そのまさか

ハートリオ

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26.すれ違う想い

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「旦那様、今すぐお話しがあります。 どうか、お時間を頂きたく存じます。」

ポッカ~~ンとし続けていたヤカフ伯爵に向き直り、執事キヤギネが静かに申し入れます。


『あ、うん、そうだな。 第一王女はきっとまた来るだろう。 すぐにでも対策を立てるべきだな・・でも、明日でもいいんじゃないか? 今夜は、その、ベナと、』


これからイチャイチャ・・という所を邪魔され今に至るヤカフ伯爵としては、ベナとの“初夜”を優先したいワケで・・


キヤギネは柔らかく微笑むと、

「はい、ですが第一王女の旦那様への執着は異常です。」
と申し訳なさそうに言います。


「「 えっ!? 」」 ベナとリーク、女二人が思わず素っ頓狂な声を上げます。


『うむ・・・確かに、第一王女様の俺への執着はますます強くなるばかりのようだな・・』

ヤカフ伯爵も神妙な面持ちで頷きます。


「「 はぁっ!? 」」 女二人は息ピッタリで叫び、男二人を見つめます。


「『 ・・え? 』」
女達の反応に、男達は不思議そうな声をあげます。
あまりに見目麗しい主と従は、見目麗しい分、余計におバカに見えてしまいます。


「あ・・あの、第一王女様の想い人は、旦那様ではないと感じたのですが・・」

「私もそう思います! あの従者の格好を見てもソレを証明しています。 以前は旦那様に似た感じの男達を従者にしていましたが、ここ半年ほどは、兄上に似た・・」

女達の意見は男達に届きません。


「旦那様狙いじゃなかったら、何故ここへ来るのだ?」


「「 それは、だから、 」」 女二人はキヤギネを見つめます。 顔に、(何で分からないんですか!? あなたに会う為ですよ!?)と書いてあります。


『気を遣ってくれているのはありがたいが、気休めはいいのだ・・かえって危険だ・・正確に現実を判断し、受けとめ、対処しなければならない。 よいな?』


「「 は、はい、だから、 」」 女二人は伯爵を直視できません。 顔に、(いや、言いづらいけど、あなたはもう安全だと思います・・)と書いてあります。


「・・とにかく、第一王女は奥様に対して、特別な感情――嫉妬心を強くしている様ですし、邸内の間取り図まで知られてしまっているとなれば、いつ、何をしてくるか分かりません。 先ずは問題を解決してから、ごゆっくりお二人の時間を楽しんで頂けたらと存じます。」


「!!!」 ベナの心は、激しく動揺します。 マロ・・キヤギネさんは、そうして欲しいの!? 私と旦那様に、そうなって欲しいの!? 大きく見開いた瞳が、切なさで潤みます。 前世のマロとの深い繋がりを思い出してしまったベナには、キヤギネの言葉は受け入れがたく、震えながらキヤギネを見つめます。


キヤギネはベナの強い視線に気付き、ベナを振り返ると、優しく語り掛けます。

「奥様・・前世で叶わなかった恋を、今世で叶えて下さい。 今世ではあの女に、お二人の邪魔はさせません。 あの女の事は私に任せて、どうか旦那様とお幸せになって下さい。 それが、多分、私が生まれて来た意味なのです・・・」


「あっ・・マロ! あなたも・・あるのね!? 前世の記憶が・・私の事、分かるのね!?」


ベナは思わずキヤギネに駆け寄ると、その袖を掴み、抱きつき、強く強く抱きしめます。
思いもかけないベナの振る舞いに、心が揺さぶられるキヤギネですが、それを見てポッカ~~ンとしながら『アゥアゥアゥ・・』と言っているヤカフ伯爵に気付き、ベナを押し戻します。 


「・・うぅっ・・マロ、何で!? 私の、私のマロなのにっ・・」

ポロポロと零れる涙をそのままに、切なさに非難の色を滲ませた瞳でキヤギネを見つめれば、キヤギネは小さい子にするように優しくベナの頭を撫でて、

「いけません、奥様・・私は、今世は“小さなマロ”ではないのです。 ・・旦那様が、お心を乱されてしまいます。」 と軽くたしなめ、

「お二人に幸せになって頂く事が、私の願いです。 その為なら、私はこの命を捧げましょう。」 と続け、再びヤカフ伯爵に向き直ると、


「旦那様、よろしいでしょうか?」と、ヤカフ伯爵を真っ直ぐに見つめます。


『!!・・う、うむ。 では、執務室で話そう。』

全ての前世の記憶を思い出せていないヤカフ伯爵には、“マロ”が誰だったか分かりません。 麗華の取り巻きの一人だったか? そんな名前の男いたっけ? でも、ベナの態度を見れば、相当親しかったのが分かるが・・俺とベナが幸せになる事が願いだと言ってくれている・・どういう事だ?

キヤギネ・・お前は、誰だったのだ??
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