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美貌の暗殺者

レイジ②

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「お前たちに選ばせてやる」
 突然現れた黒づくめの集団。両親はオレ達を庇い固まって震えていた。
「何でも言う事を聞きますから。子供達は助けて下さい!」
 父が必死で頼んだ言葉も虚しく。

「どっちを取るのか、お前たちに選ばせてやる」とリーダーらしき男が言った。
「どっちとは……?」
 何の事だか分からず父と母は困惑した顔をしてる。
 男が苛々しながら話すには、オレか双子の兄かどちらかを選べと言う事らしい。
 その要求が分かった時、両親の顔が苦痛に歪んだ。

「どっちを取るかなんて、選べる訳ないじゃ無いか!」
 母はオレたちを離すものかと一層強く抱き締めた。
「それなら俺たちは、お前らを殺して二人とも連れて行くまでだ」

 苦渋の決断だったに違いない。あの時、父がオレを真っ直ぐ見つめたのは。
「コイツか……」
 母を突き飛ばし、オレを抱えあげて家から出て車に押し込んだ。
 母が裸足のまま、玄関に出てオレの名を何度も呼ぶのが聞こえた。

「レイ、そんな悲しい顔するな。遅くなっても良いから俺の部屋に来いよ」
「別に……。昔の事を思い出しただけさ」
 とうに忘れた筈だったのに。まだ気にしてたのか?
 ゼンがオレの後ろを見て眉間に皺を寄せ立ち上がった。
「ゼロに何か用があるのか? さっきからジロジロ見やがって」

 問われた男は、新入りの傭兵上がりの様だ。一緒に居る男は必死で止めていたが、ゼンよりも大柄で明らかに年下に見えるオレらは弱い奴らだと決め付けた様だ。

「なあ、止めとけって。お前が勝てる相手じゃない」
「何言ってるんだ? コイツらの何処が強く見えるって?」
 その言葉に、食堂に居た連中は凍り付いた様に静かになった。
 馬鹿な男はその事に気付かずに、一緒に居た相棒が逃げて行ったのも分からぬまま。

「なあ、そこの綺麗な兄ちゃん。ソイツより俺にしないか? 満足させてあげるぜ」
 下卑た笑いを張り付けオレに近寄って来る。オレは、殺気を漂わせているゼンの首に絡み付いてキスをする。

「ねぇ、お兄さん残念だったね。生憎間に合ってるから。ね、ゼンもう一回やろ……」
 ゼンはせっぱ詰まった顔でオレを見て言う。
「レイ、誘うなよ……」
 その顔を見てたらホントに欲しくなる。
 周りが固唾を呑んで見守る中。不意に声を掛けられた。

「公共の場で何してるんだ?」
 振り返るとそこにヤツが居た。

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