ことぶき不動産お祓い課 事故物件対策係 ~魔女の城編~

鷲野ユキ

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魔女の城15

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「じゃあ、あの事故で亡くなったのは萌音と後妻の雅さんの二人なんですか?」
 そこで社は口を開いた。けれど違和感が残る。あれ、本家は全員亡くなったんだよな、だとつまり。
「金雄さんもでしょう?」
 華ちゃんがさも当たり前、というように社に続いた。
「じゃなきゃこの城を社長が買えるわけない」
「いや、あともう一人いる」
 けれどなぜだか社長が意味ありげに唇を開いた。
「考えればすぐわかるじゃろ。萌音君の婿じゃ」
「お婿さん」
「ああ、かわいそうに。鏡の重さで全身が変なふうに折れ曲がって、さらに火にまかれて亡くなってしまっての。かつての面影もないほどに」
「はあ、お婿さんもかわいそうですね。まさかの結婚式の夜に、お嫁さんと一緒に死んでしまうなんて」
しかもなんて惨い死に方だろう。僕だったら死んでも死にきれない。
「それでも足りない人がいませんか?」
「足りない人?」
「鈴鐘家の人間だけで行う儀式。本家の父親と義理の母親、その娘と婿。分家の母親と夫、その息子。あと一人、萌音ちゃんの姉か妹さんはどうしたんですか?」
 そう、社長は言っていたではないか。鈴鐘家は女系で、かならず姉と妹が生まれるのだと。ならば萌音の姉か妹が存在するはずだった。萌音が鈴鐘家を継ぐというのならば、分家へと出されるはずの姉妹が。
「それがの、萌音君にはお姉さんがいたらしいんじゃがの。萌音君が産まれてすぐに亡くなってしまったそうでの」
 少し悲しそうな顔で社長が息を吐いた。
「金雄が美緒君を殺しただなんて不穏な噂があるけども、やっぱり美緒君はもともと身体が弱かったんじゃろうな。だから産んだ長女もそれを継いだのかすぐに亡くなってしまって、萌音君を産むも成人するまで見守ることも出来ずに先に逝ってしまった」
「そうだったんですか……」
「ああ、生きておれば分家の修君と同じくらいの年だったろうに」
 そう言われサングラス姿の男を思い浮かべたが、萌音の姉の姿まで想像することはできなかった。
「じゃあ、分家には誰も行かなかったってことですよね?どうするつもりだったんでしょう、分家の方は」
「ここはさすがに修君に嫁を娶ってもらって存続するつもりだったんじゃないかの。だがそれ以前に、鈴鐘家自体が崩壊してしまったがのぉ」
 そこでデジタル時計が16:59に切り替わった。
「あ、もう行かないと。社くんが幽霊に呪い殺されちゃう」
 そこで華ちゃんが脱いでいたヒールに足を戻した。
そう言えばひとつ聞きそびれたな。社は扉を開けようとして気が付いた。
なぜ寿社長は、自分のホテル改築記念パーティーに、事故に居合わせた人間を呼び寄せたのだろう。そこには明らかに意図があったはずだ。
だが仕方がない、幽霊の怒りに触れないほうにする方が先だ。
「あの絵の前に行けば、私たちにも萌音ちゃんが見えるのかな」
「そうだとありがたいんだけど」
 自分一人だけ見えるというのも滑稽な話だ。幸いなのは、誰も社のことを疑わないところだが、だが悲しかな、その恐怖までは理解してもらえない。
社長にとって萌音はかわいそうな女の子でしかないのだろうが、社にとってはお化け屋敷にでも出てきそうな恐ろしい幽霊だ。だって、血まみれだし、首はザックリいってるし。
 そういうことなんだ、死というのは。美化などしようのないのだから。だからあの子も、いつまでもあんな姿でここにいるべきではないのだ。そう思いつつ、社は玉串を両手で握りしめておずおずと部屋を出たのだった。
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