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業火8
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「そうだね、修さん、みんなと一緒に会議室にいるのかな」
「ああ、たぶん。とりあえず、皆のところに戻ろう」
「その前に、翡翠の間に寄ってもいい?佐倉さんの画像データ回収しておかなきゃ」
「でもどうやって部屋に入るんだよ。鍵は多分佐倉さんが持ったままだろ」
「大丈夫、部屋の鍵なら、これがマスターキーなら開くはずだから」
意気揚々と歩く華ちゃんに続き、翡翠の間に彼女が鍵を差し込むと、何の苦労もなく扉が開いた。
「やっぱり、湯布院さんがこれを隠し持ってたんだ」
「じゃあ、なんでもし放題じゃないか」
「犯人は湯布院さんで決まりよ。で、佐倉さんのスマホ……あ、この鞄の中かな?」
すっかり人の荷物を漁るのが得意になった華ちゃんが、これまたピンク色の鞄のなかに手を突っ込むと、ピンク色のスマホが二台出てきた。
「すごいな、両方ピンクだ。どっちがプライベート用か仕事用かわからなくなりそう」
「社くんはそっちのローズピンクの方を探してみて。私はこっちのパステルピンクの方を見てみるから」
「え、どっちがどっち?」
言われても色の違いなど社にはわからず、とりあえず手渡されたほうの写真フォルダを開こうとする。だが、なかなかその指が画面に到達しない。どうしよう、いきなり血まみれの写真が飛び込んで来たら。
「あ、あったあった」
どうやら目当ての物は華ちゃんの方にあったらしい。そのことに安堵してフォルダを開いてみると、たわいのない写真の最後の方に、佐倉さんが桜の木を背景に、若い男の人と映っている写真を見つけてしまった。
「……これ、若いころの佐倉さんかな、男の人と映ってる」
「誰?彼氏?」
「さあ。でもほら、佐倉さん、左手の甲を顔の脇にわざわざ入れて写真撮ってるから……」
「ああ、婚約指輪なのかな、これ」
華ちゃんが覗き込んだ若かりし頃の佐倉さんの写真には、幸せそうに笑う男女が映っている。佐倉さんの左手には、ピンク色の石が輝く指輪が嵌められていた。
「本当に、ピンク色が好きなのね」
写真を見ながら華ちゃんが感嘆している。「ここまで一つのものが好きでいられるの、すごくない?」
「名前のせいもあるかもだけど」
「でも、佐倉と花の桜は関係ないじゃない」
「そうだけどさ」
「それにしても濃いピンク。桜の花ってこんなに色濃かったっけ?」
華ちゃんの興味は背景の桜の木に移ったらしい。
「ああ、これは多分八重桜だよ。葉っぱも付いてるし、このボテッとした感じはそうだと思う」
「へー、私は普通のその辺にたくさん生えてるのが一番好きだけど」
「それはソメイヨシノ。魂峰神社の境内にあるやつだね」
魂峰神社は社の実家だ。幼いころ、良く華ちゃんのところの家族と一緒にお花見をしたものだった。
「この指輪の石、これなんだろ。佐倉さんの言ってたピンクトルマリンかな」
わざわざ『桜水晶』と名前を変えてまで呼んでいる石だ。
「でもこれ、今もしてるやつじゃない?」
得意げに桜水晶の説明をしていた時に見せてくれた、指に輝く宝石もこんなようだった気がする。
「えー、まさか婚約指輪を未だに付けてるの?」
あんまなくない?と華ちゃんが言うので、
「でも高い指輪だろ、婚約指輪って。なら気に入ってずっと付けてるもんじゃないのか」
と疎い社が返せば、
「結婚指輪もしてないのに、婚約指輪だけでつけないでしょ、普通」と返されてしまった。
「そんなもんなの?」
「だと思うけど。そもそも佐倉さん、結婚したのかな、この写真の人と」
「したからこんな昔の写真をわざわざスマホに移し替えて持ってるんじゃないのか」
「どうだろ。だったら四六時中結婚指輪も付けてそうだけど」
確かに、茉緒さんはシンプルな結婚指輪をちゃんと付けていた。
「とりあえず、みんなに報告しに行こう。きっとみんな不安だろうから」
犯人は湯布院だ。そう考えるのが順当だった。けれどその容疑者が死亡してしまった今となっては、動機を確認することはできなかったが。
「ああ、たぶん。とりあえず、皆のところに戻ろう」
「その前に、翡翠の間に寄ってもいい?佐倉さんの画像データ回収しておかなきゃ」
「でもどうやって部屋に入るんだよ。鍵は多分佐倉さんが持ったままだろ」
「大丈夫、部屋の鍵なら、これがマスターキーなら開くはずだから」
意気揚々と歩く華ちゃんに続き、翡翠の間に彼女が鍵を差し込むと、何の苦労もなく扉が開いた。
「やっぱり、湯布院さんがこれを隠し持ってたんだ」
「じゃあ、なんでもし放題じゃないか」
「犯人は湯布院さんで決まりよ。で、佐倉さんのスマホ……あ、この鞄の中かな?」
すっかり人の荷物を漁るのが得意になった華ちゃんが、これまたピンク色の鞄のなかに手を突っ込むと、ピンク色のスマホが二台出てきた。
「すごいな、両方ピンクだ。どっちがプライベート用か仕事用かわからなくなりそう」
「社くんはそっちのローズピンクの方を探してみて。私はこっちのパステルピンクの方を見てみるから」
「え、どっちがどっち?」
言われても色の違いなど社にはわからず、とりあえず手渡されたほうの写真フォルダを開こうとする。だが、なかなかその指が画面に到達しない。どうしよう、いきなり血まみれの写真が飛び込んで来たら。
「あ、あったあった」
どうやら目当ての物は華ちゃんの方にあったらしい。そのことに安堵してフォルダを開いてみると、たわいのない写真の最後の方に、佐倉さんが桜の木を背景に、若い男の人と映っている写真を見つけてしまった。
「……これ、若いころの佐倉さんかな、男の人と映ってる」
「誰?彼氏?」
「さあ。でもほら、佐倉さん、左手の甲を顔の脇にわざわざ入れて写真撮ってるから……」
「ああ、婚約指輪なのかな、これ」
華ちゃんが覗き込んだ若かりし頃の佐倉さんの写真には、幸せそうに笑う男女が映っている。佐倉さんの左手には、ピンク色の石が輝く指輪が嵌められていた。
「本当に、ピンク色が好きなのね」
写真を見ながら華ちゃんが感嘆している。「ここまで一つのものが好きでいられるの、すごくない?」
「名前のせいもあるかもだけど」
「でも、佐倉と花の桜は関係ないじゃない」
「そうだけどさ」
「それにしても濃いピンク。桜の花ってこんなに色濃かったっけ?」
華ちゃんの興味は背景の桜の木に移ったらしい。
「ああ、これは多分八重桜だよ。葉っぱも付いてるし、このボテッとした感じはそうだと思う」
「へー、私は普通のその辺にたくさん生えてるのが一番好きだけど」
「それはソメイヨシノ。魂峰神社の境内にあるやつだね」
魂峰神社は社の実家だ。幼いころ、良く華ちゃんのところの家族と一緒にお花見をしたものだった。
「この指輪の石、これなんだろ。佐倉さんの言ってたピンクトルマリンかな」
わざわざ『桜水晶』と名前を変えてまで呼んでいる石だ。
「でもこれ、今もしてるやつじゃない?」
得意げに桜水晶の説明をしていた時に見せてくれた、指に輝く宝石もこんなようだった気がする。
「えー、まさか婚約指輪を未だに付けてるの?」
あんまなくない?と華ちゃんが言うので、
「でも高い指輪だろ、婚約指輪って。なら気に入ってずっと付けてるもんじゃないのか」
と疎い社が返せば、
「結婚指輪もしてないのに、婚約指輪だけでつけないでしょ、普通」と返されてしまった。
「そんなもんなの?」
「だと思うけど。そもそも佐倉さん、結婚したのかな、この写真の人と」
「したからこんな昔の写真をわざわざスマホに移し替えて持ってるんじゃないのか」
「どうだろ。だったら四六時中結婚指輪も付けてそうだけど」
確かに、茉緒さんはシンプルな結婚指輪をちゃんと付けていた。
「とりあえず、みんなに報告しに行こう。きっとみんな不安だろうから」
犯人は湯布院だ。そう考えるのが順当だった。けれどその容疑者が死亡してしまった今となっては、動機を確認することはできなかったが。
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