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はじめての野営
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日が完全に落ちきる前に、グリノルフは山道から少し外れた林の中に、火を焚き横になれる開けた場所を見つけてきた。
グリノルフが野営の準備をしている間、比呂人は火に焚べる小枝や木切れを拾った。
くれぐれも目の届く範囲で、とグリノルフに念を押されていたのだが狭い範囲では十分に拾えなかった。ついグリノルフの目の届く範囲から外れると、「おい」と鋭い声で咎められた。
「もう拾えるもんねえよ」
「俺に付いてこい」
グリノルフはそう言うと林の中に入っていった。
比呂人はむっとしてその場にたたずんでいたが、グリノルフが見えなくなると急に不安になり、慌ててグリノルフに続いて林に入った。
既に薄暗くなりつつあったので、林の中は物が見づらいくらい暗い。グリノルフの姿も見えない。
自分が目を離しているじゃないか、と比呂人は思ったがあまりにも林の中がしんとしていて、怖くなる。
「おーい、グリノルフ」恐る恐る呼んでみるが、何も返ってこない。
かさりと落ち葉が鳴り、そちらに目を向けるが何も見えない。
背中を汗が伝う。こちらに来てすぐに感じた生臭い獣の息を、再び嗅いだ気がして反射的に体が動いた。
しかし、走り出そうとした比呂人の体はその場から動けなかった。いつの間にかグリノルフが比呂人の二の腕をしっかりと掴んでいる。
「ヒロト、どうした」
「あ……」急に腕を掴まれた驚きと、それがグリノルフだった安心で比呂人はその場に座り込みそうになった。
「グリノルフ、どこ行ってたんだよ」比呂人は自分を勢いづけるように、逆にグリノルフに掴みかかった。
「ずっとそこにいた。お前が林に入ってきて急に走り出そうと……」グリノルフは途中で言葉を飲み込み、小刻みに震えている比呂人の肩をぽんと叩いた。
「悪かった。お前はこれを持って戻れ」グリノルフは自分が集めた薪を指し示すと続けた。「俺はもう少し薪を集めるが、大丈夫だ。すぐ戻る」
「俺も行く。置いていくな」比呂人はグリノルフを掴んで離さなかった。
「……わかった」グリノルフはしぶしぶといった感じでうなずいた。
比呂人はグリノルフについて、なるべく何も考えないようにしながら薪を拾った。とにかく今はひとりでいたくなかった。
ある程度、薪を拾い野営地に戻る。グリノルフが火を熾し、夕食の準備をする。比呂人も、なんだかよくわからないが根菜のようなものを切った。
出来上がったシチューは塩気が強く、疲れた体に染みわたった。
腹がいっぱいになると途端に眠たくなる。比呂人は膝を抱えたままうつらうつらし始めた。
「寝るならちゃんと寝ろ」グリノルフが比呂人に声を掛ける。
「う……ん……」グリノルフに起こされて比呂人はしぶしぶ起き上がる。
「寝る前に歯は磨いたほうがいい」
おかんか、と思いながらも比呂人は背嚢から木製の歯ブラシを取り出す。ただの木の棒のようだが、先端が細かく裂けていてブラシ状になっている。
グリノルフに言われるままに歯を磨き、いざ寝る段になってどうやって寝るのだろうと思った。寝袋のようなものは荷物に入っていなかったし、まさか地面に直接寝るんじゃないだろうなと思いながらグリノルフにたずねる。
「これ、どうやって寝るんだ。まさか直接地面に寝るんじゃないだろうな」
「それ以外なにがあるんだ」
「いや、だってこんなの冷たいし、固いし」
「すぐ慣れる」
「そんな……そうだ、一番初めのとき、草の布団があっただろ。あれないの」
「作ることはできるが、野営だとすぐ移動するから、布団を作るのは非効率的だ。狩場に腰を据えたら作ってやらなくもないが」
「わかったよ。このまま寝ればいいんだろ」
不貞腐れた比呂人は体にマントを巻き付けて横になる。さっきはあれほど眠かったのに、ちゃんと眠れるか不安になる。
「ヒロト、足を見せてみろ」言いながらグリノルフは比呂人のブーツに手をかける。
「わかったよ」
比呂人はグリノルフの手の中から足を引き抜くと、自分でブーツを脱いだ。パムクの柑橘のような香りが漂う。
「大丈夫そうだな」グリノルフは再び比呂人の足をつかむと、足の裏からパムクの葉を取り除いた。そのまま比呂人の足の裏をぐっと拳で強く押した。
「いってえ、何するんだよ」
「マッサージだ。きちんと手入れしておけば次の日が楽になる」
「別にいいよ」
「よくない」
比呂人は体をよじってグリノルフの腕から抜け出そうとしたが、がっちりと抑えられていて抜け出せなかった。
グリノルフは、比呂人の足先から上へ上へともみほぐしていく。
「やめっ、あしは、くすぐったいから」
グリノルフは暴れる比呂人を無視して、淡々とマッサージを続けている。
どう足掻いても逃げられないと悟った比呂人はグリノルフに身をゆだねることにした。
比呂人を捕まえている腕は力強いが、マッサージの力加減は絶妙で、くすぐったくはあるが気持ちよくもある。
段々体が温まってきて、腹の奥がむずむずする。熾火のように体の奥に火がともり、やがて一点へと集まってくる。
比呂人は自分の反応に困惑した。疲れているし、これは生理的反応のはずだ。
たびたび振り回される身勝手な体に腹が立つし、一方的にグリノルフに欲情しているようで後ろめたくもあった。
「もういいだろ」比呂人はぶっきらぼうに言うと、グリノルフを押し返した。
気付かれる前に離れたい。ローブにマントまで羽織っているのでグルノルフにはばれないはずだ。
「わかった」グリノルフは手を止めると、比呂人の足の裏に新しいパムクの葉を巻いてブーツを履かせた。
「明日もきつい行程になる。ゆっくり休め」
「ああ」
比呂人はおざなりな返事をすると、グリノルフから離れるように寝返りをうった。
グリノルフが野営の準備をしている間、比呂人は火に焚べる小枝や木切れを拾った。
くれぐれも目の届く範囲で、とグリノルフに念を押されていたのだが狭い範囲では十分に拾えなかった。ついグリノルフの目の届く範囲から外れると、「おい」と鋭い声で咎められた。
「もう拾えるもんねえよ」
「俺に付いてこい」
グリノルフはそう言うと林の中に入っていった。
比呂人はむっとしてその場にたたずんでいたが、グリノルフが見えなくなると急に不安になり、慌ててグリノルフに続いて林に入った。
既に薄暗くなりつつあったので、林の中は物が見づらいくらい暗い。グリノルフの姿も見えない。
自分が目を離しているじゃないか、と比呂人は思ったがあまりにも林の中がしんとしていて、怖くなる。
「おーい、グリノルフ」恐る恐る呼んでみるが、何も返ってこない。
かさりと落ち葉が鳴り、そちらに目を向けるが何も見えない。
背中を汗が伝う。こちらに来てすぐに感じた生臭い獣の息を、再び嗅いだ気がして反射的に体が動いた。
しかし、走り出そうとした比呂人の体はその場から動けなかった。いつの間にかグリノルフが比呂人の二の腕をしっかりと掴んでいる。
「ヒロト、どうした」
「あ……」急に腕を掴まれた驚きと、それがグリノルフだった安心で比呂人はその場に座り込みそうになった。
「グリノルフ、どこ行ってたんだよ」比呂人は自分を勢いづけるように、逆にグリノルフに掴みかかった。
「ずっとそこにいた。お前が林に入ってきて急に走り出そうと……」グリノルフは途中で言葉を飲み込み、小刻みに震えている比呂人の肩をぽんと叩いた。
「悪かった。お前はこれを持って戻れ」グリノルフは自分が集めた薪を指し示すと続けた。「俺はもう少し薪を集めるが、大丈夫だ。すぐ戻る」
「俺も行く。置いていくな」比呂人はグリノルフを掴んで離さなかった。
「……わかった」グリノルフはしぶしぶといった感じでうなずいた。
比呂人はグリノルフについて、なるべく何も考えないようにしながら薪を拾った。とにかく今はひとりでいたくなかった。
ある程度、薪を拾い野営地に戻る。グリノルフが火を熾し、夕食の準備をする。比呂人も、なんだかよくわからないが根菜のようなものを切った。
出来上がったシチューは塩気が強く、疲れた体に染みわたった。
腹がいっぱいになると途端に眠たくなる。比呂人は膝を抱えたままうつらうつらし始めた。
「寝るならちゃんと寝ろ」グリノルフが比呂人に声を掛ける。
「う……ん……」グリノルフに起こされて比呂人はしぶしぶ起き上がる。
「寝る前に歯は磨いたほうがいい」
おかんか、と思いながらも比呂人は背嚢から木製の歯ブラシを取り出す。ただの木の棒のようだが、先端が細かく裂けていてブラシ状になっている。
グリノルフに言われるままに歯を磨き、いざ寝る段になってどうやって寝るのだろうと思った。寝袋のようなものは荷物に入っていなかったし、まさか地面に直接寝るんじゃないだろうなと思いながらグリノルフにたずねる。
「これ、どうやって寝るんだ。まさか直接地面に寝るんじゃないだろうな」
「それ以外なにがあるんだ」
「いや、だってこんなの冷たいし、固いし」
「すぐ慣れる」
「そんな……そうだ、一番初めのとき、草の布団があっただろ。あれないの」
「作ることはできるが、野営だとすぐ移動するから、布団を作るのは非効率的だ。狩場に腰を据えたら作ってやらなくもないが」
「わかったよ。このまま寝ればいいんだろ」
不貞腐れた比呂人は体にマントを巻き付けて横になる。さっきはあれほど眠かったのに、ちゃんと眠れるか不安になる。
「ヒロト、足を見せてみろ」言いながらグリノルフは比呂人のブーツに手をかける。
「わかったよ」
比呂人はグリノルフの手の中から足を引き抜くと、自分でブーツを脱いだ。パムクの柑橘のような香りが漂う。
「大丈夫そうだな」グリノルフは再び比呂人の足をつかむと、足の裏からパムクの葉を取り除いた。そのまま比呂人の足の裏をぐっと拳で強く押した。
「いってえ、何するんだよ」
「マッサージだ。きちんと手入れしておけば次の日が楽になる」
「別にいいよ」
「よくない」
比呂人は体をよじってグリノルフの腕から抜け出そうとしたが、がっちりと抑えられていて抜け出せなかった。
グリノルフは、比呂人の足先から上へ上へともみほぐしていく。
「やめっ、あしは、くすぐったいから」
グリノルフは暴れる比呂人を無視して、淡々とマッサージを続けている。
どう足掻いても逃げられないと悟った比呂人はグリノルフに身をゆだねることにした。
比呂人を捕まえている腕は力強いが、マッサージの力加減は絶妙で、くすぐったくはあるが気持ちよくもある。
段々体が温まってきて、腹の奥がむずむずする。熾火のように体の奥に火がともり、やがて一点へと集まってくる。
比呂人は自分の反応に困惑した。疲れているし、これは生理的反応のはずだ。
たびたび振り回される身勝手な体に腹が立つし、一方的にグリノルフに欲情しているようで後ろめたくもあった。
「もういいだろ」比呂人はぶっきらぼうに言うと、グリノルフを押し返した。
気付かれる前に離れたい。ローブにマントまで羽織っているのでグルノルフにはばれないはずだ。
「わかった」グリノルフは手を止めると、比呂人の足の裏に新しいパムクの葉を巻いてブーツを履かせた。
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