ‥まろやかなシルエットの令嬢が場を支配している感に見物人達は?状態だ。

『声掛けが禁止されているオーナー様に逆に話し掛けて頂けるなんて』
『あの令嬢は一体何者なのかしら』
『羨ましいこと』
『それよりオーナー様、ああいう声でしたのね』
『素敵過ぎです!』
『私、初めて聞きました』
『わたくしもよ』
『低音美声尊し』

見物人達はロサの容姿に『敵ではない』と口角を上げ、直ぐに興味は黒髪メガネイケメンオーナーに戻る。

ロサもロサで、周りの空気も黒髪メガネの必死な様子も意に介すことはない。

淡々と言葉を返す。

「…ずっと黙っていたから声が出ないのかと思っていたが違うか。
当然、店に入る積りだが‥」
「何故…君は先程この店を『気持ち悪い店』と呟いただろう?」

食い気味に言い募る黒髪メガネをロサは小さな目を更に細めて見る。

「…客を選ぶな。
私の発言が不快だったとしてもこういう形態の店なら拒絶するべきではない」
「ッ違う!私はただ…
不快ではなく不思議に思って…何故君は店を『気持ち悪い』と思ったのか…それなのに店内に入る理由は何か‥」
「私に興味を持つな」
「‥なッ!?」
「迷惑だ」
「!?!?!?」

いつも自分が令嬢達に吐いてきたセリフを言われ思考が乱れる黒髪メガネ。

「私が…君に興味を?違う…あり得ない…私は女性に興味を持ったりしない…はッ!もしや君は男性なのか?」
「…ああ、なるほど。
いや、私は男性ではない」

誤解しか生み出さない主の発言に、慌てて茶髪メガネが注意する。

「ちょっ、殿‥オーナー!その言い方ですと誤解されますよ!
女性ではなく男性に興味があると!」

何を言われているのか分からない、といった様子の黒髪メガネ。

「………は!?
何でそうなる?」

と眉を顰める黒髪メガネは見物人達がキャァキャァと黄色い声を上げ頬を染めている理由も分からない。

「勘弁してくださいよ…ただでさえオーナーと俺にそういう噂があるんですから」

ゲンナリした顔の茶髪メガネにロサは言う。

「何故隠す?…主従の同性愛は珍しいことではない…異性愛より好ましいと思う」

頭を抱えた茶髪メガネとロサの発言内容がどうしても理解できない黒髪メガネ。

ロサは黒髪メガネに一度頷き淡々と続ける。

「誤解してすまない。
オーナーとして客の行動理由を知りたかったワケだな。
店に入る理由は単純。
この店で待ち合わせをしていて多分今相手を待たせているからだ」

黒髪メガネは説明するロサをぼんやりした瞳で見ながらぼんやり思考する。

主従の同性愛?
何のことだ?
誰と誰のことだ?
まさかその一人は私‥

「違うッ!」

辺りをビリビリと震わせる圧声。

ヒィと見物人達がへたり込む。

ついさっきやっと立ち上がった茶髪メガネも焦った主の声圧に当てられ片膝をつく。

ロサだけは何事も無かった様に黒髪メガネを見る。

視線が妙に生温かい。

「いやその目、絶対誤解しているだろう!
私は女性に興味は無いがゲイではない!
女性を嫌悪しているがゲイではない!
女性に絶望しているがゲイではない!
――ッ、その目をやめ給え!」

やたら必死に否定する黒髪メガネに対してロサは『何故隠す』と表情に僅かな失望を一瞬だけ浮かべて。

「まぁいい」
「‥よくないッ!」

流石に見かねて茶髪メガネが主に進言する。

「オーナー、不思議なもので、こういう時は否定すればする程信じてもらえないものです。
――諦めましょう」
「諦‥嫌だッ!」
「…オーナー…?ただの一客人です。
今後会う事も無いでしょう御方です故、誤解されたままでも問題ないと思いますが」
「‥ッ!」

いつもは凍えるほどクールな主のこんな様子を久々に目にする茶髪メガネ。

宥める積りで言った言葉に主が絶望的な表情を浮かべるのが信じられない。

(これは一体何事だ!?
まさか我が主はこのご令嬢に恋を‥)

もしそうなら――

それは喜ぶべき事だ。

『初恋が粉々に砕け散った』せいで女性を全く受け付けなくなってしまった主には後継問題が最重要事項で――

絶対解決には至らないだろうと本人も周りも絶望しているところが、目出度く女性に恋したとあれば――

だが。

何だろう――嬉しくない――と言うか嫌だ…

何故?
何が?

悩ましく葛藤する茶髪メガネも目に入らない黒髪メガネ。

「ブツブツ…どうすれば…はッ!そうだ!
私は結婚している!もちろん相手は女性だ!
私がゲイではない確固たる証拠だ!」

思わず表情が抜け落ちる茶髪メガネ。

まるで実体のない結婚だが主が妻帯者である事は事実だ。

――ソレを嬉々として訴えている…

うん、恋じゃないね…

何かホッとする茶髪メガネは改めて首を捻る。

恋でないなら何なんだろう…

自分の中のモヤッとした感じと主の言動のそれが妙にシンクロして。

苛立ちさえする。

主よ、何なんです?
あなた様のそんな必死なさまを初めて見る俺は戸惑うばかりなんですが?
そして俺のこの訳の分からない感情も――

「ロサ様、お時間が」

優秀な従者達らしく人目を引く容姿であるにも関わらず気配を消していた双子の一人クースがロサに声を掛ける。

「ああ。入店させてもらうぞ」

一言断わりを入れて入口ドアに向かうロサの隣に黒髪メガネがスッと並び歩く。

「案内しよう」
「――どうも」

サッとドアを開けスマートに令嬢を通す黒髪メガネの姿は眩しく尊い。

『結婚している』発言で死にかけていた見物人令嬢達が完全復活する程度には。

咄嗟に動けなかった茶髪メガネを置いて流れる様にドアを通っていく二人。

従者クースとトースはピタリと二人の後ろに付いていく。

「待ち合わせ――という事は個室か」
「分からない。空いていれば多分――
…私が『気持ち悪い』と思ったのはアレだ」

ロサが視線で示すアレとは――
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