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1964.9.25 九段下 1
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「おい、お前が作った爆弾、失敗作だったんじゃないのか?」
九段下の学生客相手の蕎麦屋は、夜はやはり学生向けの居酒屋となる。表向きはビールや日本酒を置いているが、金がないのが学生という生き物だ。彼らを存分に酔わせるには、一本百二十円のビールはちと高い。よって、善人そうな顔をした店主は、裏でコソコソと密造酒を作っては金のない客らに振る舞っている。学生ではないが金のない正志にとっても、それはありがたいことだった。
「そんなことはない、ちゃんと爆発音を聞いただろう?」
そう返す青野の手には、エタノールを薄めたバクダンと呼ばれる酒の入ったコップ。酒まで〈バクダン〉とはとんだマニアだな、そう思う正志の手には、カストリと呼ばれる密造焼酎があった。お世辞にもうまいとは言い難い。けれど、今の正志はとにかく酔えさえすればなんでもいい気分だった。
「けれど、どこの新聞にも爆発のことなんて書かれていない。書かれているのは、羽田沖で局地地震があったというだけだ」
ガツン、と置いたコップが固い音を立てた。その衝撃で中身がこぼれたが正志は気にならなかった。
「大方、騒ぎになるのを恐れた国の犬が隠ぺいしたんじゃないのか」
「国の犬?」
「警察だよ、警察。けれどそれくらいはまあ、想定内だ」
正志の苛立ちなどどこ吹く風と言ったようで、青野は呑気にテレビを見ながら酒をあおった。
「あの時確かに俺の作った爆弾は、予定通りに爆発しただろ。あんたが急に善人ぶるのをやめて、車両も巻き込んで爆発させろなんていうから、俺は火薬を増量するのに苦労したんだ。そして、車両が支柱に差し掛かった絶妙なタイミングで俺は起爆スイッチを押した。アンタも見ただろう」
「ならなぜ、柱が壊れていない?」
ドン、と正志はこぶしをテーブルに叩きつけた。「俺は今日見に行ったんだ、けれどどこも壊れてなんていなかった!」
「おいおい、目立つ行動はするなって言っただろう」
怒る正志に、冷静に青野が言った。「情報を警察が操作していたとしたら、やつらは現場付近に現れる人間を警戒するはずだ。漁師だってそうそう羽田沖なんて行きやしない。あの辺は今や工業地帯だからな」
「警察なんか来るもんか。だって柱は壊れていなかったんだ」
「じゃあ警察が柱を修繕でもしたんじゃないのか。まさかオリンピックに向けて作ったモノレールが狙われただなんて、国民に知られるわけにいかないだろ。知られたら大騒ぎだ」
「あれは、修繕しただなんてもんじゃなかった。傷一つなかったんだぞ、そんなきれいに直せるはずがないだろう!」
「じゃあ、アンタが爆破した柱と他の柱とを見間違えただけだろう」
あくまでも青野は正志の言い分を聞くつもりはないようだった。そんなはずはない。正志は自分が見間違えただなんて思えなかった。柱は、本当に何も起こらなかったかのように、一寸違わずそこにあったのだ。
まるで魔法のようにきれいに直すことの出来る人間を正志は一人知っているが、まさかアイツがそこに居合わせるだなんて偶然、あってたまるかとしか思えなかった。
九段下の学生客相手の蕎麦屋は、夜はやはり学生向けの居酒屋となる。表向きはビールや日本酒を置いているが、金がないのが学生という生き物だ。彼らを存分に酔わせるには、一本百二十円のビールはちと高い。よって、善人そうな顔をした店主は、裏でコソコソと密造酒を作っては金のない客らに振る舞っている。学生ではないが金のない正志にとっても、それはありがたいことだった。
「そんなことはない、ちゃんと爆発音を聞いただろう?」
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ガツン、と置いたコップが固い音を立てた。その衝撃で中身がこぼれたが正志は気にならなかった。
「大方、騒ぎになるのを恐れた国の犬が隠ぺいしたんじゃないのか」
「国の犬?」
「警察だよ、警察。けれどそれくらいはまあ、想定内だ」
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「ならなぜ、柱が壊れていない?」
ドン、と正志はこぶしをテーブルに叩きつけた。「俺は今日見に行ったんだ、けれどどこも壊れてなんていなかった!」
「おいおい、目立つ行動はするなって言っただろう」
怒る正志に、冷静に青野が言った。「情報を警察が操作していたとしたら、やつらは現場付近に現れる人間を警戒するはずだ。漁師だってそうそう羽田沖なんて行きやしない。あの辺は今や工業地帯だからな」
「警察なんか来るもんか。だって柱は壊れていなかったんだ」
「じゃあ警察が柱を修繕でもしたんじゃないのか。まさかオリンピックに向けて作ったモノレールが狙われただなんて、国民に知られるわけにいかないだろ。知られたら大騒ぎだ」
「あれは、修繕しただなんてもんじゃなかった。傷一つなかったんだぞ、そんなきれいに直せるはずがないだろう!」
「じゃあ、アンタが爆破した柱と他の柱とを見間違えただけだろう」
あくまでも青野は正志の言い分を聞くつもりはないようだった。そんなはずはない。正志は自分が見間違えただなんて思えなかった。柱は、本当に何も起こらなかったかのように、一寸違わずそこにあったのだ。
まるで魔法のようにきれいに直すことの出来る人間を正志は一人知っているが、まさかアイツがそこに居合わせるだなんて偶然、あってたまるかとしか思えなかった。
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