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「勇樹君、なんだかわからないけれどすごい嫌な感じがするの、わかる?」
夜半、丑三つ時。なんだかうまく眠りに付けず、けれど今は夏休みだ、学校も休みだしと勇樹は縁側でぼんやり月をながめていた。粕川家の一角、蚊取り豚に煙を燻らせて。眠れなかったのは明日が噴火予告日だったからかもしれない。逃げるべきなのか、どうなのか。困惑しつつも勇樹は地元に留まっていた。まさかそんなこと、本当に母さんがするとも思えなかった。それが正直なところだった。
けれども彼のクラスメイトの中には本気でそれを信じているものもいるらしく、夏休みなのを幸いに、東海地方から抜け出すものも多いようだった。なに、嘘なら嘘でも構わないし、ちょうど旅行シーズンだ、観光がてらと割り切って、遠出するものも多かった。
そんななか自分はどうすればいいのだろう、そんなことをずっと悶々と考えていたのだ、そりゃあ眠れるわけもない。そこへ慌ただしく粕川がやってきたのだ。パジャマ姿……というよりは高校のジャージをそのまま着た、やる気のない格好で。
なによ、どうせ寝るんだから何着たっていいじゃない、そうふてくされて返されたのはいつのことだったか。
けれどその姿に感傷を寄せている場合などではなかった。時を同じくして、勇樹もひどく胸騒ぎがしたからだった。それは優しかった祖父が亡くなった時の感覚に似ていた。不謹慎ながらに、なぜ祖母ではなく祖父だったのか。そんなことを思いつつも、けれどそう思う自分さえどこか遠くにいるような、浮世離れしたふわふわとした感覚。まるでその事実を現実として受け止められないような。
「うん、なんだろう、何があったのかな」
「私と勇樹くんが一斉に騒ぐってことは」
思い当たる人物は一人しかいなかった。「まさか、母さんの身に何か?」
馬鹿な。勇樹は自分にそう言い聞かせる。しかし粕川は不安げな表情のまま口を開く。
「だって、富士を噴火させるなんて言うから」
「それに対して誰かが怒りの矛先を向けたってこと?でも、まさかそんなことできるわけないし」
そうだ、それが世の反応だった。ゆえに勇樹は学校で肩身の狭い思いをしていたのだ。
「たぶん、気のせいだよ。こないだ変な婆さんが来ただろ、それでそう思いこんでるんだよ」
「でも、あのお婆さんは『王はより王に近づくだろう』、って」
「王に……」
そこで勇樹はいま一度、シャンポリオンの王を思い浮かべる。逞しい身体に、穏やかな笑み。その隻眼で民を見渡し――。
「片目?」
嫌な予感が一層強くなる。けれど勇樹はこの推測を語らずにはいられなかった。
「え?」
「王様、片方の目が見えなかったよね」
「そう言えば」
「王の目。なんで先生はそんな風に呼ばれていたの?」
「それは、なんでも見通すことが出来るからって」
「でも、いまの先生は何も見えない?」
「そりゃそうだよ、大昔の人が出来てたからって今の私に出来るわけが――」
そこで不意に粕川は口をつぐみ、いぶかしがるように遠くの方を見やる。まるで誰かがそこにいるかのように。
「先生?なに、ユーレイでも見えるの?」
自分でも信じたくなかったからかもしれない。半ば冗談めかして勇樹が言えば、粕川が慌てたように口を開いた。
「大変、なんかスーツの集団が襲ってくるの、ピストル?やだ、どこのマフィアの話だっていうのよ」
「マフィア?」
「え、やだ、やだやだ、痛いっ!」
そこで粕川が大きな声をだしてうずくまった。「先生、大丈夫!?」
やがてうずくまった粕川が、ゆっくりと起き上がる。まるでいつもの先生とは違うようだった。月明かりに照らされた彼女の顔は、どこか神秘的なものを纏っていた。
「王が、目覚めた」
「母さんが?でも、ずいぶん前から自分は王だって」
勇樹の言葉に、彼女は今の自分を取り戻したらしい。ゆるゆると首を振り、先に見たイメージを整理するかのようにゆっくりと唇を開く。
「あのロロとかいうお婆さんの言ってた意味がよくわかったわ。多分陽子さんはフュオンティヌスと同じく片目を失って、本来の彼を思いだした」
「そんな、じゃあ、母さんは」
片目を失ったというのか。けれどなぜ?誰が?いや、そんなことより大丈夫なのか!?
「どこだろう、たぶん病院。命には別条ないみたいだけど、でも、陽子さんは昏々と眠ってる」
「先生何か見えるの?」
「うん、なんか……陽子さんの、いや、王のって言ったほうがいいのかな。その王の周辺がなんか見えるの。こう、この辺にボウって浮かんで見える感じ」
「ふーん、立体プロジェクターみたいに?」
「そう、そんな感じかも。でも、これどこだろう。きっとこのあたりの病院なんだと思うけど。大きい病棟のある」
「でもふつう家族が大けがしたら俺だって、父親にだって連絡が行くだろ?」
そこで勇樹は自分に与えられたケータイを見る。そこには誰からも着信はないようだった。
「きっと呼べない事情があるんだよ。だって、いかにも怪しかったもん。スーツ姿の集団が銃を持って囲んでるんだよ?きっと陽子さん、脅されてたんじゃないかしら」
「脅されてた?」
「そうよ、優人会だなんて怪しい宗教団体に取り込まれて、富士噴火の予言までさせられて。けれど世は仕方なしに発言した陽子さんを悪だと糾弾する。その現実にいたたまれなくなった彼女は優人会を逃げ出そうとしたけれど、それも叶わず目を負傷してしまった」
「じゃあ、あの滝沢とかいう政治家にうまく使われてたってこと?」
「その可能性は十二分にある。でも、碓井先生がそれに気づかないはずないと思うんだけど」
「とにかく、それより今は母さんの安否を確認するのが先だろ。ねえ先生、どこの病院かわからない?」
「そんなこと言われても……」
困惑する粕川だったが、どことなくそこは知っている風景なような気もした。そう、高校生の時に盲腸で入院した浜松市民病院。あの壁になぜだか緑のラインが引かれていたのを不思議に思ったものだった。
「たぶん、浜松市民病院だと思う」
「じゃあ、そこに行かなくっちゃ。でも大きい病院なんでしょう?具体的にどの場所かわかる?」
「ええと、緑のラインは西棟。線が増えると階が上がるから」
粕川はラインの数を思いだす。5本。
「5階のどっかだと思う」
「じゃあ、とにかく5階を目指そう。とにかく行ってみればわかるよ」
「でも夜の病院に勝手に入っていいのかな」
「そんなの知ったことないよ、でも親の一大事なんだ、それを止めようとするやつなんて普通いないだろ」
気付けば勇樹は部活で使っている竹刀を手に、月明かりの元仁王立ちで立っていた。
ああ、きっと彼も覚醒したのだ、勇者に。
王の目としての力を取り戻した粕川はそう思った。きっと、私たちは王を助ける運命にあったのだ、今も昔も。
「そうね、お母さんが苦しんでるんですもの。これで見舞いに行かなきゃ親子の縁が廃るってものよ」
けれど少なくとも現世で王は立派な母親だった。じゃなきゃ息子がこんなに彼女のことを心配などするものか。そうだ、過去がそうだからじゃない、私たちはそうしたくてするのだから。陽子さんが心配だから。
「でも、お願いだから着替えさせて!」
いくら深夜とはいえ、花の女子大生がパジャマで飛び出すわけにもいくまい。それにこの先何が起こるかもわからない。準備はしっかりしておかないと。
憤る勇樹をなだめ、粕川は慌てて身なりを整え、彼らは深夜の町並みを自転車に跨がり疾走したのだった。
「夜の病院なんて、お化け屋敷じゃん」
「ここに入院してる人もいるんだから。お化け屋敷じゃないよ」
「でもこんなに静かでさ、怖くないのかな」
「怖くても怪我したり病気したりして死ぬくらいなら、我慢できるでしょ」
「確かに」
さすがにスムーズに面会できる時間は過ぎていた。深夜3時。面会は18時までです、そう書かれた立て札が正面出入り口に置かれていた。このままおとなしく明日を待てば良かったのかもしれないが、しかし明日になったところとて無事会わせてもらえるかどうかは甚だ怪しかった。
「どこから入れるかな」
もわっとした空気の澱む病院入り口の脇に自転車を停め、そろりと優樹が粕川に問いかける。
「うーん、裏門?緊急受付の窓口は開いてるみたいだけど、警備員が一人いる」
「先生、透視能力に目覚めたの?」
「どうなんだろ。私は予言者だったらしいから、見えるのは未来のはずなんだけど。でも高校生のとき入院して、あんまり怖いからここから逃げ出そうとしたことがあるんだよね。警備のおじさんに捕まっちゃったけれど」
「怪我とか病気を我慢するより怖いの我慢した方がいいって言ってなかった?」
「仕方ないでしょ、怖いもんは怖いんだし」
ぼそぼそと小声で話していた二人は、それでもさすがに固く閉ざされた正面入り口よりは可能性があろうとそろそろと裏手へ回る。コンクリブロックで囲まれた、殺風景な裏手側。さすがに正面のように草花で飾る気力も予算もないらしく、夜勤の人間のものなのだろうか、わずか数台車が停まっているだけの場所。暗くて良く見えないが、高そうな車ばかりだ。あれ、フェラーリかな。さして車好きでもない勇樹にもわかるシルエット。その駐車場の先には粕川が〈予言〉した通り、警備員がぼんやりと立っていた。
「どうしよう。勇樹くん、その竹刀であのおじさんやっつけられない?」
「無茶言わないでよ、向こうはプロなんだよ。それに、あのおじさんはなにも悪いことしてないじゃないか」
「そりゃあそうだけど。なにかないかな、あのおじさんの気を逸らせるもの」
彼女は慌てて引っつかんで持ち出したリュックの中身をごそごそと漁る。ケータイに財布、レジメの束、筆記用具。化粧ポーチに制汗剤、髪留めのリボンにライター。
「先生、タバコなんて吸うの?」
どうやら中身一覧を見ていたらしい勇樹が言った。あまりタバコ臭い気もしなかったけど。
「別に吸わないけど。でも、火は文明の象徴だから、ヒトとしての尊厳を失わないようお守り代わりに持ってんの」
「ちょっと言ってる意味がわかんない。文明の象徴ならケータイで充分じゃん」
「そのロマンがわからないようじゃあ、君は史学科には向いてないね。けどまあ、お守り持ってた甲斐があるかも」
「そう?」
訝しがる勇樹など目もくれず、粕川は勇樹から少し離れたところで制汗剤をシューシューと巻き散らかし始めた。
「ん?」
その音に気付いたのか、警備員がそちらの方向を向いた。
「ちょっと、先生!」
呼びかけるのに大きな声を出すわけにもいかず、勇樹は声にならない声で叫ぶ。え、先生がおとりになるってこと?でもこの先一人で行ける自信もないんだけど。
とそこで。
ドォォン!!大きな猛火が静かな病院の敷地内に発生した。
「なんだ!?」
この突然の出来事に慌てるのは警備員の彼だけではなかった。勇樹も何が起こったのかわからず唖然としていると、したり顔の粕川が勇樹の元に戻ってきて、「ほら、今だよ!」と彼の手を引っ張った。
すばしっこくこの場を離れる二人に構っている余裕などなかったのか、それとも本当に気が付かなかったのか。己の仕事に忠実なおじさんは初期消火に必死だった。
「ちょっと、車に引火でもしたらやばいんじゃないの!?」
「大丈夫、……多分。あのスプレー大して残ってなかったし、最初の爆発でガスなんてもうないと思うし」
「知らないよ、延焼して大火事にでもなったら」
「うん、良い子は真似しちゃダメだからね」
今さら真面目な顔をして粕川がいうものだから、この期に及んで勇樹は吹き出してしまった。相変わらず顔に似合わずハチャメチャだ。でもそんなところも、先生のいいところだと彼は思いながら走り抜ける。
無事院内に侵入することはできたが、けれどあまり音をたてることは許されなかった。なにせこの建物内には、走れるほど元気な人間などほとんどいないのだ。バタバタ音をたててみろ、すぐに見つかってしまうに違いない!
とはいえさすがに先の爆発音で騒ぎになるのかとも思ったのだが、さすがに規則正しい生活を強要されて深夜にかかわらず元気に起きている人間はいないようだった。体力ゆえか、それとも薬の影響か。
さらに運が良かったのは、ちょうど巡回の時間ではなかったことだろうか。看護師の一人や二人ウロウロしていそうなものだったけれど、なにも夜勤だからといって巡回だけが仕事なのではないのだろう。だがもちろん煌々とライトをつけることもできず、薄暗い病棟を進むのはひどく困難だった。物理的にはもちろん、心理的にも。
どうにも怖いものが苦手らしい粕川は、もはや子供の保護者ぶるのもやめて優樹を盾にそろりそろりと進んでいく。平気で引火性のスプレーに火を放てる彼女の方がよほど怖いと思いはしたが、それとこれとは違うのだろうと無理やりに納得する。
確かに俺、王の盾らしいけど。けれどここまであからさまに盾扱いされたのははじめてだなぁ。そう思うものの、勇樹はまんざらでもなかった。
「ねえ、あそこかな」
距離で言えば大したこともなかったのだろうか、牛歩のように歩いてきた彼らにはひどく長い道のりだった。
その目指した病室の前には、この暗闇に同化するかの如く、黒服を身にまとった男が二人。
「いかにもそうです、って感じだけど」
「そうだよね、いかにも過ぎてどうしよう」
「あの二人はやっつけてもいいんじゃないかな、勇樹君」
「でも、ピストル持ってたらさすがに敵わないよ、俺だって」
「でもさすがに病院で発砲騒ぎはないんじゃないかしら、暴力団の抗争じゃあるまいし」
「でも万一持ってたら嫌だよ、俺撃たれるの」
「そりゃそうだ。うーん、じゃあこうしてみる」
考えあぐねて、粕川は彼らから見えない死角のその位置から何かを彼らの方へ投げ込んだ。カラカラカラ。その音に反応して黒服が動くが銃を取り出すそぶりはなかった。
「うん、なら大丈夫!」
そこで勇樹は竹刀を手に駆けだしていた。相手が武器を持っていない以上、自分の方が圧倒的に有利だった。これでも練習試合で負けたことはないんだ、なぜだか本番だとダメなんだけどさ!けれど本番とか練習とか言っている場合じゃない、早く母さんを助け出さないと!
音の発生源に気をとられていたのもあったのだろう。手前側にいた黒服の反応が一歩遅かった。その男の顔面を躊躇することなく勇樹は竹刀で打ち付ける。痛みに身体をのけぞらせる手前の男には構わず、そのままの勢いで奥の男の鳩尾を剣先でドンと突く。だがふたりとも致命傷にはならない。それもそうだろう、所詮は竹刀だ、剣技を競うためのもの。誰かを傷つけるために作られたものではない。少し態勢を崩したものの、男らは怯むことなく勇樹へと向かって襲いかかる!
「え、嘘でしょ、試合だったら俺勝ってるんですけど」
狼狽しつつも竹刀を操り、彼らの攻撃を防いではいるがこのままでは埒が明かない。下手に騒ぎを聞きつけて、誰かに来られても面倒だった。とはいえ、まさか喉を突いて気道を潰すわけにもいかないし、目玉を潰すなどご法度だ。ルール違反なんて彼のプライドが許さなかった。
「勇樹君は、なんやかんやでクーファなんだねぇ」
二人がかりで襲われ、けれどこれといった致命傷を与えることも出来ず防御一方の勇樹にあきれた声で粕川が言った。ダメだよ先生、気付かれちゃ!
勇樹がそう言う暇もなく黒服の一人が彼女目がけて飛びかかってきた。危ない、先生!
「うあぁぁっ!?」
けれど勇樹の心配は杞憂に終わった。彼女が片手にしたスティック状のなにかから噴霧されたそれが男の目を直撃すれば、彼は必死に自分の手で顔面を押さえている。
「はい、奥のおにーさんもどうぞ」
「なっ!?」
同じように彼女は謎のスプレーを男の顔面に吹き付ける。するとその男もあっという間に痛みにのけぞった。
「はい勇樹君、今のうちにこれで手足を縛って!」
彼女から投げ渡されたのは装飾用のリボンだった。これで髪を束ねたらさぞかしかわいいだろう、そう思わせる、桜色のシフォンのリボン。
「え、でも、こんなんじゃ弱いんじゃ」
「大丈夫、中に針金入ってるしうまく結べばそうそう切れないから。そう、ちゃんと後ろ手にね。一本しかないから、手と足を一緒に結んで」
「でも、そっちの人は?」
「そうね、私が今着てるパーカーに紐がついてるからそれで縛っとく。別になくても大丈夫な紐だし」
「……先生、なんでこんな慣れてんの?」
危険要素を排除できた安堵からか、勇樹はジト目で粕川を問い詰める。いくらなんでも先生、場馴れしすぎてやしないか?
「あの目潰しに使ったスプレーみたいなのは?」
「虫よけスプレー」
「そんなんで目潰しになるの?」
「さすがに人間は死なないけど、でも虫が死ぬぐらいだもん、効力はあるでしょ。前にエジプトに旅行に行く前に教わったの。どうしてもピラミッド見ておきたくて、でも女一人だと危ないだろうって、持ってると役に立つ、虫はもちろん人間にもって。唐澤先生から」
「でもエジプトって観光地だろ?そんなことあんの?そんな、襲われるようなこと」
「別に日本だってあるでしょ?女イコール弱いからどうにかできるって思っているバカは一定数いるのよ、どこの国にも。でもそういう馬鹿ほど扱いやすいから困りやしないけど」
「そうなんだ……」
女の人って大変だね、そう言葉を紡ぎたかったが、当の本人があまり大変そうでなかったので勇樹は口を閉じてしまった。悲しいかな実際、自分よりも非力であるはずの彼女の方が強かった。俺もまだまだだな、本番で緊張してる場合じゃない、もっと実践的に考えなければ。
「よし、これで邪魔者は排除できた。あとは」
「母さん、大丈夫かな」
二人は静かに病室の扉を開いた。
暗い病室の中、彼女は静かに横たわっていた。口に付けられた酸素吸入器が痛々しい。ということは、まだ彼女は意識を取り戻していないのだろうか。
「母さん……」
ささやく声で勇樹がつぶやく。だがその声で彼女は目を覚ましたようだった。
「……クーファ?」
第一声が息子の名前でなかったので若干落胆しつつも、「そうだよ、クーファ。今は勇樹だけど」
と返す。
「勇樹?ああ、ようやく来てくれたのね、ありがとう……」
か細い声で彼女が言った。どうやらようやく現状を認識し始めたらしい。顔にまかれた包帯が現実を示していた。
「陽子さん、目、見えますか?」
思わず粕川が声をかけた。その声で訪問者が二人であることに気付いた陽子が「カスティリオーネも来てくれたのね」と嬉しそうに息を吐いた。
「なんだか、記憶がごっちゃになってるみたい」
「そうかもね」
そこで再度粕川は陽子に問いかける。「陽子さん、目、見えますか?」
その問いに陽子は、ぼんやりとした意識からはい出そうともがき始めた。ああ、わたしは今どこに?いったい何があったんだっけ、わたしの身に……。
そこでようやく彼女は思い至った。そうだ、わたしは滝沢を止めようとあの施設を逃げ出そうとして、それで。
「……痛い」
なんだか左腕に痛みを感じた。それと同時に、左顔面に覚える違和感。
「なんだか、顔の左半分が変みたいなの」
言いながら陽子は暗い天井を見渡した。いつもの視界より狭く見える世界。顔を声のする方に向けてみるも、手前側の勇樹の顔は見えたがその奥にいるはずの粕川の姿を認識できなかった。
「あれ、粕川さんは?」
「先生なら俺の奥に。母さん、片目包帯で巻かれてる。怪我したの覚えてる?」
悲しそうな声で勇樹が言った。そこでようやく陽子は自覚した。
ああ、わたしの左目は光を失ってしまったのだと。
驚きと落胆があったのはもちろんだった。近所の誰それさんが交通事故に遭って下半身不随になったらしいわよ、へえ、かわいそうに。そう他人事でしかなかった不幸ごとが、まさか自分の身に降りかかるとは。そんなこと、自分に起こるわけがないと思っていたのに、しかし不幸は相手を選んでくれているようでもなかった。
いや、違う。
陽子はその考えをすぐに一蹴した。もとはといえば自分が招いた不幸じゃない。
だって、怪しい宗教団体にまんまと担ぎ上げられて、与えられる権力に舌なめずりしていたわたしがいけなかったのだから。ましてその座を失うのを恐れて、恐ろしい計画の一端を担ってしまった。もはや人のせいにしている場合ではなかった。止めなければ。彼女の中の良心が彼女をせめぎ立て、そうして片目を失うに至らせてしまった。けれど後悔はなかった。
「視えないみたい、でも、今はそれどころじゃないの」
「それどころって、目が見えなくなる以上に大変なことなんてあるのかよ」
半ば憤るような声で勇樹が言った。それもそうだろう、久しぶりに会えた母親が大けがしているのに、それ以上に大変なことなんてあってたまるか。
「早く止めないと、大変なことになる。止めようとして失敗してしまったの」
「止めるって、何を?」
粕川がいぶかしげに問う。もしかして、それって。
「富士山が噴火しちゃうの、多くの人の命が失われてしまう」
「はあ?富士山が噴火?あんなのデマに決まってるじゃないか。実際あり得ないってクラスで笑われて肩身の狭い思いしてきたんだから!」
「ごめんなさい、勇樹。つらい思いをさせてしまって。でも、富士噴火は本当に起こる。恐ろしい兵器を使って、滝沢たちはあの山を噴火させようと目論んでいる」
「嘘でしょ?そんなこと出来るわけ」
「出来るの」
強い口調で陽子が言った。
「もちろん仕組みなんてわたしにはわからない。けれど、実際そういうものがあるんだって、滝沢が。唐澤先生も協力してるって」
「唐澤先生が!?」
思わず驚きの声を上げたのは粕川だった。
「先生、静かに」
「ごめん」
これで何度めだろう、中学生にたしなめられて。けれどあの唐澤先生がそんな恐ろしい計画に自主的に参加するとも彼女には思えなかった。一見気だるげだが優しい唐澤の横顔を思い出す。その彼の後ろには、なんだか大きなアンテナのようなもの。
ん?アンテナ?
「陽子さん、その兵器ってどんなものかご存じですか?」
「詳しくはわからない、けれどネットだとなんだかアンテナみたいのがたくさんあって」
「アンテナ!!」
またしても大きな声をあげてしまった。視線だけでとがめる勇樹に詫びつつ、けれど粕川は興奮を止められなかった。
「今のわたしには視えるのよ」
「視える?」
「火山を噴火させる兵器。その近くに、確かに唐澤先生がいる」
「遠くの場所が視えるの?まるで千里眼じゃん」
勇樹が目を瞠った。物語でしか出てこない特殊能力。とはいえ、科学技術の発達した現代ではさほど重宝しないだろうが、それでもこの局面では重大な能力だった。
〈王の目〉として覚醒した粕川は、その景色を見ながら思いだす。そうだ、王の目は失われし王の片目を指して使われた名称ではなかったか。不意に記憶がよみがえるのを彼女は止めることが出来なかった。
もともと王はすべてを見通す力を持っていた。けれど、そのあまりに強大な力を憂いて片目を自らえぐり出した。そうして生まれたのが〈王の目〉だと。はるか昔のあの国では、その神話が信じられていたのではなかったか。
「どこかしら、どこか……広い場所だわ、室内かしら。陽子さんのいう通り、アンテナみたいなのがたくさん立ってて」
「アンテナ?そんなのが兵器だっていうの?」
まだ信じられない様子で勇樹が言った。SFじゃああるまいし、そんなことできるわけないじゃないか。
「振動を与えて地震や噴火を誘導するみたい。そういう研究をしているところ。そうね、あと、赤い……扉?ちがう、門かしら、そんなのが見えるんだけど」
「赤い門?うーん……雷門?」
勇樹は前に修学旅行で行った東京の観光地を思いだす。けれどただの建物の門が赤いだけだと絞りようがないんだけど。困る勇樹をよそに、粕川は慌てた様子で鞄からスマホを取りだしなにかを調べ始めた。
「何かわかった?先生」
「赤門で調べると、そういう地名が何個か出てくるんだけど、一番多いのは、東大」
「東大?あの、頭のいい人が行くところ?」
「そう。で、東大、地震で調べると『東大学地震研究所』ってのが出てくる」
「それって」
「いかにもでしょ?でもさすがに天下の東大学に、そんな怪しい兵器があるものなのか」
「本当にそんなところで恐ろしい計画が行われてるの?だって頭がいい人がいくところじゃん、そんなバカなことほんとにすると思う?しかも外国に向けてならともかく、日本の、富士山を噴火させて何の得があるんだよ」
「そんなの知らないよ。でも現に滝沢は王の威厳を示すために富士を噴火させようとしてるんじゃない。陽子さんが恐ろしい存在だって世に知らしめて、その力でこの国を支配しようとしている」
「でも。同じ日本人だよ?その日本人を危ない目に遭わせたりする?」
「わからない。でも、滝沢にとってはネアンデルタール属以外のサピエンスは劣等種だとでも思ってるのかもしれない。白人が黒人を差別するのと同じで」
「同じ国に住んでるのに、そんなのおかしくない?」
「おかしいよ、でも現実にそういうことが起こってるの。なら日本でだって起こっても不思議じゃないでしょ?所詮人間の思考パターンなんて大してないんだから」
「そんな」
「そんなことより」
争う二人に陽子が静かに声をかける。
「このままここにいても埒が明かないわ。とにかく、ここを抜けださなくっちゃ。はやく、東京に向かわないと」
「でも母さん、怪我は?」
「たぶん大丈夫、ちゃんと治療はしてもらったから。こんなんでも王には違いないから、あまり手荒なことは出来ないみたい」
「腕を撃つあたりで十分手荒だと思うけど」
「わたしもそう思うけど、彼らの感覚ではそうじゃないみたい。今まで身の回りの世話をしてくれてた人がいきなり撃ってくるんですもの。ビックリした」
「母さん……」
「そうね、陽子さんのいう通りだわ。とりあえずここを早く出ましょう、じゃないと、見張りからの連絡がなくて不思議に思った仲間たちがやってくる」
「マジで?」
「私にはそう見える」
〈王の目〉らしく威厳たっぷりに粕川は言った。
「じゃあ、はやくここから逃げ出さないと」
「ええ、そしてとにかく向かわないと、東京に」
行き先は決まった。三人は固く決意する。あとはどうすればわからなかったけれど、とにかく止めなければならない。この国を守るためにも。彼らは暗い病室を静かに抜け出した。
夜半、丑三つ時。なんだかうまく眠りに付けず、けれど今は夏休みだ、学校も休みだしと勇樹は縁側でぼんやり月をながめていた。粕川家の一角、蚊取り豚に煙を燻らせて。眠れなかったのは明日が噴火予告日だったからかもしれない。逃げるべきなのか、どうなのか。困惑しつつも勇樹は地元に留まっていた。まさかそんなこと、本当に母さんがするとも思えなかった。それが正直なところだった。
けれども彼のクラスメイトの中には本気でそれを信じているものもいるらしく、夏休みなのを幸いに、東海地方から抜け出すものも多いようだった。なに、嘘なら嘘でも構わないし、ちょうど旅行シーズンだ、観光がてらと割り切って、遠出するものも多かった。
そんななか自分はどうすればいいのだろう、そんなことをずっと悶々と考えていたのだ、そりゃあ眠れるわけもない。そこへ慌ただしく粕川がやってきたのだ。パジャマ姿……というよりは高校のジャージをそのまま着た、やる気のない格好で。
なによ、どうせ寝るんだから何着たっていいじゃない、そうふてくされて返されたのはいつのことだったか。
けれどその姿に感傷を寄せている場合などではなかった。時を同じくして、勇樹もひどく胸騒ぎがしたからだった。それは優しかった祖父が亡くなった時の感覚に似ていた。不謹慎ながらに、なぜ祖母ではなく祖父だったのか。そんなことを思いつつも、けれどそう思う自分さえどこか遠くにいるような、浮世離れしたふわふわとした感覚。まるでその事実を現実として受け止められないような。
「うん、なんだろう、何があったのかな」
「私と勇樹くんが一斉に騒ぐってことは」
思い当たる人物は一人しかいなかった。「まさか、母さんの身に何か?」
馬鹿な。勇樹は自分にそう言い聞かせる。しかし粕川は不安げな表情のまま口を開く。
「だって、富士を噴火させるなんて言うから」
「それに対して誰かが怒りの矛先を向けたってこと?でも、まさかそんなことできるわけないし」
そうだ、それが世の反応だった。ゆえに勇樹は学校で肩身の狭い思いをしていたのだ。
「たぶん、気のせいだよ。こないだ変な婆さんが来ただろ、それでそう思いこんでるんだよ」
「でも、あのお婆さんは『王はより王に近づくだろう』、って」
「王に……」
そこで勇樹はいま一度、シャンポリオンの王を思い浮かべる。逞しい身体に、穏やかな笑み。その隻眼で民を見渡し――。
「片目?」
嫌な予感が一層強くなる。けれど勇樹はこの推測を語らずにはいられなかった。
「え?」
「王様、片方の目が見えなかったよね」
「そう言えば」
「王の目。なんで先生はそんな風に呼ばれていたの?」
「それは、なんでも見通すことが出来るからって」
「でも、いまの先生は何も見えない?」
「そりゃそうだよ、大昔の人が出来てたからって今の私に出来るわけが――」
そこで不意に粕川は口をつぐみ、いぶかしがるように遠くの方を見やる。まるで誰かがそこにいるかのように。
「先生?なに、ユーレイでも見えるの?」
自分でも信じたくなかったからかもしれない。半ば冗談めかして勇樹が言えば、粕川が慌てたように口を開いた。
「大変、なんかスーツの集団が襲ってくるの、ピストル?やだ、どこのマフィアの話だっていうのよ」
「マフィア?」
「え、やだ、やだやだ、痛いっ!」
そこで粕川が大きな声をだしてうずくまった。「先生、大丈夫!?」
やがてうずくまった粕川が、ゆっくりと起き上がる。まるでいつもの先生とは違うようだった。月明かりに照らされた彼女の顔は、どこか神秘的なものを纏っていた。
「王が、目覚めた」
「母さんが?でも、ずいぶん前から自分は王だって」
勇樹の言葉に、彼女は今の自分を取り戻したらしい。ゆるゆると首を振り、先に見たイメージを整理するかのようにゆっくりと唇を開く。
「あのロロとかいうお婆さんの言ってた意味がよくわかったわ。多分陽子さんはフュオンティヌスと同じく片目を失って、本来の彼を思いだした」
「そんな、じゃあ、母さんは」
片目を失ったというのか。けれどなぜ?誰が?いや、そんなことより大丈夫なのか!?
「どこだろう、たぶん病院。命には別条ないみたいだけど、でも、陽子さんは昏々と眠ってる」
「先生何か見えるの?」
「うん、なんか……陽子さんの、いや、王のって言ったほうがいいのかな。その王の周辺がなんか見えるの。こう、この辺にボウって浮かんで見える感じ」
「ふーん、立体プロジェクターみたいに?」
「そう、そんな感じかも。でも、これどこだろう。きっとこのあたりの病院なんだと思うけど。大きい病棟のある」
「でもふつう家族が大けがしたら俺だって、父親にだって連絡が行くだろ?」
そこで勇樹は自分に与えられたケータイを見る。そこには誰からも着信はないようだった。
「きっと呼べない事情があるんだよ。だって、いかにも怪しかったもん。スーツ姿の集団が銃を持って囲んでるんだよ?きっと陽子さん、脅されてたんじゃないかしら」
「脅されてた?」
「そうよ、優人会だなんて怪しい宗教団体に取り込まれて、富士噴火の予言までさせられて。けれど世は仕方なしに発言した陽子さんを悪だと糾弾する。その現実にいたたまれなくなった彼女は優人会を逃げ出そうとしたけれど、それも叶わず目を負傷してしまった」
「じゃあ、あの滝沢とかいう政治家にうまく使われてたってこと?」
「その可能性は十二分にある。でも、碓井先生がそれに気づかないはずないと思うんだけど」
「とにかく、それより今は母さんの安否を確認するのが先だろ。ねえ先生、どこの病院かわからない?」
「そんなこと言われても……」
困惑する粕川だったが、どことなくそこは知っている風景なような気もした。そう、高校生の時に盲腸で入院した浜松市民病院。あの壁になぜだか緑のラインが引かれていたのを不思議に思ったものだった。
「たぶん、浜松市民病院だと思う」
「じゃあ、そこに行かなくっちゃ。でも大きい病院なんでしょう?具体的にどの場所かわかる?」
「ええと、緑のラインは西棟。線が増えると階が上がるから」
粕川はラインの数を思いだす。5本。
「5階のどっかだと思う」
「じゃあ、とにかく5階を目指そう。とにかく行ってみればわかるよ」
「でも夜の病院に勝手に入っていいのかな」
「そんなの知ったことないよ、でも親の一大事なんだ、それを止めようとするやつなんて普通いないだろ」
気付けば勇樹は部活で使っている竹刀を手に、月明かりの元仁王立ちで立っていた。
ああ、きっと彼も覚醒したのだ、勇者に。
王の目としての力を取り戻した粕川はそう思った。きっと、私たちは王を助ける運命にあったのだ、今も昔も。
「そうね、お母さんが苦しんでるんですもの。これで見舞いに行かなきゃ親子の縁が廃るってものよ」
けれど少なくとも現世で王は立派な母親だった。じゃなきゃ息子がこんなに彼女のことを心配などするものか。そうだ、過去がそうだからじゃない、私たちはそうしたくてするのだから。陽子さんが心配だから。
「でも、お願いだから着替えさせて!」
いくら深夜とはいえ、花の女子大生がパジャマで飛び出すわけにもいくまい。それにこの先何が起こるかもわからない。準備はしっかりしておかないと。
憤る勇樹をなだめ、粕川は慌てて身なりを整え、彼らは深夜の町並みを自転車に跨がり疾走したのだった。
「夜の病院なんて、お化け屋敷じゃん」
「ここに入院してる人もいるんだから。お化け屋敷じゃないよ」
「でもこんなに静かでさ、怖くないのかな」
「怖くても怪我したり病気したりして死ぬくらいなら、我慢できるでしょ」
「確かに」
さすがにスムーズに面会できる時間は過ぎていた。深夜3時。面会は18時までです、そう書かれた立て札が正面出入り口に置かれていた。このままおとなしく明日を待てば良かったのかもしれないが、しかし明日になったところとて無事会わせてもらえるかどうかは甚だ怪しかった。
「どこから入れるかな」
もわっとした空気の澱む病院入り口の脇に自転車を停め、そろりと優樹が粕川に問いかける。
「うーん、裏門?緊急受付の窓口は開いてるみたいだけど、警備員が一人いる」
「先生、透視能力に目覚めたの?」
「どうなんだろ。私は予言者だったらしいから、見えるのは未来のはずなんだけど。でも高校生のとき入院して、あんまり怖いからここから逃げ出そうとしたことがあるんだよね。警備のおじさんに捕まっちゃったけれど」
「怪我とか病気を我慢するより怖いの我慢した方がいいって言ってなかった?」
「仕方ないでしょ、怖いもんは怖いんだし」
ぼそぼそと小声で話していた二人は、それでもさすがに固く閉ざされた正面入り口よりは可能性があろうとそろそろと裏手へ回る。コンクリブロックで囲まれた、殺風景な裏手側。さすがに正面のように草花で飾る気力も予算もないらしく、夜勤の人間のものなのだろうか、わずか数台車が停まっているだけの場所。暗くて良く見えないが、高そうな車ばかりだ。あれ、フェラーリかな。さして車好きでもない勇樹にもわかるシルエット。その駐車場の先には粕川が〈予言〉した通り、警備員がぼんやりと立っていた。
「どうしよう。勇樹くん、その竹刀であのおじさんやっつけられない?」
「無茶言わないでよ、向こうはプロなんだよ。それに、あのおじさんはなにも悪いことしてないじゃないか」
「そりゃあそうだけど。なにかないかな、あのおじさんの気を逸らせるもの」
彼女は慌てて引っつかんで持ち出したリュックの中身をごそごそと漁る。ケータイに財布、レジメの束、筆記用具。化粧ポーチに制汗剤、髪留めのリボンにライター。
「先生、タバコなんて吸うの?」
どうやら中身一覧を見ていたらしい勇樹が言った。あまりタバコ臭い気もしなかったけど。
「別に吸わないけど。でも、火は文明の象徴だから、ヒトとしての尊厳を失わないようお守り代わりに持ってんの」
「ちょっと言ってる意味がわかんない。文明の象徴ならケータイで充分じゃん」
「そのロマンがわからないようじゃあ、君は史学科には向いてないね。けどまあ、お守り持ってた甲斐があるかも」
「そう?」
訝しがる勇樹など目もくれず、粕川は勇樹から少し離れたところで制汗剤をシューシューと巻き散らかし始めた。
「ん?」
その音に気付いたのか、警備員がそちらの方向を向いた。
「ちょっと、先生!」
呼びかけるのに大きな声を出すわけにもいかず、勇樹は声にならない声で叫ぶ。え、先生がおとりになるってこと?でもこの先一人で行ける自信もないんだけど。
とそこで。
ドォォン!!大きな猛火が静かな病院の敷地内に発生した。
「なんだ!?」
この突然の出来事に慌てるのは警備員の彼だけではなかった。勇樹も何が起こったのかわからず唖然としていると、したり顔の粕川が勇樹の元に戻ってきて、「ほら、今だよ!」と彼の手を引っ張った。
すばしっこくこの場を離れる二人に構っている余裕などなかったのか、それとも本当に気が付かなかったのか。己の仕事に忠実なおじさんは初期消火に必死だった。
「ちょっと、車に引火でもしたらやばいんじゃないの!?」
「大丈夫、……多分。あのスプレー大して残ってなかったし、最初の爆発でガスなんてもうないと思うし」
「知らないよ、延焼して大火事にでもなったら」
「うん、良い子は真似しちゃダメだからね」
今さら真面目な顔をして粕川がいうものだから、この期に及んで勇樹は吹き出してしまった。相変わらず顔に似合わずハチャメチャだ。でもそんなところも、先生のいいところだと彼は思いながら走り抜ける。
無事院内に侵入することはできたが、けれどあまり音をたてることは許されなかった。なにせこの建物内には、走れるほど元気な人間などほとんどいないのだ。バタバタ音をたててみろ、すぐに見つかってしまうに違いない!
とはいえさすがに先の爆発音で騒ぎになるのかとも思ったのだが、さすがに規則正しい生活を強要されて深夜にかかわらず元気に起きている人間はいないようだった。体力ゆえか、それとも薬の影響か。
さらに運が良かったのは、ちょうど巡回の時間ではなかったことだろうか。看護師の一人や二人ウロウロしていそうなものだったけれど、なにも夜勤だからといって巡回だけが仕事なのではないのだろう。だがもちろん煌々とライトをつけることもできず、薄暗い病棟を進むのはひどく困難だった。物理的にはもちろん、心理的にも。
どうにも怖いものが苦手らしい粕川は、もはや子供の保護者ぶるのもやめて優樹を盾にそろりそろりと進んでいく。平気で引火性のスプレーに火を放てる彼女の方がよほど怖いと思いはしたが、それとこれとは違うのだろうと無理やりに納得する。
確かに俺、王の盾らしいけど。けれどここまであからさまに盾扱いされたのははじめてだなぁ。そう思うものの、勇樹はまんざらでもなかった。
「ねえ、あそこかな」
距離で言えば大したこともなかったのだろうか、牛歩のように歩いてきた彼らにはひどく長い道のりだった。
その目指した病室の前には、この暗闇に同化するかの如く、黒服を身にまとった男が二人。
「いかにもそうです、って感じだけど」
「そうだよね、いかにも過ぎてどうしよう」
「あの二人はやっつけてもいいんじゃないかな、勇樹君」
「でも、ピストル持ってたらさすがに敵わないよ、俺だって」
「でもさすがに病院で発砲騒ぎはないんじゃないかしら、暴力団の抗争じゃあるまいし」
「でも万一持ってたら嫌だよ、俺撃たれるの」
「そりゃそうだ。うーん、じゃあこうしてみる」
考えあぐねて、粕川は彼らから見えない死角のその位置から何かを彼らの方へ投げ込んだ。カラカラカラ。その音に反応して黒服が動くが銃を取り出すそぶりはなかった。
「うん、なら大丈夫!」
そこで勇樹は竹刀を手に駆けだしていた。相手が武器を持っていない以上、自分の方が圧倒的に有利だった。これでも練習試合で負けたことはないんだ、なぜだか本番だとダメなんだけどさ!けれど本番とか練習とか言っている場合じゃない、早く母さんを助け出さないと!
音の発生源に気をとられていたのもあったのだろう。手前側にいた黒服の反応が一歩遅かった。その男の顔面を躊躇することなく勇樹は竹刀で打ち付ける。痛みに身体をのけぞらせる手前の男には構わず、そのままの勢いで奥の男の鳩尾を剣先でドンと突く。だがふたりとも致命傷にはならない。それもそうだろう、所詮は竹刀だ、剣技を競うためのもの。誰かを傷つけるために作られたものではない。少し態勢を崩したものの、男らは怯むことなく勇樹へと向かって襲いかかる!
「え、嘘でしょ、試合だったら俺勝ってるんですけど」
狼狽しつつも竹刀を操り、彼らの攻撃を防いではいるがこのままでは埒が明かない。下手に騒ぎを聞きつけて、誰かに来られても面倒だった。とはいえ、まさか喉を突いて気道を潰すわけにもいかないし、目玉を潰すなどご法度だ。ルール違反なんて彼のプライドが許さなかった。
「勇樹君は、なんやかんやでクーファなんだねぇ」
二人がかりで襲われ、けれどこれといった致命傷を与えることも出来ず防御一方の勇樹にあきれた声で粕川が言った。ダメだよ先生、気付かれちゃ!
勇樹がそう言う暇もなく黒服の一人が彼女目がけて飛びかかってきた。危ない、先生!
「うあぁぁっ!?」
けれど勇樹の心配は杞憂に終わった。彼女が片手にしたスティック状のなにかから噴霧されたそれが男の目を直撃すれば、彼は必死に自分の手で顔面を押さえている。
「はい、奥のおにーさんもどうぞ」
「なっ!?」
同じように彼女は謎のスプレーを男の顔面に吹き付ける。するとその男もあっという間に痛みにのけぞった。
「はい勇樹君、今のうちにこれで手足を縛って!」
彼女から投げ渡されたのは装飾用のリボンだった。これで髪を束ねたらさぞかしかわいいだろう、そう思わせる、桜色のシフォンのリボン。
「え、でも、こんなんじゃ弱いんじゃ」
「大丈夫、中に針金入ってるしうまく結べばそうそう切れないから。そう、ちゃんと後ろ手にね。一本しかないから、手と足を一緒に結んで」
「でも、そっちの人は?」
「そうね、私が今着てるパーカーに紐がついてるからそれで縛っとく。別になくても大丈夫な紐だし」
「……先生、なんでこんな慣れてんの?」
危険要素を排除できた安堵からか、勇樹はジト目で粕川を問い詰める。いくらなんでも先生、場馴れしすぎてやしないか?
「あの目潰しに使ったスプレーみたいなのは?」
「虫よけスプレー」
「そんなんで目潰しになるの?」
「さすがに人間は死なないけど、でも虫が死ぬぐらいだもん、効力はあるでしょ。前にエジプトに旅行に行く前に教わったの。どうしてもピラミッド見ておきたくて、でも女一人だと危ないだろうって、持ってると役に立つ、虫はもちろん人間にもって。唐澤先生から」
「でもエジプトって観光地だろ?そんなことあんの?そんな、襲われるようなこと」
「別に日本だってあるでしょ?女イコール弱いからどうにかできるって思っているバカは一定数いるのよ、どこの国にも。でもそういう馬鹿ほど扱いやすいから困りやしないけど」
「そうなんだ……」
女の人って大変だね、そう言葉を紡ぎたかったが、当の本人があまり大変そうでなかったので勇樹は口を閉じてしまった。悲しいかな実際、自分よりも非力であるはずの彼女の方が強かった。俺もまだまだだな、本番で緊張してる場合じゃない、もっと実践的に考えなければ。
「よし、これで邪魔者は排除できた。あとは」
「母さん、大丈夫かな」
二人は静かに病室の扉を開いた。
暗い病室の中、彼女は静かに横たわっていた。口に付けられた酸素吸入器が痛々しい。ということは、まだ彼女は意識を取り戻していないのだろうか。
「母さん……」
ささやく声で勇樹がつぶやく。だがその声で彼女は目を覚ましたようだった。
「……クーファ?」
第一声が息子の名前でなかったので若干落胆しつつも、「そうだよ、クーファ。今は勇樹だけど」
と返す。
「勇樹?ああ、ようやく来てくれたのね、ありがとう……」
か細い声で彼女が言った。どうやらようやく現状を認識し始めたらしい。顔にまかれた包帯が現実を示していた。
「陽子さん、目、見えますか?」
思わず粕川が声をかけた。その声で訪問者が二人であることに気付いた陽子が「カスティリオーネも来てくれたのね」と嬉しそうに息を吐いた。
「なんだか、記憶がごっちゃになってるみたい」
「そうかもね」
そこで再度粕川は陽子に問いかける。「陽子さん、目、見えますか?」
その問いに陽子は、ぼんやりとした意識からはい出そうともがき始めた。ああ、わたしは今どこに?いったい何があったんだっけ、わたしの身に……。
そこでようやく彼女は思い至った。そうだ、わたしは滝沢を止めようとあの施設を逃げ出そうとして、それで。
「……痛い」
なんだか左腕に痛みを感じた。それと同時に、左顔面に覚える違和感。
「なんだか、顔の左半分が変みたいなの」
言いながら陽子は暗い天井を見渡した。いつもの視界より狭く見える世界。顔を声のする方に向けてみるも、手前側の勇樹の顔は見えたがその奥にいるはずの粕川の姿を認識できなかった。
「あれ、粕川さんは?」
「先生なら俺の奥に。母さん、片目包帯で巻かれてる。怪我したの覚えてる?」
悲しそうな声で勇樹が言った。そこでようやく陽子は自覚した。
ああ、わたしの左目は光を失ってしまったのだと。
驚きと落胆があったのはもちろんだった。近所の誰それさんが交通事故に遭って下半身不随になったらしいわよ、へえ、かわいそうに。そう他人事でしかなかった不幸ごとが、まさか自分の身に降りかかるとは。そんなこと、自分に起こるわけがないと思っていたのに、しかし不幸は相手を選んでくれているようでもなかった。
いや、違う。
陽子はその考えをすぐに一蹴した。もとはといえば自分が招いた不幸じゃない。
だって、怪しい宗教団体にまんまと担ぎ上げられて、与えられる権力に舌なめずりしていたわたしがいけなかったのだから。ましてその座を失うのを恐れて、恐ろしい計画の一端を担ってしまった。もはや人のせいにしている場合ではなかった。止めなければ。彼女の中の良心が彼女をせめぎ立て、そうして片目を失うに至らせてしまった。けれど後悔はなかった。
「視えないみたい、でも、今はそれどころじゃないの」
「それどころって、目が見えなくなる以上に大変なことなんてあるのかよ」
半ば憤るような声で勇樹が言った。それもそうだろう、久しぶりに会えた母親が大けがしているのに、それ以上に大変なことなんてあってたまるか。
「早く止めないと、大変なことになる。止めようとして失敗してしまったの」
「止めるって、何を?」
粕川がいぶかしげに問う。もしかして、それって。
「富士山が噴火しちゃうの、多くの人の命が失われてしまう」
「はあ?富士山が噴火?あんなのデマに決まってるじゃないか。実際あり得ないってクラスで笑われて肩身の狭い思いしてきたんだから!」
「ごめんなさい、勇樹。つらい思いをさせてしまって。でも、富士噴火は本当に起こる。恐ろしい兵器を使って、滝沢たちはあの山を噴火させようと目論んでいる」
「嘘でしょ?そんなこと出来るわけ」
「出来るの」
強い口調で陽子が言った。
「もちろん仕組みなんてわたしにはわからない。けれど、実際そういうものがあるんだって、滝沢が。唐澤先生も協力してるって」
「唐澤先生が!?」
思わず驚きの声を上げたのは粕川だった。
「先生、静かに」
「ごめん」
これで何度めだろう、中学生にたしなめられて。けれどあの唐澤先生がそんな恐ろしい計画に自主的に参加するとも彼女には思えなかった。一見気だるげだが優しい唐澤の横顔を思い出す。その彼の後ろには、なんだか大きなアンテナのようなもの。
ん?アンテナ?
「陽子さん、その兵器ってどんなものかご存じですか?」
「詳しくはわからない、けれどネットだとなんだかアンテナみたいのがたくさんあって」
「アンテナ!!」
またしても大きな声をあげてしまった。視線だけでとがめる勇樹に詫びつつ、けれど粕川は興奮を止められなかった。
「今のわたしには視えるのよ」
「視える?」
「火山を噴火させる兵器。その近くに、確かに唐澤先生がいる」
「遠くの場所が視えるの?まるで千里眼じゃん」
勇樹が目を瞠った。物語でしか出てこない特殊能力。とはいえ、科学技術の発達した現代ではさほど重宝しないだろうが、それでもこの局面では重大な能力だった。
〈王の目〉として覚醒した粕川は、その景色を見ながら思いだす。そうだ、王の目は失われし王の片目を指して使われた名称ではなかったか。不意に記憶がよみがえるのを彼女は止めることが出来なかった。
もともと王はすべてを見通す力を持っていた。けれど、そのあまりに強大な力を憂いて片目を自らえぐり出した。そうして生まれたのが〈王の目〉だと。はるか昔のあの国では、その神話が信じられていたのではなかったか。
「どこかしら、どこか……広い場所だわ、室内かしら。陽子さんのいう通り、アンテナみたいなのがたくさん立ってて」
「アンテナ?そんなのが兵器だっていうの?」
まだ信じられない様子で勇樹が言った。SFじゃああるまいし、そんなことできるわけないじゃないか。
「振動を与えて地震や噴火を誘導するみたい。そういう研究をしているところ。そうね、あと、赤い……扉?ちがう、門かしら、そんなのが見えるんだけど」
「赤い門?うーん……雷門?」
勇樹は前に修学旅行で行った東京の観光地を思いだす。けれどただの建物の門が赤いだけだと絞りようがないんだけど。困る勇樹をよそに、粕川は慌てた様子で鞄からスマホを取りだしなにかを調べ始めた。
「何かわかった?先生」
「赤門で調べると、そういう地名が何個か出てくるんだけど、一番多いのは、東大」
「東大?あの、頭のいい人が行くところ?」
「そう。で、東大、地震で調べると『東大学地震研究所』ってのが出てくる」
「それって」
「いかにもでしょ?でもさすがに天下の東大学に、そんな怪しい兵器があるものなのか」
「本当にそんなところで恐ろしい計画が行われてるの?だって頭がいい人がいくところじゃん、そんなバカなことほんとにすると思う?しかも外国に向けてならともかく、日本の、富士山を噴火させて何の得があるんだよ」
「そんなの知らないよ。でも現に滝沢は王の威厳を示すために富士を噴火させようとしてるんじゃない。陽子さんが恐ろしい存在だって世に知らしめて、その力でこの国を支配しようとしている」
「でも。同じ日本人だよ?その日本人を危ない目に遭わせたりする?」
「わからない。でも、滝沢にとってはネアンデルタール属以外のサピエンスは劣等種だとでも思ってるのかもしれない。白人が黒人を差別するのと同じで」
「同じ国に住んでるのに、そんなのおかしくない?」
「おかしいよ、でも現実にそういうことが起こってるの。なら日本でだって起こっても不思議じゃないでしょ?所詮人間の思考パターンなんて大してないんだから」
「そんな」
「そんなことより」
争う二人に陽子が静かに声をかける。
「このままここにいても埒が明かないわ。とにかく、ここを抜けださなくっちゃ。はやく、東京に向かわないと」
「でも母さん、怪我は?」
「たぶん大丈夫、ちゃんと治療はしてもらったから。こんなんでも王には違いないから、あまり手荒なことは出来ないみたい」
「腕を撃つあたりで十分手荒だと思うけど」
「わたしもそう思うけど、彼らの感覚ではそうじゃないみたい。今まで身の回りの世話をしてくれてた人がいきなり撃ってくるんですもの。ビックリした」
「母さん……」
「そうね、陽子さんのいう通りだわ。とりあえずここを早く出ましょう、じゃないと、見張りからの連絡がなくて不思議に思った仲間たちがやってくる」
「マジで?」
「私にはそう見える」
〈王の目〉らしく威厳たっぷりに粕川は言った。
「じゃあ、はやくここから逃げ出さないと」
「ええ、そしてとにかく向かわないと、東京に」
行き先は決まった。三人は固く決意する。あとはどうすればわからなかったけれど、とにかく止めなければならない。この国を守るためにも。彼らは暗い病室を静かに抜け出した。
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