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あの子が欲しい
あの子が欲しい-4
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白石さんの家ってことは、やっぱり正光寺なんだろうか。
そう目論見をつけていたものの、彼女に連れられてやってきたのはそこではなくて、そこから少し離れた住宅街だった。
そこに突如として現れたのは。
「これ……著作権とか大丈夫なの?」
「売り物やなかけん大丈夫って、言い張ってはいるんやけど……」
苦い顔で白石さんがそいつらを睨んだ。そこには、飄々とした顔のミッキーマウス。
いやそれだけじゃない。ドラえもんやらピカチュウやら、知らない人間はいないだろうキャラクターたちが勢ぞろいしていた。
「ここって、石屋さん?」
「そ」
改めて、僕はあたりを見回した。見慣れたキャラクターのほかに、石でできたベンチとか、猫や犬の石像まである。ひいてはハムスターや小鳥まで。
「この石屋さんは、かわいいものが好きなのかな」
「あ、そらペットん墓石用ね。最近多かばいっちゃ、飼うとったペットに似た石像ば作って墓石にするんよ」
そんなものもあるのか。確かに、気持ちはわからなくもない。前に飼っていた亀を死なせてしまって、土に埋めたことがある。仕方なしに目印で割り箸を差したけれど、あまりに貧相なそのお墓を見下ろして、自分のところに来てしまったあの動物に申し訳なくて仕方がなかった思い出がある。
せめてこういう立派なものを用意してあげられれば、少なくとも僕の心は晴れただろう。土に眠る両生類がどう思うかはわからないけれど。
「で、ここがうちん家」
しれっと答え、彼女は門をくぐった。確かに、表札には白石の文字。
「え、お寺の娘さんじゃ」
「よう父ちゃんが墓石なんか卸しとるけん、ちょっとした知り合いなんやばいね、あん住職んじーさんとは」
なんだ、そうだったのか。想像していたのとは違う現実に、僕は驚く。
「でも、なんで丸藤さんと」
そこまで言いかけて、僕は合点がいった。丸藤さんの身体を洗ってあげたりだとか。彼女はそう言っていた。
身体。
「もしかして、『本体』がここにあるってこと?」
「そん通り」
彼女はそのまま玄関には向かわず、家の裏手側へと回った。
それについていくと、申し訳程度に備え付けられたトタンの屋根の下、僕の両手を広げたくらいの大きさの、大きい以外はどうと言うことのない黒い石が置かれていた。
「これが丸藤さん?」
「そうばい。今日は一日寝てるつもりみたいやけど」
そう言いつつ、彼女は近くの蛇口からバケツに水を汲むと、無造作にそれを石に流しかけた。
「こうやって毎日、水ば掛けてブラシでこすれって。いちいちせからしかとよね」
ただでさえタダで置かせちゃってるとに、と白石さんは容赦ない。そのままデッキブラシでごしごしと、石というより岩を洗い始めた。
「でもなんで、白石さんちに?」
「知らんばいよ、物心ついたころからあったけん。たぶん父ちゃんがどっかで拾うてきたんやろうけど」
拾ってきた、と言うにはずいぶん大きいサイズだけど、石屋さんならそれもわかる。
たぶん何かの材料として持ってきたのだろう。そしてそれをこれ幸いに、彼は元居た所より栄えているこの場所で、探偵業を始めたというわけだ。
「……うるさいな、なんだ」
やけくそみたいに力を込めて石を磨く白石さんの向こうに、ぼんやりと人影が現れる。
それは段々と輪郭を濃くしていき、やがて見慣れた丸藤さんの姿となった。
「せからしかとはなによ、これでも事件解決んお礼ばしてあげに来たとばってん」
「今日は日曜だ、神も休む日だと決まってる。するならほかの日にしてくれ」
「せっかくナオも来てくれたっていうとに」
頬を膨らます白石さんの影にいた僕を認めたのだろう、探偵が軽く眉を上げた。
その顔は、少し困ったような顔だった。なんでこんなところにいるんだ、と言わんばかりの。
「白石さんが丸藤さんにお礼のごちそうするから手伝えって。……その、神様もパンケーキとか食べるのかなって思ったら、気になって」
答える僕に、しかめ面だった探偵が笑った。寝起きなのもあるかもしれない。ふんわりとした笑顔だった。
「食べれたら良かったんだがな。甘いものは嫌いじゃなかったから」
その声は、少し悲しそうな色を含んでいて、僕は改めて彼がかつて人間だったということを思い出す。
こんな石の神様になんて、なんでなってしまったのだろう。
「あいにく甘うはなかけれど」
ひとしきり岩を洗い終えた白石さんが口を開いた。
「石屋ん本気んフルコース、振舞うちゃるけん」
にやりと笑う彼女の合図で、僕は休む間もなく仕事に励む羽目となる。
そう目論見をつけていたものの、彼女に連れられてやってきたのはそこではなくて、そこから少し離れた住宅街だった。
そこに突如として現れたのは。
「これ……著作権とか大丈夫なの?」
「売り物やなかけん大丈夫って、言い張ってはいるんやけど……」
苦い顔で白石さんがそいつらを睨んだ。そこには、飄々とした顔のミッキーマウス。
いやそれだけじゃない。ドラえもんやらピカチュウやら、知らない人間はいないだろうキャラクターたちが勢ぞろいしていた。
「ここって、石屋さん?」
「そ」
改めて、僕はあたりを見回した。見慣れたキャラクターのほかに、石でできたベンチとか、猫や犬の石像まである。ひいてはハムスターや小鳥まで。
「この石屋さんは、かわいいものが好きなのかな」
「あ、そらペットん墓石用ね。最近多かばいっちゃ、飼うとったペットに似た石像ば作って墓石にするんよ」
そんなものもあるのか。確かに、気持ちはわからなくもない。前に飼っていた亀を死なせてしまって、土に埋めたことがある。仕方なしに目印で割り箸を差したけれど、あまりに貧相なそのお墓を見下ろして、自分のところに来てしまったあの動物に申し訳なくて仕方がなかった思い出がある。
せめてこういう立派なものを用意してあげられれば、少なくとも僕の心は晴れただろう。土に眠る両生類がどう思うかはわからないけれど。
「で、ここがうちん家」
しれっと答え、彼女は門をくぐった。確かに、表札には白石の文字。
「え、お寺の娘さんじゃ」
「よう父ちゃんが墓石なんか卸しとるけん、ちょっとした知り合いなんやばいね、あん住職んじーさんとは」
なんだ、そうだったのか。想像していたのとは違う現実に、僕は驚く。
「でも、なんで丸藤さんと」
そこまで言いかけて、僕は合点がいった。丸藤さんの身体を洗ってあげたりだとか。彼女はそう言っていた。
身体。
「もしかして、『本体』がここにあるってこと?」
「そん通り」
彼女はそのまま玄関には向かわず、家の裏手側へと回った。
それについていくと、申し訳程度に備え付けられたトタンの屋根の下、僕の両手を広げたくらいの大きさの、大きい以外はどうと言うことのない黒い石が置かれていた。
「これが丸藤さん?」
「そうばい。今日は一日寝てるつもりみたいやけど」
そう言いつつ、彼女は近くの蛇口からバケツに水を汲むと、無造作にそれを石に流しかけた。
「こうやって毎日、水ば掛けてブラシでこすれって。いちいちせからしかとよね」
ただでさえタダで置かせちゃってるとに、と白石さんは容赦ない。そのままデッキブラシでごしごしと、石というより岩を洗い始めた。
「でもなんで、白石さんちに?」
「知らんばいよ、物心ついたころからあったけん。たぶん父ちゃんがどっかで拾うてきたんやろうけど」
拾ってきた、と言うにはずいぶん大きいサイズだけど、石屋さんならそれもわかる。
たぶん何かの材料として持ってきたのだろう。そしてそれをこれ幸いに、彼は元居た所より栄えているこの場所で、探偵業を始めたというわけだ。
「……うるさいな、なんだ」
やけくそみたいに力を込めて石を磨く白石さんの向こうに、ぼんやりと人影が現れる。
それは段々と輪郭を濃くしていき、やがて見慣れた丸藤さんの姿となった。
「せからしかとはなによ、これでも事件解決んお礼ばしてあげに来たとばってん」
「今日は日曜だ、神も休む日だと決まってる。するならほかの日にしてくれ」
「せっかくナオも来てくれたっていうとに」
頬を膨らます白石さんの影にいた僕を認めたのだろう、探偵が軽く眉を上げた。
その顔は、少し困ったような顔だった。なんでこんなところにいるんだ、と言わんばかりの。
「白石さんが丸藤さんにお礼のごちそうするから手伝えって。……その、神様もパンケーキとか食べるのかなって思ったら、気になって」
答える僕に、しかめ面だった探偵が笑った。寝起きなのもあるかもしれない。ふんわりとした笑顔だった。
「食べれたら良かったんだがな。甘いものは嫌いじゃなかったから」
その声は、少し悲しそうな色を含んでいて、僕は改めて彼がかつて人間だったということを思い出す。
こんな石の神様になんて、なんでなってしまったのだろう。
「あいにく甘うはなかけれど」
ひとしきり岩を洗い終えた白石さんが口を開いた。
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