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1.きっかけ
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5月20日。昼間の渋谷を歩く。平日であるにも関わらず、沢山の人が歩いている。曇り空ではあるが、生暖かい風が吹き、過ごしやすい気温だ。
都内の大学に通い始めてから、約1年になるユリコにとって、講義と講義の空き時間に渋谷で時間を潰すのは日常になっていた。何か面白い事が起きることを少し期待しつつ、とりあえずショッピングセンターを目指して歩く。
ふと横目にミニスカートで颯爽と歩く女子高生の2人組が見えた。2人共お揃いのパステルピンクのリボンを付けている。身に付けているものは大体同じだが、1人は真っ直ぐのロングヘアで1人はパーマのかかったショートヘアなのが対照的であった。ユリコは瞬時に最近売り出し中の2人組アイドルを思い出す。
目で追っているうちに、目的地から一本離れた道につられて入りそうになっている事に気付いた。
はっとして軌道を修正する。
間も無くして、ショッピングセンターに着いた。
ユリコはいつも1階からぐるっとまわり、適当に目に付いた店に入る。
買うつもりのない、リボンとレースがびっしりついたロリータ系の服や水商売のお姉ちゃんが好んで着そうな露出の多い服などを手にとり、それらを着ている自分を想像する。
それだけで変身願望が少し満たされて、楽しい気分になるのであった。
次の講義の時間まで40分を切ったことを確認し、ショッピングセンターを後にする。
交差点で信号待ちをしていると、ふいに知らない小太りの男が話かけてきた。ハットにショール、大きめの黒い革のバッグなどのお洒落な小物がその体型に似合わず少し胡散臭い。
「すみません。お姉さん、芸能活動って興味ないですか。」
ユリコが目を向けると、男は素早い動きで名刺を差し出してきた。
「僕、芸能事務所の者なんです。タレントとか、アイドルとか、エキストラとか、いろいろ扱ってて、お姉さん整った顔立ちしてるから興味があるならどうかなって。」
男が高めの声で捲したてるように話す。
「芸能事務所、ですか。」男の出す空気感に圧倒され、思わず言われたことを繰り返してしまう。
「そう!MTエンターテイメントっていう事務所、知ってるかな。そんなに大きくはないんだけど、結構いろいろ出てて。ほら、こんな感じ。」
男がバッグから下敷きのような物を取り出して見せてくる。目を落とすと見知った番組名や話題のドラマの名が書き連ねられていた。出演実績、と書かれている。
「え、すごいですね。知ってるのばっかり。」
丁度観ているドラマの名を見つけて、男の話に興味が湧いてくる。それに気付いて、男は少し満足気な顔になり話を続ける。
「有名な作品の依頼も入ってくるんだけど、バイト感覚でやりたいなら読者モデルの仕事とかもあるよ。ちなみになんのお仕事に興味ある?」
大きな目で見つめられ、少し動揺する。急に聞かれても何と答えていいかわからず、ユリコは咄嗟に考えるような顔付きで首を傾げた。しばらくしてから男が尋ねる。
「そういえば、名前聞いてないよね。なんて言うの?」
沈黙を破ってもらえてほっとする。
「ユリコです。」
「ユリコちゃんか。僕個人的にはね、ユリコちゃんにはアイドルとか向いてるんじゃないかと思うよ。可愛らしいし。歌とかどう?」
真剣な顔でアイドルが向いていると言われ思わず頬が赤くなるのが自分でわかる。
正直に言うと、キラキラした衣装を着てステージで歌い、踊ることには憧れがある。
自分がステージに立つ姿を想像し、やってみたいかも、と思う。
「歌は好きです。カラオケとかよく行くし。あと一応昔ダンスも習ってました。」
ユリコは少し恥ずかしかったが、そう伝えた。
「じゃあさ、やってみようよ。気軽な気持ちでも大丈夫だから。」
男が笑顔で言う。ユリコも、微笑みながらコクン、と頷いた。
都内の大学に通い始めてから、約1年になるユリコにとって、講義と講義の空き時間に渋谷で時間を潰すのは日常になっていた。何か面白い事が起きることを少し期待しつつ、とりあえずショッピングセンターを目指して歩く。
ふと横目にミニスカートで颯爽と歩く女子高生の2人組が見えた。2人共お揃いのパステルピンクのリボンを付けている。身に付けているものは大体同じだが、1人は真っ直ぐのロングヘアで1人はパーマのかかったショートヘアなのが対照的であった。ユリコは瞬時に最近売り出し中の2人組アイドルを思い出す。
目で追っているうちに、目的地から一本離れた道につられて入りそうになっている事に気付いた。
はっとして軌道を修正する。
間も無くして、ショッピングセンターに着いた。
ユリコはいつも1階からぐるっとまわり、適当に目に付いた店に入る。
買うつもりのない、リボンとレースがびっしりついたロリータ系の服や水商売のお姉ちゃんが好んで着そうな露出の多い服などを手にとり、それらを着ている自分を想像する。
それだけで変身願望が少し満たされて、楽しい気分になるのであった。
次の講義の時間まで40分を切ったことを確認し、ショッピングセンターを後にする。
交差点で信号待ちをしていると、ふいに知らない小太りの男が話かけてきた。ハットにショール、大きめの黒い革のバッグなどのお洒落な小物がその体型に似合わず少し胡散臭い。
「すみません。お姉さん、芸能活動って興味ないですか。」
ユリコが目を向けると、男は素早い動きで名刺を差し出してきた。
「僕、芸能事務所の者なんです。タレントとか、アイドルとか、エキストラとか、いろいろ扱ってて、お姉さん整った顔立ちしてるから興味があるならどうかなって。」
男が高めの声で捲したてるように話す。
「芸能事務所、ですか。」男の出す空気感に圧倒され、思わず言われたことを繰り返してしまう。
「そう!MTエンターテイメントっていう事務所、知ってるかな。そんなに大きくはないんだけど、結構いろいろ出てて。ほら、こんな感じ。」
男がバッグから下敷きのような物を取り出して見せてくる。目を落とすと見知った番組名や話題のドラマの名が書き連ねられていた。出演実績、と書かれている。
「え、すごいですね。知ってるのばっかり。」
丁度観ているドラマの名を見つけて、男の話に興味が湧いてくる。それに気付いて、男は少し満足気な顔になり話を続ける。
「有名な作品の依頼も入ってくるんだけど、バイト感覚でやりたいなら読者モデルの仕事とかもあるよ。ちなみになんのお仕事に興味ある?」
大きな目で見つめられ、少し動揺する。急に聞かれても何と答えていいかわからず、ユリコは咄嗟に考えるような顔付きで首を傾げた。しばらくしてから男が尋ねる。
「そういえば、名前聞いてないよね。なんて言うの?」
沈黙を破ってもらえてほっとする。
「ユリコです。」
「ユリコちゃんか。僕個人的にはね、ユリコちゃんにはアイドルとか向いてるんじゃないかと思うよ。可愛らしいし。歌とかどう?」
真剣な顔でアイドルが向いていると言われ思わず頬が赤くなるのが自分でわかる。
正直に言うと、キラキラした衣装を着てステージで歌い、踊ることには憧れがある。
自分がステージに立つ姿を想像し、やってみたいかも、と思う。
「歌は好きです。カラオケとかよく行くし。あと一応昔ダンスも習ってました。」
ユリコは少し恥ずかしかったが、そう伝えた。
「じゃあさ、やってみようよ。気軽な気持ちでも大丈夫だから。」
男が笑顔で言う。ユリコも、微笑みながらコクン、と頷いた。
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