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回り出す運命の輪
愚者の末裔⑦
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夜か昼かも分からない水底のようなユラユラした部屋で海藻のように漂っては、寝たり起きたりを繰り返す、ただ息をするだけの生きた屍。
食事も摂らないのにお腹が減る事もなく、いっそ餓死でもするかと自虐的に嗤う自分がいる。
俺が死ねば父への復讐が完結するじゃないかと日々、生産性のない事ばかりを考える。
「……トーマ様。……お願い……です。食事を……」
誰だか知らないが話しかけられ、腕にチクリとした痛みが走り血管に不必要な栄養が運ばれる。
「…………もう、放っておいてくれ……」
力なく拒んでみるが聞き入れられるはずもなく、逃げ出さない程度の最低限の点滴を毎日処方される。
もう何日経ったのだろう。曜日の感覚もなくなってしまった。
思考は泡沫のように生まれては消えていく。
そんな日々を過ごしていたある日。
「……トーマ……トー……マ……トーマ!」
水底で漂ってた俺の意識を揺さぶり起こす声がする。それは、かって聴き慣れていた声であり、ここに来てからは聞こえる筈の無い声であった。
馬鹿な! 有り得ないことだ……
とうとう幻聴まで聴こえる様になったのかと、自分の事ながら呆れ返ってしまう。
「……トーマ、俺だアンリだよ」
「アン……リ? 本当にアンリなのか?」
迎えの車と共に爆発して死んだ筈のアンリが目の前で微笑んでいる。
「俺はとうとう気が狂ってしまったのか?」
「馬鹿だなぁトーマは。勝手に俺を殺さないで貰えるかな」
クスクスと笑い出したアンリは俺の手を引き身体を起こすと、じっと見つめる。
「トーマ。“本当に忘れちゃったの?”」
その言葉を最後に、アンリは二度と俺の前に現れる事はなかった。
◇◇◇
「旦那さま、足元を気を付けて下され。本当に空き家になると直ぐに家は傷みますからの。それで、ここを改築なさるとか。こんな不便な所へ? ああ、そうですか御母堂さまがお住まいに。それは良うございました。お年を召しますと、都会よりも静かな田舎がお気持ちも安らかになられますからね」
ああ、全くよく喋る管理人だ。
俺は一言も言い返せないまま相槌をひとつ打ち、山の中の小屋の事を聞いてみた。
「はぁ、あの小屋は長い事見ておらんで、どんな事になっちょるかも分からんのです。お出でになられる時は気を付けて下されや」
小屋は長い事、捨置かれてた為に半ば風化していた。枯れ草まみれで入口も判別がつかない。
手で払いながら入口を探すと錆び付いて鍵も回らない様な戸が現れた。
『これは……。鍵も役目を果たしそうも無いな』
昔は鍵穴を回してここに入った。だが、今の俺ならば……
目を閉じ集中する。バキンと音がしてドアノブごと弾け飛んだ。
ギィーッと軋んだ音が鳴って扉が開く。俺は一歩足を踏み出し中に入った。
『やぁ、久しぶりだねトーマ』
アンリが立っていた……。昔と変わらぬ姿のままで。
溢れ出る涙を止めることは出来なかった。
僕達はここで出逢い、そして何時も一緒だった。
『やぁ、久しぶりアンリ』
声なき声を出しアンリに挨拶する。
さよなら僕のおとうと、さよなら僕の分身。
僕は君と一緒に生きていく。
2022•11•24
食事も摂らないのにお腹が減る事もなく、いっそ餓死でもするかと自虐的に嗤う自分がいる。
俺が死ねば父への復讐が完結するじゃないかと日々、生産性のない事ばかりを考える。
「……トーマ様。……お願い……です。食事を……」
誰だか知らないが話しかけられ、腕にチクリとした痛みが走り血管に不必要な栄養が運ばれる。
「…………もう、放っておいてくれ……」
力なく拒んでみるが聞き入れられるはずもなく、逃げ出さない程度の最低限の点滴を毎日処方される。
もう何日経ったのだろう。曜日の感覚もなくなってしまった。
思考は泡沫のように生まれては消えていく。
そんな日々を過ごしていたある日。
「……トーマ……トー……マ……トーマ!」
水底で漂ってた俺の意識を揺さぶり起こす声がする。それは、かって聴き慣れていた声であり、ここに来てからは聞こえる筈の無い声であった。
馬鹿な! 有り得ないことだ……
とうとう幻聴まで聴こえる様になったのかと、自分の事ながら呆れ返ってしまう。
「……トーマ、俺だアンリだよ」
「アン……リ? 本当にアンリなのか?」
迎えの車と共に爆発して死んだ筈のアンリが目の前で微笑んでいる。
「俺はとうとう気が狂ってしまったのか?」
「馬鹿だなぁトーマは。勝手に俺を殺さないで貰えるかな」
クスクスと笑い出したアンリは俺の手を引き身体を起こすと、じっと見つめる。
「トーマ。“本当に忘れちゃったの?”」
その言葉を最後に、アンリは二度と俺の前に現れる事はなかった。
◇◇◇
「旦那さま、足元を気を付けて下され。本当に空き家になると直ぐに家は傷みますからの。それで、ここを改築なさるとか。こんな不便な所へ? ああ、そうですか御母堂さまがお住まいに。それは良うございました。お年を召しますと、都会よりも静かな田舎がお気持ちも安らかになられますからね」
ああ、全くよく喋る管理人だ。
俺は一言も言い返せないまま相槌をひとつ打ち、山の中の小屋の事を聞いてみた。
「はぁ、あの小屋は長い事見ておらんで、どんな事になっちょるかも分からんのです。お出でになられる時は気を付けて下されや」
小屋は長い事、捨置かれてた為に半ば風化していた。枯れ草まみれで入口も判別がつかない。
手で払いながら入口を探すと錆び付いて鍵も回らない様な戸が現れた。
『これは……。鍵も役目を果たしそうも無いな』
昔は鍵穴を回してここに入った。だが、今の俺ならば……
目を閉じ集中する。バキンと音がしてドアノブごと弾け飛んだ。
ギィーッと軋んだ音が鳴って扉が開く。俺は一歩足を踏み出し中に入った。
『やぁ、久しぶりだねトーマ』
アンリが立っていた……。昔と変わらぬ姿のままで。
溢れ出る涙を止めることは出来なかった。
僕達はここで出逢い、そして何時も一緒だった。
『やぁ、久しぶりアンリ』
声なき声を出しアンリに挨拶する。
さよなら僕のおとうと、さよなら僕の分身。
僕は君と一緒に生きていく。
2022•11•24
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