リクの夢見事件簿

くっちー

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悲しい過去

お悩み相談

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このことがあってから、僕は夢を見るのが怖くなり、新しい家でもまともに寝ていない。
夢を見なければ、誰かが呪われることもないし、自分が悪夢に苦しむこともない。
これの何がいけないんだ。平和的解決じゃあないか。
でも無性に、今までの辛かった経験を誰かに話したくて仕方がない。そして、「今まで辛かったね、よく頑張ったね。」「もう大丈夫だよ。」って、慰めてほしい。昔姉がしてくれたように、優しく。

「話、聞いてくれますか?」

とっさに出た言葉だった。何言ってるんだ僕は。いくら悩みを聞いてくれるって言っても、この話は重すぎる。
先生が姉に似ているからって、油断していた。普段はこんな、他人に悩みを聞いてもらうなんてこと絶対しないのに!でもここまで言ってしまったのなら仕方がない。

僕は今までのことを、全て夢中先生に話した。

保健室中に沈黙が流れる。
(ほらみろ!返答に困っているじゃないか!だから言いたくなかったのに。)

「呪い?」

夢中先生が口を開いた。

「それってさ、逆に考えれば、いいことなんじゃないかな?」

何を言っているんだ?僕の呪いがいいこと?冗談じゃない!
「馬鹿にしてます?こっちは真剣に悩んでるんですよ!」
先生に話した自分が馬鹿だった。
ベットから降り、保健室を出ようとしたその時。

「待ってリク‼︎」

先生が必死に僕を呼び止めた。
その呼び方はまるで姉そのものだ。思わず振り返る。

「話を聞いて?」

「ここに座って」
言われるがまま、ベッドの目の前にある白い机の、椅子に座った。先生も続いて、隣に座る。

「さっき、呪いをいいことって言ったのはね、私はそれを、呪いじゃないって思ったからなの。」
「どういうことですか?」
今度こそはしっかりと話を聞こう。何か解決に導かれるかもしれない。

「見た夢が全部、現実になるのよね?」
「はい」
「それって逆に言えば、これから起こる事件を、先読みできる。そう、予知夢能力があるってことなんじゃないかしら?」
ハッとした。今まで僕は、物事をマイナスにしか考えていなかったけれど、そういう考え方もできるんだ!
「だって、そうじゃない?他にも、悪夢を見たことはある?」
「はい!あります。というか、毎日夢日記をつけています‼︎」
僕は今までつけてきた夢日記帳を、こっそり教室に取りに行った。本当はもう元気で、本当は授業に戻らなければならないのだけれど、今はそれどころじゃない!何かが、何かが変わりそうなんだ‼︎急いで2のBの教室を探す。
ここだ!
クラスのみんなは体育の授業中で、教室にはいなかった。チャンスだ!
ロッカーから、僕の名前を探す。
夢中リク、夢中リク、夢中‥あった!
急いでエナメル質のバッグから、夢日記帳を探す。それにしても、今日は探し物ばっかりだ。
薄紫色の、図鑑くらい分厚い日記帳だ。すぐに見つかった。
重かったけれど、持ってきてよかった!廊下を走って、すぐさま保健室のドアを開ける。

「これです‼︎」


先生と一緒にページをめくる。
1ページ目を開いた。
『僕は今日の失態を忘れないため、2018年8月27日の今日をもって、夢日記をつける 注意 これは誰にも見せないこと!』
大きく汚い字で書いてある。
「いいんですよ!」
「本当に?」
夢中先生が見ることをためらったので、とっさに言った。
「僕が許可しているからいいんです!」
「それじゃあめくるわよ。」
『8月27日(曇)今日僕は大きな失態をした。それは全部あの夢のせいだ。昨日の夜、海で溺れる夢を見た。浮き輪から落ちて、波に何度も襲われた。頭を打って目が覚める。』
(これだけ?)
僕たちは顔を見合わせた。
慌てて僕が捕捉する。

いつものように眠りにつくと、僕はなぜか海にいた。ビーチのようなところに、たくさん人がいた。でも、それはずっとずっと遠くで、僕はようやく、自分が流されていってることに気づいた。浮き輪をつけて浮かんではいたけれど、怖くて、ジタバタと暴れた。そのせいで、浮き輪から外れ、僕は海に投げ出された。
必死に浮き輪の端っこを掴んだが、波が襲ってきて、手を離してしまった。泳ごうとしたけれど、いつものようにうまく出来ない。海の中は真っ暗で、夢なのに、すごく冷たかった。
波が何度も、自分の頭を覆いかぶさって、すごく苦しかった。息が出来なかった。必死に浮き上がっては波にのまれてを繰り返して、やがて岩らしきものに頭がぶつかって、目が覚めた。

目が覚めると、下半身が濡れているのを感じた。さっきまで海の中にいる夢を見ていたから、起きるまで気づかなかったけれど、確かに濡れている。
(まさか‼︎)
予想は的中した。布団をめくると、敷布団が大きな世界地図を描いていた。オネショだ。
すぐさま布団から起き上がると、びっしょり濡れたズボンとパンツを履き替えて、家族にバレないようにこっそりとシーツと下着を洗った。
運良く早朝の出来事だったため、家族にバレなかったが、小学四年生にもかかわらず、オネショをするなんて。恥ずかしくて今でも覚えている。失態とはおそらくこのことだろう。

「あ!」

しまった!こんなことまで先生に話してしまうなんて!
夢中先生の顔を、恐る恐る覗くと、
先生は優しい笑みを浮かべていた。
「クスッ、大丈夫よ。他には誰にも言わないから。」
僕は顔を赤らめて、縮こまる。恥ずかしい!でも何故か、悪い気はしなかった。
先生と僕だけの、秘密ができた。不本意ながら、それがとても嬉しかった。

他にも、沢山の夢を、先生に話した。

「それでね、リク君の見た夢なんだけど。私、新聞を毎日見るタイプの人間なのね。」
「はい。」
「で、気になった記事を切り取って、ストックしてあるんだけど。」
「なんですか?」
「これを見てくれる?」
そう言って、先生はカバンの中から分厚い青色のファイルを取り出した。
一枚一枚、めくっていると、あるページで手が止まった。

『2018年8月27日、海岸で6歳の男児溺死』
慌てて夢日記帳と照らし合わせる。
同じだ‼︎

「リク君、この溺死してしまった男の子と、話したことないわよね?」
「はい。でも、、、」

偶然だと思って他にも照らし合わせる。

『2019年6月13日、風呂場で79歳老人脱水症状により死亡』
『2019年6月13日(晴れ)夢の中でお風呂に入っていた。だんだんと頭がもうろうとして、気づいたら朝だった。今日はあまり怖い夢ではなかった。』

『2020年11月18日、16歳の少女転落死。事故か自殺か?』
『2020年11月18日(雨)、屋上に女の人が立っていた。危ないから注意しようとしたけれど、なぜか体が動かない。そうこうしている間に、彼女は飛び降りた。悲しい。また止められなかった。これが夢で本当によかった。』

そして最後のページ。
『2021年6月23日、自宅のリビングで、夢中さんが何者かに刺殺。犯人はまだ捕まっておらず。』
『2021年6月23日(晴れ)姉が死んだ。殺された。犯人はまだ捕まっていないけど、きっと犯人は僕だ。僕の呪いで姉さんは殺された。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…』
ここからはひたすら「ごめんなさい」が続く。この事件を思い出すたび、今でもごめんなさいを書き続けている。文字が涙で滲んでいて読みづらい。事件のことを思い出して、また息が苦しくなった。目を瞑る。
だんだんと息が出来なくなって、過呼吸になる。苦しい。苦しい。苦しい。心臓がバクバクして、また気を失ってしまいそうだ。

ふわっ

花の香りがして、前を見ると、僕は夢中先生の腕の中にいた。懐かしい、優しい匂い。
自然と、息が整っていく。
「先‥生?もう、大丈夫です。」
「あ!ご、ごめんなさいね!苦しそうだったからつい。」
ふと我に返って、急に恥ずかしくなる。気まずい雰囲気が漂う。

「つ、つまりね!リク君と話したことのない人でも、夢と同じ目に遭ってる人がいるってこと。リク君は、お姉さんが亡くなったのも、同級生が誘拐にあったのも、全部自分の見た夢のせいだって言っているけど、実際はそうじゃない。あなたのせいで事件が怒るんじゃない。あなたは、事件を予知夢できるのよ‼︎」






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