ことぶき不動産お祓い課 事故物件対策係 ~魔女の城編~

鷲野ユキ

文字の大きさ
67 / 77

業火8

しおりを挟む
「そうだね、修さん、みんなと一緒に会議室にいるのかな」
「ああ、たぶん。とりあえず、皆のところに戻ろう」
「その前に、翡翠の間に寄ってもいい?佐倉さんの画像データ回収しておかなきゃ」
「でもどうやって部屋に入るんだよ。鍵は多分佐倉さんが持ったままだろ」
「大丈夫、部屋の鍵なら、これがマスターキーなら開くはずだから」
 意気揚々と歩く華ちゃんに続き、翡翠の間に彼女が鍵を差し込むと、何の苦労もなく扉が開いた。
「やっぱり、湯布院さんがこれを隠し持ってたんだ」
「じゃあ、なんでもし放題じゃないか」
「犯人は湯布院さんで決まりよ。で、佐倉さんのスマホ……あ、この鞄の中かな?」
 すっかり人の荷物を漁るのが得意になった華ちゃんが、これまたピンク色の鞄のなかに手を突っ込むと、ピンク色のスマホが二台出てきた。
「すごいな、両方ピンクだ。どっちがプライベート用か仕事用かわからなくなりそう」
「社くんはそっちのローズピンクの方を探してみて。私はこっちのパステルピンクの方を見てみるから」
「え、どっちがどっち?」
 言われても色の違いなど社にはわからず、とりあえず手渡されたほうの写真フォルダを開こうとする。だが、なかなかその指が画面に到達しない。どうしよう、いきなり血まみれの写真が飛び込んで来たら。
「あ、あったあった」
 どうやら目当ての物は華ちゃんの方にあったらしい。そのことに安堵してフォルダを開いてみると、たわいのない写真の最後の方に、佐倉さんが桜の木を背景に、若い男の人と映っている写真を見つけてしまった。
「……これ、若いころの佐倉さんかな、男の人と映ってる」
「誰?彼氏?」
「さあ。でもほら、佐倉さん、左手の甲を顔の脇にわざわざ入れて写真撮ってるから……」
「ああ、婚約指輪なのかな、これ」
 華ちゃんが覗き込んだ若かりし頃の佐倉さんの写真には、幸せそうに笑う男女が映っている。佐倉さんの左手には、ピンク色の石が輝く指輪が嵌められていた。
「本当に、ピンク色が好きなのね」
 写真を見ながら華ちゃんが感嘆している。「ここまで一つのものが好きでいられるの、すごくない?」
「名前のせいもあるかもだけど」
「でも、佐倉と花の桜は関係ないじゃない」
「そうだけどさ」
「それにしても濃いピンク。桜の花ってこんなに色濃かったっけ?」
 華ちゃんの興味は背景の桜の木に移ったらしい。
「ああ、これは多分八重桜だよ。葉っぱも付いてるし、このボテッとした感じはそうだと思う」
「へー、私は普通のその辺にたくさん生えてるのが一番好きだけど」
「それはソメイヨシノ。魂峰神社の境内にあるやつだね」
 魂峰神社は社の実家だ。幼いころ、良く華ちゃんのところの家族と一緒にお花見をしたものだった。
「この指輪の石、これなんだろ。佐倉さんの言ってたピンクトルマリンかな」
 わざわざ『桜水晶』と名前を変えてまで呼んでいる石だ。
「でもこれ、今もしてるやつじゃない?」
 得意げに桜水晶の説明をしていた時に見せてくれた、指に輝く宝石もこんなようだった気がする。
「えー、まさか婚約指輪を未だに付けてるの?」
 あんまなくない?と華ちゃんが言うので、
「でも高い指輪だろ、婚約指輪って。なら気に入ってずっと付けてるもんじゃないのか」
 と疎い社が返せば、
「結婚指輪もしてないのに、婚約指輪だけでつけないでしょ、普通」と返されてしまった。
「そんなもんなの?」
「だと思うけど。そもそも佐倉さん、結婚したのかな、この写真の人と」
「したからこんな昔の写真をわざわざスマホに移し替えて持ってるんじゃないのか」
「どうだろ。だったら四六時中結婚指輪も付けてそうだけど」
 確かに、茉緒さんはシンプルな結婚指輪をちゃんと付けていた。
「とりあえず、みんなに報告しに行こう。きっとみんな不安だろうから」 
 犯人は湯布院だ。そう考えるのが順当だった。けれどその容疑者が死亡してしまった今となっては、動機を確認することはできなかったが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...